海岸に打ち上げられたシロナガスクジラの衝撃
2018年8月、海水浴客で賑わう神奈川県鎌倉市の由比ケ浜海岸にシロナガスクジラの赤ちゃんが打ち上げられた。
地球上で最大の生物であり、クジラの中でも絶滅危惧種であるシロナガスクジラが日本の海岸に漂着するのは初めてで、このニュースは全国的に報道されたため、記憶に残っている人も多いことだろう。
その後の調査によって、哺乳類で母クジラのミルクしか飲んでいないはずの赤ちゃんクジラの胃の中から、プラスチックごみが発見された。生後3~6ケ月で、直接的死因は母クジラとはぐれたこと。
死因がプラスチックとは関係なかったものの、ポイ捨てされて海に流れ着くプラスチックによる海洋汚染は深刻で、プラスチックごみが海洋生物や自然に与える影響について改めて考えさせられる衝撃的な出来事として心に刻まれた。
日本のプラごみ発生量は世界ワースト2位
利便性を追求し、レジ袋やペットボトルなどが日々便利に使われ、使い捨てにされてきたプラスチック。
実は日本のプラごみ発生量は、アメリカに次いで世界第2位という不名誉な事態になっていることをご存じだろうか。
鎌倉市でも2019年度に収集されたごみから換算すると、1日一人当たり容器包装プラスチックは約39g(レジ袋3gを13枚分)、ペットボトルは8g(500mlのペットボトルを3日に1本)捨てている計算になるという。
ポイ捨てされるプラスチックによる海洋汚染は、世界的にも大きな社会問題になっている。
これら身近なプラスチックごみがポイ捨てされ海に流れると、海の生き物が餌と間違えて食べてしまうだけでなく、海の汚染につながる。プラスチックは時間の経過とともに紫外線や波によって5ミリ以下の細かいマイクロチップとなり、永遠に自然に還ることはなく海を漂い続け、生態系にも影響する。海はつながっていて、マイクロチップになってしまうとその小ささ故に回収は困難となる。
そのため、そもそもの発生を抑えること、そしてごみとして早い段階で回収することが急務なのだ。
美しい海と海の生き物を守るための「かまくらプラごみゼロ宣言」
鎌倉の海岸に打ち上げられた「クジラからのメッセージ」がきっかけとなり、2018年9月SDGs未来都市である神奈川県が「かながわプラごみゼロ宣言」を発表。同じくSDGs未来都市の鎌倉市も、10月に「かまくらプラごみゼロ宣言」発表し、美しい海と海の生き物を守るために神奈川県と連携しながら動いている。
2020年7月には全国的にレジ袋が有料化され、2022年4月にはプラスチック新法(プラスチック資源循環促進法)が施行されたことによって、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する変化は記憶に新しい。そこでこれに先駆けて脱プラスチックに向けて動いている鎌倉市に、ごみの減量・資源化施策について取り組みを伺った。
「鎌倉市のごみや資源への取り組みの歴史は、約30年前にさかのぼります。1990年度には、鎌倉市でもごみ発生量は年間約7万7千トンで、95%を焼却処理していました。世界的に経済が豊かで、まさに大量生産・大量消費の時代だったのです」と鎌倉市環境部ごみ減量対策課の職員は振り返る。その流れが大きく変わったのは1992年、国際環境開発会議(地球サミット)のリオ宣言だ。ここで世界的に消費型社会から循環型社会に方向転換する意思決定がなされ、これがいまのSDGsにも繋がっている。
実はごみを焼却処分しても、焼却後に約10%が灰として残り、最終的にはこの灰を埋め立て等により処分することになる。鎌倉市でも埋め立て処理を行っていた時代があったが、埋め立てる土地にも限界があった。
「加えて鎌倉市では、既存のごみ焼却施設が老朽化してきたという事情も重なり、焼却ごみの削減を急ぐ必要がありました」(鎌倉市)
