価値を遥かに超える価格で流通&その価格が急落するかもしれない危うい状況がバブル

出典:国土交通省『不動産価格指数』出典:国土交通省『不動産価格指数』

コロナ禍が終わりを迎えつつあった2022年後半から、新築マンションの価格が需要の堅調な東京都心部で一段と高騰し始めた。地価の安定的な上昇、株高によって得られた利益の付け替え需要、円安で5割前後安価になったことによるインバウンド需要、依然として継続する異次元の金融緩和など、いくつもの条件が重なって不動産価格、特に東京都心部の新築(だけでなく中古も含めて)マンション価格が明確な上昇を示すこととなった。

もともと、2014年黒田日銀総裁時代に始まった異次元の金融緩和は、強制的に景気拡大を演出する政策で、市中銀行が日銀に預金した一部にマイナス金利を適用し、資金をプールするのではなく貸し付けることによって市中にお金をばらまき、過剰流動性を引き起こしても構わないという“過激な金融政策“であった。

つまり、人為的にバブル経済を創出するほどの資金量を供給することで景気拡大を目指したのだが、国内企業は当時、設備投資や事業拡大には全く積極的ではなく、資金需要は極めて限定的であったため、結果的にバブルには至らなかったと言える。

しかし、この金融緩和は住宅ローンの“異次元の低金利”を招くこととなり、不動産価格、特に住宅価格の上昇を後押しした。当然のことながら、住宅ローンの借入金利が低下すれば毎月の返済額は抑制されるから物件価格が上昇しても需要は一向に衰えず、むしろ自分の所得でも現在の金利では○○万円まで購入可能と高値追求の意向を煽った感さえある。

しかも住宅価格の上昇局面では、早く買わないと買えなくなってしまうとの心理的圧力が高まる“買い進み”も発生するため、さらなる価格上昇を担保する状況となって、いわば売る側も買う側も一緒に現在の水準まで物件価格を押し上げたとも言える。

各金融機関もプロパーが停滞する一方で好調なリテールに注力し、積極的に住宅ローンの金利引き下げ競争に参入して超低金利でも35年間という長期にわたって借り入れてもらい、しかもメインバンクとなれれば教育ローンやマイカーローン、投資商品などの販売機会を得ることに繋がるから、住宅ローン新規獲得は金融機関の融資戦略の中心に据えられ続けている。

この異次元の低金利で、住宅価格は新築も中古も連動して上昇し続けてきたが、価格が高いことがバブルとの認識で巷間語られることが多く、これは誤った考え方と言わざるを得ない。

バブル経済とは一般に価値以上に膨らんだ価格=含み益という泡のように短期間で膨らみ続ける目論見の価格で取引される状況を指す言葉だ。現状は低金利でも借り手のつかない余剰資金と低金利による円安が消費者物価を押し上げるかたちでインフレを引き起こし、そのインフレを起こした価格に見合った価値を求めて、不動産・住宅、資源・エネルギーなどに資金が流れ込むことによって発生した価格上昇と言える。その為、日本のファンダメンタルズとしての経済力(購買力)が回復した証ではない。

その意味ではバブルとは程遠い“限られた価格上昇”と言えるだろう。
それでも異常とも言える現在の東京都心や大阪中心部、その他地方圏の中心都市でも1億円を超えるマンションの分譲が当たり前のようになった状況は、敢えてバブルと見るべきなのか、また仮に短期金利や短プラ、※TIBORの上昇によって住宅ローン(変動)金利も上昇し始めたら、住宅価格はどのように変化するのか、不動産と経済の関連性に詳しい専門家の見解を聞く。

※TIBOR(タイボー):「Tokyo Interbank Offered Rate」の略で、東京における主要銀行間の取引金利を指す。

都市圏の住宅価格は果たしてバブルなのか ~ 矢部智仁氏

<b>矢部 智仁</b>:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中

今はバブルなのか。この見方については、基調記事の認識と同じく「そうとも言えない」である。
バブル経済には①資産価格の大幅な上昇、②経済活動の過熱、③マネーと信用量の膨張という「3つの特徴がある(参照:日本銀行金融研究所/金融研究/2000.12)」という視点で現在の状況を見れば、確かにマネーサプライは引き続き伸びているものの家計部門の消費支出はマイナス、企業の設備投資も大企業の投資意欲は高いものの中小企業では低下しているという調査もあり、つまり経済活動が過熱している状況とは言い難い。

