資材価格・人件費の高騰で東京都下などでも“億ション”住戸供給 価格上昇も売れ行き順調
グラングリーン大阪の開発に盛り上がりを見せる大阪。分譲マンション「THE NORTH RESIDENCE」は、JR大阪駅北側の「うめきた2期」エリアに建築され、最上階の約305平方メートル2LDK住戸の販売価格は関西最高額となる25億円で設定された2021年以降4年以上続く円安の進行により、資材価格の高騰および高止まりが続いている。また建設業・運輸業の2024年問題:残業時間規制を契機として、住宅建設にかかる人件費の上昇にも歯止めがかかる状況にはなく、住宅地価の安定的な上昇と合わせて、“住宅建設のトリプルコストプッシュ”による物件価格の上昇は、年を追うごとに顕著になっている。
この状況を反映して、東京都心の新築マンションは平均で1億円を突破する状況が2年以上続いており、坪単価も700万円、1,000万円超などの“派手な価格”での分譲が継続している。一方、立地条件に優れた都心の中古マンションも2億円、3億円という価格で流通する住戸が少なくなく、なかには10億円、18億円といった“局地バブル”を思わせる価格帯での売買事例もあり、特にマンションの価格は1990年代初頭のバブル期を遥かに凌ぐ水準にまで高騰している。
この状況にあっては、一般的な所得者層が東京や大阪などの市街地中心部で物件を購入するには極めてハードルが高く、郊外方面へと拡散する購入ニーズに合わせて、より物件価格が安価な都市圏郊外エリア、もしくは準郊外エリアでの新築マンション分譲が明らかに増加し始めている。
実際に、開発エリアを都心・近郊から郊外もしくは地方圏に完全にシフトしているマンション・デベロッパーも少なくないから、当面は実需物件を中心に、郊外&準郊外でのマンション分譲(および戸建分譲)が活性化するものと考えられる。特に郊外エリアでの事業期間が長期化する大規模マンションでは、開発用の用地取得が地価上昇以前の比較的早い時期に完了しているケースもあり、価格が相対的に割安に見える物件や値ごろ感のある物件がまだ残っていることから、急速に人気が高まる状況にある。
ただし、郊外&準郊外および地方圏でのマンション分譲活性化は、“ローカル億ション”が着実に増えている例を挙げるまでもなく、今後も現況の価格で分譲が継続される保証はない。これまでマンション分譲プロジェクト自体が少なかったエリアでのニーズの掘り起こしが奏功した結果とも言えるが、今後どこまで価格上昇にユーザーニーズが追従できるのかは不透明と言わざるを得ない。
都市圏中心部での異常とも思える価格高騰により、分譲マンション市場は郊外方面さらには地方圏へと供給エリアを拡散させている状況にあるが、地方移住意向も含めてニーズは今後も潤沢と言えるのか、物件供給は継続するのかなど新築マンション市場の変化について有識者の意見を聞く。
供給エリアの選定では需要とのミスマッチに留意が必要 ~ 菅田 修氏
菅田 修:(株)三井住友トラスト基礎研究所 上席主任研究員。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院ファイナンス研究科修了。主に、賃貸マンションの賃料予測を中心とした住宅市場全般や、各プロパティタイプの期待利回り予測等の不動産投資市場に加え、「不動産としてのデータセンター」をキーワードにニューアセットへの投資動向についても精力的に調査・分析を行っている2025年4月に入り、アメリカのトランプ大統領が多くの主要国に対して関税率を引き上げることを公表したことに伴い、株式市場をはじめ様々なマーケットに大きな影響を与えている。日本でも日経平均株価が乱高下する事態に見舞われていることに加え、長期金利も短期的に大きく変動している。
タイムリーに市場動向が変化する株式や債券などの上場市場とは異なり、不動産市場は流動性が低いことが影響して、ビビッドに価格が変動することは少ない。ここ数年の住宅価格をみると、首都圏を中心に価格高騰が指摘される状況が継続している。その反面、日本国民の実質所得は改善が見られず、供給サイドが売り出している物件と需要サイドが求める物件の間にはある種のズレが生じつつあると指摘されるケースも散見される。
