神戸市のタワーマンション規制の概要

本稿では、規制開始から5年が経過した神戸市における中心市街地(都心域)での"タワーマンション規制"について、どのような論点で住まい探しに接続して学ぶことができるのか整理していきたい。なお、本稿では便宜上"タワーマンション規制"と呼ぶが、制度上は超高層住宅のみを名指しで禁止するものではなく、都心域における商業・業務機能の強化のために住宅用途(住宅等)の立地や床面積を一定程度に抑える都市計画上の仕組み(特別用途地区)と、その効力を発動させる建築条例の組合せによって実行されている点であることを押さえておきたい。

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住宅等の立地抑制を行っている範囲(都心機能誘導地区) ※出典:神戸市(https://www.city.kobe.lg.jp/a84931/shise/kekaku/jutakutoshikyoku/kobetoshin/tochiriyou-sesaku/toshinkino_yudo.html)住宅等の立地抑制を行っている範囲(都心機能誘導地区) ※出典:神戸市(https://www.city.kobe.lg.jp/a84931/shise/kekaku/jutakutoshikyoku/kobetoshin/tochiriyou-sesaku/toshinkino_yudo.html)

はじめに、神戸市が2020年7月1日より制限を開始した規制内容を整理する。神戸市のタワーマンション規制とは、神戸市の中心部である三宮を中心とした周辺地域(314.4ヘクタール)における一定の住宅建築規制のことである。

"一定"とは、三宮中心部に設定された都市機能高度集積地区(都市計画法上の特別用途地区)では住宅等の建築を禁止し、それ以外の都心機能活性化地区(特別用途地区)では住宅用途の容積率(延べ面積÷敷地面積*100)を400%以下(敷地面積1,000m2未満は規制対象外)としている点にある。ここでいう"住宅等"は、一戸建て住宅、兼用住宅、共同住宅、寄宿舎・長屋、老人ホームなど、建築基準法上で住宅系用途として扱われるものを指す。

例えば、容積率400%とは、敷地面積が4,000m2ある場合、その敷地に建築可能な延べ面積(容積率算定用の床面積)が16,000m2を上限とすることを意味する。神戸市の都心部は商業地域(容積率600%)指定のエリアが多いが、この制度の下では、仮に敷地条件等が許すとしても、住宅用途として配分できるのは最大400%までであり、残りは住宅以外(商業・業務等)へ誘導される構造になる点に留意が必要だ。言い換えると、中心部では住宅を新規に立地させない(禁止する)一方で、中心周辺では住宅の床面積割合に上限をかけることで、都心機能(商業・業務等)へ一定の床を確保しようとするものである。

なお、条例が適用された2020年7月1日時点で存する建築物については、既存不適格に対する緩和措置として、一定の範囲内で増築等を可能としている。いずれにしても、本規制は都市計画(特別用途地区)だけで完結するのではなく、条例化によって実効性を担保するという意味で、都市計画と建築規制を接続した市街地内での建築規制ツールとして整理できる。

分かりやすく要約すると、三宮中心部では新規の住宅立地を制限し、その周辺では住宅の床面積割合(住宅用途の容積)を一定程度に抑える、という二段構えの仕組みである。

なお、同様に“都心で住宅を抑制し、都心機能を守る”という発想は、横浜市が2006年に横浜駅・関内駅周辺で導入した制度が見られる。また、これらと同一の趣旨ではないものの、商業地で住宅用途をコントロールし、観光・商業機能とのバランスを図る制度として熱海市の事例がある。もっとも、政令指定都市において、神戸市と同様の問題意識(都心部で住宅を抑制し都心機能を確保する)を前面に出して制度化している例は、現時点では限定的である。

規制の狙いと都市計画上の論点

神戸市では、タワーマンション規制の狙いとして、中心部の過度な人口集中を避けることにより、商業・業務などの都市機能の立地阻害や、小学校をはじめとした公共施設の不足、災害時の避難場所の確保といった課題が生じ得る点を挙げている。ここで重要なポイントとしては、議論の出発点がタワーマンションの存在そのものの是非というよりも、都心部の土地利用バランスと人口増加に伴う公共サービス負荷にあることだ。

