2025年4月から主要行が変動金利を0.15~0.25%引き上げ
住宅ローン金利の先高観がいよいよ強まってきた。
これまで、日銀は長期金利の引き上げとイールドカーブコントロールの取りやめによって、世界経済の動向を反映した金融市場の動きをある意味そのまま受け入れる方針に転換し、国債の売買市場活性化によって自然に長期金利が上昇する方向に導いていた。
その結果、2024年後半以降住宅ローンの固定金利と連動している長期金利:新発10年物の国債の金利は、じわじわと上昇を続けていて、新規住宅ローン借り入れの70%程度が変動金利とされるなかにおいては、極めて大きな変化ではないものの今後の金利の上昇懸念が高まる状況にあったが、2025年4月以降は短期金利や短プラに連動する変動金利も引き上げられることにより、固定でも変動でも住宅ローンはこの先確実に上昇する可能性が高いと方向づけられたことになる。
具体的には、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行、りそな銀行の大手五行は、2025年4月から変動型の基準金利を年2.625~2.875%に引き上げ、最優遇適用後の貸付金利は0.525~0.730%となる。3月以前は0.4%台の住宅ローン商品も散見されたが、4月以降ではSBI新生銀行の0.430%(さらに頭金10%で0.410%)一行のみとなった。
止まらない円安による住宅資材価格の高騰に加え、2024年以降有効な解決策が見いだせない建設業・運輸業就業者への残業規制に端を発する人件費の上昇、そして安定的な地価上昇、という“トリプルコストプッシュ”による住宅価格の急激な上昇には以前歯止めがかかっておらず、住宅ローン金利の低位安定だけが住宅購入に向けての“希望の光”となっていたが、唯一買ってもよい前提条件までもが上昇することになったため、今後の住宅購入、特に新築住宅の購入については計画を再検討する必要に迫られるユーザーが増えるものと考えられる。
一方、主要行の35年固定金利は、4月から2.410~3.890%とこちらも高水準で推移し始めており、金利の先高観は強いものの、依然として変動金利と固定金利の差は2.0ポイント前後と大きく開いているため、当面は変動金利での借り入れを検討するユーザーが多くを占める可能性が高い。ただし、住宅ローン金利の上昇局面が明確になったら“変わらない安心”を手に入れるために敢えて35年固定金利で借り入れたいというユーザーも徐々に増加しているから、この金利の推移如何によっては、固定金利のシェアが拡大し始めることも推測される。
同じく2025年4月から開始された新築住宅への省エネ適合義務化によって、建設コストは当面下がらない公算が大きいから、住宅価格は今後も上がり続ける可能性が高いとされるなか、住宅ローン金利の上昇は購入を検討するユーザーにどのような影響を与えるのか、また金利の先高観について有効な対策や考え方はあるのか、住宅ローンと金利の動向に詳しい有識者に“もし仮に自身が住宅ローンを活用して住宅購入するなら”という視点でイマドキの購入戦略を聞く。
※本稿は4月の金利を基に作成しています。最新の金利はご自身でご確認ください
金利上昇と多様化時代に備える、変化に強い住まい選び ~ 榊原 渉氏
榊原 渉:1998年3月早稲田大学 理工学研究科 建設工学専攻 修了。1998年4月株式会社 野村総合研究所 入社。2017年4月グローバルインフラコンサルティング部長。2020年4月コンサルティング人材開発室長。2021年10月北海道大学 客員教授(現任)。2022年4月サステナビリティ事業コンサルティング部長。2023年4月兼 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長。2024年4月兼 コンサルティング事業本部 統括部長。2025年4月コンサルティング事業本部 パートナー。専門は、不動産・住宅、建設・エンジニアリング、電力・エネルギー関連業界の経営戦略・事業戦略立案・実行支援
2025年4月、住宅ローンの変動金利がついに引き上げられた。これは住宅取得を検討する層にとって重要な転換点である。これまで金利の低位安定によって成立していた「買える前提」が、今後は成立しにくくなる可能性がある。
同時に、現代の社会では「ライフスタイル」や「ライフステージ」が多様化しており、住宅に求められる役割も画一的ではない。長期居住を前提とする者もいれば、資産形成やライフイベントに応じて住まいを見直す者も増加している。このため、「今、住宅を買うべきか」という問いに対しては、単一の正解を求めるのではなく、自身の人生設計や資産構成との整合性を踏まえながら柔軟に考える必要がある。
1. 「価格×金利」の総支払額を重視する視点
金利上昇と住宅価格の高止まりが同時進行している状況において、注目すべきは「月々の返済額」ではなく「35年間の総支払額」である。住宅価格が多少高くとも低金利で借り入れた場合と、割安な物件を高金利で借りた場合では、後者の方が、結果的に総支払額が増える可能性がある。
このため、「今は買い時か」という短期的な判断ではなく、「長期的に持ち続ける価値があるか」や「将来の金利リスクに耐えられるか」といった視点で検討することが求められる。住宅は資産であると同時に、人生のインフラである。金融環境の変化に耐え得る検討が重要となる局面に入ったといえる。
2. 段階的な取得と「時間の分散」という戦略
理想の住まいを一度に購入するのではなく、段階的に資産形成を進める「時間の分散」の戦略も有効である。以下のようなモデルが考えられる。
①中古住宅や小規模な一戸建てを、比較的価格が安定した地域で取得し、初期投資を抑える。
②ライフステージや家族構成の変化に応じて、将来的な買い替えや建て替えを視野に入れる。
③将来売却や住み替えを検討する場合でも、流動性のあるエリアや一定の賃貸需要が見込める立地を選び、選択肢を確保する。
これらの考え方は企業における「段階投資」や「オプション戦略」に近い。不確実性の高い環境では、初期にすべてのリスクを取らず、選択肢を残すことが合理的な経営判断となる。同様に住宅取得においても「一発勝負型」ではなく、変化に応じて戦略を柔軟に調整できる構えが必要である。
3. ローンを「負債」ではなく「インフレ耐性の金融手段」と捉える
住宅ローンは借金であるが、インフレ環境下では「将来の貨幣価値で支払うことができる有利な金融手段」として考えることができる。特に固定金利型ローンであれば、金利上昇や物価上昇に対して予見可能性の高い支出設計が可能である。
将来の金利動向を確実に予測することは不可能だが、「安心して持ち続ける」ことを重視する場合、全期間固定型や固定比率の高いミックス型ローンが有力な選択肢となり得る。ローンを単なる負債とみなすのではなく、「生活の安定を支える装置」として活用する視点が重要である。
住宅は「ゴール」ではなく「出発点」である
住宅はもはや「一生住むためのゴール」ではなく、ライフスタイルや資産設計と連動する「柔軟なプラットフォーム」へと変化している。したがって、「今すぐ買うべきか」を判断する際には、市場動向や金利だけでなく、ライフステージ・働き方・家族構成など複数の変数を掛け合わせて検討する必要がある。
「買えるかどうか」ではなく、「持ち続けられるか」「将来の選択肢を確保できるか」に主眼を置くべきではないだろうか。住宅購入は人生における「選択と集中」の一つに過ぎない。このため、購入の判断も変化を前提とした柔軟な設計と、リスク分散を意識した戦略的思考に基づくべきである。住宅は買った瞬間が終点ではない。むしろその後の暮らし方こそが、最も重要な意思決定であるべきだろう。
今後の住宅購入に際して住宅ローン金利の先高観をどう考えるか ~ 矢部 智仁氏
矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中4月に入り都市銀行各行の変動金利の基準金利(中央値、イー・ローン調べ)は2.875%と前月比+0.250%の上昇、また銀行により対応に差(引き下げた銀行もあった)が出た長期金利(新発10年物の国債利回り)の上昇を受けた固定金利の最低金利の変動は固定5年で1.650~1.800%、固定10年で1.850~2.000%の幅で若干の上昇が見られた。
冒頭の指摘通り金利上昇「傾向」を感じる状況だと言えなくもないが、足元の変動幅はまだ小さいものであり、にわかに消費者の態度に影響を与えるものではないと考える。もし自身が現状においてどんな判断をするかと問われれば、現状程度の変動幅水準で需要意欲を低下させることはないだろう。しかし、長期で見た際には悩ましい状況に入ったとも言える。
一般的に住宅取得では住宅ローンという支払い手段を手に入れ、それを住宅商品と交換して取得する方法と販売価格を分割し割賦払いで取得する方法が考えられる。どちらの取得方法も消費者の見た目の行動(金銭の定期支払い)には一見変わりがない。違いは住宅ローンという「商品」をどうやって有利にかつ将来に向け安心に手に入れるかの選択をする必要があることだ。どんな住宅商品を選択するかだけでなくその支払い(交換)手段自体も選択する必要があるのだ。
選択の際の軸は人それぞれ。より低金利で返済総額を圧縮すること、将来のライフステージの変化を見越した選択のしやすさあるいは逆にライフステージの変化に備えた安定性など、商品を入手するには多様な価値観がある。
先ほど長期で見た際には悩ましい状況と書いたが、住宅ローン商品の入手に際し当初固定金利・将来に変動金利型に移行する場合や全期間変動金利型では、市中金利の変動幅によって返済総額が当初の思惑からずれる可能性もある。その変動リスクを嫌い(変動金利よりも高い固定金利という)+αの利払いでヘッジする選択の一例が全期間固定型というわけだ。
将来の変化に対するリスクヘッジ策の選択肢の現状はどうなっているのか。住宅金融支援機構による『住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(2024年10月調査)】』の結果を参考にすると、利用した金利負担タイプは変動金利型が77.4%、ここ数年の結果でも70~80%の間で大きな変化はないが、融資率(融資額÷住宅価格)70%以下の割合が36.6%、返済負担率(年間返済額÷世帯年収)20%以内の割合が60%超となったことはいずれも2021年以降で最も高い割合であった。
変動金利型のメリットを享受しながらリスクヘッジを考えた行動の現れといえそうだ。またトピックとして調査回答の12.8%がミックスローン(異なる金利タイプを組み合わせた住宅ローン)として変動金利型と固定金利型を同額ずつ借り入れる利用方法を選択したとの回答もあった。将来の環境変化を睨みながら支払(交換)手段である住宅ローン商品選択の工夫が顕在化していると言えそうだ。
個人的にはローン商品の入手の工夫以上に重要なことがあると考える。それは手に入れた住宅不動産の市場価値の変動について考えるべきだという点だ。返済支払いの対象である所有不動産の将来価値が上昇するか下落するか(支払った金銭に見合った価値が維持されるのか)への関心が高まることは当然だ。冒頭にもあったように資材価格や人件費の高騰、建設時の要求性能の変更による高性能化など当初価格が下がる要素が少ない中、価値を維持できるかは保有時の維持管理や追加投資が不可欠だ。
ローン商品の選択はできても金利動向自体は個人で制御不可能なのに対し、住宅の選択は制御可能なわけで、そもそも価値を下げない要素(利便性、希少性、管理組合の構成など)を重視した住宅選びの方が重要ではないかと考える。
住宅市場を取り巻く状況に先行き不透明感が高まるなか、借入比率と金利タイプを再考 ~ 吉田 資氏
ニッセイ基礎研究所の推計によれば、東京23区の新築マンション価格(2024年)は前年比+13%上昇した。エリア別では、資産性を重視する傾向が強まり「都心」は前年比+29%、「タワーマンション」は前年比+25%上昇した。
新築マンション価格が上昇し、ローン借入を前提にマンション購入を検討する消費者が多いなか、長期固定金利住宅ローンである「フラット35」の金利は、2022年以降上昇傾向で推移し2%の水準に迫っている。
また、トランプ政権による相互関税の発表を受けて、株価の下落や円高が進行しており、資産効果の剥落や海外富裕層のマンション購入意欲に影響を与える可能性がある。
このように、住宅市場を取り巻く状況に先行き不透明感が高まるなか、住宅ローンを活用し住宅購入を検討する際、①自己資金とローン借入額の割合と、②金利タイプの選択は、これまで以上に重要になるだろう。
「①自己資金とローン借入額の割合」について、住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」(2024年10月調査)によれば、「融資率(住宅ローン融資額÷住宅価格)」は、9割以上との回答が約4割を占めている。かつて、住宅を購入する際は、住宅購入価格の約20~25%を目安に資金を準備しておくのがよいといわれたが、自己資金が価格の0%~10%程度で購入するケースが増えているようだ。