そんな事情もあり、かなり早い段階からゼロウェイストを目指し、できる限り3R:Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)を推進して焼却量を減らしていこうという取り組みを始めていた。それによって現在焼却ごみの量は、1990年当時と比べると60%減の3万トンを切る数値まで減っているという。
まず取り組んだのが、これまで燃やしていたごみの資源化だ。
たとえばプラスチックに関して現在鎌倉では、ペットボトル、容器包装プラスチック(商品の容器など)、製品プラスチック(バケツや洗面器など)の3つの分類で回収、リサイクルに取り組んでいる。
「今年(2022年)4月に施行されたプラスチック新法で、全国の自治体において焼却処分していた容器包装プラスチックや製品プラスチックを資源化するよう働きかけがされていますが、これに先駆けてリサイクルに着手していた鎌倉市では、ペットボトル2000年、容器包装プラスチック2005年、製品プラスチック2015年から分別回収して資源化に取り組んでいます。特に製品プラスチックは、2017年10月から単一素材だけでなく一部金属やゴムなど複合素材でできているものも回収するように変更してから回収量が増加、さらにコロナ禍の巣ごもりで家の不要物整理に取り組む方が多かったようで、衣装ケースなど大きなものも含め回収が増えています。」(鎌倉市)
マイボトル推奨のため、市内にウォーターサーバーを設置
「プラごみゼロ」実現にあたって始めたのは、リデュース(Reduce(リデュース):減らすこと)やリユース(Reuse(リユース):繰り返し使うこと)の推奨。レジ袋の代わりにマイバッグ持参、ペットボトルを買う代わりにマイボトルの活用だ。
「まずは市役所や支所などの公共施設において、ペットボトル飲料の販売を中止しました。代わりにマイボトルを持参すれば補給できるウォーターサーバー、マイカップを持参すれば10円引きになる自動販売機を市役所に設置しました。せっかくマイボトルを持参しても、空になって補充するためにペットボトルを買うのでは本末転倒ですからね」(鎌倉市)
市内には、市役所をはじめ鎌倉駅西口駅前広場や市の関連施設などを中心に、合計28台のウォーターサーバーが設置され、マイボトル持参を後押ししている。
リサイクル率は人口10万以上都市で3年連続全国トップに
「プラごみゼロ」を目指す鎌倉市は、プラスチックに限らずごみ全体のリサイクルにいちはやく取り組んできたことで、既に結果を出している。
リサイクル率の全国平均が20.0%(令和2年度速報値)のところ、鎌倉市はなんと52.7%(2020年度速報値)。人口10万以上都市のリサイクル率は全国トップ、しかもなんと3年連続だ。
市町村でも小規模であればごみの持ち込みや個別対応なども可能なため、ごみ収集から処理の仕組みも大きく異なるが、一定規模以上の都市で比較すると全国トップを続けているのだ。
「今後は、現在焼却処理しているごみのうち、生ごみや紙おむつの資源化に取り組むことでさらなるごみの減量・資源化を進めていきます」(鎌倉市)と、目標はさらに高い。
ごみ減量とリサイクルの取り組みには30年の歴史あり
ごみの減量のもう一つのポイントは生ごみ。
「実は家庭系の燃やすごみの半分近くが生ごみなので、自家処理してもらうため、生ごみ処理機の補助制度を1990年から導入。電動型75%、非電動型90%の補助金を出して普及を進め、家庭からの生ごみの減量に取り組みました」(鎌倉市)。
私も非電動型の約3万円の生ごみ処理機を、約3千円の自己負担で導入。生ごみをためずにすぐ裏庭に捨てられるので、夏でも匂いなど気にならず、便利。さらに土に還り、再利用できるので小さな循環を実感することができる。
鎌倉市ではリサイクルの仕組みができたものから資源ごみとして分別回収を行い、ごみの総量を減らすことも着手。2015年には家庭用ごみのうち「燃やすごみ」「燃えないごみ」を有料化。これによって、ごみの総量は最大20%削減されたという。
