宇都宮市・芳賀町に開業したライトライン
2023年8月、栃木県宇都宮市・芳賀町に芳賀・宇都宮LRT(以下、ライトライン)が開業した。LRT(Light Rail Transit:ライトレールトランジット)とは、乗降のしやすさや他交通機関との連続性といったソフト面を含めた概念のもと、まちづくりと密接に関係した交通システムとされ、都市交通問題の解決のほか、都市環境の改善や都市の活性化などに寄与することが期待されている。
ライトラインは宇都宮駅東口から宇都宮大学陽東キャンパスやグリーンスタジアム、新興住宅地のゆいの杜などを経由し、芳賀町の芳賀・高根沢工業団地までの14.6kmを運行する。2025年1月末には累計利用者数700万人を達成、2030年頃には宇都宮駅西側への延伸も計画されており、宇都宮市内の東西の基幹交通として、市域全体の交通利便性と魅力を高めることが期待されている。そこでLIFULL HOME'Sは、開業後のライトライン沿線や今後の延伸計画エリアの賃貸物件への問合せや賃料の動向について調査した。
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沿線の賃貸物件への問合せは開業前比45%増
賃貸物件への問合せ数は、開業前の2021年の問合せ数を100とした場合、ライトライン沿線エリアでは、開業年の2023年は142.3、翌2024年は145.3となり、開業年以降に沿線の物件への問合せが大きく増加していることがわかった。一方、沿線外のエリアでは、2023年は96.7、2024年は100.0と伸びは見られない。なお、駅西側の延伸計画エリアでは、2023年は100.7、2024年は108.0と沿線エリアと比べると増加は限定的だった。
月別では、2021年1月の問合せ数を100としたとき、ライトライン沿線で最も問合せが多かったのは、開業を控えた2023年3月。次いで2024年3月であった。1~3月の引越しシーズンにおいては特に、ライトライン沿線は沿線外や延伸計画エリアよりも問合せが増加していることがわかった。
ライトライン沿線の賃料水準は約1割上昇
ライトライン開業以降、沿線では賃料水準にも上昇傾向がみられる。2025年1月の沿線の平均賃料は7万6,117円で開業時から+9.8%、前年同月比+12.1%となった一方、沿線外の平均賃料は5万6,877円で開業時から+1.3%、前年同月比+1.7%にとどまっている。
また、駅西側の延伸計画エリアにおいては、2025年1月の平均賃料は6万7,675円で開業時から+6.1%、前年同月比+8.1%と開業済みの沿線の伸び率を下回っている。しかし、今後の延伸によって交通利便性や魅力が向上することで居住ニーズが活性化し、開業済みの沿線同様に家賃相場が上昇する可能性もある。
ネットワーク型コンパクトシティの実現に向け、ライトラインはまだまだ発展途上
ライトラインは開業初年度から純利益黒字となった。ライトラインが市民に受け入れられ交通手段として浸透している証だが、LRTの役割を考えると、ライトライン単体の収支にフォーカスすることは望ましくない。LRTは交通手段の枠を超え、都市が抱える諸問題を解決するポテンシャルを持っており、その外部効果を含めて成否が判断されるべきだからだ。
今回の調査では、その一例としてライトライン沿線の居住ニーズと家賃が上昇傾向にあることを紹介した。宇都宮市の調査ではほかにも、中心市街地への来訪頻度の増加、歩数の増加、送迎負担の軽減といった効果が報告されている。また、それらは沿線外と比べて沿線内で顕著であることも示されている。
宇都宮市は「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」を計画に掲げる。これは、市内各拠点に都市機能を集積させ、それらを階層性のある交通ネットワークでつなぐことで、来たる人口減少社会においても市民生活の質を維持・向上していこうとするものだ。NCCの考え方では、ライトラインはあくまでその骨格となる交通のひとつであり、沿線内だけでなく沿線外にもその効果が波及することを目指している。このビジョンに照らし合わせるとまちづくりのシステムとしてのライトラインはまだまだ発展途上であるといえる。今後の取り組みによって、より多くの市民にその恩恵が広がっていくことを期待したい。
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