にもかかわらず不動産資産価格が上昇しているというのは、つまり国内不動産への局所的あるいは投機的な外資需要などによって経済成長以上の高騰として「資産価格の大幅な上昇」が強調されているだけだと考える。まさに基調記事にある「限られた価格上昇」であり、全体をバブルとくくる状況とは言えないのではないか。

では、短期金利や短プラ、TIBORの上昇によって住宅ローン(変動)金利も上昇し始めたら住宅価格はどのように変化するのか。
ローン金利の変動は価格にどう影響を与えるかを考えるということは、住宅ローン利用が前提の実需層に対応した商品価格を考えることになるわけだが、立地や商品スペックを従来と同等にするのであれば、一般論として取得条件が厳しくなれば需要は縮小し、需要が縮小すればそれに適応して供給価格は中長期的に低下することになるはずだ。

それでも売り続ける必要がある供給側は、小型化(商品面積の圧縮)や郊外化(原価に占める地価部分の抑制)という手段で住宅ローン金利の情報など購入サイドの意欲をずらして商機を失わないようにしてきたわけだが、そうした回避策が実行可能でかつ功を奏すれば、市場全体として表面価格は維持される結果となる可能性もなくはないのではないか。

また返済原資となる所得の行方という視点で見ると、金利上昇による返済負担増を吸収できるほどの所得上昇が先行的に起こる、あるいは近い将来に起こることが見通せれば需要縮小が顕著に起こることはなく、供給側の価格の引き下げ判断もにわかにはされにくいという動きも考えられる。

もちろん、これは金利上昇の程度と所得の伸びの可能性という二重のタラレバを重ねた見方であって、住宅取得環境が需要サイドに厳しい変化が見られれば価格が抑えられる方向に動きやすいという原理は変わらないわけで、要は金利上昇の程度次第ということだ。

「現状がバブルであるかどうかは、将来、金利が上昇した時に判断されることかもしれない」 ~ 菅田修氏

<b>菅田 修</b>:(株)三井住友トラスト基礎研究所 上席主任研究員。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院ファイナンス研究科修了。主に、賃貸マンションの賃料予測を中心とした住宅市場全般や、各プロパティタイプの期待利回り予測等の不動産投資市場に加え、「不動産としてのデータセンター」をキーワードにニューアセットへの投資動向についても精力的に調査・分析を行っている菅田 修:(株)三井住友トラスト基礎研究所 上席主任研究員。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院ファイナンス研究科修了。主に、賃貸マンションの賃料予測を中心とした住宅市場全般や、各プロパティタイプの期待利回り予測等の不動産投資市場に加え、「不動産としてのデータセンター」をキーワードにニューアセットへの投資動向についても精力的に調査・分析を行っている

不動産価格に限らず、現状をバブルかどうか判断することは難しい。基調記事にあるように、「バブルとは価値以上に膨らんだ価格」と定義すると、投機的ではない実需がついてきている局面ではバブルとは捉えにくいだろう。本稿では、売れ行きや市場構造に着目して、直近の分譲マンション市況(首都圏)について整理したい。

2023年の平均価格は8,000万円を超え、東京23区の平均坪単価は前年比+35%の大幅上昇となる571万円/坪となったことで、価格高騰を指摘する声がより一層大きくなった。2023年とその5年前の2018年を比較すると、価格帯別供給戸数でも変化は顕著で、同時点の比較で、首都圏においては5,000万円以下が半減(17,502→8,270戸)し、1億円以上が2倍以上(1,800→4,174戸)に増加している。
このように高額物件の供給が増加している状況下でも、発売中の在庫を示す期末総残戸数は9,552→6,287戸と34%減少している。このことが、価格高騰期でも売れ行きが堅調であると指摘される一因である。

同時期で市場規模(=発売戸数×平均価格)を比較すると、実はほぼ同じである。発売戸数が約3.7万戸→約2.7万戸と減少したのに対し、平均価格は5,871万円→8,101万円と上昇している。つまり、供給が減少して価格が上昇しているのが足元の分譲マンション市況(首都圏)であり、市場構造が変化していることが平均価格の高騰につながっていると言える。

