マンションの資産価値を左右する、管理の質

中古マンションが売れている。⼀部地区では新築マンションの販売数を上回った。
売り出されているそのひとつひとつは、当然全部違い、同じものはない。では、これらの中から私たちはどこを⾒て、購⼊の判断をするだろうか。価格、⽴地、間取り、築年数…人によって求めるものは違うが、共通して注目すべきは「管理の質」だという。

「『マンションは管理を⾒て買え』という⾔葉があります。どこのマンションにもエントランスの近くには管理事務所あり、管理⼈さんがいます。マンション管理といえばその程度のイメージしか持たない⼈も多いと思いますが、実はマンション管理の実務は、管理組合の組合員として、区分所有者のみなさんが担います。

管理の良し悪しが、共同住宅としてのマンションの住み⼼地を左右し、もっと⾔えば、資産価値を左右します」(株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタント⼟屋輝之さん︓以下同)

2020年6月のマンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下、適正化法)の改正で、いま注目されるマンション管理。適正化法の改正は、私たちのマンション選びにどんな影響があるのか。マンション管理の質とは。
マンション管理コンサルタントとして数多くの管理組合を⾒てきた⼟屋さんに話を伺った。

共用部の修繕・補修箇所を確認する管理組合理事会のメンバー共用部の修繕・補修箇所を確認する管理組合理事会のメンバー

管理計画認定制度、マンション管理適正評価制度がスタート。必要なのは情報開示

株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタント⼟屋輝之さん株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタント⼟屋輝之さん

適正化法の改正を受け、2022年4⽉には国の「管理計画認定制度」が開始される予定だ。計画では、国による基本⽅針の策定に基づき、マンションの管理状態が評価され、一定の基準を満たす場合は、市区や都道府県といった⾏政がそれを認定するというもの。結果は認定か否かのどちらかだ。

一方、同時期にスタートを予定しているのが、一般社団法人マンション管理協会が実施する「マンション管理適正評価制度」だ。こちらは、管理の状況を「S」~「D」の5段階で評価する。
管理の評価基準は、概ね以下のような項目が審査される。まずは、財務体質の健全性。⼤規模補修等、建物の維持管理にかかる資⾦計画が健全になされているかどうか。次に、組合の運営状況。組合員による意思決定の仕組みが機能しているか。そのほかにも、耐震や防災についての取り組みなど。

これらの評価制度は、⾏政や業界団体がマンション管理の質に関してお墨付きを与えることで、消費者に安⼼感を与え、流通の活性化を目指すというものだ。しかし、⼟屋さんは⾔う。
「業界団体、国、⾃治体など今は試⾏錯誤で、制度の仕組みや評価基準を準備していますが、最低限普通にやっていれば、合格を得られるというレベル。評価ランクは当然開⽰されますが、それだけでは不充分と考えます」(同)

必要なのは、個々の項目の詳細な情報開⽰だという。
「これから中古マンションの購⼊を考える⼈にとって必要なのは、そのマンション管理の質が分かり、なおかつ⽐較できるデータを開⽰することではないでしょうか」(同)

例えば、このマンションは、⼤規模補修に向けて潤沢な資⾦があり、修繕積⽴⾦の値上げは当⾯⼼配なさそうだ。逆に積み⽴てられた資⾦が充分なく5年後の⼤規模補修時には⼀時⾦が発⽣するかも。このマンションは、別のマンションと⽐べて防災に特に⼒を⼊れて活動している。といった類の情報は、購⼊検討時の重要な情報になりえる。

「現状でも、仲介不動産会社を通じて、管理に関して多くの情報を得ることはできます。しかし、契約のテーブルについてはじめて知りえる情報も少なくありません。せっかくの評価制度であるなら、その詳細も含めて検討段階から⼊⼿できる制度になってほしい」(同)

株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタント⼟屋輝之さん12年から15年ごとに行われる大規模修繕工事

資産価値維持のために管理組合のブランディングを

数多くのコンサルタント業務に携わってこられた土屋さんに、今注目すべき管理組合活動の実例を聞いた。まずは管理組合の財務基盤に関する決議の一例。

「晴海のタワーマンションですが、新築入居から3年目に、修繕積立金の算出方法を、段階増額方式から均等積み立て方式に変更し、入居後早々に大幅な増額を決議した例があります」(同)

