親に頼れず居場所のない子どもたち。住まいの確保に地方差はあるのか?

弁護士主導の全国の子どもシェルターに倣い、沖縄県内の児童相談所や関係機関と連携を取り合いながら2015年に「NPO法人子どもシェルターおきなわ」を発足した横江氏(下段中央)弁護士主導の全国の子どもシェルターに倣い、沖縄県内の児童相談所や関係機関と連携を取り合いながら2015年に「NPO法人子どもシェルターおきなわ」を発足した横江氏(下段中央)

2023年4月、子どもや若者に関する取組をまとめた「こども基本法」が施行された。この施策は6つの基本理念のもと行われるとされ、その中のひとつには「子育ては家庭を基本としながら、そのサポートが十分に行われ、家庭で育つことが難しい子どもも、家庭と同様の環境が確保されること」とある。
“家庭で育つことが難しい”に含まれる、親に頼れない・家庭が居場所ではないと感じる子どもたちも、サポートを受けられることが明確に示されている。児童養護施設はその最たるものだ。

しかし、児童福祉法から外れる18歳以上の青年期の子どもや、施設の生活が合わない子ども、施設へとつながれない子どもが身を寄せる受け皿は乏しく、住まいの確保が難しいことから犯罪やトラブルに巻き込まれるケースも少なくない。現にニュースなどで、東京では「トー横キッズ」、大阪では「グリ下キッズ」と呼ばれる若者の存在を耳にする人も多いだろう。ただ、大都市圏の社会問題は目立つものの、地方の状況は埋もれがちだ。

今回は、NPO法人子どもシェルターおきなわの代表横江 崇氏に、親に頼れない若者の住まい確保を切り口に、団体が運営する子どもシェルターと沖縄県での若者支援について話を伺った。

児童福祉法から外れる18歳~19歳や15歳以上の高年齢の子どもを想定した子どもシェルター。実際は…

NPO法人子どもシェルターおきなわでは、民家を活用した子どもシェルター「月桃(サンニン)」を運営しているNPO法人子どもシェルターおきなわでは、民家を活用した子どもシェルター「月桃(サンニン)」を運営している

NPO法人子どもシェルターおきなわは、「虐待、放任などにより家に居場所がない」「非行から立ち直ろうとしていても支える大人がいない」「貧困で安定して住むところがない」といった背景の子どもたちを支援する民間団体だ。横江氏が児童相談所の嘱託顧問として働くなかで、行政支援では救いきれない厳しい境遇の子どもたちを目にし、シェルター設立を目的に2016年に立ち上げた。問題を抱える子どもに担当弁護士がつき、法的な後ろ盾を得ながら問題の解決や自立を目指す手助けをしている。
緊急避難先として住まいを提供する“シェルター運営事業”を主軸に、“子どもたちに対する相談事業”“実情を社会に啓発・発信する広報事業”を展開しており、“児童自立支援事業(シェルターを出た後の長期的支援施設)”も検討しているそうだ。

現在、沖縄県内で子ども食堂のような子どもの居場所づくりを行う団体はあるものの、子どもを対象とした宿泊を伴う“民間のシェルター”は子どもシェルターおきなわが運営する「月桃(サンニン)」のみだという。

「月桃は、女子限定、定員6名の施設です。滞在期間は、早い子では1日で逃げてしまったり、長い子では半年以上滞在したりと差はありますが、平均して約1ヶ月程度です。入所年齢層は、設立当初の想定では、児童相談所で対応しにくい15歳以上、あるいは児童相談所の管轄からもれてしまう18~19歳としていました。ですが、実状では15歳以下が多くなっています」

14~15歳といえば児童養護施設に入所可能な年齢。児童養護施設ではなく月桃へ入所する経緯を尋ねると、そこには複雑な理由があるそうだ。

「児童相談所から委託されて引き受ける子が多いです。また、属性の内訳では高校生に次いで、中学卒業後の未成年、中学校在学中の子どもたちが多く、さらに家庭環境も母子家庭や実父母以外の人と暮らす子の割合が多くなっています」

複雑な家庭環境に加え、家庭に居づらくなる理由には、虐待や親子関係の不調、性被害が多いと、横江氏は語る。しかも入居者には少なからず、なんらかの障害を抱えている子がいるという。

「程度の差はありますが、精神的になんらかの疾患を抱えている子がかなり多いです。発達障害や知的障害、解離性障害(※1)やPTSDを発症していて、ひとつではなく重複して罹患している子どもも多くいます」

精神機能に支障をきたすほどの過酷な状況にいる子ども、しかも10代前半でという事実にはショックを隠せない。月桃の設立から約10年。年々利用者は微増し、コロナ禍を経てもいるが、現場の肌感覚では入居状況や入居者の傾向に変化はないという。見方を変えれば沖縄の若者をめぐる環境に大きな変化がないともいえ、問題は根深い様子がうかがえる。

※1 解離性障害……通常は統合されている意識・記憶・自己同一性などが混乱し、連続性がなくなったり、失われたりする障害。強いストレスや心的外傷が原因で発症するとされている。

「実家に帰らざるを得ない」シェルターを出た後の選択肢の少なさと保証人の壁

退所したあとにどう住居を確保しているか。横江氏によると、親を頼れない境遇の子どもたちにとって住宅確保は困難を極めるという退所したあとにどう住居を確保しているか。横江氏によると、親を頼れない境遇の子どもたちにとって住宅確保は困難を極めるという

満身創痍ともいえる状況から、月桃の滞在で徐々に自分を取り戻していく子どもたち。平均して約1ヶ月の緊急避難から、彼女たちはどういった暮らしに移るのだろうか。

「大人が調整に入って自宅に戻るケースが数値上は最も大きくなっています。ですが、本当は自宅に返したくないと思うケースが少なくありません。自宅以外で自立を促す方法が最適だけれど、方法がないために自宅に帰さざるを得ない現状があります。また、自宅に帰せないが自活するのがまだ心配な子の場合は、養護施設やシェアハウス、自立援助ホームといった、大人が見守りながら集団で力を合わせて生活する環境へ促します」

そのうえで、自宅へ帰さず自立が可能と判断した子どもに関しては、賃貸物件で一人暮らしをすることもあるそうだ。
しかし、未成年ということもあり、賃貸契約を結ぶことは困難を極める。物件探しにおいても、社会課題に関心のある不動産会社に依頼するほか、総合的な生活困窮者支援のワンストップサービス「パーソナルサポートセンター」と協力して、住まいを探すこともあるとのことだ。

また、生活保護を利用して生きる道を模索する子どもたちもいるが、その場合にネックになるのは沖縄県の賃料だ。

「昔に比べれば、生活保護申請はだいぶ通りやすくなりました。ですが、住まいとお金の問題がまたあるのです。たとえば那覇市では、生活保護の住宅扶助の支給額が単身世帯で3万2,000円までです。その金額に収まる家賃の物件がそもそも少ない。たとえ見つかっても築年数の古いアパートが多いのです。私も一緒に探して実際に物件を見てきましたが、とてもじゃないですが若い女の子が住むのには抵抗がある物件になってしまいます」

住宅確保のあまりの難しさから、横江氏が行政と掛け合って、友人宅での居候やシェアハウス入居をなんとか許容してもらう場合もあったという。そして、住宅の選択肢以上に厳しいのが保証人をいかにして立てるかだ。

「保証人の問題は年齢にかかわらずなかなか乗り越えられていません。賃貸保証会社を利用するにしても、保証人が必要になるためです。親に頼れない子どもたちに理解を示す方が増えること、境遇が厳しい子たちに部屋を貸すリスクをカバーしてくれる社会の仕組みができることを期待しています」

親を頼れない子どもが賃貸保証人を立てるにあたり、社会福祉協議会が実施する身元保証人確保対策事業という仕組みはある。ただ、これは保証期間が限られる等、必ずしも使い勝手が良いものとは言えない。
子どもシェルター退所後の住居の確保には課題を感じている、と横江氏は語る。

貧困、非行、若年妊娠…さまざまな要因が絡んだ沖縄の子どもを取り巻く問題

10代後半となると、幼い子の比率の高い養護施設にはなじめない子も多く、月桃へと児童相談所から依頼されて入所する子もいる10代後半となると、幼い子の比率の高い養護施設にはなじめない子も多く、月桃へと児童相談所から依頼されて入所する子もいる

沖縄の親を頼れない子どもたちが直面する難しさには、大きく3つあると横江氏は語る。

「ひとつめは、先ほど挙げた住まいの確保。ふたつめが、経済面です。沖縄県は全国で最も貧困率が高いとの調査結果があり、数値でいえば全国平均の倍以上。沖縄の社会課題となっています。それが子どもの貧困とも直結しているのです。そして3つめにあるのが、虐待といった親との軋轢です。親を頼りたくても『どうにもならない』と受け入れて、つらい思いを飲み込んでいる子たちがたくさんいます」

子どもシェルターおきなわでは子どもたちのSOSの声を拾うべく、相談支援を行い、また経済面に関しては個別の支援を行うことが難しいため、相談と合わせて行政支援へとつなげている。「他県の状況を把握していないため、沖縄ならではとはいえないが」と前置きしつつ、社会の中で生きづらさを抱える沖縄の子どもたちには、独特の背景があると横江氏は語る。

「少年非行の数が他自治体と比べて多く、集団非行の年齢も低いことが実数値として出ています。また、高校・大学への進学率が低く、学校を中退する率が高いという特徴もあります。つまり、問題を抱えてしまう年齢が若い傾向にあるのです」

月桃利用者のコア層が14~15歳と、横江氏の想定より若くなった理由は、こういった背景も要因となっていると考えられる。さらに、沖縄では離婚率が高く母子家庭も多いこと、収入を上げようと仕事の掛け持ちをするなど保護者が多忙で子どもにかける時間が限られてしまうこと、またそれに付随する経済的な困難が複合的に影響しているのでは、と横江氏は分析する。

“沖縄の女子”に絡む大きな社会問題では、若年妊娠も注目されている。家庭の経済的事情を背景に、義務教育後に働かざるを得ない10代の女の子が夜の世界に流れ着き、それが望まぬ若年妊娠につながる懸念もある。

「実際に支援をした10代の子で、シェルターを出た後に妊娠して産むか産まないか相談を受けたケースがあります。また別のケースでは、出産直後に新生児と一緒にシェルターで預かったこともありました。スタッフとともに何とか対応しましたが、我々のシェルターで今後妊娠中の子を受けられるか、という課題も感じています」

内閣府では2016年より沖縄の子どもの貧困対策として予算を計上し、沖縄県では居場所事業や学校への支援員の配備に活用して事業化を広めてきた。横江氏によると、次のステップとして、若年妊娠への支援が数年前より始まっているという。県の支援事業の実効性が目に見える形で現れるのが待たれる。

「子どもが自分の意見を自由に言える世の中に」

少女たちが利用する月桃の個室。携帯電話等外部と接触するものをスタッフに預け、自身に向き合いながら自分を取り戻していく場所だ少女たちが利用する月桃の個室。携帯電話等外部と接触するものをスタッフに預け、自身に向き合いながら自分を取り戻していく場所だ

子どもは社会の影響を強く受ける。特にさまざまな社会課題を内包している沖縄県の現状が、生きづらさを抱える子どもたちの多さや特徴につながっている。“社会に出る”学びを得る最中に自立を強いられている子も少なくない。身近でそういった子どもたちに寄り添う横江氏。今後の展望を尋ねると、横江氏はこう答えた。

「本来シェルターがない世の中でなければいけません。子どもたちが苦しい想いをしないで済む社会をつくっていきたいですね。『こども基本法』ができたように、国も子どもの権利について推進しています。子どもが幸せに過ごせるシステムをつくろうという流れが生まれている今、子どもが苦しい想いをせずに生活ができるための総合的な条例を自治体にも設けてほしいと願っています。そのために、私たちも子どもの権利を普及・啓発していきます」

校則、体罰、虐待、いじめ……子どもたちは個々にさまざまな問題を抱えている。子どもシェルターが受け止める問題は、あまたある問題のひとつにすぎない。“子どもの権利”を大人も子どもも知ることで、子ども一人一人が直面する問題を克服できるようになるのではと、横江氏は活動に意欲を燃やしている。
行政や自治だけでなく、子どもたちにとって住みよい社会をつくるため、大人ができることはないのだろうか。

「子どもシェルターの運営を通じて、もっと早い段階で子どもに違う接し方をしていれば、ここまで困る状況にならなかったのでは、と感じることが多いです。子どもが自由に意見を言えること、大人が子どもの意見を相応に考慮すること、それができる環境を整えることが大切だと思います」

“子ども”をどう捉えるか。「所詮子どもだし」「子どもだから大人の言うことを聞け」と子どもを下に見たり、指導のために強制をしたりといった考えを持つのではなく、一個人として向き合うことが必要なのではと横江氏は指摘する。

シェルター退所後の子どもたちの住環境の話題の一端で、「成人年齢が下がったこともあり、契約に関してはだいぶ楽にはなりました。ただ、課題は多いと感じています」と語る横江氏。
“住む所がない・帰る居場所がない”という不安感、生命の危機に、年齢の差はない。住宅の確保の難しさを抱える若者への理解が、不動産オーナー、不動産会社、ひいては社会全体に広がることで、今困難を抱えている若者だけでなく、さらに次の世代への生きやすさにもつながるのではないだろうか。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

横江 崇(よこえ・たかし)
1976年、東京都生まれ。大学法学部卒業後、司法試験に合格。那覇での司法研修を経て2003年「沖縄県で弁護士登録を行い、2006年に美ら島法律事務所を開所する。少年非行のサポートに携わったことをきっかけに、子どもの人権について取り組み始め、2016年にNPO法人子どもシェルターおきなわを設立。現在は、弁護士業と並行して沖縄弁護士会の子どもの権利に関する特別委員会委員長など、沖縄の困難を抱えた子どもたちの支援及び子どもの権利を根付かせる活動に尽力する。

■NPO法人子どもシェルターおきなわ
https://shelter.okinawa/

今回お話を伺った方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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