都市計画上は、神戸市の都市計画の基本方針である都市計画マスタープラン(2011年3月策定)において、中心部(都心域)で商業・業務施設の機能強化を図る方針が掲げられている。こうした方針との関係でみると、特別用途地区と条例を組み合わせて住宅用途を抑制する手法は、マスタープランの方向性を具体化するための手段として選択されたと判断することができる。

なお、現在はこれらに加えて、タワーマンションの廃墟化リスク(長期的な管理不全や終末期の不確実性)も挙げられている。さらに、市の有識者会議(座長:関西学院大学経済学部教授 上村敏之氏)が2025年2月にとりまとめた『タワーマンションと地域社会との関わりのあり方に関する課題と対応策(報告書)』では、タワーマンションをめぐる論点を主にリスク(管理・災害・非居住・終末期)から整理し、都市計画の規制に加えて、管理制度や災害対策、負担の仕組みを含めた総合的な対応の必要性に言及している。

ここで一つ補足したい。一部メディアやSNSでは、タワーマンションを税負担等の視点からその存在自体のあり方を問う論調も見られる。これは、先ほどの報告書の整理にもあるように、管理不全、災害対応、非居住、終末期といったリスクに注目が集まりやすいことと関係している。一方で、税や負担の議論は、タワーマンションそのものを罰するというより、非居住住戸や管理不全が将来的な外部不経済につながり得る場合に、どう対応するかという設計論として捉える余地もある。いずれにせよ、議論が"タワーマンション=問題"として単純化されやすい傾向がある点には注意が必要と考えられる。

神戸市が当初、都市計画として高度利用の住宅を抑制する措置に至った理由は、都市計画マスタープランの実現、すなわち都心部での商業・業務機能の確保と土地利用の適正化にあった。他方、制度開始から5年が経過し、議論が進む過程で、住宅(特に高さ60m超の超高層住宅)の将来的な管理不全の可能性、災害対応、非居住住戸、法定外税負荷といった論点が前面化し、結果として"タワーマンション問題"として都市計画とは別の議論軸が強まっている面もある。改めて本稿では、タワーマンションの是非ではなく都市計画の視点から、神戸市のタワーマンション規制をめぐる論点と運用上の課題を整理していきたい。

都市雇用圏でみた課題

神戸市のタワーマンション規制の主な理由として、都心部での商業・業務機能の強化が掲げられているが、その前提には、三宮が神戸市を中心とした都市圏の中心として機能している、という実態があって初めて成り立つ面がある。

しかし、明治時代以降の鉄道・道路の発達と、それに伴う都市間経済距離の縮小、市街地の拡大により、行政区域と都市圏域は必ずしも同義ではなくなった。人々の日常生活は行政区域内では完結せず、通勤・通学や消費行動は広域に展開している。現在の行政区域は地方行政制度上の線引きの一つにすぎず、都市圏の実態は別の単位で捉える必要がある。

ここで参考指標として、2001年に金本らが定義した都市雇用圏(10%通勤圏)を用いる。神戸市全体としては、大阪市を中心とした都市雇用圏には含まれていないため、形式上は神戸市と大阪市は別の都市圏とみなされる(下図参照)。一方で、区単位でみると状況は異なり、灘区や東灘区では大阪市への通勤率が10%を超える(下表参照)。すなわち、神戸市の一部は大阪側の通勤圏に組み込まれているとみることができる。さらに、大阪市ではなく少し対象を拡大し大阪府への通勤という観点を取れば、中央区も含まれる結果となる。

神戸市都市雇用圏(2020年国勢調査に基づき作成)
神戸市都市雇用圏(2020年国勢調査に基づき作成)
神戸市都市雇用圏(2020年国勢調査に基づき作成)
神戸市各区(中央区を除く)から神戸市中央区および大阪市への通勤率 ※出典:2020年国勢調査

また、神戸市全体では2000年と比較して大阪市への通勤率は若干減少しているものの、中央区に限ると微増(通勤者数も約1,200人増)している(下図参照)。三ノ宮から大阪まで新快速で約22分(途中は芦屋・尼崎のみ停車)で到達できることを踏まえると、三宮周辺が“住む場所”として選ばれる要因の一つになっていると解釈できる。こうした状況は、都市圏スケールでは大阪の求心力が強まる中で、神戸中心部の役割が相対的に変化してきたことを示唆する。

一方で、都市雇用圏上は大阪とは別と区別することができる神戸都市雇用圏に含まれる明石市や加古川市など西側地域の中心地としての役割もあり、これら自治体の人口誘導策や市街地開発の動向も含めて、広域のバランスの中で三宮の位置づけを考える必要がある。

三宮には一定の住宅需要があるのは確かだが、同時に商業・業務機能を維持・強化することも神戸市の都市像として掲げられている。大阪という求心力の高い都市が隣接する中で、神戸がどの単位で都市運営の目標を定め、どの範囲で連携・調整していくのか、タワーマンション規制の評価は、市域内の議論にとどまらず、より広域的な視点からのガバナンスの論点として整理される必要があると考えられる。

神戸市都市雇用圏(2020年国勢調査に基づき作成)
神戸市全体および各区から大阪市への通勤率(2000年、2020年) ※出典:2000年および2020年国勢調査

規制後の変化

規制後の変化として、まず規制区域内の人口がどのように推移したかを確認する。神戸市が公表する住民基本台帳ベースの人口推計(各年1月1日)を用い、2015年・2020年・2026年の3時点で整理すると、次の点が読み取れる(下図参照)。

神戸市、中央区および特別用途地区内(タワーマンション規制範囲)の人口推移(2015年、2020年、2026年の各1月1日時点) ※出典:神戸市人口統計(住民基本台帳によるもの)*(注):タワーマンション規制範囲内の人口は推計神戸市、中央区および特別用途地区内(タワーマンション規制範囲)の人口推移(2015年、2020年、2026年の各1月1日時点) ※出典:神戸市人口統計(住民基本台帳によるもの)*(注):タワーマンション規制範囲内の人口は推計

第一に、神戸市全体は人口減少傾向にある一方で、中央区およびタワーマンション規制の範囲内の人口は増加傾向にある。特に中央区は2020年から2026年にかけて3.4%増、規制範囲内では9.7%増となっており、都心域への人口集積が継続していることが分かる。

第二に、規制範囲内の人口増加率は、2015年から2020年にかけては20.2%であったのに対し、2020年から2026年にかけては9.7%となっている。したがって、少なくとも観測上は、規制開始を挟んで増加ペースに変化が見られる。ただし、この変化が規制の効果によるものか、景気・金利・供給タイミングなど他要因によるものかは切り分けが難しく、人口推移だけで因果を断定することはできない。ここでは「増加は継続しつつ、増加率は低下している」という事実として押さえておきたい。

今後、2025年国勢調査の結果が2026年以降に順次公表される。通勤動向、人口移動、世帯構成などの詳細データが揃うことで、都心部の居住実態や都市圏スケールでの変化について、より多面的な検証が可能になるだろう。

広域ガバナンスの論点

では、このタワーマンション規制の取り組みを市域内の土地利用誘導として評価するとして、通勤圏が連続する近畿圏という都市圏スケールで見た場合、神戸市単独で実施する意味はどの程度あるのだろうか。神戸都心部で住宅供給が抑制されれば、需要が市内にとどまるとは限らず、大阪市や阪神間など、同様の通勤利便性や市場ポテンシャルを持つ地域へ移転する可能性がある。したがって、都市圏全体の人口規模に対するタワーマンション供給の"総量"が大きく減るというよりは、立地の分布が変化する形で表れやすい、という見方も成り立つ。

この点から、タワーマンション規制を都市圏レベルの課題として捉えるなら、行政区域の枠を超えた実態の経済活動(通勤・通学・消費行動)の範囲で、どの単位で調整し、何を指標として評価するのかが論点となる。住宅供給、交通混雑、公共施設負担、防災対応などの影響が越境する以上、都市計画制度の運用だけでなく、費用負担や役割分担の整理を含めた広域ガバナンスの設計が必要になる。

また、神戸市の制度は本来、商業・業務機能の強化を図るために住宅用途の床面積を抑え、異なる用途の誘導を図ることを目的として導入された。したがって、タワーマンションの是非そのものと都市計画の目的が結びつき過ぎると、手段が目的化しやすい。規制の効果は、"タワーマンションを抑えたか"ではなく、都心機能(商業・業務床)の確保や回遊、公共空間、交通結節などがどの程度実装されたかと併せて評価する必要があるだろう。

さらに、これらの課題は一市や府県単位で完結しにくい。大阪を中心とする大きな都市圏の中で、どのように都市計画・広域計画を運用し、都市圏内の役割分担を整理していくかという論点に接続している。規制の評価を都市圏に開いたとき、問われるのは"誰が得をするか"ではなく、越境する便益と費用をどのように配分し、都市圏として持続可能な形に調整できるか、という点である。人口減少に伴い各自治体が隣り合う自治体の人口を誘導する政策を積極的に行う中、地方行財政制度と都市計画制度との関連性も含め、制度間の関係を整理し直す論点が強まっている。

住まい探しへの示唆

神戸市のタワーマンション規制は、"タワーマンションの是非"で判断するより、住まい探しの前提条件を“並べ替える政策”として読むと理解しやすい。都心部で住宅を抑えることは、"住む機能"よりも"働く・交流する機能"を優先させるという都市の選択である。

この視点に立つと、住まい探しでは"都心に住むこと"自体より、街がどんな機能構成を目指しているかが重要になる。商業・業務を志向する都心部では利便性が高まる一方、新規供給は限られ中古中心になりやすい。逆に周辺拠点では新築の選択肢が増えるなど、同じ"利便性"でも場所によって構成要素が変わってくる。

また、都心部で新規供給が抑えられる局面では、住宅の評価軸は立地から"ストックの質"へと移る 。修繕積立金の水準や長期修繕計画、災害への備えといった管理・運用面が、将来の資産性や住み心地に直結するためだ。タワーマンションか否かよりも、建物が長期的に維持される条件が揃っているかが問われる。

さらに、通勤圏が連続する都市圏では、都心部の制約は周辺エリアの供給にも波及する。規制によって可視化された"都市の将来像"を読み解き、自身の求めるライフスタイルと都市計画の方向性が合致するエリアを選択していく視点が求められる。

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まとめ

タワーマンションをめぐる議論は、ともすると"好き/嫌い"の感情に引きずられ、政策目的がすり替わりやすい。タワーマンションは購入層が限定的であり、加えてその存在感が大きく、問題が建物類型の是非に集約されやすい傾向にある。さらに、災害対応や混雑といった費用側は直感的に共有される一方で、住宅供給や職住近接など便益側は見えにくい。こうした構造が議論を単純化させる恐れを含んでいる。

本稿で確認した神戸市の規制は、都心部での商業・業務機能の確保という土地利用誘導を出発点としている。しかし、制度運用が進む過程で、管理不全、災害対応、非居住住戸、終末期解体といった論点が前面化し、いわゆる非居住住戸への負担(法定外税を含む)といった議論も生じている。これらは適正管理を促す手段として位置づけ得る一方、印象論と結びつけば、タワーマンション規制のみでまちなかが再生するという期待が先行する場合もある。

さらに、神戸—大阪のように通勤圏が連続する都市圏では、単独自治体の規制は市域内の用途誘導として一定の意味を持ちながらも、住宅需要の総量を減らすというより、立地の分布を変える形で表れやすい。したがって論点は、規制の是非ではなく、雇用圏スケールでの役割分担と調整に移る。住宅供給、交通混雑、公共サービス負担、防災対応といった外部効果が越境する以上、共通目標とデータ共有、費用負担の整理を含む広域ガバナンスが論点となる。

最後に補足したいのは、問題の中核は、どこにどの密度でタワーマンション等の高度利用型の住宅を立地させ、どういった条件で管理させるか、そして投機的保有や転売、非居住といった市場行動が長期の維持管理に与える影響を都市計画側でどう扱うかにある。

<参考文献>
・金本良嗣、徳岡一幸(2001年)「日本の都市圏設定基準 Metropolitan Area Definitions in Japan」
・タワーマンションと地域社会との関わりのあり方に関する有識者会議(2025年2月)「タワーマンションと地域社会との関わりのあり方に関する課題と対応策(報告書)」