踏切道の現状
私たちの生活の身近な存在に踏切がある。住んでいる場所によっては踏切を最近は見なくなったという人もいると思うが、残っている場所もまだ多い。
例えば東京都の場合、山手線の内側のエリアは主に地下鉄や橋上化されたJRが走っているため、踏切はほとんど見かけない。それに対して、山手線の外側のエリアは私鉄を中心に多くの踏切が存在している。
海外の主要都市と比較すると、踏切数は東京が620箇所、ニューヨークが48箇所、ロンドンが13箇所となっており、東京は踏切が多い都市となっている。
一方で、日本全体を見ると全国の踏切の数は減少傾向にある。
国土交通省によれば、踏切道改良促進法が制定される前の1960年には踏切は全国で71,070箇所あった。それが、2020年度には32,733箇所まで減っており、60年間で約半分も減ったことになる。
踏切が減った主な理由は、この60年間のうち、立体交差や踏切の統廃合が進んだ結果である。
この60年間で特に減ったのは、遮断機のない踏切となっている。現存する踏切の多くは遮断機のある踏切であり、遮断機のない踏切は全体の1割程度にとどまる。
遮断機のない踏切が減ったことで、踏切事故も大きく減少している。国土交通省によると、1961年には5,482件あった踏切事故が、2020年度には165件となっている。事故の件数としては約33分の1に減っており、安全性は大幅に向上した状況にある。
踏切道の課題
踏切道改良促進法が施行された1961年当時と比べると、踏切による社会的な課題は変化してきている。1961年当時は遮断機のある踏切が全体の6%程度に及んでいたため、踏切事故を減らすことが社会的課題であった。
過去60年の間は、立体交差化や踏切の統廃合によって遮断機のない踏切を減らすことに注力してきた。2020年時点においては、遮断機のない踏切が全体の1割にとどまる形となっており、踏切事故は大幅に減っている。しかしながら、現在では遮断機のある踏切が全体の9割を占めるようになったことで、踏切による交通渋滞が新たな社会的課題となっている。
ピーク時の遮断時間が40分以上になる踏切のことを「開かずの踏切」と呼ぶが、開かずの踏切は全国で500箇所以上も存在している。開かずの踏切は日常的な交通渋滞の起点となっているだけでなく、災害時においても救急活動に支障をきたす原因にもなっている。
このように、踏切の課題は60年間の中で踏切事故対策から交通渋滞対策へと変化してきたのだ。
踏切道改良促進法とは
踏切道改良促進法は、踏切道の改良を促進することにより、交通事故の防止および交通の円滑化に寄与することを目的に1961年に制定された法律である。踏切事故件数の減少といった一定の成果を上げてきたものの、踏切による交通渋滞が多発してきたことで、法律に求められる役割期待が変わってきた。
踏切道改良促進法は過去に何回か改正が行われてきたが、最近では2021年3月に改正が行われている。改正前の踏切道改良促進法では、対策が必要な踏切の指定期限に5年間という制限があったため、開かずの踏切のような改良に長期間を要する踏切が対策を必要とする踏切として指定されにくいという問題があった。
改正法では5年という指定期限が撤廃されたため、開かずの踏切のような改良に長期間を要する踏切も対策が必要な踏切として指定されやすくなっている。また、以前は踏切の改良方法が立体交差化や、構造の改良、歩行者等立体横断施設の整備、保安設備の整備等の時間のかかるものが多かったが、踏切道の周辺における迂回路等の整備や駅改札口の追加といった改良方法も対策として位置づけられるようになった。
比較的簡単にできる改良方法も加わったことで、従来よりも対応が速やかに実行され、段階的に立体交差に移行することが期待されている。
例えば、歩行者と車が混雑する危険な踏切では、歩車分離のためにカラー舗装を行うといった簡単な対策が考えられる。初年度は、カラー舗装や遮断機の遮断時間の短縮等、すぐにできる対策を実施する。
次の段階では、迂回路を整備することで踏切の交通量を減らす対策が考えられる。迂回路の整備は多くの時間がかかるため、2~3年の期間をかけて実施していくものと想定されている。
