長期修繕計画に対して積立金が不足していると回答したマンションは34.8%
2024年2月、マンション修繕積立金の額を巡って国交省から新たな一定の基準を設ける必要があり、最大でも当初の額の1.8倍までの引き上げを上限にする案が示された。
常識的に考えれば、修繕積立金の引き上げ額に上限を設定すると、実際に大規模修繕を実施する際に積立金が不足する事態が想定され、その場合は一時金を徴収して対応する必要が出てくることについても、ネット上に様々な意見が駆け巡った。
これまで、マンションの修繕積立金の額については、マンション・デベロッパーがなるべく物件の販売をしやすくすることを目的として、管理費や修繕積立金の毎月の設定額を“不当に”安価に設定してきた。
竣工・引き渡し後の最初の管理組合総会で、この金額では毎月の管理費も、10年後もしくは15年後に予定している最初の大規模修繕も、各々費用が全く足りないとして値上げの動議が出され、管理組合総会がいきなり紛糾するといった例は枚挙に暇がない。
当初の設定額の上限1.8倍までとの国交省案は、そもそも論として当初の設定額を適正な水準に設定せよとの真意があるものと解釈することができるだろう。
しかし、上記の通り、当初の設定額に問題がある管理組合は、その上限を1.8倍に規定されることで修繕積立金の総額が大規模修繕時に不足する可能性があるし、一方で国交省が示した通り、修繕積立金の額を段階的に引き上げる際の基準がなく、所有者の合意が得られずに結果的に修繕積立金が不足することを防ぐという狙いも一定の理解が得られるものと考えられる。
国交省案は、具体的には改修に必要な額を計画期間の月数で均等に割った額をベースとして、当初の額を低くしすぎないようにするため、下限はその0.6倍、上限を1.1倍とする。当初額が下限で設定されれば、増幅額は最大で約1.8倍になるという計算だ。
ただし、一口にマンションの修繕積立金と言っても、戸数規模や形状、販売時期などによって千差万別で、2011年4月に国交省が示した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」でも長期修繕計画に対応した仕様になっておらず、10年後の2021年9月に改訂されていることからも、マンションごとに“適正な修繕積立金”を定めるのは容易なことではない。改訂版では実際に作成された長期修繕計画を数多く収集してその平均値を算出しており、一定の目安とはなっているが、昨今の人件費を含む建築関連コストの大幅な上昇により、計画の見直しを余儀なくされる可能性が高い。
マンションの大規模修繕に向けて計画的に資金をプールしていくためには、国交省案が一つの打開策となるのか、それとも抜本的な対策が必要で、そのためにはどのような方策が取られるべきなのか、解説する。
管理計画認定制度の狙いとは?
最近新聞などメディアで頻繁に話題になる“積立金の値上げ倍率”問題だが、国や自治体による「管理計画認定制度」の認定条件であり、例えば既存のマンションが1.8倍以上に“値上げしてはならない”など誤解を招く形で記事になっているのをよくみかけるため「数字の独り歩き」を危惧する。700万戸近くの既存マンションの多くが積立金の徴収不足状態にあり、放置されればその多くが「スラム化」するリスクが大きいから、国も私有財産でありマンションの自治に委ねるとして放置ともできず、喫緊の課題となっている。
国から個別の組合に働きかけは困難だから、ほとんどの新築物件で売主の子会社であり、既存マンションの殆どを委託管理されて管理会社業界への規制等を通じて、長期修繕計画に対して適切な超長期の“積立金計画”を設定させることが認定制度の主眼である。30年以上かつ大規模修繕工事2回が含まれる長期修繕計画期間に、“修繕計画”にあった”徴収計画”も販売時設定(新築)あるいは総会(既存マンション)で確保されていないと管理計画の認定は得られない。
国交省としては一部の優秀な組合の顕彰などではなく、計画認定獲得マンションを増やしていくことが目的だから、多くの組合が認定を獲得しないと意味がない。当然新規の購入者だけでなく、既購入者にも管理組合の施策を通じて獲得できる“明確なインセンティブ”による差別化がなければ普及はしない。
積立金の運用をするすまい・る債の利率優遇(+0.05%)やフラット35の利率優遇(5年-0.25%)などの財源は“税金”である。条件限定ながら固定資産税の一部免除にまで踏み込んでいるのには政府の本気度を感じる。
認定獲得マンションの実情は?
認定を獲得したマンション数や資金計画の現状(2024年3月現在)はどうだろうか?
実は既存マンションで認定を獲得した組合数は僅か約600棟で、10万棟を超える既存マンションの1%にも満たない。一方で、同じインセンティブが付与される新築マンションが事前に獲得する「予備認定」は、この2年に新規供給されたマンションの50%に達し、この2年で約1200棟が認定済みだ。即ち認定を今獲得しているマンションの2/3が未だ入居すら終えていないほどの新築ということになる。
旧耐震のマンションの割合がもう新耐震しか建たないことで段々減ってきたように、『令和以降のマンションには積立金問題はありません!』と言えるまで普及するなら、このこと自体は問題ではなく、後は既存マンションのみ追随できるようにケアしていけばよい。
ただし、肝心の“計画の中身”はインセンティブを出すに値するものなのか?
予備認定を得たマンションでさえ新築当初から“均等割”で積立徴収を行うマンションは僅か2%にすぎない。居住者がまだ若い新築・築浅の期間だけ積立金を安く設定して、ローン支払いに管理費/積立金のランニングコストを加えた総額を抑制したいという、デベロッパー設定の”悪しき慣習“には根深いものがある。
修繕工事は売主が自社系列で受託できるとは限らないから後回しにされがちで、居住者の多くが年金暮らしになった後で、積立金の額を1桁近くアップさせるなど無理な計画設定が横行して、“もとをただせば新築時から”問題のあった積立金徴収の問題の解決に取り組む管理組合理事会関係者は長く苦しめられてきた。
0.6倍や1.1倍・積立金ガイドラインの徴収額などの「数字の独り歩き」問題
今回認定基準に最初と最終での積立金の倍率上限を新規に設定するのは、値上げを抑制するためではなく、新築―築浅の期間での積立金徴収を確保するようにするのが目的である。
問題は、計画に見合う徴収を”いつか”徴収すればよく、購入者の多くが年金生活者になってから高額の徴収を行う激しい段階式漸増方式でも計画認定をパスさせてきたことにあるわけで、国としては新築時や築浅での徴収額が上がらないと意味がないが本音であろう。
なぜか積立金の「値上げが1.8倍までしか認められない!」といった方向性が新聞やWeb等の記事で強調されがちだが、いうまでもなく重要なのはスタート時点で長期均等割に必要な金額の0.6倍以上を毎月の徴収額として認定獲得の条件として新規に課する点にある。
もともと“1倍”と基準となっている金額は国交省の「 マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の徴収金額の最低ラインをクリアしながら、各組合が超長期に実施される工事金額の積算額をカバーできるように定めるもので、“1倍”というのは殆どの既存マンションにとっては”今”徴収している金額ではない。
既存マンション理長長の「1割アップじゃとても足りない!」という叫びをSNSで見ることも多いが、一度総会で大幅な値上げを断行し、その後はずっと同額ですという場合、値上げ後に申請すれば最終で1.1倍以内の最低基準は当然クリアできる。
また、少し考えればわかるが、長期で必要な徴収額の0.6倍でスタートして、1.1倍以内に1回だけ値上げして30年以上の全期間で徴収総額を足りさせるのには、全期間の1/5(僅か6年)で0.6倍→1.1倍へのアップが必要である。例え最初は安くスタートしても住民がまだ若くて支払いが可能なごく築浅のうちに必要額まで上げさせることに今回の認定基準改定の主眼がある。
徴収額の”1倍”のガイドライン最低基準は大丈夫か?
積立金ガイドラインは、もとが2011年の発表で、徴収額の目途が大幅に改定されて話題になったのは2021年である。大規模修繕の見積もりを今受け取る組合理事会の目線からは後者ですらコロナ禍の頃からの急激な工事価格の高騰が反映されているとは言い難い。
もとのガイドラインは、足場仮設が困難なタワーマンションや、小規模マンションは実際には高く積立金を設定せねばならないという常識的設定が未反映で10年以上も古い数字が独り歩きし、築浅マンションの理事長を悩ませてきたのは、「ここに書かれている徴収額で足りる筈だ!」との総会での批判だ。
認定制度は、立場の弱い管理組合にすら5年ごとの計画見直しを求めている。その基準となる大本のガイドラインももっと頻繁に現状を反映して改定していただきたいし、次のガイドライン改定では、超長期にわたる積立金の徴収問題をクリアしている組合だけに調査の対象を絞るなど、国が基準として提示する”数字だけ”が政策的意図を超えて独り歩きしがちなことを考慮していただきたいというが、管理組合理事会側からの要望である。







