中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「カウカモ」を手がけるツクルバ
少子高齢化、労働力不足、環境問題などの喫緊の課題に対応するべく、日本では昨今、多くの業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。一方、住宅不動産業界のDXは遅れているとされる。伝統的なビジネス慣行が根強いこと、複雑な法的手続きのデジタル化の難しさなどがその理由として挙げられるだろう。
【不動産DXの今と未来】と題した今回の企画は、住宅不動産業界のリーディングカンパニーのトップへのインタビューを通じ、業界におけるDXの展望を共に考えていくものである。住宅不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営する、株式会社LIFULL 代表取締役社長 伊東 祐司氏がインタビュアーを務める。
第3回となる今回は、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」を運営する、株式会社ツクルバ 代表取締役CEO 村上 浩輝氏が登場。同社は2011年の創業時より、従来の不動産取引とは一線を画す事業モデルで成⻑中の上場ベンチャー企業である。中古住宅流通市場の活性化に取り組む背景や、不動産業界が目指すべき将来像について話を聞いた。
住まいは「一生もの」ではない。住み替えが前提の住宅選びを当たり前に
伊東氏:本日はよろしくお願いします。中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「カウカモ」を中心に事業を展開されていますが、2019年に上場以降、2024年7月期時点で売上総利益は約2.7倍、カウカモの会員数は49万人、約4.8倍と、多くのユーザーから支持されています。改めて事業モデルと、急成長の要因を教えてもらえますか。
村上氏:カウカモは、売主と買主の両サイドをつなぎ、リノベーションが当たり前になった時代における双方の課題を解決する、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォームです。
2015年の立ち上げ時期こそ、物件の掲載情報を充実させるのに苦労しましたが、サイトのコンセプト、デザイン面、物件の掲載内容含め、メディアとして差別化できていたので、広告宣伝費をかけずとも、口コミなどにより自然と伸びていきました。サービス開始から約10年がたち、当社のサービスをリピートいただくユーザーも増えています。なかには、10年の間に住まいを3回売り買いしているユーザーもいます。
伊東氏:10年で3回はすごいですね。“住み替えをするならおしゃれなカウカモで”、というファン化がしっかりできている証拠だと思います。
村上 浩輝氏:株式会社ツクルバ 代表取締役CEO。⽴教⼤学社会学部(現:経営学部)卒業。学⽣時代より事業を⾏い、不動産ディベロッパーのコスモスイニシアに新卒⼊社、同社にて事業⽤不動産のアセットマネジメント事業に従事、リーマンショックの影響でリストラを経験。その後、不動産ポータルサイトを展開するLIFULLでSaaSプロダクトなどのITサービスの企画開発、マーケティングに従事。2011年8⽉に株式会社ツクルバを共同創業、代表取締役CEOに就任、現職。デザインファームとして事業を拡⼤し、2015年スタートアップに転⾝し資⾦調達を実施、中古・リノベーション住宅流通プラットフォームのカウカモをローンチ。同事業の成⻑によって2019年東証マザーズに上場し、同市場での不動産業界最年少での上場を果たす(2024年現在、⽇本市場に上場する業界最年少経営者)。住まいの未来をつくる企業として、『住まいの「もつ」を⾃由に。「かえる」を何度でも。』をビジョンとして掲げ、カウカモはGMV600億円規模の事業へ成⻑中伊東氏:カウカモのようなプラットフォーム事業を手がける背景として、御社のビジョン『住まいの「もつ」を自由に。「かえる」を何度でも。』には、どのような想いが込められているのでしょうか。
村上氏:長らくマイホームは「一生もの」とされてきましたが、特に都心部において、人々の住宅に対する考え方や購買行動は徐々に変化しています。首都圏の中古住宅流通市場では、住宅を2回以上購入したことのある人の割合が増加し、住み替えを前提とした住宅選びが広がりつつあります。ライフスタイルや価値観の多様化によって、その傾向はさらに加速すると予想されます。
