エアコン掃除をしていたらコウモリが

アブラコウモリアブラコウモリ

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本掲載では、弁護士ドットコムニュースの記事をもとに、弁護士の視点を交えた解説記事や時事問題の法的分析を解説する。今回は、物件の獣害に関する事例を紹介する。
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「エアコンからコウモリが…」

そんな衝撃的な体験談がXで話題になった。

投稿者によると、学生時代にアパートを退去する際、エアコンの掃除をしたところ、中からコウモリの死骸が出てきたという。あまりのショックに当時は誰にも話せなかったそうだ。

住宅地でよく見られるのは「アブラコウモリ」という種類。国交省のサイトには「昼間は家屋を隠れ家とし、壁の中、壁と壁板の間、瓦の下、天井裏、戸袋の中などを利用している。最近はビルの通風口なども利用する」とある。

コウモリは鳥獣保護法で保護されており、捕獲や殺傷は禁止されている。しかし、野生のコウモリは病原菌を持つ可能性があり、接触すると感染症やアレルギーを引き起こす危険性がある。そのため、住居に侵入した場合には、例外的に駆除が認められている。

弁護士ドットコムにも「借りている家にコウモリが侵入してしまったが、不動産会社や大家が対応してくれません」「購入した建売住宅にコウモリがいるようでテラスに糞害が出ているが、ハウスメーカーに損害賠償を請求できますか」といった相談が寄せられる。

では、借家や新築住宅でコウモリ被害に遭った場合、誰が駆除すべきなのだろうか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。

駆除は基本的に借主側の責任

──住居にコウモリが侵入した場合、駆除の負担は誰にあるのでしょうか。

基本的には、獣害(野生動物による被害)は「自然現象」に近い扱いとなります。台風や地震などの「不可抗力」と同様に、貸主や売主はこれを防ぐ義務はありません。

賃貸物件と売買物件では違いがあります。

賃貸物件の場合、「継続的契約」であり、借り始めから退去まで一定の期間が続きます。これに対して、売買契約は「一回的契約」で、物件の引き渡しをもって関係が終了します。

売買では「売買時点」に物件が欠陥を抱えていないかが重要であり、引き渡し後に生じた欠陥については、欠陥の原因が売買時点以前にない限り、原則として売主に責任はありません。

一方、賃貸の場合は賃貸期間中という長いスパンに欠陥が何回も発生する可能性があり、その都度、状況に応じて責任が問われ、貸主(大家)に修繕義務、借主に通知義務が発生します。たとえば、ネズミの侵入をめぐって、入居者が駆除の責任を負うとした判例(東京地裁平成21年1月28日判決)があり、基本的に貸主には責任はありません。

なお、飼育されている動物による被害の場合は、その飼い主が責任を負います。

貸主に責任が問われる場合

──基本的には借主側の責任とのことですが、例外はありますか。

貸主が責任を負うのは「物件が通常有する性能・品質を欠いている場合」です。

たとえば施工不良や経年劣化で穴や隙間ができて、そこからコウモリやネズミが侵入したケースでは、貸主に修繕義務(民法606条1項)と損害賠償責任(民法415条)が生じます。

貸主には「物を使用・収益させる義務」(民法601条)があり、それを果たさない場合には「貸す債務」の不履行とされます。

貸主に求められる対策は?

貸主に求められる対策は?

──貸主はどのような対策を講じるべきでしょうか。

シロアリやコウモリなど、たとえば、建物の構造に影響する害獣被害については、貸主が補修対応すべきです。

借主は欠陥を発見した際、速やかに貸主へ「通知」する義務があります(民法615条)。通知を怠って被害が拡大した場合、逆に、借主が賠償責任を負う可能性もあります。

また、共用部分や周辺環境が原因で被害が発生した場合、たとえば鳥が集まる樹木を敷地内に植えて、糞害が発生したり、鳴き声が騒音レベルに至った場合、貸主に責任が認められることもあります。

コウモリが出てきたエアコンは誰のものか?

コウモリが出てきたエアコンは誰のものか?

──今回の投稿では、エアコンの中からコウモリの死骸が出たとのことですが…。

重要なのは「エアコンの所有者は誰か」です。

もし備え付けのエアコンが借主の所有物であれば、管理責任は借主にあります。いわゆる「ゴミ屋敷」にして生活環境が不衛生になっていたり、物件に穴を開けるなどして害獣が侵入した場合も、借主が責任を負います。

また、これらの欠陥や問題を貸主に通知せず放置した場合、借主は損害賠償義務が発生する可能性があります。

──売買物件ですでにコウモリがすみ着いていた場合は?
原則として、引き渡した後に発生した害獣は不可抗力として、売主に責任はありません。

しかし、売却時にすでに獣害の原因となる穴や隙間が存在していた場合や、質問にあるような害獣がすでにすみ着いていた場合には「契約不適合責任」(民法562条〜564条)が生じます。

なお、新築住宅では、「アフターサービス基準」を設けていることが多く、獣害について規定がある場合は、その内容に従って売主と協議する必要があります。

トラブル回避のために

──野生動物によるトラブルを防ぐには?

まず、家主や売主と「獣害に関する取り決め」をしておくことが重要です。また、物件選びの段階でも以下のポイントに注意しましょう。

・コンクリート造:隙間が少なく、シロアリにも強い
・築浅物件:劣化による穴や隙間が少ない
・高層階:害虫・害獣の侵入リスクが低い
・内見時の観察と聞き込み:排水口や隙間、水漏れ跡、カビの有無をチェック。近隣住民の話も参考にする

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