修繕積立金の額の決め方は2つある。

◇段階増額方式
3年や5年ごとなど、段階的に上がっていくことを見込んだもの。
新築分譲時は、当初の負担を低く抑えて購入のハードルを下げるため、基本的には段階増額方式が取られている。

◇均等積立方式
長期わたっての修繕費用の総額を算出し、ずっと一定額を負担する積立方式。
段階的に上がっていくものに比べ、当初の負担は段階増額よりも高くなる。

段階増額方式では、リタイア世代をはじめとして、将来の増額に対して不安を抱く居住者も多い。月々の積立金では不足し大規模補修の機会に、一時金が必要な場合も出てくる。

「この管理組合では60年間の費用を見積もり、その総額をいまから積み立てて準備していくことを決議しました。将来にわたって資金不足のリスクを回避したわけです」(同)

今、都心のマンションでも、永住志向が強くなってきているという。土屋さんはそのあたりも事前調査で把握していた。
「例えば、定年退職後の組合員が多ければ管理費や修繕積立金の値上げ決議は、なかなかハードルが高くなります。何十年も安心を得るため、まさに組合として英断というべき決議です」(同)

管理組合の通常総会は区分所有法によって年に1回の開催が義務づけられている管理組合の通常総会は区分所有法によって年に1回の開催が義務づけられている

もう一例。組合の活動全般にわたる例だ。

「総戸数500戸の大規模マンションですが、組合の活動は活発で、公式ホームページを持っています。そこでは、決算書や長期修繕計画書などあらゆるデータが公表され、だれでも見ることができます。ホームページで開示していない情報はないほど。それと特筆すべきは、日常からの活動です。例えば敬老の日に、居住する高齢者に記念品を贈ったり、驚くべきは、マンションの歌ができているんです。子どもたちにマンションを”ふるさと”にしてほしいという願いが込められています」(同)

この組合は法人化され登記されているという。理事たちは、自分たちのマンションをより住みやすくしていこうという意識が高い。コミュニティーとしてのマンションに重要なのは、やはり住民同士のつながりといえる。イベントなどでつながりの深い住民たちは、組合活動においても高い意識で結ばれている。
「積極的に組合活動に参加する所有者たちが多ければ管理の質は高くなります。管理費という“お金”を払ってさえいれば、マンション管理はうまくいく、という意識は間違いです」(同)

管理組合がマンションの価値を決める

通常管理組合は、日常の管理業務を一括して外部の管理会社に委託する。

「管理組合と管理会社の関係も変わってきました。以前は、管理会社を探し管理委託契約を結ぶことは容易でしたが、現状は引き受けてくれる管理会社が簡単には見つかりません。その原因は、管理人の人手不足です。

管理委託契約料の高騰もあり、管理組合が契約料の値下げを希望しても、なかなか希望通りにいきません。管理会社の収益の一つであった、修繕や補修に関わる工事代も、利益が出にくくなっていることも背景のひとつ。中には管理組合が直接工事を発注するケースもあり、マンション管理で収益が出にくくなってきています」(同)

マンション管理にまつわる状況が変化し、評価制度によって管理の質が問われようとしている現在。中古マンションの購入を検討している消費者は、どこを見て判断すればいいのだろう。

「評価制度によってあるレベルの情報は知ることができるようになります。しかし、購入のインセンティブになるような、つまり”管理を見て買える”レベルの情報は、積極的に求めていくことが重要です。例えば仲介会社を通してでも得られる情報は多い」(同)

土屋さんの株式会社さくら事務所では、マンション管理の質を評価し、高評価とされるマンションのみを集めたサイトを公開する。
「BORDER 5(ボーダーファイブ)とネーミングしました。つまり上位5%のマンションだけがクリアできるそんな極めて高いマンション管理の診断基準を設けて、合格するマンションのみを集めたサイトです」(同)

行政による評価制度のみならず、今後市場でもさまざまに評価されていくであろうマンション管理。つまり、管理の質がマンションの資産価値に直結する要素になることは確実といえる。

多岐にわたる中古マンションに関わるニーズ。立地や間取りのみならず、今後は管理に関心を寄せて判断することが、ますます重要になってくるだろう。

区分所有者である組合員の高い意識が、管理の質を高める区分所有者である組合員の高い意識が、管理の質を高める

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