ここ数年の首都圏における分譲マンション供給はどのように推移しているのだろうか。今後の供給動向を推し量ることも考慮し、今回は着工戸数の推移を確認する。近年、住宅価格の高騰やリモートワークの浸透に伴い、郊外での供給が増えていると指摘されている。1都3県合計の分譲マンション着工戸数は、コロナ禍前の2015~2019年の5年平均で6万戸/年の水準を超えていたのに対し、2020~2024年の5年平均は約5.2万戸/年と15%を超える減少となっている。供給されているエリアを確認すると、上述の5年平均で比較して、神奈川県は3.2%減、埼玉県は9.0%増、千葉県は2.6%増となった。その一方で、東京都は24.7%と大幅に減少しており、東京都以外の供給が大幅に増えたと言うよりも東京都の供給が大幅に減少したことで相対的に郊外での供給の増加が目立って見えるのが実態と考えられる。
次に、需要サイドは今の市場動向をどのように感じているのだろうか。2024年10月に住宅金融支援機構が実施した調査では、今(今後1年程度)を「買い時だと思う」「どちらかと言うと買い時だと思う」と回答した割合が54.4%と過半数を超えている。その理由として、「住宅ローン金利が上がりそう(42.0%)」、「住宅価格が値上がりしそう(36.9%)」を挙げる回答者が多く、住宅価格の高騰で買いづらくはなっていても、今と比べてさらに経済条件が悪化することを懸念して住宅購入を検討している需要者が多いことがうかがえる。
また、エリア選択に関して、当社が2025年2月に実施した東京23区に居住している方を対象としたWebアンケート(関連レポート「住宅補助金が若年層の住居選択に与える影響」を当社HPに掲載)では、「東京23区に住み続けている理由」を質問している。その結果、「通勤/通学がしやすいため」と「交通利便性が高いから」が50%を超えており、交通利便性を重視する居住者が多いことがうかがえる。それに加え、「実家が近い/東京23区で育ったから」との回答が27.7%となり、地縁があることが東京23区の居住理由となっている割合も相応に高い。
近年は、共働き世帯の割合が高まってきていると言われているが、子育てしながら夫婦共に仕事を継続するには、実家に近いなどの理由がなければ、郊外居住では時間的余裕が持ちにくい。このことは、価格高騰で郊外化が指摘されていた平成バブル期やリーマンショック前後よりも価格だけの理由で郊外居住を選択することは難しいと感じる需要割合が高まっていることを示唆しているように感じる。少子化対策が国家問題となっている昨今の社会情勢を鑑み、共働き世帯の生活環境を考慮すると、通勤負担が軽減できる東京都(特に23区)での住宅供給が少なくともコロナ禍前の水準に戻ることが望ましいだろう。
現状の供給エリアは、需要と供給のミスマッチが生じている可能性が高く、ニーズに応じて適切に物件供給ができる経済環境となることが望まれる。
郊外の価格優位性が薄れるなか、住民・地域コミュニティ活性化の取組みが求められる ~ 吉田 資氏
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京ではテレワークが急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2023 年4月以降、40%台で推移しており、2025 年3 月は43%となった。テレワーク実施率は、新型コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している。
テレワークの普及とともに、働き方にも変化が生じている。ザイマックス総研「大都市圏オフィスワーカー調査2024」によれば、首都圏のオフィスワーカーに勤務形態をたずねたところ、「ハイブリッドワーク(50%)」との回答が最も多く、「完全出社(47%)」を上回った。首都圏では、テレワークを取り入れたフレキシブルな働き方(ハイブリッドワーク)が定着している。
ハイブリッドワークが定着するなか、郊外・地方居住への関心は徐々に高まっている。ニッセイ基礎研究所「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」によれば、「在宅勤務を利用したり、転職したりして、郊外や地方に居住したい」との設問に対し、「そう思う」は5.4%、「ややそう思う」は15.9%であり、合わせて約2割が、移住への希望を持っていた。また、内閣官房「第6回 新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、東京圏在住の20代のうち、約半数が地方移住への関心を持っていると回答した。
ところで、テレワークの頻度が増えて、バーチャルでのコミュニケーションが増えると、リアルでのコミュニケーションが一層重要になるとの指摘がある。コロナ禍以降、オフィス環境整備を行う際に、従業員のコミュニケーションの場として、オープンスペース等を設ける企業も多い。