しかし、ローン借入額が大きいと毎月の返済負担は大きくなり、返済期間が長くなる傾向となる。三井住友トラスト・資産のミライ研究所「全国エリア別に紐解く住宅ローンの利用実態」によれば、約2割の世帯が世帯年収の4割以上を住宅ローン返済に充てており、返済設定期間も、4割超の世帯が「35年以上」となっている。また、インプルーブメント「住宅ローン金利上昇に関する意識調査(2025年3月)」によれば、変動金利の住宅ローン利用者の約4割が、既に返済負担の増加を実感しているとのことである。以上の状況を踏まえると、家計への影響を抑えるために、住宅購入価格の2~3割の自己資金は準備したい。
「②金利タイプの選択」について、前述の住宅金融支援機構の調査によれば、利用した住宅ローンについて「変動型」との回答が約8割を占めた。一方で、民間調査機関の予測の多くが、金利は現在の水準から上昇する見通しとなっている。仮に金利上昇幅が大きい場合、ローン返済額が変わらない「固定型」金利のメリットが大きいといえる。しかし、将来の金利上昇幅を正確に見通すことは難しい。そこで、「ミックスローン」を選択肢に加えたい。「固定型」と「変動型」を組み合わせることで、金利変動リスクの低減と、現時点の低い金利の恩恵を一定程度受けることができる。住宅金融支援機構の調査によれば、ミックスローン利用者は住宅ローン利用者の約1割で、そのうちの約6割が「変動型」と「固定型」の借入額を同額としているとのことである。
先行き不透明感が高まるなか、住宅ローンをこれから利用する、あるいは既に利用している場合も借入比率と金利タイプを、今一度検討する必要性が高まっているだろう。
変動・固定の選択よりも「いくら借りるか」が重要 持ち家・ローン完済をリタイア前に ~ 岡本 郁雄氏
岡本 郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ人生100年時代と言われる中で、人生の後半戦に幸福な状態を示す「ウェルビーイング」実現の扶助となるのが、快適に暮らせる住まいを自ら保有していること。加えて、早期に住宅ローンを完済していれば、金銭的に余裕も生まれ好きなことにお金と時間を使うこともできる。筆者は、住宅ローンをすでに完済しているが、キャッシュフローもバランスシートも良くなる持ち家・住宅ローン完済は、新NISAより確実に資産形成につながると実感している。
住宅購入時に、購入資金がどれだけあるかは重要で、20代から余裕資金を投資に回すことで早めに資産を形成することはできる。資産運用リスクがとれるのは、若い人の特権で余裕資金を株や債券などで運用することで、資産を大きく増やすことも可能だ。しかし、昨今は生活費の負担が増しており余裕資金の捻出は、容易ではない。また、金利上昇局面ではあるものの、2000年代と比べて遥かに金利水準は低い。今の購入環境で、余裕資金ができたら住宅を早期に購入するのは理に適っていると思う。
住宅ローン金利の上昇局面でもあり、変動金利と固定金利のどちらを選ぶか悩ましいところではある。金利上昇リスクを抑えるためには、一定の金融資産を保有するなど無理のない資金計画を立てることが重要だ。筆者なら、キャッシュフローを踏まえつつ、借入額を抑える計画を立てるだろう。また、今の変動金利と固定金利の金利差を踏まえると、変動金利を選ぶ可能性が高い。借入額が小さく返済期間が短ければ金利上昇リスクも限定的だ。
自己資金が少ないにもかかわらず年収の10倍程度のマンションをフルローンで購入する人がいることに少々驚いている。たとえ金利が低くても借入額が大きければ、元本返済に充てるお金の行き先が決まってしまう。60歳で、老後資金2,000万円を確保するためには55歳前後の時点で住宅ローン完済の目途は立てたいところ。40歳前後で、35年ローンを組むようなことは避け、50代で完済可能な住まいの選択をするだろう。例えば、借入額が2000万円程度で返済期間20年なら変動金利でも金利上昇リスクは限定的だ。
都心のマンション価格は高騰するいっぽうだが、幸い、値頃感のあるマンションや戸建ては、首都圏を見渡せばたくさんある。公益財団法人東日本不動産流通機構発表の2025年3月度の中古マンション成約m2単価、中古一戸建住宅成約価格は、ともに埼玉県、千葉県、神奈川県において前年同月比で下落している。低金利を活かしつつ、自分価値の高い住宅を選ぶという選択肢があることも認識しておきたい。
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