では、住宅を購入している世帯はどのように資金(住宅ローン)調達をしているのであろうか?住宅金融支援機構が実施している「住宅ローン利用者の実態調査」では、2018/4~9月に住宅ローンの借入をした方のうち変動金利での借入は57.0%だったのに対し、2023/4~9月では変動金利の借入が74.5%にまで上昇している。価格高騰期の住宅購入において、低金利環境であることが需要を後押ししていることがうかがえる。

このことは、今後の政策金利が上昇することで変動金利の上昇にもつながり、住宅ローンの借入をしている世帯において適用金利が上昇する割合が高まっていることを意味している。万が一、適用金利の上昇により返済が滞る世帯が増加すれば、無理をして住宅を購入していた需要が多かったと指摘される機会も散見されることになるだろう。そうなると、その購入時期はバブルであったのではないかという指摘が出ることも想定される。その時期が“今”なのかもしれない。

また、金利の上昇は住宅購入可能額を低下させることに繋がるため、実需向け物件の売れ行き悪化につながる懸念は大きい。分譲マンションの売れ行き悪化が金利の上昇に起因する場合、同じタイミングでデベロッパーの資金調達金利が上昇している可能性も高い。

そうなると、今よりも早期に住宅を売り切る必要が生じるデベロッパーが出てくることで、分譲マンション価格の下落につながる可能性もある。ただし、足元の価格高騰は建築費の高騰等によるコストプッシュ型であるため、一時的な価格下落は生じても、価格を下げる余地が限定的となる可能性もある。

その場合、高額でも需要が見込みやすいエリアでの物件供給が中心となることで、より一層の供給減少が伴う形で平均価格の上昇につながり、今よりも市場構造の変化が顕著になる可能性もある。今後の市場動向を占う上でも、価格だけでなく、発売戸数や売れ行きにも留意が必要なタイミングを迎えている。

新築分譲マンション市場が上下二層に分割 ~ 平松健一郎氏

<b>平松 健一郎</b>:株式会社不動産経済研究所、日刊不動産経済通信編集部チーフ・記者。横浜市中区出身、東京都江東区在住。出版社、新聞社などでの勤務を経て18年から現職。3・11後は東北の被災地で震災復興の取材に没頭し、現在は国内外の大手不動産・金融各社の取材を担当する。趣味は25年続けているジョギングと、世界の僻地を巡るバックパック旅行平松 健一郎:株式会社不動産経済研究所、日刊不動産経済通信編集部チーフ・記者。横浜市中区出身、東京都江東区在住。出版社、新聞社などでの勤務を経て18年から現職。3・11後は東北の被災地で震災復興の取材に没頭し、現在は国内外の大手不動産・金融各社の取材を担当する。趣味は25年続けているジョギングと、世界の僻地を巡るバックパック旅行

開く価格差、80年代バブル期と異なる構造
東京のマンション価格が上がり続けている。土地代と建築費の上昇が主な背景だが、住宅市場の二極分化が現況を読み解くカギだ。富裕層らの需要に沸く都心一帯とそれ以外に市場が分かれ、局地的だが占有率の大きい前者に国内外の資金が流れ込む。その結果、東京全体の平均価格が押し上げられている。三田、浜松町、麻布台ー。都心で超億ションの売買が活発な一方、再開発エリアなどを除く周縁部では競争力の低い場所から需給が緩む。都区部の平均価格は2023年3月に2億円を超え、足元でも1億円台を保つが、極端な値上がりは一部の物件に限られる。地価が見境なく高騰した80年代バブル期とは異なる市場構造だ。
 
都内では供給戸数が減る半面、億ションが増えている。不動産経済研究所の調査では東京23区の1月のマンション販売戸数は389戸で、そのうち1億円超の物件は201戸と全体の約52%にもなる。東京の価格帯は欧米など国際水準に近づく。数億円規模の物件も多く、販売価格の平均値と中央値の差は13年の673万円に対し、2022年は1,338万円、2023年は3,283万円などと開く。なお東京など1都3県の2024年1~5月の合計戸数は7,400戸にとどまり、上期の累計が1万戸を割る異例の事態が想定される。地価と建築費が上がるなか、各社が利益率の高い都心や準都心などに開発範囲を絞っていることが一因と考えられる。

