日銀は2024年7月末の金融政策決定会合で短期金利の引き上げを決定

住宅ローン基準金利は、2024年7月31日に行われた、日本銀行の金融政策決定会合による短期プライムレート引き上げを受け、10月1日から引き上げられた。住宅ローン基準金利は、2024年7月31日に行われた、日本銀行の金融政策決定会合による短期プライムレート引き上げを受け、10月1日から引き上げられた。

植田日銀は、2024年3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除し、併せて大量の国債買い入れによる長短金利操作=イールドカーブ・コントロールも終了した。これによって長期金利の代表的な銘柄である新発10年物の国債金利は誘導目標の1.0%前後に上昇したので、その効果はすぐに表れたと言える。

次いで7月末の同会合では、経済・物価が日銀の見通しに概ね沿っていること、賃金上昇に広がりがあること、日米欧の政策金利差の拡大による円安および輸入物価の上昇を抑制する必要があること、などを理由として短期金利を0.1%程度の誘導目標から0.25%程度へと引き上げることを決めた(同時に国債買い入れの段階的縮小も決定)。

これらの政策金利の引き締めによって、長期金利に連動する住宅ローン固定金利は翌月の適用金利が0.1~0.2ポイント程度上昇し、7月末の短期金利の引き上げは10月からの(変動金利の見直しは毎年4月および10月に実施されることが多い)各金融機関の住宅ローン変動金利に反映されることとなり(12月の約定返済日の翌日から適用)、住宅価格の上昇傾向の継続と相まって、早くも住宅取得意欲の低下懸念が指摘されている。

このように、2024年は“金融引き締め元年”とも言える大きな政策変更が実施されているのだが、中長期的には政策金利の引き上げによって住宅ローン金利も上昇していく公算が高いものの、足元ではアメリカがインフレ対策として急速に利上げしたような事態が起きるとは考えにくいという見方が大勢を占めている。

要因として挙げられるのは、日本経済の潜在的な成長力の弱さ、すなわち日本のGDPギャップ=総需要と供給力の差が比較的大きいことで、金利を引き上げると需要が即弱含む“体質”を持つ日本経済は、景気動向を確認しつつ慎重に金利を引き上げないと、たちどころに景気後退局面を迎えてしまう可能性があることが指摘されている。

したがって、日銀が金利のつく世界=金融政策の正常化に舵を切っても、金利の上昇およびその影響については当面は限定され、長期金利については現状の1.0%前後、短期金利についても同様に0.25%前後が中期的な均衡水準の目安とされているのも、このような要因によるものと考えられる。

さらに、住宅ローン変動金利には、ローン借り入れ後に金利が引き上げられても毎月の返済額が5年間据え置かれる“5年ルール”、および5年後の引き上げ額が従前の25%アップを上限とする“125%ルール”が適用される商品が多いため(金融機関によって異なる)、住宅ローンの金利が上昇しても、インフレ抑制的な制度として住宅ローンが機能している証左とも言える。

それでも、住宅ローン金利が上昇することは、たとえそれがわずかであっても住宅購入意向のハードルとなることは疑いようもなく、住宅ローン減税制度が現状維持なのか縮小されるのかによっても、需要に大きな影響を与えることになる。また、日銀が今後早期に追加の利上げを実施する可能性も決して否定はできない。

果たして、この住宅ローン金利の上昇基調は今後も継続するのか、また住宅市場、特に新築住宅市場にどのように影響するのか、マーケット動向に詳しい有識者の見解を確認する。

日銀は2024年10月の追加利上げを見送り ~ 榊原渉氏

<b>榊原 渉</b>:
1998年3月早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻 修了。1998年4月株式会社野村総合研究所 入社。2017年4月グローバルインフラコンサルティング部長。2020年4月コンサルティング人材開発室長。現在 コンサルティング事業本部 統括部長 兼 サステナビリティ事業コンサルティング部長 兼 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長、北海道大学客員教授。専門は建設・不動産・住宅関連業界の事業戦略立案・実行支援
榊原 渉: 1998年3月早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻 修了。1998年4月株式会社野村総合研究所 入社。2017年4月グローバルインフラコンサルティング部長。2020年4月コンサルティング人材開発室長。現在 コンサルティング事業本部 統括部長 兼 サステナビリティ事業コンサルティング部長 兼 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長、北海道大学客員教授。専門は建設・不動産・住宅関連業界の事業戦略立案・実行支援

日本銀行は、2024年7月に短期金利を0.1%から0.25%に引き上げたが、10月の会合では金融政策の維持を決定した。これは、物価の基調的な見通しに大きな変化がないことや、政府が追加利上げに慎重な姿勢を示していることが影響していると考えられる。日本銀行が同日公表した「経済・物価情勢の展望(2024年10月)」によれば、消費者物価の基調的な上昇率は、賃金と物価の好循環が強まる中で、徐々に高まると予想されている。
また、IMFの「世界経済見通し(2024年10月)」によれば、2024年と2025年の世界経済成長率は3.2%と予測され、インフレ率は徐々に低下する見込みである。これにより、先進国では金融政策の引き締めが緩和される可能性があり、日本の金融政策にも影響を与えるだろう。

金融政策は住宅ローン金利や住宅購入意欲に大きく影響
短期金利の引き上げは、住宅ローンの変動金利に直接的な影響を与える可能性がある。実際、2024年10月からは各金融機関が変動金利を見直す動きが見られた。しかし、金融政策の維持が決定されたことで、今後の金利上昇ペースは緩やかになると予想される。特に、住宅ローンの変動金利には「5年ルール」や「125%ルール」が適用されるため、急激な返済負担の増加は抑制されるだろう。

住宅ローン金利の上昇は、住宅購入意欲に対するハードルとなることは否めないが、日本の経済成長率や物価上昇率が依然として低水準であることを考慮すると、急激な金利上昇は考えにくい状況である。さらに、住宅ローン減税制度の維持や政府の住宅購入支援策が継続される限り、住宅購入意欲が大幅に低下することはないと考えられる。

さまざまな要因を注視せざるを得ない状況が継続
日本銀行の金融政策が今後どのように変化するか、特に追加利上げのタイミングが重要であることは疑いようがない。物価の基調的な見通しに基づく追加利上げの基本方針に変化はないため、政策変更の可能性は常に存在する。さらに、米大統領選挙や、その後の米国経済の動向、円安修正の影響など、外部環境の変化が日本の金融政策に与える影響も無視できない。これらの要因がどのように作用するかを注視する必要がある。こうした中で、政府が国内住宅市場をどのように支援するかも重要である。特に、住宅ローン減税制度の変更や新たな支援策の導入が、住宅購入意欲に直接影響を与えるだろう。

短期金利の引き上げが住宅ローン金利や住宅購入意欲に与える影響は、金融政策の維持決定によって一時的に緩和される可能性がある。しかし、長期的には金利上昇のリスクを考慮しつつ、政府の住宅政策や経済環境の変化を注視することが重要である。住宅市場の安定と成長を図るためには、政策当局と市場参加者が協力して適切な対応を行うことが求められる。日本銀行の展望リポートに示されたように、賃金と物価の好循環が続く中で、経済全体の成長を支える政策が重要となるだろう。また、米大統領選挙をはじめとした国際的な政治・経済動向も考慮に入れた政策運営にも期待したいところである。

住宅ローン金利上昇を受けて、新築市場は転換点を迎える ~ 吉田資氏

<b>吉田 資</b>:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など吉田 資:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など

東京の新築マンション市場は、良好な需給環境が継続しており、2013 年からスタートしたアベノミクス以降の価格上昇局面」が継続している。東京23区の価格をエリア別にみると、都心が最大の上昇率を示す結果となった(ニッセイ基礎研究所調べ)。一般消費者がマンションを購入する際に、資産性を重視する傾向が一層強まっている。また、実需層の購入に加えて、国内外の投資資金が流入しており、特に、円安の進行に伴い海外の個人富裕層による購入事例が増加している。こうした要因が、都心に所在するマンションの大幅な価格上昇を後押ししている。

こうしたなか、金融政策正常化に伴う住宅ローン金利上昇が、新築市場に及ぼす影響が懸念されている。住宅ローン金利の水準は、従来から一般消費者の住宅購入判断に影響を及ぼしている。住宅金融支援機構「住宅ローン利用予定者調査」によれば、「住宅を買い時と思う理由」として、「住宅ローン金利が低水準」との回答は一貫して上位となっている。また、同調査において、「今(今後1年程度)は、住宅取得の買い時だと思うか」という質問に対して、住宅ローン固定金利(フラット35等)が緩やかに上昇し始めた2022年以降、「買い時とは思わない」との回答が「買い時だと思う」との回答を上回っている。

また、三井住友トラスト・資産のミライ研究所「令和の“住まい”と住宅ローン事情(2024年)」によれば、住宅ローン頭金を「ゼロもしくは1割」で住宅購入をした人が30代では約6割を占めた。若い層ほど、多額のローンを借り入れて住宅を購入するケースが一般化しており、住宅ローン金利変動の影響はより大きい。

三菱UFJ信託銀行「2024年度上期デベロッパー調査」によれば、「住宅ローン金利が0.5%上昇した場合のマンション販売価格」を尋ねたところ、販売価格は下落するとの回答が約半数を占めた。住宅ローン金利上昇が価格下落(市況悪化)の発端となることを懸念している人は多いようだ。

東京23 区への人口流入はコロナ禍の落ち込みから、着実に回復に向かっている。一方、人手不足等に伴う建築コスト上昇や開発用地の不足を背景に、新規供給の低迷が続いていることから、当面の間、新築市場の需給環境が安定的に推移するとの見方もある。ただし、不動産投資の収益性判断の目安となるイールドギャップ(不動産利回りと長期金利の差)は、金融政策正常化に伴う長期金利上昇により縮小する可能性があり、その結果、都心の新築市場動向に大きな影響を及ぼす投資資金の流入が減少する懸念がある。

住宅ローンの新規貸出の約7割を占める変動金利が上昇し始めたことで、価格上昇が著しい東京都心部等から新築市場の転換点を迎える可能性があり、今まで以上に動向に注視したい。

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