2024年7月に仲介報酬の特例規定が見直し

国土交通省は、不動産市場で流通しづらい空き家・空き地の流通を促すため、2024年7月1日から仲介報酬(仲介手数料)の特例規定の拡充を実施した。従前の特例では、400万円以下の物件の取引で、売主から通常の料率を超えて最大で18万円(税抜)の報酬を受領することが可能だったが、このたびの見直しにより、800万円以下の物件の取引で、売主および買主から通常の料率を超えて最大30万円(税抜)の報酬を受領することができるようになった。

なお、特例の対象は「低廉な空家等」とされているが、「売買に係る代金の額又は交換に係る宅地又は建物の価額が800万円以下の金額の宅地又は建物をいい、当該宅地又は建物の使用の状態を問わない」と定義されており、居住中の住宅や、土地も含まれる。

これまで、成約までに時間を要するうえに報酬も少ないことから不動産仲介会社が取扱いを敬遠しがちであった低廉な物件だが、改定から4ヶ月を経た今、市場においてその流通は活性化しているのだろうか。低廉な物件に対する消費者のニーズとあわせて調査した。

物件数の推移:地方部を中心に800万円以下物件の掲載が増加

LIFULL HOME'Sに掲載された中古物件に占める800万円以下の物件の割合は、特例規定が見直された2024年7月時点で全国の掲載物件の5.7%となり、前年同月比で0.5ポイント上昇、その後10月には5.9%とさらに増加している。

では、どのようなエリアで低廉な物件の流通が増えているのだろうか。地方部(東京23区および政令指定都市を除いた地域)に限ると、7月は7.9%で前年同月比0.4ポイント上昇、10月には8.2%とさらに増加するなど、低廉な物件の掲載が緩やかに増加傾向にある。一方で、都市部(東京23区と政令指定都市)の掲載物件に占める800万円以下の物件の割合は、2024年7月は2.9%で前年同月比0.1ポイントの上昇にとどまっている。その後も横ばいで推移するなど、仲介報酬の上限引き上げ前後で明らかな差異は見られない。

【エリア別】掲載物件に占める800万円以下の物件の割合【エリア別】掲載物件に占める800万円以下の物件の割合

消費者ニーズ:物件数のわりに多い800万円以下物件への問合せ

地方部を中心に少しずつ流通量が増えている800万円以下の物件だが、実際に消費者からのニーズはあるのだろうか。

ユーザーによるLIFULL HOME'Sを介した不動産会社への問合せのうち、「400万円超~800万円以下」の物件への問合せは17.7%、「400万円以下」の物件への問合せは10.9%と、約3割が800万円以下物件への問合せであった(2024年10月実績)。

【全国】価格帯別の掲載物件の割合と問合せの割合【全国】価格帯別の掲載物件の割合と問合せの割合

エリア別では、都市部の掲載物件に占める800万円以下物件の割合は2.9%であるのに対して、同物件への問合せは11.3%を占めた。地方部でも800万円以下物件は掲載物件の8.2%であるのに対し、問合せは28.8%にのぼる。このように、800万円以下の物件は、都市部・地方部いずれにおいても物件数のわりに需要が大きいことがうかがえる。

【全国】価格帯別の掲載物件の割合と問合せの割合【都市部】価格帯別の掲載物件の割合と問合せの割合
【全国】価格帯別の掲載物件の割合と問合せの割合【地方部】価格帯別の掲載物件の割合と問合せの割合

空き家等の流通を阻害するのは仲介報酬額の低さだけではない

空き家等の低廉な不動産を取り扱う不動産事業者にとって、媒介報酬規制の見直しはその追い風となることが予想される。今回の調査では、低廉な物件に対して比較的大きなニーズがあることもわかった。全国で空き家が900万戸にのぼり、その流通活性化が求められるなか、報酬規制の見直しを契機として、多くの不動産事業者が参画することに期待したい。

ただし、低廉な物件の流通を阻害する要因は、その報酬額の低さだけではない。選ばれる住宅とするには、消費者が抱く「古い」「汚い」「不安」というマイナスイメージ*を払拭することが必要だ。その手段としてこれまで、既存住宅売買瑕疵保険や安心R住宅、インスペクションなどの制度が整えられてきたが、その活用はまだ十分に進んでいるとはいえない。報酬規制の見直しを機に、空き家ビジネスに取り組む事業者が増えるとともに、各社がそれらの制度を活用することで、消費者が安心して低廉な不動産を購入できる市場が形成されることが必要だろう。

*消費者が既存住宅を選ばなかった理由として「設備の老朽化が不安(33.8%)」「隠れたところに不具合がありそう(29.5%)」などが上位に挙げられる(電通オリジナル調査 国土交通省「政策レビュー 既存住宅流通市場の活性化」(2019年))

仲介報酬の見直しには、不動産事業者の空き家ビジネスへの参入を促進するねらいがある(画像:PIXTA)仲介報酬の見直しには、不動産事業者の空き家ビジネスへの参入を促進するねらいがある(画像:PIXTA)

■調査概要
対象物件:LIFULL HOME'Sに掲載された中古アパート、中古マンション、中古一戸建て

公開日: