近年増加する高性能な集合住宅
集合住宅の断熱性能は、一戸建てに比べ遅れてきた。オーナー自身が住むことの少ない賃貸アパートは、快適性よりも収益が重視される。マンションについては、温熱環境についての性能を入居者が選ぶ権利がほとんどなかった。さらに入居者の側も、性能を重視する人が少なかったため、たとえ高性能の集合住宅を建てても、オーナーや建築会社がコストに見合う経済的メリットを受けられないという負の連鎖もあった。
しかしここ数年で、その常識を覆すような超高性能な賃貸住宅やマンションが建てられるようになってきている。この記事では、断熱ジャーナリストの筆者が、本気で「すごい!」と感じた高性能な集合住宅5ヶ所(賃貸アパート4ヶ所、区分所有マンション1ヶ所)を紹介する。
※今回紹介する集合住宅はいずれも、断熱等級6以上、気密性能(C値)0.5以下の高性能な物件。
軽井沢らしい暮らしを追求した超高性能賃貸「六花荘」(長野県軽井沢町)
まずは、軽井沢の木造賃貸「六花荘」(6戸)である。カラマツの外壁が映える3棟の平屋に6世帯が入居可能だ。断熱・気密性能は、UA値0.25(断熱等級7)、C値0.2という国内トップレベル。厳しい寒さの軽井沢の冬でも、家族で快適に過ごすことができる。
一世帯あたりの広さは約76m2と広々している。室内は、無垢フローリングの床、大きなアイランド型キッチン、付け替えて間取りを変えられる木製ドアなど、自由な暮らしの工夫が満載されている。屋根には、1世帯あたり出力9.9kW(キロワット)の太陽光発電を設置。入居者は、月間230kWh(キロワットアワー)までは電気を無料で使用できる契約になっている。
共同オーナーの3名(須永次郎さん、須永理葉さん、木下史朗さん)は、六花荘を建てるにあたり、「断熱性能」と「構造の安全性」に加え、「軽井沢らしい暮らしのできる間取りと佇まい」にこだわったという。これほどの高性能なのに、家賃は付近の相場とほぼ変わらない。そのため口コミで人気となり、完成前に満室となった。なお木下さんは、六花荘を足がかりに、その後も複数の高性能賃貸住宅の経営を手掛けている。
コストと性能、デザインのバランスが秀逸「パティオ獅子ヶ谷」(神奈川県横浜市)
外観からは一般的なアパートと見分けがつかないのが、横浜市鶴見区にある木造賃貸「パティオ獅子ヶ谷」(4戸)だ。「見た目の普通さ」は、設計者がコストダウンのためにできるだけ一般的な建材を使用したためである。
一方で、快適性につながる内装と断熱にはこだわった。無垢のフローリング材、樹脂サッシの複層ガラス窓、ダクトレスの熱交換換気装置など、木造賃貸アパートとしては珍しい建材が採用されている。それにより、室温維持に加え、高い防音性能や足元の温もりを感じることができる。断熱・気密性能はUA値0.46(断熱等級6)、C値0.4と、一戸建てのエコハウスに劣らない。また、戸数が少なく、部屋が分離されているため、隣の部屋から音が聞こえることもない。
部屋の広さは約32m2と、一般的なワンルームに比べて1.5倍のサイズがあり、2人入居にも対応。断熱性能が高いことで、エアコン1台で冷暖房は十分だ。家賃は周辺相場から約1万円高いが、年間を通して光熱費が少ないため、差額はほとんどなくなる。加えて音が静かで快適なので、入居者が「ここから出て行きたくない」とコメントする理由がわかる。
オーナーは、「4年間ほど退去が出なかったり、退去があってもすぐに入居が決まったりのも、高断熱による快適性が関係していると思う」と推測する。コストと性能、そして内装デザインのバランスの良さを追求した人気のアパートだ。
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「パティオ獅子ヶ谷」の賃貸情報
遮音性にも工夫。スギの外観が映える高性能賃貸「弐番町アパートメント」(埼玉県東松山市)
「弐番町アパートメント」(8戸)は、埼玉県東松山市高坂の住宅街にある木造賃貸だ。温もりを感じさせる杉板貼りの外観は、地域で高性能な注文住宅を建ててきた夢・建築工房の特徴でもある。1LDK2部屋、2LDK6部屋で、一人からでも入居できる。内装は、無垢材の床(1階)や天然素材の壁紙など、注文住宅並の上質な仕上げになっている。
断熱気密性能は、UA値0.24(断熱等級7)、C値は0.3と高いレベル。リビングと寝室との間の壁には、部屋間の温度差をなくすための循環ファンが設置されおり、夏も冬も6畳用のエアコン一台で、住戸全体が適温を保てる。
アパートの不満点の一つに、「隣室の音が気になる」問題が上がる。しかし弐番長アパートメントでは、防音にも力を入れている。外からの音が聞こえにくいだけでなく、隣室や上下階との境となる床や壁の遮音性を、独自の工夫で高めた。
家賃は相場の約2割増だが、駅から徒歩4分という好立地や、洗練されたデザインが人気となり、2020年冬に募集を開始すると、すぐに満室になった。入居者の満足度は高く、冬の間、一度も暖房を使わなかった人もいるほどだ。また、ある入居者は、転職のため自身はやむなく退去したものの、このアパートを絶賛して、次の入居者として同僚を紹介したという。
2026年2月には、同等の性能を持つ3階建の木造賃貸「弐番町FLAT」(12戸)も完成した。こちらはどの部屋も、3人〜4人家族が十分に暮らせる広さがあり、注目の的になっている。
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「弐番町アパートメント」の賃貸情報
蓄電池を備えた未来のスタンダード「ソーラーレジデンス今川」(千葉県浦安市)
4件目に紹介する木造賃貸は、浦安市にある「ソーラーレジデンス今川」(6戸)。断熱気密性能は、UA値0.2(断熱等級7)、C値0.2と、超高性能だ。さら大容量の太陽光発電(20kWh)と蓄電池(合計30kWh)を併設し、各世帯で使用するほとんどのエネルギーを自給することができる。
入居費には光熱費も含まれ、月間電気代が300kWhまでは無料となっている。高断熱の住宅は消費エネルギーが少ないので、無駄使いをしなければ無料の範囲だけで暮らすことも可能だ。欧州にはこのようなアパートはよくあるが、日本では珍しい。こうした仕組みがあることで、入居者の省エネへの関心が高まるはずだ。もちろん、災害時にも安心してエネルギーを使えるメリットもある。
2023年春に入居者を募集すると、約1ヶ月で満室に。設計者は「これまでは高性能賃貸のニーズがなかったのではなく、消費者が選択したくてもできなかったのではないか」と語る。高い断熱性能とエネルギー自給を実現したこの物件は、賃貸住宅の「未来のスタンダード」になる存在だ。
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「ソーラーレジデンス今川」の賃貸情報
都心に現れた300年保つ性能と躯体のマンション「MEGUROHAUS」(東京都目黒区)
今回最後に取り上げるのは、RC造のマンション「MEGUROHAUS」だ。ドイツ在住の建築家・金田真聡さん(4ds Int. GmbH代表)が、「ドイツで一般的な断熱レベルのマンションを日本で建てたらどうなるか」という発想で建てた区分所有のマンションである。
ここは、マンションでは一般的な完成後に分譲するスタイルではなく、入居予定者が設計段階から関わる「半自由設計」という仕組みで建てられている。地下1階、地上6階の7階建てで、住戸は9戸。断熱性能はUA値0.46、気密性能はC値0.5と、都内のRC造のマンションとしては圧倒的な高性能を実現している。
性能に関連する工夫として、外断熱、内窓の設置、遮熱対策、熱交換換気という4点が挙げられる。外断熱は、鉄筋コンクリート造の躯体に150ミリの外断熱材を張り付け、断熱性能はもちろん、躯体の長寿命化も実現している。外窓は防火規制のためにアルミサッシ(Low-E複層ガラス)になったが、ほぼすべての窓に樹脂製の内窓(Low-E複層ガラス、アルゴンガス入り)を設置した。
夏の酷暑対策としては「日射遮蔽」を徹底。南面の窓には外付けブラインドを設置した。その他の窓には外窓と内窓の間に中間ブラインドを採用し、太陽の熱を室外でシャットアウトしている。これにより、夏の窓際でも暑さを感じることはない。また、各住戸には、ダクトレスの熱交換換気(第一種)が使われている。
このような工夫により、エアコンを小型化するといった建築時のコストを抑えながら、快適な住環境とマンション全体の省エネ(ランニングコスト削減)を両立させている。さらに、マンションの大きな課題である躯体や外装の劣化を防ぎ、長寿命化を図ることで、購入者の資産価値を長期にわたり保つことができる。「MEGUROHAUS」が話題になることで、今後は日本でも外断熱のマンションが増えていくかもしれない。
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「MEGUROHAUS」の賃貸情報
高性能物件の価値を広める
以上、木造の高性能賃貸4件と、RC造の高性能マンション1棟を紹介した。今回取り上げた物件は、いずれも2020年から2023年までの間に建てられたものだ。建築から何年か経っていることで、入居者の満足度の高さや、実測データなども確認することができた。賃貸住宅では入居率の維持が重要だが、4物件ともほぼ満室で推移している。退去が少ない理由として、各オーナーや施工者は、優れた快適性や防音性、省エネ性などの性能が大きく影響していると推測している。そうした実績をもとに、その後、複数の高性能賃貸を建てているオーナーや施工者もいる。
もちろん課題もある。最大の課題は、入居者にとって物件選びの段階では、「目には見えない性能の違い」が評価の対象にならないことだ。それは、融資をする金融機関についても同じだ。多くの金融機関は、高性能物件の価値にまだ気が付いていないため、できるだけ建設の初期コストを減らしてほしいという圧力が働く。
ここで紹介した各賃貸のオーナーや設計者は、募集段階では断熱性能が売りにならないため、それ以外の魅力で集客しようと、デザインや内装などの工夫を重ねてきた。その傾向はマンションも同様で、MEGUROHAUSは「半自由設計」という付加価値をつけたことで満室となっている。
とはいえ筆者は、住宅の性能を高めることの価値が、社会で正しく評価されるようになるのは、それほど先のことではないと考えている。すでに欧州では、省エネ性能の低い賃貸住宅を貸し出せなかったり、経済的評価が著しく低くなったりしている国もある。断熱された建物が、入居者の満足度が極めて高く、光熱費も安くなり、さらに躯体も長寿命化できることが理解されれば、日本でも経済的価値に反映されるようになるだろう。その時、今回取り上げた集合住宅は、高性能化のパイオニアとしてさらに評価を高めることになっているはずだ。


















