「島原万丈のリフォーム・リノベーションニュースピックアップ」とは?

LIFULL HOME'S総研 所長で、一般社団法人リノベーション協議会設立発起人・エグゼクティブアドバイザー、リノベーション・オブ・ザ・イヤー審査委員長の島原万丈が、「住」をテーマに独自の観点でニュースをピックアップし、豊富な経験に基づくコメントとともに伝えるコーナー。今回はリノベーションまちづくりについて取り上げる。

ニシイケバレイがグッドデザイン金賞受賞

公益財団法人日本デザイン振興会は10月15日、2025年度グッドデザイン賞の受賞結果を発表。街区再開発による複合住宅群 「ニシイケバレイ」が2025年度グッドデザイン金賞に選ばれた。

【今回ピックアップするニュース】
街区再開発による複合住宅群 「ニシイケバレイ」が2025年度グッドデザイン金賞を受賞(PR TIMES)


グッドデザイン金賞を受賞した「ニシイケバレイ」には、築70年超の木造平屋、新築のRCマンション、昭和のアパート、平成のRCマンションまで、年代も構造もボリュームも異なる建物が混在している。通常なら異種混在は“統一感の欠如”で煩雑な印象を与える。しかしここではそれらがバラバラに主張するのではなく、まるで建物同士が呼応し合うように一体感のあるランドスケープを作り出している。なぜこの風景が可能になったのか。それは、建物と建物のあいだが丁寧にデザインされているからだ。

まず、一度に全部を計画しきらず段階的に整備されたことが大きいのだろう。段階的な建築行為によって、リノベーションであれ新築であれ、既にそこにできあがっている風景を引き受けるようにデザインされ、敷地の境界は曖昧に仕上げられている。そしてもうひとつ、緑の多さにも秘密があると思われる。

ニシイケバレイの土地は、道路を含めてすべてが私有地である。そのためアスファルトを剥がし、多様な樹種を植えることができた。建築をそろえるのではなく、緑で地面を連続させたのである。緑が建物の古さや新しさや構造の差異を中和し、バラバラの建物を風景のパーツとして統べている。建物と建物のあいだを庭や軒先、路地の緑が媒介することで、空間は“区画”ではなく“環境”として感じられる。

ここから、まちづくり一般への示唆が得られる。日本の都市開発は往々にして敷地に限定して考えられ、建物のボリュームがまっさきに議論になる。また、建築家がデザインを頑張れば頑張るほど隣の既存建物との断絶は大きくなる。しかし、人が都市を感じるのは建物の中ではなく、建物と建物のあいだである。ニシイケバレイは、建物を主役にせず、外部空間をデザインし直すことで街区を再生した。都市の居心地は建築物ではなく、その隙間に生まれる環境に宿る──そのことを、この小さな谷は静かに証明している。

建物を主役にせず街区を再生。ニシイケバレイがグッドデザイン金賞受賞建物を主役にせず街区を再生。ニシイケバレイがグッドデザイン金賞受賞

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