賃貸市場では構造的な変化が起こっている

2026年の賃貸市場は、ここ数年続いてきた構造変化が「はっきりと形になる年」になる可能性が高い。表面的には賃料の上昇という一言で語られがちだが、実際の現場ではそれ以上に複雑な変化が同時進行している。都心部で始まった賃料上昇の波は、いよいよ郊外エリアへと広がり、同時に物件間・エリア間・オーナー間の格差が鮮明になる。

これまで賃貸市場は、都心部が高騰し郊外は比較的安定しているという構図が一般的だった。しかし2026年は、郊外においても「条件の良い物件」「築浅」「駅近」「ファミリー向けの希少物件」などに需要が集中し、局地的な賃料上昇が発生する。一方で条件の悪い物件は、これまで以上に空室が長期化し、募集すらされない物件も増えていく。

背景には、住宅価格の高騰、建築費の上昇、金利環境の変化、人口動態、そしてユーザーの住まい方の多様化など、複数の要因が絡み合っている。2026年の賃貸市場を正しく理解するには、こうした構造的な変化を整理する必要がある。

賃貸市場で起こっている構造的な変化とは?(画像はイメージ)賃貸市場で起こっている構造的な変化とは?(画像はイメージ)

トレンド予測1:都心部から始まった賃料上昇が郊外へ波及

まず押さえておきたいのが、都心部を中心とした賃料上昇が、一時的な現象ではなく既に「構造的なトレンド」になっている点だ。東京都心部では、千代田区、港区、渋谷区といった主要エリアを中心に、賃料の更新時値上げが当たり前のように行われ始めている。

以前は、オーナー側にも「値上げすると退去されるのではないか」という心理的な抵抗感があった。しかし近年は、人気エリアであれば多少の賃料上昇でも次の入居者がすぐ決まるという成功体験が積み重なり、「値上げをしないほうが機会損失になる」という意識へと変わりつつある。

この意識変化は、オーナー側だけでなく、賃貸ユーザー側にも浸透している。都心部のユーザーの間では、「更新時に賃料が上がるのは当たり前」「同条件で引越しをしても、結局同じかそれ以上の家賃になる」という認識が一般化しつつある。その結果、更新か引越しかを比較した際に、更新を選択するユーザーが増加している。

更新率が高まると、何が起きるか。市場に出てくる募集物件の供給が減少する。供給が減り、需要が高止まりしたままであれば、賃料はさらに上昇する。この循環が、都心部ではすでに始まっている。

そして2026年は、この流れが郊外エリアへと本格的に波及していく年になる可能性が高い。特に、都心へのアクセスが良い郊外駅、再開発が進んでいるエリア、教育環境や生活利便性が整っているエリアでは、これまで以上に賃料の上昇圧力が強まるだろう。

郊外の住宅街(画像はイメージ)郊外の住宅街(画像はイメージ)

トレンド予測2:ファミリー物件の需要が拡大

単身者向け物件だけでなく、ファミリー向け賃貸市場も同様の構造変化に直面している。むしろ、ファミリー向けのほうが供給の少なさという点では、より深刻な問題を抱えている。

新築分譲マンション価格の高騰により、「購入を検討していたが予算的に厳しいため、賃貸にとどまる」という層が増加している。特に都心近郊や人気学区エリアでは、購入を諦めた層が賃貸市場に流入し、ファミリー向け物件への需要を押し上げている。

一方で、ファミリー向け賃貸物件の供給は、単身者向けに比べて圧倒的に少ない。デベロッパーも投資効率の観点から単身者向けを中心に供給するケースが多く、結果としてファミリー向けの「良質な賃貸ストック」は慢性的に不足している。

この需給ギャップは2026年にさらに拡大する可能性が高い。結果として、駅近・築浅・70m2以上といった条件の良いファミリー物件は、募集開始から短期間で成約し、賃料水準も引き上げられていく。

予算的に厳しいため、賃貸にとどまる層が増加する(画像はイメージ)予算的に厳しいため、賃貸にとどまる層が増加する(画像はイメージ)

トレンド予測3:競争が激化する都心、二極化が進行する郊外

2026年の繁忙期(主に1~3月の引越しシーズン)において、東京都心部ではこれまで以上に「取り合い」の様相が強まると予測される。千代田区、港区、渋谷区といった都心3区に加え、目黒区、品川区、世田谷区の一部エリア、さらに東急東横線、田園都市線、中央線沿線といった人気路線では、単身・ファミリーを問わず競争が激化する。

これらのエリアでは、内見前に申し込みが入る、あるいは公開から数時間で申し込みが入るといったケースが珍しくなくなる可能性がある。募集賃料の上昇率も、これまでの水準を上回るペースになることが想定される。

同様のトレンドは、東京だけでなく大阪、名古屋、福岡といった主要都市圏にも波及する。特に再開発が進むエリア、インバウンド需要が回復しているエリア、IT企業やスタートアップの集積が進むエリアでは、局地的な賃料上昇が顕著になるだろう。