中古価格も強含みだ。東京カンテイによると都心6区の5月の中古マンション価格は1億1,924万円と16ヶ月連続で上昇した。新築物件の選択肢が減り、都心居住の需要が中古に流れている側面もある。海外勢の購入比率は10~20%程度と見る向きが多い。その点では海外マネーが急速に引き、市況が崩れるリスクは高くはなさそうだ。ただ同社の井出武上席主任研究員は「海外比率が仮に15%だとしても加速度は増している」とみる。その根拠は4月にドル円相場が160円台に下がった際、中央区の中古価格が一段上がったことだ。円安に呼応して海外の資金が一気に流入した可能性があるという。

都心のマンションの主な買い手はあくまで国内の富裕層やパワーカップルらだ。野村総合研究所の調べでは11年に76万世帯だった富裕層の数は2021年時点で139.5万世帯と10年でほぼ倍増した。インフレや相続への備えは住宅に資金を振り向ける強い動機になっている。広い部屋を好む富裕層の目線が都心から周縁部に移る傾向もあるようで、野村不動産は「超高額物件のエリアが広域に分散してきた」と指摘する。

■利上げ懸念小さく、変動金利の支持落ちず
金利上昇の余波は現時点で小さいようだ。3月に日銀が17年ぶりの利上げを決め、国債の買い入れ縮小など金融緩和修正へと動くが、都内の多くの販売現場に狼狽の色はない。住宅金融支援機構が5月までに実施した調査では、今後1年に「ローン金利が上がる」とみる回答が2023年10月の調査よりも8ポイント増え50.5%に高まったのに対し、住宅ローンの利用内訳は変動が76.9%と2.4ポイント上昇した。国内で実質賃金が下がり続け、政府債務がGDPの2倍以上に膨らむシビアな状況下では利上げは牛歩にならざるを得ない。調査結果は多くのマンション購入者が現時点でそう判断していることを示唆する。

利上げが住宅ローンの支払いに及ぼす影響は所得階層などにより異なるが、厚みを増す富裕層らのシェアが高まる東京のマンション市場が大きく崩れる可能性は低い。一方、中間層以下の市場には、たとえ小刻みであれ将来的に変動金利も上がるという雰囲気自体が響く。日本不動産研究所の吉野薫主席研究員はマンションを含む不動産市場のリスクについて「金融機関が貸せなくなる状況が怖い。足元の預貸率は約6割だが、それが永遠に続く保証はない」と警鐘を鳴らす。マンションの価格上昇を支えてきた超低金利の効力は、長丁場が予想されるとはいえ金融正常化の歩みとともに薄れる。実力以上の高値がついていた物件の価値は剥落する。市況が変わる兆しは、新築物件の供給が減り、それに代わるように中古や賃貸の市場が盛り上がるという形で表れ始めている。

マンション価格高騰はバブルか? ~ 清水千弘氏

<b>清水千弘:</b>一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター 教授。1967年岐阜県大垣市に生まれる。東京工業大学理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。専門は、指数理論・不動産経済学。麗澤大学教授、日本大学教授等を経て現職。麗澤大学国際高等研究機構副機構長・学長補佐を兼務する清水千弘:一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター 教授。1967年岐阜県大垣市に生まれる。東京工業大学理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。専門は、指数理論・不動産経済学。麗澤大学教授、日本大学教授等を経て現職。麗澤大学国際高等研究機構副機構長・学長補佐を兼務する

都心のマンション価格は、バブルではないかといわれている。マンションのような資産は、経済理論によれば、「住宅が生み出す将来に亘る収益の割引現在価値に等しくなる」といったファンダメンタル式によって決定されると定義されている。
具体的には、名目住宅価格(P^rppi)は、物価指数(P^cpi),実質家賃(R),名目金利(i),名目期待キャピタルゲイン率(g^e)とのあいだに、次の式のような長期均衡関係が存在するのである。

<b>清水千弘:</b>一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター 教授。1967年岐阜県大垣市に生まれる。東京工業大学理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。専門は、指数理論・不動産経済学。麗澤大学教授、日本大学教授等を経て現職。麗澤大学国際高等研究機構副機構長・学長補佐を兼務する

このような住宅価格のファンダメンタル価格は、どのような時期でもどのような国でも共通に成立することが、過去30年間の多くの研究によって、理論的にも実証的にも成立していることが証明されている。