鎌倉市のごみ分類は、現在有料の「燃やすごみ」「燃えないごみ」のほか、紙類や植木剪定材、飲料用ビン、カン、など21分類。これは、回収後のリサイクルを見据え、市民負担を考慮の上、着地した結果なのだ。
鎌倉市の資源ごみで特徴的なのは、山に囲まれた自然豊かな環境による落ち葉や枝などの植木剪定材の多さだ。燃えないごみは月一回にもかかわらず、植木剪定材の回収頻度は週1回。実際我が家でも春先から雑草が繁殖を始め、夏には茂った樹木の剪定にも追われ、秋冬には落ち葉の清掃などで、一家庭45L袋5つまでの上限で出しきれないこともあるほどだ。
回収された植木剪定材は家庭系・事業系合わせて年間約1万2千トンにも上り、資源化されるごみの約4割(2020年度速報値39%)を占め、リサイクル率の高さに大きく貢献している。資源化にあたっては主にチップ化されバイオマス燃料にリサイクルされるが、一部は土壌改良材にリサイクルされ市役所入り口など市内6ケ所で無料配布されている。
「これは資源を市民に還元するためのもので、リサイクルの見える化のひとつです」(鎌倉市)。リサイクルを「見える化」することは、意識を変え、行動を変えてリサイクルを推進するための重要ポイントなのだ。
コミュニティぐるみで環境を守る仕組みづくり
そもそも鎌倉は海と山に囲まれ、自然の豊かさが魅力。場所柄サーフィンなどのマリンスポーツや海岸の散歩を日課にしている人も多く、自然環境への問題意識が高い人も多い。地域や事業者などのコミュニティ単位で自主的に道路や公園、海岸など公共の場を定期的に清掃する「鎌倉市アダプト・プログラム」も現在19団体が登録。登録団体のひとつである「鎌倉ヘイセイズ」は、平成生まれの2人が主催。週1回実施してきたところ、参加者の輪がどんどん広がり、既に開催130回を超えている。
共同代表である上岡洋一郎さんは「ごみ拾い用のビニール袋やトングは鎌倉市からアダプト・プログラムで支給を受けているので、置き場所と集まる場所さえあれば、スタートできます。あえて『ごみ拾い』ではなく、『街歩き』と名付け、初対面でも他愛もない話をしながら、散歩がてらごみも拾おうという気軽さが長続きの秘訣でしょうか」と話す。かくいう私も、これに参加したおかげで毎週の楽しいごみ拾いが習慣化している。
特定非営利活動法人である鎌倉リサイクル推進会議では、分別回収された衣類などを有効活用する講座や展示を市民向けに実施。講座に参加することで発見も多く、リサイクルが身近になる。私も裂織りの講座を受講し、着物生地(テーブルセンターに利用)で裂織りのコースターを自作して使用している一度でもごみ拾いを体験すると、日常から街のごみが目につくようになり、丁寧な分別をするようになるものだ。無理ないペースで、街を美しく保ちたいという共通の目的で繋がるコミュニティの心地よさも実感している。アダプト・プログラムの19団体だけでなく、ビーチヨガや海の生き物観察など海辺での各種イベントの前後にビーチクリーンをしたり、朝晩の散歩のついでにごみを拾って持ち帰る人もよく目にする。市民参加型のプラスチック回収活動「RecyCreation(リサイクリエーション)」や、家族で参加できる「ごみフェス」、リサイクル講座など、リサイクルに関連するイベントも多数開催されている。
コミュニティぐるみで、楽しみながら、それぞれのペースで自主的にリサイクルに取り組む。それが鎌倉ならではの持続可能な取り組みといえそうだ。資源ごみとして回収された剪定材が土壌改良材になるなど、リサイクルの形が見えるのも、参加意識が高まるポイントだ。
それでは課題のプラスチックごみは資源としてどう生かされているのか、次回はプラスチック再生の最先端を紹介しよう。
※リサイクル率全国1位は、人口10万以上都市での比較(2020年度速報値)
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