「居住支援」を核に、仲間づくりの場を
住まいの確保が難しい“住宅確保要配慮者”に空室を活用して入居を促す住宅セーフティネット法。現状の法律に“居住支援法人による見守り”の仕組みが加わった改正法が2024年に公布、2025年10月に施行されることが決まり、居住支援法人が担う役割の重要度が高まっている。
しかし、住まい探しに困難を抱える人を取り巻く、居住支援法人や支援団体、不動産会社、大家の各セクターのつながりは薄い。
支援団体は安定して住宅を確保・提供したくても、物件が見つからない。仲介する不動産会社は、空室を減らしたいが、支援を要する人の入居管理によって業務が増えるリスクは避けたい。大家は、空室は避けたいものの背景のよくわからない人への貸与に二の足を踏んでしまう。
それぞれが悩みを抱えるものの、その間をつなぐ担い手と、それぞれがつながりを深める機会がないのだ。
そこで、三者の間に立つLIFULL HOME’S FRIENDLY DOORが主催となり、2024年11月8日、LIFULL本社にて『居住支援でつながろう会』が対面形式で開催された。
「若者の居住支援」「難民を含む外国籍の住まい探し」の分野で活動する人たちを迎え、日頃取り組む支援で直面する課題を共有し合いながら、解決へのきっかけづくりを目指したというこのイベント。当日は、関東を拠点とする居住支援法人、支援団体のほか、居住支援に関心のある不動産会社や大家、約40人が参加した。
イベントは、前後編の2部構成。前半は、難民や若者支援に取り組む4法人の活動紹介と居住支援の課題提起の講演が、後半は2つのトピックで部屋を分け、対話形式のワークショップが行われた。
不動産や居住支援に携わるさまざまな立場の人たちが、いかに各々が抱える課題を解決し、社会に貢献することができるか。その道筋を探る様子をレポートする。
幅広く生活困窮を支援する「つくろい東京ファンド」・ソーシャル大家さん「シングルズキッズ」
「難民を含む外国籍の住まい探し」からは、一般社団法人つくろい東京ファンド(以下、つくろい東京ファンド)代表理事の稲葉 剛氏と公益財団法人日本賃貸住宅管理協会あんしん居住研究会(以下、あんしん居住研究会)会長の荻野政男氏が登壇。
「若者の居住支援」の分野からはシングルズキッズ株式会社(以下、シングルズキッズ)代表取締役の山中真奈氏と一般社団法人くらしサポート・ウィズ(以下、くらしサポート・ウィズ)理事長の吉中由紀氏を迎えて、4者それぞれの活動と、直面する課題の具体例が伝えられた。
最初に登壇したのは、つくろい東京ファンド稲葉氏だ。広く貧困支援を行うつくろい東京ファンドでは、2024年11月時点で、58室の個室シェルターをサブリース形式で運営。その中には、難民背景の人に向けた「りんじんハウス」と名付けられたシェルターがあるが、常に満室だという。また、生活保護を受けられないうえ就労が難しいことから、無償提供という状態で運用の大変さもあるそうだ。
難民背景の人が直面する住まいの課題について、稲葉氏は段階的な難しさについて触れる。
難民の多くは十分な資産を持たずに日本に入国するため、来日間もない難民申請者は政府委託の難民事業本部(RHQ)からの保護費を得て生計を立てるという。だが、申請から支給までの間に困窮し、子どもを連れて路上生活に陥るケースが増えていると指摘する。
申請が通っても保護費から支給される住宅費は4万円。敷金礼金に充てる追加金もないため、ほぼ一般的な賃貸住宅は不可能といえる。「シェルターで生活を立て直しても、そこから先の出口がない」と稲葉氏は国内での難民の窮状を語った。
次いで登壇したシングルズキッズ山中氏は、シングルマザー向けシェアハウスを運営するいわゆる“ソーシャル大家”だ。
講演では、妊娠に関する相談を行う認定NPO法人ピッコラーレや、若者の自立支援を行う特定非営利活動法人サンカクシャ(以下、サンカクシャ)と連携し、家族を頼れない若者に住まいを提供した経験を共有。大家視点での、若者への居住支援を語った。
入居契約を結ぶにあたり必須となる保証人の設定は、山中氏の場合は個々の状況に合わせて判断しているという。緊急連絡先を伴走支援する支援団体の担当者にするなど、当事者・支援者・大家がつながることで柔軟に対応できた好例を挙げていた。
「不動産会社で難しい、個々の入居者に応じた対応を大家が担うことで、居住支援ができるのでは」と、山中氏。現在実証実験中の家賃補助を受ける代わりに、コーチング(自分で考えて行動する能力を相談役との対話の中から引き出す自己改善技術)の受講を必須とする、入居者の自立支援を大家主体で行う取り組みを紹介した。
外国籍の方の入居と賃貸管理「日管協あんしん居住研究会」・くらしの相談と若者支援を行う「くらしサポート・ウィズ」
全国の賃貸住宅管理会社や関連企業で構成される業界団体「公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(通称:日管協)」にて、在住外国人の賃貸住宅における入居促進を目的に活動する、あんしん居住研究会。2000年の発足以降、外国籍の人に関する運用ルールなどを分析し、主に会員に向けて共有している。過去に賃貸への入居を多言語で説明したパンフレットやガイドブックの作成・配布、不動産会社向けに外国籍の人の入居に関わるガイドラインをとりまとめ、円滑な入居や管理の情報提供、政府への提言も行ってきた。
外国籍人材の増加に伴う賃貸ニーズが高まる昨今。さらに増加が見込まれている外国籍の人たちが日本でトラブルなく暮らしていくために、荻野氏は「地域包括ビジネス」を提唱する。外国籍の入居者の生活全般のサポート体制を、賃貸住宅管理業者が居住支援協議会や居住支援法人と連携して構築し、それをビジネスとして運用する考え方だ。
賃貸住宅管理業界が主体的に動くことで、物件の提供が進むことが期待できると、荻野氏は説明。外国籍の入居者を地域の一員として受け入れる仕組みづくりの必要性を訴えた。
講演パートの最後を飾ったのは、くらしサポート・ウィズの吉中氏。氏はくらしサポート・ウィズ理事長のほか、国内の居住支援に取り組む団体で構成され研修会の開催や政策提言を行う一般社団法人全国居住支援法人協議会(通称:全居協)の理事も務める。
くらしサポート・ウィズは、経済的弱者を問題解決に導くことを目的に、パルシステム連合会や生活クラブ生協・東京を母体に設立された団体。広く暮らしに関する悩みに応じる無料相談や、社会的養護の若者を支援するなど多様な事業を行っている。
さらに、東京都を拠点に「住まいさがし」と「空き家活用」の相談を受ける居住支援法人でもある。つくろい東京ファンドとは異なり、物件を所有せずに他の居住支援団体と連携して相談者の住まいの確保に尽力しているそうだ。
講演では、家族を頼れない若者たち、特に児童養護施設の退所など社会的養護下から外れた若者たちの住まいの確保の難しさを、伴走支援する居住支援法人の例を挙げて解説。
全居協の視点からも、空き家を活用した“住み続けられる”居住支援の仕組みづくりの重要性を説き、本イベントのような横のつながりへの期待を寄せていた。
家族を頼れない若者支援が抱える難しさ「若者の居住支援」ワークショップ
後半は、「日々の課題や悩み事、解決策を相談し合おう」をテーマに、対話によるワークショップが進められた。
若者の居住支援のグループでは、家族から離れて自活を必要とする若者が住まい探しをするにあたり、どういった困難に直面するのか。大家側が居住支援に携わるにはどうしたらよいのか。山中氏と吉中氏に、サンカクシャの居住支援事業担当久保氏を交えて、さまざまな意見が飛び交った。
支援者側が感じる課題に話題が及ぶと、サンカクシャの居住支援事業責任者の久保氏から「“家族を頼れない外国籍の若者”のように、家探しに大変な要素を複数抱えるケースもあります。不動産会社のみならず、保証会社からも信用面で断られ、偏見や差別によって心身を苛まれている若者も多くいます。何か助言があれば…」と現場で感じるシビアな状況が共有された。
山中氏からは、親族が保証人とならない若者へ貸し出す際の大家が感じるリスクについて語られた。「家族関係が希薄、精神的に不安定な若者の入居に対して、多くの大家は物件内でトラブルが生じるリスクを懸念します。そうした事態を避け入居を進めるためには、居住支援団体とのつながりが必要なのではと思います」と、入居審査が通りづらい背景と、それをカバーするに足りる手段を話し、参加者は大いに頷いていた。
また吉中氏からは、改正されるセーフティネット法の鍵となる“居住サポート住宅”について言及があった。
「セーフティネット法の改正で新たに示された“居住サポート住宅”とは、大家と居住支援法人が一緒に登録された物件を指します。居住サポート住宅の認定を得た住宅に入居する場合、債務保証を断られない”家賃債務保証制度"を利用することができます」と解説。運用開始直後の勢いで終わることなく、継続できるように声を上げていきたいとも語った。
1時間の対話を通じて、若者を支える知見が幅広く寄せられたワークショップ。
参加した人からは、「非常に役に立った。個々のケースが複雑なことが多いので、その突破口を得た気分です(若者の居住支援を行っている方)」、「一般的な若者の入居支援かと思って参加したが、シビアな状況に驚きました。民間がここまで支えているとは知りませんでした(不動産業に従事している方)」と感想が寄せられた。
住まいがないことで職も得られない「難民を含む外国籍の住まい探し」ワークショップ
難民を含む外国籍の住まい探しのグループでは、難民支援の側面からは稲葉氏、外国籍の方の入居に関しては荻野氏を囲んで対話が進められた。
最初のトピックとなったのは、先の講演で触れられたRHQの保護費と難民の仕事の現状についてだ。
「能力や労働時間が不問な解体業やゴミ清掃業等の職種でも、住所がないことで職に就くことができません。また住まいを確保したくても、RHQの保護費の支給が4ヶ月更新であることを理由に、部屋を貸してもらえないのです。まるで卵が先かニワトリが先かのような、負のジレンマが起こっています」と、参加の支援団体から切実な状況が伝えられた。
また別の支援団体からは、「居住支援側がサブリースのような形で部屋を提供したくても、貸してくれる大家が少ない。物件が欲しいのです」との切実な声も上がった。
参加者からも質問が挙がる。
「外国籍入居に関するトラブルはあるのか?」といった問いに、荻野氏は「トラブルは、あります。ですが、起こる事象を受け止めて、トラブルとしないためにどうするかが肝要です」と回答。
外国籍入居者の食事や習慣が、国内の住宅の仕様に必ずしもフィットするわけではない。ある国では外国籍の入居者の場合、定期的な清掃料を上乗せした状態で賃貸借契約を結び、大家が不利益を負わないようにする実例が紹介された。
稲葉氏も、支援する外国籍の人がゴミ捨てトラブルに遭遇した体験を共有。被支援者に向けて「日本はゴミの捨て方にうるさい国なんです」と説明しているとのエピソードに、会場からは笑い声が上がった。
難民を含む外国籍の住まい探しのトピックに参加した人たちに感想を尋ねると、知見の広まりを感じる声が寄せられた。
「リアリティを感じられました。ゴミ捨て一つとっても、文化の違いによるものだとわかったことに、目から鱗が落ちる思いがしました(不動産関連業の方)」、「社会的支援が不足しているのを痛感しました(就労支援を20年続けている方)」とのこと。
居住支援に携わる人たちの喫緊の課題が、ダイレクトに伝わっていたことがわかる。
「難易度が高い問題だからこそ、支援に取り組む方々が手を取り合って負荷分散をしていく」その機会をこれからも
主催者であり発起人のひとり、ACTION FOR ALL事業責任者の龔(キョウ)は、この会を振り返り語る。
「難民を含む外国籍や家族に頼れない若者の居住支援に取り組む支援団体、不動産会社、居住支援法人、大家などが対面で一堂に会して1つのテーマについて、顕在化されている課題から深く掘り下げて、お互いに問題提起をしたり、解決策を提示したりするディスカッションは非常に意義深い時間だったと実感します。難易度が高い問題だからこそ、支援に取り組む方々が手を取り合って負荷分散をしていく、そのためのきっかけをつくれたことをとても嬉しく思います。登壇者、参加者のリアルな声から、これからも地道に続けていこうと考えております」
ワークショップの際、非常に印象的なシーンがそれぞれの会場で生まれていた。
難民と外国籍のセッションでは、増加する難民申請者数を受けて、荻野氏が「難民申請中の方も含めた入居のガイドラインを作成してみようと思う」と提案。
若者支援のセッションでは出席者から「空き家を探すのに税理士法人の資産検索を活用するとよいのでは。会終了後に掛け合ってみます」といった前向きな意見が出ていた。
真に迫った支援の姿と情報が対話によって伝播し、物事を動かそうとした瞬間だ。
“住まいの問題を解決したい”という思いを共有する、大家・不動産会社・居住支援法人が、多角的なアプローチで手を組むことで、課題解決の可能性は広がるはずだ。
その第一歩が、この会を通じて踏み出されたといえるだろう。この歩みを続けていくためにも、ぜひ今後の機会に参加してもらいたい。
■一般社団法人つくろい東京ファンド
https://tsukuroi.tokyo/
■シングルズキッズ株式会社
https://singleskids.jp/
■公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会(WELCOME賃貸)
https://welcome.jpm.jp/
■一般社団法人くらしサポート・ウィズ
https://kurashidial.or.jp/
■「今夜行き場所がない」―住まいを失った人を立て直すアプローチ“ハウジングファースト”を知る
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01219/
■シングルマザー向けシェアハウスで「子どもたちを笑顔に」。”現代版下宿”という居住支援
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01151/
■「一人暮らしをしたい。でも親は頼れない…」居場所のない若者の住まい支援 現状と課題・前編
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01204/
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
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