それでは、現在の東京のマンション市場は、どのように評価することができるのか。まず私たちが見ているマンション価格は、「名目値」であるということである。日本人はデフレが長く続いたため、実質値と名目値の錯覚を正しく理解することの大切さを見失ってしまってきた。近年において、物価(P^cpi)は上昇基調に転じてきている。そして、都心における実質家賃(R)もまた上昇基調に転じているのである。そのような中で、名目金利(i)は大きな上昇はなく安定的であるから、結果として私たちが市場で観察される名目住宅価格(P^rppi)は、自然と上昇することになる。
ここで、最も重要になってくるのが、名目期待キャピタルゲイン率(g^e)である。これは住宅購入者が、将来の住宅価格が高くなるという予想をすると、住宅価格は高騰することになる。この期待が過度に高くなっているのか、そうであれば、その理由はどこにあるのかということが重要になる。つまり、バブルかどうかは、この期待が正しく形成されているのか、過度に高い期待が持たれてしまっているのかどうかを判断しなければならない。

ノーベル経済学者であるスティグリッツ教授の言葉を借りれば、"the reason that the price is high today is only because investors believe that the selling price will be high tomorrow—when ‘fundamental’ factors do not seem to justify such a price—then a bubble exists.”、つまり、「今日のマンション価格が高いのは、投資家が明日のマンション価格がもっと高くなると予想しているからだ。その時は、ファンダメンタルな価格形成はされていない。その時バブルは存在する」のである。つまり、政策金利が低いからといって資産バブルが起こるのではなく、誤った期待が形成されたときに、バブルは出現してくる。

それでは、その期待の形成はどのように決定されているのであろうか。過去の情報をもって形成される市場は、Backward lookingとして決定されるという。将来の情報を予測して決定される場合には、Forward lookingとして決定されると考える。この問題についても、ノーベル経済学者であるロバート・シラー教授らの研究によって、住宅市場の期待は、Backward lookingとして決定されることが実証的にも証明されている。そうすると、現在の東京のマンション価格の高騰は、過去の情報によって形成された東京のマンション価格が上昇し続けるといった期待によって形成されていることが理解できよう。その期待は高すぎるのであろうか、誰によってその期待が形成されているのであろうか。

最近において、報道番組で、都心のマンション価格が高騰しているということが特集などを通じて報じられる機会が増えているように思う。高すぎるマンション価格に警鐘を鳴らしたいのかもしれないが、そのような報道が出されるほどに、市場の期待は高まっている可能性はある。投資マネーが入ってきている、そうであれば、自分もその波に乗って投資によって儲けようと思う人が増えることは予想できるであろう。また、もっと身近に数年前に買ったマンション価格が2倍になったという話などを聞く機会が増えれば、投資機会に乗り遅れないように、投資をしようと思う人が増えることも考えられる。未来のことはわからないけれど、過去のマンション投資の勝者を見つけることが簡単になっているとも言えよう。

しかし、マスコミが「マンション価格崩壊?」といったような報道をすれば、または周りに購入したマンションの価格が暴落したなどといった話が蔓延してくれば、その期待は、将来の成長期待が実際にあったとしても、価格下落を招くリスクはあるのである。

もう一つが海外資金の流入である。グローバルに不動産投資をしている投資家は、まずは自国の市場と比較し、裁定を作用させる。その時には、単なる価格の絶対値や過去からの変動率だけでなく、為替レートや住宅市場の法的な意味での安定性なども考慮される。また都市としての成長性も考慮される。金融政策が影響しているとすれば、為替レートチャネルを通じた資金流入の効果は出ていると考えてよいであろう。
さらには、東京の都市の魅力が高まってきていることも確かであろう。そして、新しい性能やサービスを具備したマンションがどんどんと登場している。高騰しているマンションの価格は、生産者、つまりデベロッパーや高品質なサービスを提供する管理会社などによる技術革新によって、もたらされている部分も大きい。

しばしばマンション価格がバブル期を超えたなどといった報道もあるが、バブル期には、タワーマンションもなければ、現在ほど耐震性やエネルギー効率が高く、コンシェルジェ機能などが付いた高品質なサービスが提供されるマンションは存在しなかったのである。
現在の東京都心部のマンション価格は、「高品質化」、「過去の情報に基づくマンション市場への高い期待」、「東京の都市の魅力の上昇」、「国際的な市場比較による裁定と為替レートチャネルを通じた海外資金の流入」、「インフレ」、「実質家賃の上昇」によって説明できるのである。

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