郊外市場では、2026年に「はっきりとした二極化」が進むと考えられる。人気エリア、築浅物件、ファミリー向けの希少物件では賃料が上昇し、募集期間も短縮される。一方で、築年数が古い物件、駅から遠い物件、設備が時代遅れの物件は、競争力を失い、空室期間が長期化する。

この二極化は、単に立地の問題だけではない。オーナーの投資姿勢の違いも大きく影響する。リノベーションや設備更新を行い、商品力を高めるオーナーは、賃料を維持または引き上げることができる。一方で、原状回復すら最低限しか行わないオーナーの場合、募集自体が難しくなり、最終的には市場から退出せざるを得ないケースも増えていくだろう。

すでに一部の郊外や地方都市では、原状回復費用をかけられず、空室のまま放置されている物件が散見され始めている。こうした物件は、統計上は存在していても、実質的には「供給として機能していない在庫」となり、市場の歪みをさらに大きくする。

オーナーの投資姿勢によっては、市場から退出せざるを得なくなる(画像はイメージ)オーナーの投資姿勢によっては、市場から退出せざるを得なくなる(画像はイメージ)

トレンド予測4:情報の鮮度が不動産会社の強みに

ここ数年で、申し込み、重要事項説明、契約手続きといったプロセスは急速に電子化が進んだ。利便性は大きく向上したが、新たな問題も顕在化している。

代表的なのが「問合せをした時点では空いている表示だったのに、実際には既に申し込みが入っていた」というケースの多発である。電子申込が普及したことで、ユーザーが気軽に複数物件を押さえる行動が増え、募集サイト上の情報と実態にタイムラグが生じやすくなっている。

特に需給が逼迫する2026年の繁忙期では、この問題はさらに深刻化する可能性が高い。ユーザーは複数の問合せを繰り返し、内見調整の段階でキャンセルを繰り返すことになり、結果として「部屋探しそのものがストレス体験」になりやすい。

本来であれば、リアルタイムに近い空室情報の共有や、申し込み状況の可視化といった仕組みが必要だが、業界全体での統一基盤はまだ整っていない。この課題は、2026年の繁忙期における最大のボトルネックの一つになるだろう。

2026年に向けて、不動産会社の勢力図にも変化が生じている。大手仲介会社の存在感は引き続き強まっているが、それと同時に「管理と仲介の両輪を持つ会社」が大きな優位性を持つ時代に入っている。

管理物件を持つ会社は、解約情報を最も早く把握できる。さらに、募集開始のタイミングを自社主導でコントロールできるため、掲載スピードと情報の鮮度において圧倒的な強みを持つ。このアドバンテージは、需給が逼迫している局面ほど大きくなる。

ここに、多額のマーケティング投資が可能な大手仲介会社の集客力が加わることで、上位プレイヤーのシェアはさらに拡大していく可能性が高い。一方で、中小仲介会社は、単なるポータル依存型の集客モデルでは生き残りが難しくなり、独自ルートの開拓や専門特化戦略が不可欠になる。

情報と実態にタイムラグは、部屋探しのストレス体験になる(画像はイメージ)情報と実態にタイムラグは、部屋探しのストレス体験になる(画像はイメージ)

トレンド予測5:ユーザーニーズのさらなる多様化

2026年の賃貸市場では、ユーザーのニーズの多様化がさらに進む。従来の「ワンルームか1LDKか」「駅近かどうか」といった単純な軸だけではなく、ライフスタイルや価値観に基づいた選択が増えている。

コリビングへの引越しを選ぶ層、都心の極小物件でコストを抑える層、あえて郊外で広い住空間を確保する層、防音性能を重視する音楽・配信クリエイター層、ペット共生型住宅を求める層など、ニーズは細分化している。

こうしたニッチなニーズに対応した物件は、ポータルサイトだけでは十分に訴求できないケースも多い。そのため、SNSを活用した情報発信や、動画コンテンツ、コミュニティ型の集客など、新しいマーケティング手法の重要性が高まっている。

ペットの足洗い場を備えた住宅の例(画像はイメージ)ペットの足洗い場を備えた住宅の例(画像はイメージ)

2026年は今後の競争力を左右する分岐点

2026年の賃貸市場は、単なる「賃料上昇の年」ではない。市場全体が、よりシビアで、より選別的なフェーズへと移行している。

条件の良い物件、投資を続けるオーナー、情報発信力のある不動産会社は、これまで以上に成果を伸ばす。一方で、変化に対応できない物件、旧来型のビジネスモデルに固執する会社は、徐々に市場から押し出されていく。

ユーザーにとっては、部屋探しの難易度が上がる一方で、選択肢の多様化というポジティブな側面も存在する。不動産会社にとっては、単なる仲介業務から、情報提供、体験設計、商品企画へと役割が拡張していく時代に入ったともいえる。

2026年は、賃貸市場における「新しい常識」が定着する転換点になる。その変化を正しく読み解き、先手を打てるかどうかが、今後数年の競争力を左右する重要な分岐点となるだろう。