中野区の現場から紐解く、生活保護制度と居住支援のリアル

中野区都市基盤部住宅課 會田智浩氏(左)、中野区健康福祉部生活援護課 網野和弥氏(右)を中心に実状を語ってもらった中野区都市基盤部住宅課 會田智浩氏(左)、中野区健康福祉部生活援護課 網野和弥氏(右)を中心に実状を語ってもらった

もし、病気やケガ、親ないし配偶者との離別や死別、失業など、思わぬ事態に陥り、あらゆる手を尽くしても住む場所を失わざるを得ず、生きていけなくなってしまったら―。どんな人にも起こり得ることであり、もし自身がそうなったらと考えを巡らせる人も少なくないだろう。
そうした状況下に置かれてしまった場合でも、憲法第25条で定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するとともに、自立に向けて援助を行うための制度、それが生活保護制度だ。
人が自立するうえで欠かせない住まいを、生活保護利用者向けにどう確保し、運用しているのか。また、制度を運用する行政では、どういった視点で生活保護利用者と住まいの問題を捉えているのか。
中野区を訪ね、“生活保護”と“居住支援”の両担当者に生活保護と住まいの実状を伺った。

中野区における生活保護利用者の現状と特徴

中野区健康福祉部生活援護課では、相談面接や緊急保護、ケースワーカーによる家庭訪問などを通じて、生活困窮者や生活保護利用者の生活保障と自立支援を行う中野区健康福祉部生活援護課では、相談面接や緊急保護、ケースワーカーによる家庭訪問などを通じて、生活困窮者や生活保護利用者の生活保障と自立支援を行う

中野区は東京都23区の中西部に位置し、新宿や渋谷に近い利便性の高い都心のベッドタウン。人口密度は全国の市区町村で2位の過密さだ。区の調査によると、中野区の住宅総数に占める民間借家の割合は約6割、また区民の約6割が単身世帯となっている。さらに、単身高齢世帯が多くを占める一方、20 代の若者の生活保護が増えているのが特徴だ。

中野区健康福祉部生活援護課 網野和弥氏によると、中野区の生活保護世帯は2026年1月時点で約6,850世帯にのぼる。利用世帯は単身世帯が9割を占めており、その約半数が高齢者とのことだ。コロナ禍で一度大きく利用者数が増えたものの、近年その数は横ばいから微減傾向にあり、中野区では背景に景気回復などをはじめ、いくつかの複合的な要因があると分析している。

網野氏「生活保護利用者の最近の傾向をみると、高齢世帯が微減しています。ではどの層が増えているかというと、20代の若年層です。離職をして収入や預貯金がなく、区役所に相談してみて生活保護を受ける、という一時的なセーフティネットとして活用するケースも増えています」

また、中野区の生活保護利用者には、精神疾患や依存症、障害を抱える方も多くいるという。

網野氏「例えば新宿区や豊島区に依存症ケアなどの医療機関があるので、通院のアクセスが良く住みやすい点もあります」

生活保護利用者の住まい探しにおける深刻な障壁

中野区都市基盤部住宅課では、中野区の住まいに関する相談と支援業務を行うほか、居住支援協議会の事務局も担っている中野区都市基盤部住宅課では、中野区の住まいに関する相談と支援業務を行うほか、居住支援協議会の事務局も担っている

生活保護には住宅扶助があるが、2026年2月現在の東京都の単身世帯での上限は原則5万3,700円だ。LIFULL HOME’S 東京都の家賃相場情報によると、中野区のワンルーム・1K・1DK賃貸物件の平均家賃は11万3,300円(2026年2月17日現在)。全国的に家賃相場が上昇している中で選択肢が年々狭まっていることは想像に難くない。
さらに、生活保護制度では平米数や設備の基準も定められており、上限額以内であればどこでもよいわけではない。制約下での物件探しはかなり厳しい状況が窺える。
生活保護利用者の住まいの問題について、中野区都市基盤部住宅課 會田智浩氏はこう語る。

會田氏「上限額に見合う物件は築年数が古く、将来的に取り壊しによる立ち退きの可能性を含んでいます。近い将来転居しなければならないことから物件を紹介しづらい、というお話も不動産会社からは伺います」

ただ、中野区は賃貸住宅の比率が高いことから供給量は他の地域と比べてあるほうとのこと。網野氏によると、野方など北側の地域は比較的見つかりやすいそうだ。

しかし、物件が見つかっても、次に入居審査が壁になるという。

會田氏「過去の滞納や自己破産歴による保証会社の審査落ち、また単身高齢者の孤独死を懸念するオーナー側の拒否感で入居のハードルが高いと思います」

こうした入居に困難なケースにも、生活保護課や住宅課で住居の確保に奔走するほか、「中野区住み替え支援事業協力不動産店」に協力を仰いでいるとのことだ。

また入居してからも、生活保護利用者の複合的な課題があるという。

會田氏「経済的な困窮に加え、高齢・障害・精神疾患等が重なる方も多い印象です。生活保護利用者への居住支援は、単なる住居確保だけでなく、入居後の見守りや生活支援が不可欠なケースが増えています。さらに本人が支援を拒むケースもあり、入居後の支援に進めないことも課題に挙げられます」

