「10の秘密」の向井理は、建設会社の“偽装”を知ってしまった確認検査員役
「確認検査員」という“裏方”の仕事に脚光が当たるのは、建築関係者として喜ぶべきことなのかもしれない。でも、見ている最中、ずっと心がざわざわしてしまうドラマだ。
建築や住宅、それを設計する建築家は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋(BUNGA NET編集長)が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづる。今回取り上げるのは、2020年にカンテレ・フジテレビ系で放送された連続サスペンスドラマ、「10の秘密」だ。主演の向井理(おさむ)が、大手建設会社の“偽装”を知ってしまった確認検査員を演じる。
白河圭太(向井理)は確認検査員の仕事をしながら一人娘を育てる39歳のシングルファザー。かつては建築家を目指し、アトリエ系の設計事務所に勤めていた。しかし、上昇志向が強過ぎる弁護士の妻・由貴子(仲間由紀恵)と離婚。娘の瞳との時間を大切にしたいと考え、定時で仕事が終わる建築確認検査機関へと転職した。
おお、よく調べたな、という設定だ。これはありそうだ。
ドラマの中でも描かれる「設計事務所→確認検査員」の転職は実際に多い
「確認検査員」が何だか分からない人のために説明しておくと、大きくは「建物ができるプロセス」をチェックする仕事だ。具体的には、①図面が法規に適合しているかの図面審査、②図面どおりに施工されているかどうかを確認する中間検査や完了検査──の2つが主な業務だ。
実際、設計事務所を経て、この仕事に転職する人は多い。なぜなら検査員の受験資格を得るのに、一級建築士の資格が必要だからだ。表舞台に出ることはほとんどないが、建築の品質を陰で支える重要な仕事だ。
筆者は向井理が主役を演じるドラマを初めて見た。向井のいかにも真面目そうなキャラクターは、確認検査員という役柄にしっくりくる。素の真面目さでこの役に抜擢されたのかもしれない。
中間検査を悪用した会社ぐるみの偽装
ただ、真面目なイメージが強すぎて、このドラマの鍵となる“影”の部分に共感が湧かない。
序盤はこんな話だ。白河圭太は誘拐された娘を救うため、元妻の由貴子から、「大手建設会社・帝東建設の不正の証拠を入手してほしい」と頼まれる。圭太は、建設中の現場で投身自殺をした現場所長のマンションに忍び込み、パソコンから不正の証拠を盗み出す。由貴子は誘拐犯にそのデータを渡し、それと引き換えに娘は解放される。
現場所長が自殺した現場は、帝東建設が建設中のタワーマンション。安全性を売りに販売しているのに、実は3階以上の柱に「図面に記された鉄筋」が入っていない。圭太は入手したデータを帝東建設の社長(佐野史郎)に突きつけて、こう言う。
「私にはわかるんです。このマンションがSRC造とうたうならば、最上階まで鉄骨、鉄筋が入っていなければならない。それなのに現場の写真を見ると、2階までしか鉄筋が入っていない。これは、2階までで行われる中間検査を悪用した会社ぐるみの偽装です」
いつもの向井理の役どころなら、その不正を真正面から正すところなのだが、このドラマではなんと、その口止め料として社長に3,000万円を要求する。つまり恐喝。えっ、そんなのあなたに向いてないよ、と友人のように心がざわついてしまう。
その後も、「それはあなたに向いてない」と思うことが何度も繰り返されながら話は進んでいく。「10の秘密」というタイトル通り、目まぐるしい“隠し事とウソの連鎖”。でも、登場するキャラクターの中で、どうにも主役の向井だけ悪のオーラが感じられない。それがキャスティングの狙いなのかもしれないが……。
ドラマの中でのリアル過ぎる「不正の手口」
心がざわざわしてしまうのは、キャスティングのせいだけはない。あまりに不正の手口がリアルなのだ。
不正が行われた「SRC造」というのは、鉄骨鉄筋コンクリート造のこと。鉄骨造(S造)と鉄筋コンクリート(RC造)を組み合わせたもので、H形鋼などの頑丈な鉄骨の柱の周りに、鉄筋を組んでコンクリートを施工するため、RC造よりも細い柱や梁で強度の高い構造物を造ることが可能になる。高層ビルやタワーマンションなど、大規模な建物に用いられる。
この構造から鉄筋を抜いてしまうと、ねばりが利かなくなり、耐震性は著しく低下する。柱の中なので完成後には分からない。このドラマではこの手抜き工事を「3階以上」で行ったと説明している。法律上、確認検査員が行う中間検査は「2階」の施工段階で行うとしており、帝東建設はその検査をクリアした後に、不正を実施したのだ。
実にありそうな設定で、「こんなのあり得ない」と笑い飛ばせないのが怖い。
そして、こんな専門的な内容の不正が、詳しい説明もなく視聴者に共有されてしまうことが怖い。おそらくこれを見たほとんどの人は、元ネタは構造計算書偽造事件(いわゆる姉歯事件、2005年)だな、とピンと来るのだろう。その共通理解がなかったら、こんなマニアックな不正をドラマの鍵にはしなかっただろう。
ああ、事件から15年以上たっても、一般の人は建設業界を信用していないんだな……。そう思うと、業界の端っこにいる人間としてはざわざわしてしまうのある。
ドラマの監修に国内最大手の建築確認検査機関が参加
それにしてもこのマニアックな不正、制作陣はどうやって考えたのか。きっと助言者がいるんだろうなと思って、ドラマのエンドロールを見ていたら、やっぱりいた。最後の方で、小さく「建築監修:日本ERI」と映る。日本ERIは国内最大手の建築確認検査機関だ。なるほど、それでこのリアリティなのか。
でも、このドラマって確認検査員のイメージアップになったのかなあ……。ドラマに協力した日本ERIの人の心中を思うと、それもざわざわするのである。
■■ドラマ「10の秘密」
2020年1月14日から3月17日まで関西テレビ制作・フジテレビ系の「火曜21時枠」で放送されたテレビドラマ。全10回。
脚本:後藤法子
キャスト:向井理(白河圭太)、仲間由紀恵(仙台由貴子、白河圭太の元妻)、山田杏奈(白河瞳)、仲里依紗(石川菜七子)、佐野史郎(帝東建設社長の長沼)、渡部篤郎(宇都宮竜二)
制作:カンテレ
公開日:




