東京一極集中を語る「転入超過」とは?

東京一極集中。地方創生の分野では枕詞のように使われるこの言葉から、東京と地方の関係においてどのような人口の動きを想像するだろうか?

2026年2月に公表された総務省「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」は、東京圏の「転入超過」が、やや減速したとはいえ依然として続いていることを示した。これを受けた報道の多くは、「一極集中が止まらない」「若者が東京に吸い上げられている」といった見出しで伝えた。転出超過が続く地方の地元メディアでは「若者の流出が止まらない」という表現になる。

これらの報道のトーンからは、転入超過の継続で語られる「東京一極集中」とは、地方の若者が大量に東京圏に流入することで東京だけが肥大化し、地方の人口減少が加速し地域の活力が失われている状態をイメージさせる。地方からみれば地元の若者の流出なので、地方創生の議論では、「人口のダム機能」で若者の流出対策をしなければならない、という話になりがちである。

果たしてその見立ては本当に正しいのか。この問題に限ったことではないが、わかりやすいキャッチーな言葉で先導される社会の空気は危険だ。

東京一極集中という言葉からは、地方の若者が大量に東京圏に流入することをイメージしがちだが…(画像はイメージ)東京一極集中という言葉からは、地方の若者が大量に東京圏に流入することをイメージしがちだが…(画像はイメージ)

そもそも「転入超過」とは、住民基本台帳を基に集計される「他都道府県からの転入者数」と「他都道府県への転出者数」の差分である。そこを正しく理解しないまま語れば、現実の構造変化を見誤るおそれがある。

そこで本稿では、東京圏と地方圏の人口移動を転入と転出に分解して、統計を開始した1952年から最新の2025年までの長期推移を確認することで、実のところ今どんな事態が起こっているのかを分析する。なお本稿で提示する転入・転出・転入超過の実数は、東京圏と地方圏の関係を単純化するために、外国人を除いた日本人のみのデータを扱っている。

東京圏への転入数は歴史上最低レベル

図1は東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の人口移動の長期推移である。青い折れ線グラフは転入数、赤い折れ線グラフは転出数、緑の棒グラフはその差分の転入超過数を表している。参考までに実質GDPの成長率を黄色の折れ線グラフで、成長率ゼロを破線で追加した。

これをみると、高度成長期やバブル期の転入超過は、地方からの大量の転入、すなわち東京圏の人口吸引力の強さによって説明できた。好景気のときは地方から大量の人口が流入し、不景気には地方からの転入は減少する、と極めてわかりやすい構造である。だが興味深いことに、高度経済成長期もバブル経済期も、転入数の増加の後を追うように時間差で転出数も増える傾向がみられる。経済環境の変動に呼応して、「たくさん入って、たくさん出る」という循環的な人口移動のダイナミズムがあったのだ。

ところが1990年代半ば以降、就職氷河期を挟んで人口移動に構造的な変化が訪れる。まず景気の変動と転入数の間に明確な連動性がなくなり、就職氷河期、リーマン・ショック後、パンデミック後と段階的に転入数の水準は低下し、最近では一極集中と騒がれながらも東京圏への転入数は歴史上最低レベルで推移している。高度経済成長期の末期1970年には約86万人もの人口が東京圏へ流入していたのに対し、2025年の転入者数は45万人とピーク時の半分程度だ。その一方で、転出数のほうは1990年代半ばくらいから現在に至るまで、多少の揺れはありつつも30年以上減少傾向を続けている。

このような長期時系列のデータから読み取れるのは、近年の東京一極集中とは、地方からの転入が増えたのではなく、東京圏からの転出が減り続けた結果として転入超過が持続している状態であるということだ。言い換えれば、東京は「地方から人を吸い上げる力が強まった」のではなく、「流入した人口を留める定着力が強まった」のである。これが転入超過・一極集中の実態だ。

図1 東京圏の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)図1 東京圏の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)

地方の転出超過の実態

では、東京圏の裏返しとなる地方圏はどういう状況なのか。2025年のデータで転出超過が大きい都道府県トップ3の広島県(図2)、福島県(図3)、静岡県(図4)の人口移動データを確認しよう。
転出超過に悩む3県に共通するのは、いずれも転出の増加ではない。むしろ転入の減少である。実際には地方の転出数は、震災時の福島県を除き、長期的に低位安定から微減傾向が続いている。しかしその一方で、それを上回るペースで転入数が減少しているのである。グラフで見れば、転出数を示す赤の線と転入数を示す青の線の開きが徐々に拡大していることがわかる。

つまり、地方の転出超過の要因は、よく言われるような若者の大量流出というより、外から人が入ってこなくなったことにあるのだ。紙面の都合ですべてのデータを紹介することはできないが、この傾向(転入減による転出超過)は、ほとんどの地方圏の県に多かれ少なかれ共通している。

図2 広島県の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)図2 広島県の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)
図2 広島県の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)図3 福島県の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)
図2 広島県の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)図4 静岡県の人口移動(日本人)の長期推移(筆者作成)

地方の転入減少、3つの要因

地方の転入減少には大きく三つの要因がある。

影響が大きい順に整理すれば、第一に転勤の減少である。1990年代半ば以降の企業合理化は支店網の統廃合を進め、あるいは工場の海外移転を加速させ、長く地方への転入数を支えていた本社からの転勤による人的還流を細らせた。第二に、大都市圏からのUターン・Iターンの減少である。進学や就職で一度大都市圏に出た若者が地元に戻る回路が弱まっている。本質的にはニワトリとタマゴの関係ではあるが、大企業の支店の統廃合や生産拠点の海外移転は地方の経済的な衰退を加速させ、それがUターン・Iターンを引き付ける力を削いだものと考えられる。第三に、周辺県の若年人口減少による進学・就職での流入の縮小である。例えば広島県の場合なら、山口県や岡山県、島根県や愛媛県などから広島県へ進学・就職する若年層の母数自体が減っているのだ。

人口のダム機能論を再考すべき

これまでみてきたように、東京一極集中の本質は東京の吸い上げではなく、大都市圏と地方圏での人口循環の縮小にある。差分としての転入超過に惑わされず、転入と転出の動態を冷静に分解すれば、地方は転入促進に課題が大きいことは明白である。

この事実を踏まえるなら、地方創生の現場でよく語られてきた「人口のダム機能」論を再考する必要があるのではないか。ダム機能とは、周辺地域から人が集まる地方の中枢都市で大都市圏への流出を堰き止め、広域中枢都市圏として人口減少の緩和を目指す考え方だ。実際の施策としては、地方大学の学部新設、企業誘致、テレワーク拠点整備、子育て支援や住宅補助など、あの手この手で若年層を引き留めようとする。しかし先に見たように、今、より深刻な問題は転出ではなく転入減の拡大なのである。したがって人口減少対策の焦点は「流出阻止」ではなく、「流入創出」に置くべきではないか、という仮説が導かれる。

学部の新設など、あの手この手で若年層を引き留めようとするが…(画像はイメージ)学部の新設など、あの手この手で若年層を引き留めようとするが…(画像はイメージ)

そもそも論として、地方の優秀な若者を地元に閉じ込めておくべきではない、と筆者は考える。彼ら彼女らには東京でも他の地方でも、なんなら海外でもいいので一度広い世界で学び経験を積んだ後に地元へ戻って活躍してもらうほうが、地方にとっても恩恵が大きいはずだ。問題は彼ら彼女らが出ていくことではなく、戻ってこないことにあると考えるべきではないか。

「流入創出」が大事とはいえ、お互い人口減少が深刻な周辺県と人口を奪い合うのでは限界があるし、一極集中の解消という目的に照らせば不毛ですらある。地方創生政策が10年以上にわたって推進してきたことは、実は近隣自治体同士での人口の争奪戦だった。かといって、企業に地方支店を復活させ転勤を増加させる手立てはない。円安による工場の国内回帰に期待する向きは多いが、人手不足に加え円安は原材料費の高騰も招くため、その動きは限定的だろうというのが大方の専門家の見立てだ。残された選択肢は、大都市圏からのUターン・Iターンをどう再生させるかに絞られる。

雇用は当然必要だが、単に仕事があるかどうかではない。人口減少と高齢化が先行した地方ほど人手不足は深刻で、仕事がないわけではない。若者が面白いと思える創造的な仕事、裁量権のある職場環境、成果に見合った給与、あるいは起業や開業などの挑戦者を支える制度などが問われる。また、仕事や収入だけでなく、消費や娯楽、文化・芸術など人生を豊かにする生活環境も地方創生の議論が見落としがちな重大テーマである。

若者から問われる都市の魅力

地方がいま若者から問われているのは、自分らしく楽しく幸せに生きていく場所としての都市の魅力なのではないだろうか。その意味において、「流入創出」と「流出阻止」は多くの施策で重なり合う。雇用の質の向上や生活環境の整備は、外から人を呼び込む力であると同時に、既存住民の流出を抑える力にもなる。ただし、前者は「誰を呼び戻すのか」、後者は「誰を引き留めるのか」というターゲットが異なるため、施策の重心やディテールには違いが生じるはずだ。LIFULL HOME'S総研の調査研究レポート『地方創生のファクターX 寛容と幸福の地方論』(2021)が指摘したように、東京圏からの若者のUターン・Iターンの流れをつくるためには、ジェンダー平等に象徴される多様な価値観や生き方に対する地域社会の寛容性はきわめて大きな課題である。

繰り返すが、重要なのは若者を囲い込むことではない。一度外に出た人が戻ってきたくなる回路をどう再生するかである。東京一極集中の本質は、東京圏の吸い上げではなく人口循環の縮小にある。その構造を見誤ったままでは、いくらダムを築いても水は溜まらない。

問われる都市の魅力。画像は瀬戸内海を望む広島市の都市風景(画像はイメージ)問われる都市の魅力。画像は瀬戸内海を望む広島市の都市風景(画像はイメージ)