「働く場所」だけなく、「住む場所」でもリアルでのコミュニケーションが重視されるようになっている。特に大規模なマンションでは、管理組合等を円滑に運営するために、住民・地域コミュニティの醸成が必要であると指摘されている。また、前述の内閣官房の調査でも、地方移住の懸念点について、「仕事や収入」に次いで、「人間関係や地域コミュニティ」を挙げる人が多かった。住民・地域コミュニティの形成は、「安全に(防犯等)」、「楽しく(イベント等)」、「安心した(高齢者の見守り等)」暮らしに寄与すると考えられ、今後、一層重視されると見込まれる。
郊外の新築マンション価格水準は、都心部に比べれば高騰していないものの、価格上昇スピードが増しているエリアもみられる。郊外でマンション開発を行うデベロッパーは、価格優位性が薄れるなか、建てて販売するだけではなく、住民・地域コミュニティの活性化に向けた取組みを今まで以上に求められるだろう。
首都圏郊外のマンション市場が縮小し、アッパー層中心のマーケットに ~ 北川 友理氏
東京都心の分譲マンション価格が高騰したことで、実需で購入を検討する一次取得層は世帯年収2,000万円のパワーカップルも含め相当数が都心市場から脱落した。
購入しているのは、主に外国人のほか、投資や相続税対策を購入目的とする国内富裕層、法人客だ。販売方法はインナーセールスが多く、価格は相対で決まる傾向が強まっている。不動産価値を担保しているのは、転売益というキャピタルゲインへの期待と過去の転売実績で、局所的バブルの様相になっている。
坪単価6,000万円の住戸が今後供給されるとも言われる。こうした環境下で一部の購入検討者は東京都心から首都圏郊外に向かっているが、郊外での開発が盛んになりマーケットが拡大する可能性は低く、むしろゆるやかに縮小していく見通しだ。
販売価格の上昇にもかかわらず、首都圏郊外の分譲マンション市場は今のところ表面上は堅調だ。需給バランスが適正であることが最大の要因で、局所的な供給過多が生じたエリアの物件でも時間をかければ値下げをしなくても売れている。現在販売中の大規模物件の中には用地取得の時期が早かった分、販売価格が低めに設定できて非常によく売れている事例も複数ある。
だが、長らく一次取得層の引き合いが中心だった首都圏郊外のマンション市場は大きく変わった。すでに地元の購入検討者の購買力は追い付かなくなっている。5年ほど前にファミリーマンション住戸の相場が4,000万円を切っていたエリアも今は平均6,000万円台だ。
現在、首都圏郊外の新築マンションを購入している地元客はおおむね代々の地主や士業関係者ら富裕層・高所得層が中心だ。最も多い顧客は東京都心から流れてくるDINKS、パワーカップルら。上述した値ごろな価格帯の大規模物件も地元の購入検討者の大勢にとっては割高で、市内や近隣からの購入はおおむね3割ほどにとどまる。
今後はこの傾向がより強まりそうだ。マンションデベロッパーの首都圏郊外での選択肢は限られる。新たな主要顧客となった地元の富裕層・高所得層や、沿線沿いに東京都心から移ってくるパワーカップルらに選ばれるのは、より厳選したピン立地の、より付加価値と希少性の高いシンボリックな物件だ。具体的には通勤利便性の高い地域のターミナル駅の駅前大規模再開発エリアに建つタワマンなどで、今後供給される物件の平均価格は1億円超えも珍しくない。
そのような物件は投資家の食指も動かす。東京都心の物件の値上がりで手が届かなくなった国内外の投資家の一部も郊外の優良物件を選ぶようになってきた。投資マネーの流入はさらなる価格上昇につながる。東京都心と同様に立地・物件内容の希少価値とキャピタルゲインへの期待が販売を牽引する市場に今まさに向かっている。すでに郊外の物件でも竣工・引き渡しとほぼ同時に2、3割上乗せされた価格で転売される事例が増えている。
価格の上昇はどこまで波及するか。少なくとも通勤1時間ほどの範囲は都心と同様に過熱する状況が予想される。東京都心の物件ほどの上がり幅にはならないが、都心と同様に首都圏郊外も供給規模は縮小し、実需ではなく富裕層・高所得層及び投資家のために厳選された立地の高付加価値の物件が細々と供給される市場となっていくのではないか。
北川 友理:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。京都市出身。1987年10月生。地方新聞記者を経て、2018年に不動産経済研究所入社。以降ハウスメーカー担当
公開日:


