背景にあるのは定年後も終わらない返済の長期化

“景気の気は気分の気”といわれるが、住宅価格については気が滅入る一方だ。
異常なまでの不動産高騰について語ることはしないが、その煽りで二つの問題が起きている。一つは、かなり背伸びして住宅ローンを組まなくてはマイホームに手が届かないこと。もう一つは、ローンを組む年齢が後ろ倒しになっていることだ。

住宅金融支援機構による「2024年度 フラット35利用者調査」によると、利用者の平均年齢は上昇傾向が続いており、2024年度は44.5歳だったという。年齢に対し賃金上昇のスピードが鈍かったことや、晩婚・晩産化の影響もあるかもしれない。結果的に定年退職後も返済が終わらず、その後もローンを払い続けるとなると、年金収入中心の老後生活を圧迫することになってしまう。
その解決策の一つとして、政府も後押しを始めたのが「残価設定型住宅ローン」だ。

「残価設定月」のタイミングで買い取りか、住み続けるかを選択

「残価設定型」は、最近では車やスマートフォンの購入に採用されている。将来の買い取り価格(残価)をあらかじめ設定し、その残価を差し引いた金額を分割払いするので、月々の返済額が抑えられる。契約期間終了後には、使用した車やスマホを返却するか、残価を支払って買い取る等を選択する。

では、住宅の場合はどうか。国土交通省は「借入金額から将来的な住宅の価値(残価)を差し引いた金額を返済する仕組みで、月々の返済負担を軽減することができる」としているが、この方式での実施例はまだ少ないようだ。

一方で、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(以下、JTI)が残価保証を行う残クレ型住宅ローンは、返済開始から負担を抑えるわけではなく、一定期間は従来通りの返済が発生する。返済期間が約20~25年目(物件価格の9割融資の場合)に当たる「残価設定月」を迎えた段階で、今後のローンについてオプション選択が可能になる。一つは返済額軽減オプションで、返済額をこれまでの3~4割に圧縮、さらに50年経過後は金利だけの返済とする。残りの元本は死亡時に売却して精算という方式だ。

もう一つが買い取りオプション。その時点でのローン残高と同額で物件を買い取ってもらえるため、以降の返済は発生しない。

なお、オプション行使が可能となる「残価設定月」は、その家の資産価値、つまり残価に応じて設定される。

残クレ型ローン対象となる住宅や金融機関は限られている

一番のメリットは、収入減への対応だ。例えば35歳でフラット35を利用して融資を受けたとする。JTI方式で、もし20年目に残価設定月を迎えたと想定すると55歳だ。一般的な民間企業では、ちょうど役職定年を迎え収入が目減りする年齢に当たり、家計の収支が悪化しかねない。収入減少期に合わせてローン負担を軽くできるなら、残クレ型住宅ローンのメリットは大きいだろう。50代でまだ子どもの教育費を負担している家庭も少なくないからだ。

いいことずくめに思えるが、注意点もある。この制度を利用して残クレ型住宅ローンを組む場合、JTIに認定されたハウスメーカーや工務店で建てた長期優良住宅でないと対象にならない。加えて、このローンを扱う金融機関がまだ少ないという実情もある。ローン金利を比較して、なるべく金利の低い銀行を選ぶ――という、住宅購入における当然の選択ができないことは、大きなデメリットだろう。

「所有者」ではなく「管理義務を負う居住者」という意識を

利用例がまだ少ない住宅ローンだけに、消費者にとってその選択が吉と出るのかジャッジするのは難しい。が、このローンが主流になっていくには、私たちの意識を変える必要があるだろう。「マイホームを買った」のではなく、「居住する権利料を払っている」のだと。

先に書いた通り「残クレ型住宅ローン」を利用できるのは長期優良住宅の認定を受けた住宅で、定期的な点検を受けて耐久性の維持に必要な修繕をすることが義務付けられている。

国土交通省が思い描くのもZEH水準・長期優良住宅等の将来価値の高い住宅で、それらが将来、中古住宅市場で取引されることを期待している。マイホームのつもりでも、いずれは誰かの手に渡すものだという認識で住まなくてはならない。

今や使わなくなった洋服や生活家電を中古市場で取引し、次の人に渡すのは当たり前になりつつある。残クレ型ローンを後押ししようとする政府は、資源を繰り返し使う循環経済の輪に、住宅も組み入れていく図式を描いているのだろう。

実家じまいや空き家問題が深刻化する未来を鑑みれば、残クレ型住宅ローンの推進は大いなる社会実験の一歩だとも言えそうだ。