このような小さな対策を積み重ねていく中で、同時に立体交差化も検証していく。10年後くらいには立体交差化を目指し、最終的には踏切の除却を目指す。
踏切対策の推進状況
改正後の踏切道改良促進法では、踏切改良の進捗状況がわかるように「見える化」の仕組みが加わったことも大きい。具体的には、「踏切道安全通行カルテ」の公表だ。
踏切道安全通行カルテとは、鉄道事業者と道路管理者が連携してとりまとめている「緊急に対策の検討が必要な踏切(カルテ踏切)」の一覧である。踏切道安全通行カルテは毎年各地方整備局等のホームページで数値が公表されるため、進捗状況が誰でもわかるようになっている。
2021年10月公表時点の踏切道安全通行カルテでは、緊急に対策の検討が必要な踏切が全国で1,336箇所あるとされており、その内訳は以下のようになっている (開かずの踏切~移動等円滑要対策踏切までの数値は重複も含む) 。
2021年10月公表時点の踏切道安全通行カルテ
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/fumikiri/fu_03.html
緊急に対策の検討が必要な踏切のうち、数が多いのは「開かずの踏切」と「歩行者ボトルネック踏切」である。
開かずの踏切とは、ピーク時間の遮断時間が40分/時以上の踏切を指す。
歩行者ボトルネック踏切とは、一日あたりの踏切自動車交通遮断量(自動車交通量×踏切遮断時間)と踏切歩行者等交通遮断量(自動車交通量×踏切遮断時間)の和が5万以上かつ一日あたりの踏切歩行者等交通遮断量が2万以上のことである。簡単にいうと、自動車と歩行者の交通量が多く、渋滞や歩行者の滞留が多く発生する踏切が該当する。対策が必要な踏切のうち、開かずの踏切や歩行者ボトルネック踏切が多くを占めており、これらの踏切を解消していくことが喫緊の課題であることがわかる。
国土交通省では、都道府県別の緊急に対策の検討が必要な踏切(カルテ踏切)の数も公表している。カルテ踏切は全国で1,336箇所があるが、中でも東京都が401箇所もあり、2位の大阪府(168箇所)と大差をつけている。
関東地方整備局のホームページを見ると、東京都の401箇所あるカルテ踏切のうち、65箇所が事業中(対策中)となっている。
https://www.ktr.mlit.go.jp/road/shihon/index00000027.html
関東地方整備局のホームページでは、個別の踏切の状況が分かるエクセルファイルもダウンロードできるようになっており、最寄りの踏切がどのような状況になっているかも把握することが可能だ。
踏切対策の事例
国土交通省では、抜本的な対策が困難な踏切について簡易な対策で状況を緩和した対策を好事例として紹介している。ここでは、横浜市の尻手と川崎市の下並木との境界にあるJR東海道本線の踏切(並木踏切)の対策を紹介する。
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/fumikiri/pdf/jirei_06.pdf
並木踏切は、ピーク時の遮断時間が46分の開かずの踏切となっている。また、自動車と歩行者の交通量も多い自動車ボトルネック踏切と歩行者ボトルネック踏切にも指定されている。
立体交差化は予定されているが、立体交差事業の着手予定は2025年となっており、課題解消まで期間を要する状況となっていた。そこで、簡易な対策として、まず踏切道と南側道路の拡幅工事を行っている。拡幅を行った後は幅員2.0mの舗装を整備し、踏切歩道部にカラー舗装を実施している。道路の拡幅と歩道が整備されたことで、歩行者の安全な通行は確保できるようになった。
並木踏切の例は、抜本的な対策に向けての最初の一歩の段階といえる。改正後の踏切道改良促進法では、このように小さな対策から立体交差化に段階的に移行することをイメージしている。
近所の踏切で簡単な対策が始まったら、立体交差化に向けた動きがあるかもしれない。気になる踏切があれば、踏切道安全通行カルテを調べてみるのもいいだろう。
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