中野区独自の「居住支援」連携体制

中野区居住支援協議会トップページ中野区居住支援協議会トップページ

中野区では、福祉部局(生活援護課)と住宅部局(住宅課)が密に連携し、独自のネットワークを構築している。2020年に中野区居住支援協議会が発足し、その事務方を住宅課が担当している。
中野区居住支援協議会設立から6年、不動産業者と福祉関係者の「顔が見える関係」を構築しているそうだ。

會田氏「中野区居住支援協議会では勉強会やセミナーを通じて、不動産業界の居住支援の認知が上がったり、支援者側が不動産に関する知識を得たりと、相互理解が深まりました。不動産会社から協議会のメンバーに気軽に相談の電話をできるようになったり、逆に支援者側が不動産会社に賃貸について尋ねたりと、良い変化が起きていると思います」

さらに居住支援協議会では、現場で実動している各部署の係長級が参加する「事業運営部会」があり、そこでの勉強会や意見交換会を通じて事案共有もしている。

(住宅課)大島氏「行政の窓口にいても別の課の制度を知らなかったりするので、協議会の部会や勉強会はすごく意味があると思っています。生活援護課の他にも障害福祉課など、さまざまな部署の人が部会に関わることで、行政同士の連携につながっていると思います」

住宅課では地道に不動産会社を訪問し、家賃の代理納付による滞納リスクの低さなど制度の正しい情報を伝えることもあるという。また、先述の協力不動産店のリスト化やマップ作成を行い、窓口でスムーズな紹介ができる体制を整えているそうだ。

網野氏「役所の仕事は、キーパーソンとなる人を介することでスムーズに運びます。ですから中野区ではキーパーソンとなる関係機関や地域の方々を見つけるために、地域に飛び出すようにしています」

(生活援護課)細木氏「行政職は数年に一度の異動が伴うので、担当が変わることで地域にできたつながりが切れてしまうこともあります。私も以前は住宅課にいたため、不動産会社を訪問していました。ですが、異動後も名前を覚えていてくださったことで何かあったときに後任との話がスムーズに進んだことがありました。1回でも訪問することに意味があると思っています」

支援につながるにはまず相談が必須となる。「どこに相談をしたら」と迷うシーンで、中野くらしサポートが受け止めてくれる支援につながるにはまず相談が必須となる。「どこに相談をしたら」と迷うシーンで、中野くらしサポートが受け止めてくれる

生活困窮者に対する連携も進められている。
中野区では生活に困った人が必要な支援につながれるよう、相談窓口の「中野くらしサポート」を設置。生活保護になる前の福祉に関する相談ができる。管轄は生活援護課となるが、相談を受けた生活援護課から住まいの問題であれば住宅課につなぐなど、各所との連携が行われているとのことだ。

網野氏「生活保護での相談に重要なのは、生活課題の棚卸し。生活に困窮した人が福祉の窓口に行き、住み替えが必要とわかったら、住宅課で住み替え相談を行い、協力不動産会社に行ってもらう。こうした交通整理をして見えてきた課題をお伝えすると、ご本人が否定することもあります。でもご本人では気づかない背景が絶対にあるのです。話を聞き、棚卸しをし、いろんな部署にネットワークでつながっていくことは、今後やっていくべきものですし、今も取り組んでいます」

「住まいを確保して終わり」ではなく、入居後の継続的な支援に。今後の展望と課題

部署異動により連携のみならず、住宅の知見を福祉に、福祉の洞察を他分野にといった専門知識の共有も行われている部署異動により連携のみならず、住宅の知見を福祉に、福祉の洞察を他分野にといった専門知識の共有も行われている

区民のセーフティネットとして、生活困窮者の住宅と暮らしを支える両課の、今後の展望を伺った。

會田氏「中野区の居住支援協議会では、住宅確保要配慮者の方々が安心して地域で暮らし続けられる環境づくりを目指して不動産業界、支援者、行政が連携した支援体制を築いてきました。今後は、これまでの取り組みを継続しながら、地域の受け皿をさらに広げていくことが重要だと考えています。そして、『住まいを確保して終わり』ではなく、入居後の継続的な支援に注力していく方針です」

網野氏「住宅確保に関して、中野区の地場産業、居住支援協議会といかに連携していくかは、今後一層注力していきたい点です。そのためにも、正しい生活保護の状況を伝えてもらえるよう、私たちも尽力をしていきたいです。また、生活保護から抜け出すのはなかなか難しいといえます。早いうちに働き始めて、自立できるような取り組みを強化していきたいですね」

実際、インタビュー冒頭で紹介した中野区で微増する若者の生活保護利用の期間は3~4ヵ月程度で、仕事を見つけて自立していくという。

ケースワーカーによる伴走と、生活保護利用者の住まいを支える連携体制で、生活保護利用者の暮らしは守られている。地域に根ざした血の通った連携こそが、誰もが自分らしく暮らせる社会へと進化させていくはずだ。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

(左から)中野区健康福祉部生活援護課 細木直哉氏、中野区都市基盤部住宅課 大沢美晴氏、同課 大島萌子氏、同課 會田智浩氏、中野区健康福祉部生活援護課 網野和弥氏

■中野区居住支援協議会
https://www.nakano-kyojushien.jp/
■中野くらしサポート
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/kenko_hukushi/hogo/nakanokurashisupport.html

■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。

ホームズ君

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