4月の省エネ性能ラベルに続いて11月から省エネ部位ラベルの表示も開始

2024年4月からスタートした住宅性能に関するラベル表示制度(以下「省エネ性能ラベル」)は、新築住宅については努力義務、中古住宅については推奨とされており、現状では強く普及を推進する制度設計にはなっていない。

しかも、省エネ性能ラベルを活用するにあたって、制度開始直後から中古住宅や賃貸住宅はそもそも住宅性能そのものが不明なケースが多くを占めており、詳細を調べて表示するには極めてハードルが高いとの指摘もあったし、コストを掛けて調べても住宅性能が特段高くなければアピール材料にはなり得ない、との意見もあった。

そこで、国はラベルによる住宅性能表示を普及させるため、売買・賃貸の別を問わず、既存住宅を改修・設備交換した際には、改修・交換した部位の住宅性能を表示できる仕組みとして省エネ部位ラベルの運用を開始し、省エネ性能ラベルとは別に11月から制度化した。

この省エネ部位ラベルは、住宅全体の省エネ性能が明らかでない既存住宅を改修した場合に使用できるラベルで、新築住宅はもちろん、中古住宅でも省エネ性能が確認できる物件については、4月にリリースされた省エネ性能ラベルを使う必要がある。したがって、省エネ部位ラベルは省エネ性能が把握できない既存の売買・賃貸住宅を改修した場合に限って使用を認めるということになる。

この省エネ部位ラベルは、窓、給湯器のいずれか、もしくは両方が改修されたケースについて使用可能(必須部位)で、その他7つの部位は付属的な扱い(任意部位)となっているため、例えば外壁やドアのみを改修した場合には使用できない。また、省エネ性能ラベルと省エネ部位ラベルは併用することができず、いずれか一方のみ使用可能となっている点にも注意が必要だ。
※必須部位および任意部位ごとの掲載規定の詳細は一覧表を参照ください。

このように、「省エネ部位ラベル」に記載可能な外気に接する部位、および空調や太陽光パネルなどの設備は規定に該当しているかを確認して表記することが求められている。

ただし、その確認方法については図面などの図書または現況確認とされており、省エネ性能ラベルが表示結果に責任を持てる建築士などの有資格者が想定されているのに対して、省エネ部位ラベルは現状を確認するのに特段の資格が必要とはされていないため、一般の不動産流通事業者・賃貸事業者でもエビデンスに基づいてラベルを発行することが可能なのは、大きなメリットと言える(自己評価であればコストも発生しない)。
売買および賃貸物件で特段性能表示(=アピール)するべき項目がない、もしくは不明である住宅について、部位ごとに改修した事実があればそれをユーザーに訴求できる今回の省エネ部位ラベルは、今後普及する可能性に期待が持てるのか、既存住宅の流通・賃貸に詳しい専門家の意見を聞く。

出典:国土交通省「省エネ基準適合義務制度の解説」住宅における省エネ部位ラベル出典:国土交通省「省エネ基準適合義務制度の解説」住宅における省エネ部位ラベル

建築物省エネ法の改正で生まれる新スタンダード 省エネ化がわかるラベルは部屋探しの鍵を握る ~ 永井ゆかり氏

<b>永井ゆかり</b>:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。現在、「地主と家主」編集長を務める。全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母永井ゆかり:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。現在、「地主と家主」編集長を務める。全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母

誰だって、生活費は抑えたい。しかし、光熱費の負担は増えていく――。
国際情勢によるエネルギー価格や再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の高騰により、光熱費は上昇する見通しだという。
そんな中で無理せず電気代を抑える有効な方法として、断熱性能の高い住宅に住むことが挙げられるだろう。

無論、マイホームであれば、自身で省エネ化のリフォームをしていけばいい。だが、こと賃貸となると、そうはいかない。既存物件については賃貸住宅の所有者である家主がリフォームしない限り、住人である入居者の光熱費負担を軽減することはできない。
ただ家主の省エネ化のリフォームの動きは鈍い。理由は明白で、建築資材をはじめとする工事費などのコストが増加している中、緊急性が低いと思う案件について支出を増やしたくないからだ。そのため、私自身が登壇するセミナーで、窓のリフォームや給湯器交換時に利用できる省エネに関する補助金の話をしても、「すぐに実行しよう」という人は残念ながら少ないような気がする。

とはいえ、4月から新築はすべて断熱等級レベル4以上が義務化され、2030年には新築について断熱等級レベル5以上のZEH(ネットゼロエネルギーハウス)の標準化が計画されている。こうした中で、新築については賃貸住宅の建築大手企業や投資用マンションデベロッパーはすでに2030年を見据えて動いている。建築会社では、大東建託がZEH賃貸住宅の累計契約戸数が10万戸を突破したことを今年2月に発表。2030年までに累計契約戸数40万戸を目指すのだという。積水ハウスもまた、2024年3月末時点でZEH賃貸住宅の累積受注数が4万2562戸ある。2023年度は新規受注の76%をZEHが占めるほど注力する。
一方、投資用マンションデベロッパーも、ZEH物件の開発・販売を強化する企業が目立ってきた。流通の面で見たときにZEHであるかどうかで売却額や融資条件も変わる可能性があるのだという。実際、環境配慮型の賃貸住宅に対してローン金利を優遇する金融機関も出てきており、オーナーが売却する際に有利になることが見込まれる。「耐震基準が改正されたときと同様、省エネ基準についても、『旧省エネ基準』は敬遠され『新省エネ基準』の方が価値はより高くなるのではないか」。このような見解を持つ投資用マンションデベロッパー経営者も複数いる。

以上のように、賃貸住宅の新築界隈ではZEHに注力するプレーヤーが増えている。ZEHまではいかなくても、新築に続々と「省エネ性能ラベル」を表示する物件が増加していけば省エネ物件の存在感が増す。部屋探しのユーザーも省エネ性能をチェックするようになり、「省エネ対応=断熱性能の高い物件」ということが、新スタンダードとして認識される日はそう遠くないだろう。省エネ部位ラベルは新築のラベルと比べてかなり簡素ではあるものの、それだけに一目で省エネ対応しているかどうかがわかる。部屋探しの絶対条件の上位に「断熱窓」や「ハイブリッド給湯器」が入ってくるようになると、賃貸住宅においても一気に省エネ対応リフォームが広まり、部位ラベルも普及するのではないだろうか。

省エネ部位ラベルの普及には住宅検索サイトの率先した取り組みが不可欠 ~ 前真之氏

<b>前 真之</b>:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。専門分野は建築環境工学、研究テーマは住宅のエネルギー消費全般。 学生時代より25年間以上、住宅の省エネルギーを研究。健康・快適で電気代の心配がない生活を太陽エネルギーで実現するエコハウスの実現と普及のための要素技術と設計手法の開発に取り組んでいる前 真之:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。専門分野は建築環境工学、研究テーマは住宅のエネルギー消費全般。 学生時代より25年間以上、住宅の省エネルギーを研究。健康・快適で電気代の心配がない生活を太陽エネルギーで実現するエコハウスの実現と普及のための要素技術と設計手法の開発に取り組んでいる

2024年04月の「省エネ性能ラベル」に続き、同年11月から「省エネ部位ラベル」が開始された。前者は主に新築の建売一戸建て・賃貸を対象に住宅全体の断熱や省エネ性能を表示する一方、後者は既存の一戸建て・賃貸を想定した簡易な表示である。新築年度の後半は事業者が繁忙となるため、11月からの省エネ部位ラベルの導入には慎重な意見もあったと聞くが、省庁が導入を急いだ理由には、国交省・経産省・環境省が3省合同で推進する住宅省エネキャンペーンとの兼ね合いがあったものと推測する。

「暮らしのGX」政策の目玉である住宅省エネキャンペーンの中で、既存住宅にとって重要なのが「先進的窓リノベ」と「給湯省エネ」「賃貸集合給湯省エネ」の3つ。断熱の最大の弱点である窓とエネルギーを最も消費する給湯器の「ツートップ」に集中して改修に手厚い補助を出すメリハリの利いた事業で、従来からの新築住宅偏重のバラマキ政策より、高い費用対効果が期待できる。一方で2024年度の予算執行実績では、一戸建てでのエコキュートへの更新が主となる給湯省エネ一戸建ては97%に達する一方で、既存住宅への内窓追加が主な先進的窓リノベは73%とやや低調。さらに賃貸をエコジョーズ化する賃貸集合給湯省エネに至っては、実に7%と散々な結果に終わっている。

この補助政策と合わせるかのように、省エネ部位ラベルも窓と給湯器がツートップとしてとりわけ目立つように記載されている。国交省がラベル導入を急いだ背景には、既存住宅、特に賃貸における窓・給湯器の省エネ改修が停滞している現実がある。ラベル表示により消費者が省エネ住宅を選ぶようになり、既存住宅窓・給湯器の改修が進むことが期待されるが、そこには多くの課題がある。ここでは「窓の断熱性能が分かりにくい」「ラベルの普及が進まない」の2点に絞って考察してみたい。

省エネ部位ラベルには、窓と給湯器の種類が記載される。給湯器については潜熱回収型ガス給湯器の「エコジョーズ」、電気ヒートポンプ給湯器の「エコキュート」などが広く認知されており、消費者の混乱は比較的少ないと予想される。賃貸でもエコジョーズは必須という流れを期待したいところだ。

一方の窓については「サッシの仕様」「ガラスの仕様」が記載されるのみで、断熱性能は直接表現されていない。「アルミ樹脂製サッシ 二層複層ガラス(Low-E)」という記載だけで、一体どのくらいの消費者が窓の断熱性能の良し悪しを判断できるだろうか。

省エネ部位ラベルは既存住宅を対象に、事業者が現場で簡便に判断できることが優先されている。ラベルを発行する側は楽ができる分、ラベルを見る側に判断が丸投げされているのが実情だ。経産省は別に窓単体の性能表示制度を設けており、そこでは断熱性能が★の数で最高六つ星まで表現されている。省エネ部位ラベルでもサッシ・ガラスの仕様を単に記載するだけでなく、性能の目安を併記するべきであろう。

窓に関する更なる問題は、既存の外窓に内窓を追加した二重サッシの場合も、ラベルに記載されるのは内窓のサッシ・ガラスの仕様のみということ。

筆者が計測やシミュレーションを行っても、二重サッシの断熱効果は非常に大きい。防音効果まで期待でき、施工も容易でコストも低廉で、既存の断熱改修としては最有力な手法であるが、一方で見た目などから敬遠されることも多い。ラベルで二重サッシであることが記載され、その性能が明記されることが望ましい。

また、頻繁に指摘されることだが、省エネ性能表示は販売・賃貸事業者の努力義務にとどまっており、賃貸のオーナー、仲介事業者や賃貸管理事業者には何らの義務がない。つまり、そもそものラベルの発行が少なく、ラベルがあったとしても消費者に届くとは限らない。結果、「ラベルの掲載がないから消費者が省エネを判断できない」→「ニーズがないから省エネ改修しない」→「改修物件が少ないからラベルを扱わない」という、鶏と卵の無限ループに陥ることが容易に想像される。実際にラベルの掲載事例は限られており、それは省エネ改修物件の実数がごく少ないことの裏返しであろう。

販売・賃貸事業者へのラベル発行の義務化や、仲介事業者や賃貸管理事業者の掲載義務化が期待されるところだが、業界全体での省エネへの取り組み機運は低調といわざるをえない。下手にラベル表示が広まっては無断熱・エネルギー浪費の既存住宅がすべてバッドストックになりかねず、さりとて断熱・省エネ改修の手間もかけたくない。このあたりが既存住宅、とりわけ賃貸に関わる業界の本音であろう。

一方で、新築一戸建てでは消費者が断熱・省エネを求めるのは当たり前となり、供給者は否応なしに対応を求められている。鳥取県では県が推進する高性能住宅NE-STが新築の半分を占めるようになり、不動産業界も既存改修を含めた断熱・省エネへの取り組みを始めている。やはり、消費者の認識とニーズを高めるのが先決だ。そうした中で、消費者が住宅を探す際の最初のインターフェースとして、住宅検索サイトの役割は特に重要である。

ラベル掲載物件を優先的に示すこともできるし、併せて省エネ部位ラベルで不足している情報も提供することができる。「省エネ物件が少ないからサイトの検索オプションには取り入れない」などという事なかれ主義で、鶏と卵の無限ループをもう一つ増やしているようでは頼りない。

前述の窓と給湯器への補助も、2025年度が当初3年計画の最終年度となる。このチャンスに実績を作れなければ「住宅業界は省エネの落第生」として予算が回らなくなり、この先ずっと国民が寒さ暑さと光熱費に苦しむことになる。

住宅関係者には最後のチャンスと認識した行動が求められ、とりわけLIFULL HOME’Sのような住宅検索サイトには率先した取り組みが期待される。

不動産ポータルサイトと仲介会社次第 ~ 高橋 正典氏

<b>高橋 正典</b>:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など

2024年4月、努力義務化という日本らしい曖昧な仕組みでスタートした、建築物の販売・賃貸時における広告等への「省エネ性能表示」であるが、開始から1年経ち、結果として消費者に浸透していない。現在もなお、大手不動産ポータルサイトを検索しても、極々一部のビルダー等が新築住宅の広告に際して複数ある現場写真や間取り図と同程度の1枚画像として「省エネ性能ラベル」を掲載しているに過ぎない。


元々、この「省エネ性能ラベル」は1棟に対する性能表示であることから、既存住宅も推奨されつつもほぼ表示されていない状況を踏まえて、新たな制度として2024年11月から既存住宅においても、部位ごとの改修も表示できる制度としてスタートしたのが、この「省エネ部位ラベル」であるが、結論から言うと私はこの表示制度は大変意義深く事業者そして消費者双方にメリットのあるものだと考えている。
しかし、制度開始からの1年間で見つかった課題が解決されないままの新制度では、その意義も薄れる。

制度開始にあたり、国土交通省から提供されている事業者向け資料の中には「本制度に関わる方々」が列記されており、「建築・不動産」もちろんこの中には仲介事業者も含まれているが、「情報伝達広告」として「ポータルサイト事業者」が記載されている。本制度の開始に際して大手不動産ポータルサイト各社はその対応についてプレスリリースを行ったが、先日その中の1社にヒアリングしたところ、同業の他のポータルサイトが積極的にやらないうちに自社で先頭を走る意欲はないと言う趣旨とも捉えられる内容の話をされていた。

言わずもがな、消費者に伝える役目としての不動産ポータルサイトの役割は極めて重要であるのにだが。

大手不動産ポータルサイト事業者で構成される「RSC(不動産情報サイト事業者連絡協議会)」が発表した2024年版「不動産情報サイト利用者意識アンケート」によると、物件を契約した人が「不動産会社に求めるもの」は売買・賃貸ともに1位が「親切・丁寧な対応」であった。

例えばSUUMOで物件検索し、その物件ページを開くとその物件を取り扱う不動産会社がまず表示され、同時にお客様からの「接客評価コメント」が5点満点で表示される仕組みになっている。これは、先のアンケート結果からも消費者のニーズに応えるものだと言える。では、「省エネ性能」にはそのニーズがあるのだろうか?

同アンケートの設問「住まいを選ぶ上で省エネ性能は重要か?」に対する回答は、「重要」「どちらかというと重要」を含めると、売買で83.5%、賃貸でも73.3%にも上る。

これらを踏まえ、大手不動産ポータルサイトへより一層踏み込んだ期待と対応を求めたいが、もう一つ重要なことに、性能や建物に関する知識の乏しい不動産業界、特に仲介事業者の知識レベルの向上が求められていると言うことを申し上げたい。特に、この度の「性能部位ラベル」は既存住宅が対象であり、最も多くの広告を出すのが仲介事業者だからである。私も実業を行う身として、まずは現場の知識向上に努める責任を感じているところだ。

ちなみに、消費者のニーズに応えるものだとして取り上げた、SUUMOに表示されている、不動産会社に対するお客様からの「接客評価コメント」も、今年その機能をなくす方向だという。どうやら、不動産会社が自社の評価を上げるための”やらせコメント”が横行しているそうだ。とても残念な不動産会社の知恵の絞り方であるが、とはいえ、消費者のニーズを考えればポータルサイトは機能をなくすことよりも、仕組みを改善して欲しかったという思いだ。

国や情報サイトがどんなに良い仕組みや制度を作っても、そこに”魂”を入れるのは現場の事業者の役割である。「消費者」を主語にし、どれだけ事業者が真剣に取り組み、良い知恵を出せるか?我々の果たすべき役割は大きい。

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