住まいの購入は、経済的なメリットや生活満足度の向上などさまざまな利点がある一方、昨今の新築住宅価格の高騰や、中古住宅の流動性への不安から、住宅購入に一歩を踏み出せないユーザーも多いでしょう。「住み替えを前提とした住まい購入」が当たり前になっていく時代に、住まいの購入が人生の制約や足かせにならないように、といった想いで、『住まいの「もつ」を自由に。「かえる」を何度でも。』というビジョンを掲げました。
「もつ」には、「持つ」「保つ」、「かえる」には、「買える」「変える」「(住み)替える」の意味を込めています。私たちのサービスによって、住まいを「所有する」ことにまつわる「不自由さ」を解消し、人生の変化とともに、そのときの一番の住まいに「かえる」選択肢を誰もが手軽に手に入れられる世界をつくりたいと考えています。
プラットフォーム自体がDX。ユーザーデータの蓄積で顧客体験を変えていく
伊東氏:今回のテーマ「不動産DX」ですが、具体的なDXの取り組みを教えてください。
村上氏:カウカモというサービス自体が、不動産業界においてDXを推進するものであると思っています。
従来の中古住宅の流通構造には、ユーザーのニーズごとにプレイヤーが細かく存在していました。中古住宅を買うときは仲介事業者、リノベーションの相談は設計事務所やリノベーション会社、売却するときにはまた別の仲介事業者と、住宅の売買においてユーザーが関わる事業者は多岐にわたり、プロセスも非常に複雑です。中古住宅を買うときに、リノベーションをするかどうか完全に決めている人は少ないので、相談先が複数あることはユーザーにとってデメリットにしかならないでしょう。
その点、カウカモのサービスは、中古住宅流通の川上から川下までを一気通貫で担う垂直統合型のプラットフォームです。「新築を買わないのなら、カウカモに相談すればOK」という顧客体験を提供できているのは、マーケットプレイス型のプラットフォームという事業モデルだからです。今後は不動産の売買だけでなく、さらに購入した後のメンテナンスなど、住み替え後の暮らしにも役立つサービスを強化していく方針です。
伊東氏:プラットフォームならではの豊富なユーザーデータが、御社の強みですね。
村上氏:はい。膨大なユーザー情報をストックし、ユーザーや物件に関するさまざまなデータをサービスに生かしています。カウカモを通じてユーザーの物件購入への温度感がわかることは、テックタッチサービスの大きな利点です。カウカモのアプリ上でデータをトラッキングして、希望条件の入力状況や物件への関心の高さなど、ホットなユーザーを抽出できるわけです。
ユーザーの温度感に合わせて、マッチしそうな物件を提案したり、初期検討層のユーザーに対しては潜在的な住まいに対する課題を引き出すサポートをしたりと、アプローチ方法を変えることができます。家を売るというより、ユーザーの状況をしっかり把握し、ユーザーの課題を一緒に解決すると捉えて対応しています。
また、ユーザーの動きと物件データから、物件の購入検討層がどのエリアにどれくらいいるのか、年収や検討価格帯はどのくらいか、相場との乖離はあるかなど、ヒートマップのように視覚化できます。そうしたデータが蓄積されることで仕入れの適正価格を判断できたり、買取再販会社へ販売価格の提案ができたりします。当社が強みのある目黒区や世田谷区などでは、その地域のプライスメーカー的な役割を担えていると思います。
生産性向上のためのファーストステップは
伊東氏:ユーザーデータの活用もそうですが、中古住宅の売買に関わる煩雑な業務の効率化にも取り組まれています。
村上氏:前期(2024年7月期)は特に全社の生産性向上に重点を置きました。もともと創業当初から自社開発のCRMを活用していましたが、加えて新たに外部のSFAツールを導入し、今後さらに組織が拡大していく中で、社員が生産性高く働ける環境整備に努めています。間接業務を効率化し、いかにユーザーと接するピュアセールスタイムの割合を増やせるかは、生産性の向上目的だけでなく、根本的な顧客体験の改善につながります。
伊東氏:CRMも自社開発ということで、御社は業界の中でもいち早くDXに取り組まれてきたと思います。業務効率化の観点で、住宅不動産業界全体を変えていくためのファーストステップはなんだと思いますか?
村上氏:今よりさらに徹底的な仕組み化が必要だと思います。多くの不動産会社でDXに取り組んでいると思いますが、それでもなお属人化している業務が多いのが実情ではないでしょうか。ユーザーとの接点から接客、追客、契約、引き渡しといった業務ステップを個人のセンスに任せない、仕組み化して営業水準を一定以上に引き上げることが重要です。テクノロジーとデータを活用することで、ベテランの人も経験の浅い人も同じ水準の仕事ができるようにするべきだと考えています。
中古住宅の売買における次の課題は「金融DX」
伊東氏:不動産取引におけるDXとして、今後さらに力を入れたいことを伺えますか。
村上氏:金融DXですね。売買の取引業務は、不動産業の中でも特に顧客対応や物件管理など業務プロセスが長く、複雑で、DX化が進みづらいと言われています。逆に言うと、DXで改善する余地がたくさんあるといえます。
村上氏:住宅の購入・売却には、購入時のローン、住み替え時のローンの借り換えや一時的な賃貸契約における支出、リノベーション費用金など、常にお金の問題がつきまといます。そして多くの場合、お金関係の窓口となるのは、不動産会社とは別の金融機関です。
住みたい家が見つかってローンの相談をしても、「今の住まいを売却してから来てください」と言われ、売却活動をしているうちに売れてしまうことも多いです。そうしたユーザーにとって好ましくない状況があるなか、住まいに関する金融DXを推進することで、機会損失を軽減し、住宅の売買に関する不安や不便を解消していきたいと考えています。
2024年3月には、当社は三菱UFJ銀行とBaaS事業(※)における連携に向けた協議を開始しました。中古住宅の売買におけるDXを通じた新たな金融サービスの企画開発を進めていきます。
※「BaaS」:「Banking as a Service」の略。一般的に銀行が取り扱う業務の一部機能を外部に提供するサービスの呼称。三菱UFJ銀行では、BaaSの定義を独自に捉え直し、さまざまな外部のパートナー企業とのコラボレーションにより新たな顧客体験を提供することを目指すとしている。
“住宅の高齢化問題”に中古・リノベーション住宅流通のカテゴリーリーダーとして臨む
伊東氏:中古住宅流通市場をさらに活性化させるには、何が必要だと思われますか。
村上氏:築40年、50年といった高経年マンションが年々増え、“住まいの高齢化”も大きな社会問題になりつつあります。中古住宅流通の活性化は今後の日本に間違いなく必要で、そのためには、リノベーション業界の基準を整えて、顧客と向き合うまっとうな会社しか生き残れない、という環境にしないといけないと思います。
新築住宅、特に新築マンションのディベロッパーの基準がかなり高いので、それに比べると、たくさんのプレイヤーが混在している中古リノベーションはさまざまな基準が緩くなっているのが現状かと思います。
そのような状態を変えていくには、私たちが業界のカテゴリーリーダーとして無視できない存在になれるまで、スケールしていくことが大事だと考えています。
また、データ活用の観点からも、リノベーションを手がける会社の評価が見える化されることも大切だと考えます。リノベーション再販会社へのユーザーからのフィードバックが誰でも見えるように可視化されていて、リノベーションの質やアフターサービス、接客対応の評価など、次に検討するユーザーにとって有益な情報がオープンになっていけば、適正な工事をする会社が自ずと選ばれるようになり、業界の質向上につながると思います。
伊東氏:2024年5月には、当社と「不動産DXパートナーシップに関する基本協定」を締結しました。不動産業界の革新に向けて、当社のようなポータルサイトに期待するものを教えてください。
村上氏:1社でできることには限界があるので、御社のような会社と知見を持ち寄り、人材交流をすることで、生成AIをはじめとする最新技術を活用した不動産取引業務の生産性向上に関する共同研究など、不動産取引業全体のDX推進に寄与できると期待しています。
今の不動産業界は、ユーザーよりも事業者側の論理が強く、ToB業界のように感じています。そうではなく、業界全体で取り組んで、真の意味でのToC業界にしていかないといけません。囲い込みなど悪質な行為を一掃し、お客様に向き合わないと生き残れない業界にしていかないといけないと思います。
私たちは自社のことを「日本株式会社の不動産事業部」と思っています。自分たちだけが利益を上げても仕方なくて、業界全体をユーザーにとって望ましい状態にしていきたい。そのためにはテクノロジーの力を駆使して、従来のやり方や仕組みを刷新して、ユーザーと真摯に向き合うことが評価され、結果、業績が伸びる業界にしていきたいです。その志を同じくする企業と連携して、今後も取り組んでいきたいですね。
伊東氏:さまざまな形で連携し、共に変えていきましょう。今日はありがとうございました。
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