少子高齢化の加速にともない、一人暮らしをする高齢者の数は増え続けています。
内閣府の2023年版「高齢社会白書」によると、65歳以上の人口に占める一人暮らしの割合は、2020年時点で女性22.1%、男性15.0%です。40年前の割合と比べると女性で2倍近く、男性にいたっては3倍以上に増加しています。
高齢者の一人暮らしで心配なのが、「介護問題」ではないでしょうか。特に、要介護認定を受けている高齢者は日常生活において介護を必要とするため、一人暮らしをしてよいものか不安に感じる人も多いかもしれません。
本記事では、介護が必要とされる高齢者でも一人暮らしができるのかということに加えて、高齢者が安心して一人暮らしするためにできる対策を紹介します。
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介護が必要な高齢者でも一人暮らしはできる?

一人暮らしをするとなれば、ある程度身の回りのことができる方が生活は安定します。介護が必要といっても、その幅はさまざまです。
まずは、要介護認定を受けている高齢者でも一人暮らしが可能なのか見ていきましょう。
要介護度によっては一人暮らしもできる
要介護認定を受けている高齢者でも、一人暮らしが可能な場合があります。ただし、介護が必要な度合いを表す「要介護度」によって状況は異なってくるでしょう。
要介護度とは、高齢者や障害のある人が、日常生活を送るうえでどれだけ介護や支援が必要かを示す指標です。この度合いによって、介護サービスの利用範囲や内容が決まります。
要介護度は、要支援1・2、要介護1~5の7段階に分けられており、数字が大きくなるほど介護が必要な状態が重度であることを示します。
このシステムは、介護保険法に基づいて日本で導入されており、適切な介護サービスを受けるための大切な基準となっています。
要支援1 要支援2 | 日常生活上の基本的動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作について何らかの支援を要する状態 ※要支援1:要介護認定等基準時間が25分以上32分未満またはこれに相当すると認められる状態 ※ 要支援2:要介護認定等基準時間が32分以上50分未満またはこれに相当すると認められる状態 |
|---|---|
要介護1 | 要支援状態から、手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、部分的な介護が必要となる状態 ※ 要介護認定等基準時間が32分以上50分未満またはこれに相当すると認められる状態 |
要介護2 | 要介護1の状態に加え、日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態 ※ 要介護認定等基準時間が50分以上70分未満またはこれに相当すると認められる状態 |
要介護3 | 要介護2の状態と比較して、日常生活動作および手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態 ※ 要介護認定等基準時間が70分以上90分未満またはこれに相当すると認められる状態 |
要介護4 | 要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態 ※ 要介護認定等基準時間が90分以上110分未満またはこれに相当すると認められる状態 |
要介護5 | 要介護4の状態よりさらに動作能力が低下しており、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態 ※ 要介護認定等基準時間が110分以上またはこれに相当すると認められる状態 |
参照:厚生労働省「要介護認定はどのように行われるか」、厚生労働省「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~(参考(3)介護保険制度における要介護認定の仕組み)
上記のように、要介護度がどれくらいかによって、介護が必要な範囲は大きく異なります。要支援や要介護度が低い高齢者であれば、介護サービスの利用を前提に一人暮らしが可能なケースもあるでしょう。
なお、要支援と要介護では、介護保険を使って利用できるサービスと申請先に違いがあります。
区分 | 介護保険で利用できるサービス | サービスの申請先 |
|---|---|---|
要支援 | 介護予防サービス | 地域包括支援センター |
要介護 | 介護サービス | 居宅介護支援事業者 (ケアプラン作成事業者) |
介護が必要になっても現在の自宅で生活をしたい高齢者が多い
要介護認定を受けていても、場合によっては一人暮らしが可能と紹介しました。それでは、介護を受ける高齢者本人は、生活場所についてどのように考えているのでしょうか。
内閣府が実施した2014年度「一人暮らし高齢者に関する意識調査」によると、多少の支援・介護が必要な状態であっても、わずかな日常生活能力の低下が見られる程度であれば、サポートを受けながら自宅で生活したいという人が約66%に上っています。
介護が必要になっても、できれば長年住み慣れた家や環境から離れたくないという高齢者は多いといえます。
高齢者が一人暮らしをできる要介護度

先ほど紹介したように、要介護認定を受けている高齢者でも、要介護度によって生活能力や介護の必要度は大きく異なります。ここからは、介護が必要な高齢者において一人暮らしができる要介護度はどれくらいなのか解説します。
なお、ここで紹介する基準はあくまでも目安のため、要介護度が低いから必ず一人暮らしができるとは限りません。ひとつの目安として捉え、個々の状況や周囲のサポート体制、環境などに応じた判断を行ってください。
要支援1・2、要介護1は一人暮らしができる
要支援1と要支援2の高齢者は、日常生活をほぼ自分で行うことができるため、一人暮らしは十分可能でしょう。
要介護1の高齢者も、一定の日常生活を自力でこなすことができるため、一人暮らしは可能だといえます。ただ、要支援状態に比べて身体能力や認知機能が低下しているため、日常の生活動作の一部や立ち上がり、歩行に関してサポートが必要です。
要介護1の状態での、日常生活において自力でできること、できないことの目安を見てみましょう。
自力でできる日常の生活動作 | サポートを必要とする日常の生活動作 |
|---|---|
・食事、排せつ、入浴などの身の回りに関する基本動作 | ・支えなしで立ち上がる ・安定して歩き続ける ・トイレや浴室における見守り |
※ 一例です。実際の状況には個人差があります
厚生労働省が行った2022年「国民生活基礎調査」によると、一人暮らしをしている要支援者・要介護者のうち、要介護1の人が占める割合は18.9%となっています。
また、一人暮らしをしている要介護者(要介護1~5)の総数を100%とし、うち要介護1の人が何%になるか計算したところ、要介護1の人が一人暮らしをしている割合は35.3%となりました。
データからも、要介護1であれば、サポートが受けられるなら一人暮らしは十分に可能と考えられるでしょう。
要介護2でも一人暮らしはできる
要介護2の高齢者は、要介護1よりも身体能力や認知機能が低下した状態です。要介護1に比べて日常的に介護を要する場面も増えるでしょう。
要介護2における日常生活において自力でできること、サポートを必要とすることの例をまとめると以下のとおりです。
自力でできる日常の生活動作 | サポートを必要とする日常の生活動作 |
|---|---|
・食事、排せつなど身の回りに関する基本動作の一部 | ・立ち上がりと歩行 ・入浴、着替え ・一定の理解や判断を必要とする行為(金額の計算など) |
※ 一例です。実際の状況には個人差があります
要介護2の高齢者の場合、介護サービスを利用して一人暮らしをするケースが多いでしょう。
2022年「国民生活基礎調査」によると、一人暮らしをする要支援者・要介護者のうち、要介護2の人が占める割合は16.5%です。
要介護2の高齢者は日常生活のなかでサポートを要する場面は多いものの、必要な介護サービスを受けられれば、一人暮らしも十分に検討可能といえます。
要介護3だと一人暮らしの壁は高くなる
要介護3になると、要介護1・2では自力でできていた日常生活動作において介護が必要になります。介護サービスの利用が必要であり、要介護2よりも幅広い場面でサポートが求められるでしょう。
要介護3の人が自力でできること、できないことをまとめると次のとおりです。
自力でできる日常の生活動作 | サポートを必要とする日常の生活動作 |
|---|---|
・基本的なコミュニケーション ・簡単な思考や物事の理解 | ・食事、排せつ、入浴、着替えといった身の回りのこと全般 ・家事全般 ・立ち上がりや歩行 ・少し高度な思考力・理解力が求められる行為(過去の事柄を思い出すなど) |
※ 一例です。実際の状況には個人差があります
要介護2と比べると、明らかに介護を必要とする範囲が広がっており、介護サービスを受けないと日常生活を送れないと考えてよいでしょう。
2022年「国民生活基礎調査」によると、要支援者・要介護者の一人暮らし世帯のうち、要介護3の人は9%にとどまります。データからも、要介護3になると一人暮らしのハードルが高くなると考えられます。
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高齢者の一人暮らしで介護に困らないためにできること

少子高齢化が進む近年、一人暮らしをする高齢者の割合は増え続けています。
仮に一人暮らしをしている状況で要介護の認定を受けたり、要介護度が上がってしまったりすると、日常生活で困る場面が増えるでしょう。また、サポートする家族にとっても不安が大きいはずです。
ここでは、介護に困らない一人暮らしを送るためには、どのような対策が有効なのか解説します。
早い段階から、介護を必要としない生活を心がける
自立した生活を送るためには、元気なうちからなるべく介護が必要な状態にならないような生活を心がけることが大切です。
2022年「国民生活基礎調査」の結果を見てみると、要介護者の介護が必要になった要因として、もっとも多かったのは「認知症」でした。
要介護者のうち23.6%は認知症が原因で、要介護認定を受けています。介護を必要としない生活には、認知症予防が重要だといえるでしょう。
認知症予防に効果的とされるのが、他人や社会とのつながりを持つことです。たとえば、趣味を通して仲間と交流する、地域活動を通して社会貢献する、自治会の役職に就いて地域の人々と積極的に関わるなどの方法が考えられます。
また、身体能力の低下も要介護認定になりやすいポイントです。不調を感じない段階から、規則正しい生活やバランスの良い食事、適度な運動を心がけ、健康寿命を延ばすような生活を送ることが望ましいでしょう。
QOLを下げない生活をする
介護を必要としない状態を維持するには、QOL(Quality of Life、クオリティー・オブ・ライフ)を下げないことも重要です。QOLは「生活の質」と訳され、食生活の乱れ、活動量の低下、無理や我慢をしたことによる疲労やストレスはQOLを下げてしまいます。
若いうちは体力があるため、多少の無理は利くかもしれません。しかし、高齢になって身体能力や体力が低下すると、ちょっとした無理や我慢が健康状態の悪化に直結するリスクがあります。
そして、社会活動や生きがいもQOLの重要な要素です。社会や周囲の人との関わりを絶たずに、できるだけ地域の輪に入ることが大切です。
趣味を見つけて積極的に取り組んだり、地域ボランティアを通して生きがいを見つけたりして、良質な生活を送れるよう心がけましょう。
家族や周囲の人がサポートをする
介護を必要としない生活を心がけていても、年を重ねれば他者のサポートを必要とする場面がやってきます。高齢者が安心して一人暮らしをするには、家族や周囲の人の適切なサポートも重要です。
一人暮らしをしている高齢者の家族がいる場合、定期的に本人の声を聞き、顔を合わせて会話をする時間をつくりましょう。頻繁にコミュニケーションを取っていれば、健康状態などの変化にも気づきやすくなります。
離れた場所に暮らしている場合は、テレビ電話の利用がおすすめです。また、自治体や民間企業が提供している「見守りサービス」を利用して、何かあったときにすぐ対応できるようにするのも有効です。
将来的に介護が必要になった場合を見据え、介護しやすい環境を整えるという視点も持っておきましょう。
50代・60代のうちに自宅をリフォームしたり、介護のしやすい住まいに引越したりすれば、いざ要介護認定を受けた場合もスムーズに介護サービスを受けられるかもしれません。
介護の度合いが軽度であれば自宅で過ごしたいと考える高齢者は多いものの、なかには介護施設で安心して暮らしたいという人もいます。要介護状態になる前に、一人暮らしの高齢者がどのような生活を送りたいのか話し合っておくことが大切です。

まとめ

一人暮らしの高齢者は年々増加しており、要介護認定を受けながら一人暮らしを続ける高齢者は少なくありません。要介護1・2程度までの、比較的軽度な要介護状態であれば、介護サービスを利用しながら一人暮らしをすることは可能です。
一方、要介護3以上になると日常生活全般での介護が求められるため、家族との同居や施設入居が必要になるでしょう。
一人暮らしの高齢者が介護に困らず生活していくには、本人の意識はもちろん、何よりも家族や周囲の人のサポートが重要です。高齢者との日常的なコミュニケーションを心がけるとともに、介護しやすい住まいを一緒に考えてみるのもおすすめです。
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