相続登記が義務化された背景
2021年4月に民法と不動産登記法が改正され、相続登記が義務化される法案が公布された。義務化のスタートの目途は、2024年の4月からとされている。
相続登記とは、不動産の所有者が死亡したときに所有者の名義変更を行う登記のことを指す。従来、相続登記は義務ではなかったが、今般、相続登記はついに義務化される運びとなった。
相続登記が義務化された背景は、所有者不明土地が増えたことが理由である。所有者不明土地とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地」のことを指す。現在、国内の所有者不明土地は九州の面積を超える広さが存在するとされる。
国土交通省が開示する「所有者不明土地の実態把握の状況について」
https://www.mlit.go.jp/common/001201304.pdf
によると、所有者不明土地が発生する原因としては、相続時の未登記が全体の66.7%を占める要因となっている。所有者不明土地が発生すると、公共事業や災害対策の障害となってしまう。例えば高速道路で用地買収をするようなケースで所有者不明土地に遭遇してしまうと、所有者を特定するのに多大なコストがかかってしまうのだ。
また、東日本大震災の復興整備事業においても、所有者不明土地が事業推進の妨げとなっていた。さらに、隣地が所有者不明土地の場合、境界の確定ができず自分の不動産を売却できなくなってしまうようなケースもある。
このように所有者不明土地の存在は、公共事業や民間の不動産取引等の支障となるため、昨今は相続登記の義務化の必要性が求められていた。相続登記の義務化は数年前から検討されてきたものであり、2021年4月にようやく法案が公布される形となった。
義務化開始はいつからか?
相続登記の義務化の関連法案は、「2021年4月28日」に公布されたが、まだ施行はされていない。よって、まだ義務化はスタートしていない状況である。
施行に関しては、「公布から3年以内の政令で定める日」に施行されることとなっている。まだはっきりはしないが、交付から3年以内に施行されるため、義務化は「遅くとも2024年4月頃から」スタートすることが見込まれる。相続登記の義務化は多くの人に影響を与えることになるため、現在は義務化の法律の周知期間ということになる。
相続登記の期限
新しい制度では、相続登記の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内」に行わなければならないと定められている。
単に相続の開始があったことを知った日から3年というわけではなく、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内という条件が付いている。例えば、縁遠い親戚が亡くなり、近い親族が次々と相続放棄を行ったことで、知らない間に縁遠い自分が相続人となってしまうようなケースがある。このようなケースでは、縁遠い親戚が亡くなってから3年たっても自分が相続人となったことを知らない状況も考えられる。
よって、所有権の取得をしたことを知らなければ、仮に被相続人が亡くなってから3年を過ぎてしまったとしても義務違反とはならないこととなる。
義務化前の相続も対象となる
相続登記の義務化で最も重要となる点が、既に発生している義務化前の相続も義務化の対象になるという点である。相続登記の義務化は、既に九州の広さ以上にもなる所有者不明土地を解消していくことが目的であるため、現在相続登記がなされていない物件も遡及してすべて対象となる。
既に発生している相続や、2024年4月までに生じる相続についても例外なく対象となることがポイントだ。義務化前の相続登記の期限は、以下のいずれか遅い日から「3年以内」となっている。
・自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日
・民法および不動産登記法の改正法の施行日
所有権を取得したことを知っている人は、改正法の施行日が2024年4月とした場合、2027年4月までは相続登記を完了しなければならないことになる。相続登記が未登記の物件のうち、既に複数世代にわたって未登記のままで多人数共有物件の状態となっている場合には、相続登記を完了するまでかなり時間がかかることが予想される。
2027年までまだ時間があるように思われるが、多人数共有物件の場合には、現段階で早めに司法書士に相談して作業に着手していったほうがいいだろう。
新たに設けられる相続人申告登記制度とは
改正法が施行されて以降は、新たに相続人申告登記(仮称)という制度が創設される。相続人申告登記とは、相続登記の義務を負う者が、法務局の登記官に対して、「登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自ら相続人であることを申請する」制度のことである。
申請を行うと、登記官が職権でその旨と申出をした者の氏名と住所を付記することになる。相続人申告登記は、相続登記のことではなく、登記簿上の所有者が亡くなっていることだけを公示する簡易な登記だ。
ただし、相続人申告登記を行うことで、相続登記の義務は果たしたことになる。例えば、相続では遺産分割で揉めてしまい、3年以内に相続ができないケースもある。このような状況においては、相続人申告登記によって相続登記の義務を果たしておくことができる。
また、相続人申告登記は、相続人の1人が単独で申請できることもポイントだ。相続人同士で揉めている場合でも、1人の申請によって相続登記の義務が果たせるという制度設計になっている。なお、相続人申告登記は相続登記ではないため、売却する場合は登記が必要となる。売却で相続登記が必要な理由は、次で解説する。
義務化前でも売却前は相続登記が必要
2021年9月現在では相続登記は義務化されていないが、相続した不動産を売却する場合は実質的に相続登記が必要となる。理由としては、相続登記が未登記の物件は、買主にとってリスクがあるからだ。相続が発生すると、被相続人(亡くなった人)の資産は相続人の共有状態で引き継がれる。共有物件の売却では共有者全員の同意がない限り売却できないという点がポイントだ。
例えば、被相続人に非嫡出子がいた場合、その非嫡出子も相続人であり共有者の1人となる。被相続人Aの息子であるBが自分は相続人であるとして、未登記のまま売却活動を行い、売買契約を行ったとする。しかしながら、後から非嫡出子Cが現れて、自分も相続人であるが売却には同意しないと主張されることも考えられる。Bの単独所有だと思っていた物件は、実はBとCの共有物件であり、共有者Cが反対することで売買契約が成立しないこともあるのだ。
レアケースといってしまえばそれまでだが、高額な取引となる不動産の売買では、想定されるリスクは排除した上で取引をすることが基本である。そのため、一般的には相続登記が未了の物件は売買できないのが通常であり、仮に未登記のままであったとしても、売買契約時までに相続登記を完了することが買主からの条件として求められることが一般的だ。よって、相続登記は現時点においても売却するときは実質的に必要になるということである。
今後は相続登記が義務化されることから、売却の予定がなくても相続登記は必要となる。「売るつもりはないから」という理由は成り立たなくなるため、既に未登記の物件や2024年4月までに生じる相続物件についても、速やかに相続登記に着手することが望まれる。
義務化後は過料の対象となる
改正法では期限以内に相続登記を完了しなかった場合、過料の対象となる。正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、「10万円以下」の過料が定められている。基本的には期限までに相続登記をすべきであるが、間に合わない場合にはとりあえず相続人申告登記を行っておくことが効果的だ。
なお、相続人申告登記のために必要な資料はまだ明確になっていない。新制度の情報はこれから開示されていくので、特に未登記の多人数共有物件を持っている人は新たな情報に注視してほしい。







