タワーマンションは全国で1400棟超 約40万戸のストックにまで成長

タワーマンションは全国で1400棟超 約40万戸のストックにまで成長

全国的に人気の高いタワーマンション(高さ60m以上/20階以上とされるが明確な定義はない)の最初は、1976年1月に竣工した「与野ハウス」だ。全4棟建てで総戸数は463戸、当時としては超大規模マンションであった。このうち1号棟と2号棟が21階のタワー型となっている(3・4号棟は11階)。以降20階を超えるタワー型のマンションはほとんど建設されなかったが、1980年代後半に高強度コンクリートが使用されるようになると徐々に開発が加速し、2000年代に総戸数1149戸の「Wコンフォートタワーズ」が江東区東雲に分譲されたことで、一気に眺望に優れた都心隣接・湾岸エリアでの居住スタイルがある種のブームとなり、本格的な“タワーマンション時代”が始まったと言える。

今では考えられないことだが、「与野ハウス」の最上階である21階3LDKの分譲価格は4,106万円、同タイプの2階の住戸は4,049万円とほぼ同額で、当時は眺望が資産という発想はなかったのだが、「階層別効用比」なる言葉によってタワーマンションなどの高層建築物の階数の違いによる価値の差が数値で示されるようになり、それが価格にも反映して高層階が“プレミアム住戸”として特に眺望=ステータスを求める居住ニーズを喚起した。タワーマンション人気が高まるに連れ、そのほとんどが総戸数の多い大規模物件だったこともあって、国内外の有名タレントを起用したCMなどを展開してその人気を煽ったことは記憶に新しい。
一般にタワーマンションは規模が大きいため、意匠を凝らした様々な共用施設が設置されており、居住者専用レストラン併設のラウンジ、ジム&プールなどの運動施設、図書館、シアター、スパ&温泉施設など豪華な施設があることでも知られる。また高さ制限の緩和を目的として公開空地を周辺に設置するケースも多く、周辺住民の憩いの場となっているだけでなく、なかには自然災害の発生時に一時避難先となっているタワーマンションもあって、一定の公共性、社会財としての機能が備わっていると見ることもできるようになった。

このように“良いことずくめ”な感のあるタワーマンションだが、一方で、管理の煩雑さ、維持管理コストの高さなどの管理面(階層の違いで所得にも比較的大きな違いがあり管理の合意形成が進まないこともあるようだ)、また高層階でネット環境が良くない、壁が薄くて騒音が気になる、エレベーターがなかなか来ない、居住者の多様性に伴うトラブルなどの生活面ほか、巷間(こうかん)様々な側面の要因から不満を抱える居住者が多いとも聞く。
共用施設が充実し、一見華やかで居住者が思い思いに楽しく暮らせる印象の強いタワーマンションだが、大規模なマンションならではの課題およびその解決手段はあるのだろうか。タワーマンションの実態に詳しい有識者に意見を聞いた。

大規模マンションで暮らすことの課題と対応 ~ 矢部 智仁氏

<b>矢部 智仁</b>:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中

「大規模マンション“ならでは”の課題」とは

大きくいえば「意思決定の難しさ」に尽きるのではないか。基調記事に示されているようなタワーマンションなど住戸毎の市場価値に由来する購入者の属性の違いから生じる人間関係の難しさやそれに紐つくトラブルなどの問題は、極論すればそもそも生活者は居住地や環境の選択をできる(好ましくないのであれば住み替えることができる)わけだから大規模マンション“ならでは”の問題とは言えないと考える。読者の多くは承知のことだと思うが、「意思決定の難しさ」についてはタワーマンションに限らず多数の住戸がある大規模な共同住宅ではその規模の分だけ区分所有者が存在し、場合によっては一戸建住宅が立ち並ぶような地域の自治会規模を上回る規模で管理組合や自治会などの組織を構成することになる。

特に管理組合では住戸単位で平等な権利と持分面積に応じた責任を有する組織である。共同の建物資産の保全等に関する意思決定を区分所有法の定めに従って一定数割合以上で「合意形成」しなくてはならないわけだが、意思決定に参加する主体が多数になればなるほど合意形成の難易度は高まるのは必然だ。それに加えてタワー型の場合は「価値格差」に紐つく区分所有者の多様性が拡大することで、単なる大型以上に社会的組織運営の難しさに拍車がかかることになる。

意思決定の難しさという課題を解決することはできるのか

分譲マンションの最も大きな特徴は「建物を共有している」という事実だ。ゆえに建物の保全、場合によってはその価値向上は組織的な、特に管理組合における共通目標として設定しやすいはずである。

今更だが自治会と管理組合にはその目的や存在意義に大きな違いがある。自治会は住民の生活満足や日常の安心安全を向上・担保するための「互助的」で「共同体的」な組織であるのに対して、管理組合は区分所有者の共通財産である建物の価値や機能の保全や価値向上を目的とした社会的組織であり、目的を達成するのに必要な意思決定を行うためのルールや体制、役割分担を備える。この違いを正しく理解し目的的な組織としての管理組合への関心を高める必要性を改めて明確にすることが解決の第一歩だと考える。

ただし取得目的や(場合によっては)区分所有者の属性の違いから管理組合活動への関心や期待に差が生じる可能性が残される。投資目的を持つ区分所有者にとって財産価値の保全は重大な関心事だし共用部分の魅力を満喫する生活を重視する区分所有者は「一利用者」でしかない。こうした差が生じてしまう背景には、もしかすると社会的な目的(財産の価値保全など)でなく互助的な機能提供であれば不要という機能に関する認識不足や理解のずれがあるのではないか。

現実的には目的さえ共通にすれば組織は機能するというものではなさそうなのだが、多様な主体が当事者となる大規模マンションは、ある意味で地域社会の縮図のような単位でありそこで生じる問題の解決は当事者の自助努力だけに委ねるものではないのかもしれない。最終的には財産価値を守る・高めるという目標を達成するには建物の維持管理や環境整備などの専門事業者らを管理組合や組織に組み入れることで解決を図らざるを得なくなるのではないか。

価値を維持するためのタワーマンション管理 ~ 池崎 健一郎氏

<b>池崎 健一郎氏</b>:株式会社新都市生活研究所代表取締役。都心部の大規模マンションにおいてコミュニティ形成が思うように進まない事例を目にして、マンション管理組合の棟内イベントにかかるヒト・モノ・カネを外部化し、棟内コミュニティ形成を活発化させるサービス「クラスバ」を2021年から運営。セミナー講師や寄稿など多数。池崎 健一郎氏:株式会社新都市生活研究所代表取締役。都心部の大規模マンションにおいてコミュニティ形成が思うように進まない事例を目にして、マンション管理組合の棟内イベントにかかるヒト・モノ・カネを外部化し、棟内コミュニティ形成を活発化させるサービス「クラスバ」を2021年から運営。セミナー講師や寄稿など多数。

タワーマンションはその形状から、棟内で比較的安価な部屋と高価な部屋では、数倍の差をつけられて販売されることが多い。このため、棟内の意見は様々だ。基本的な維持管理コストの高さは、外観から容易にわかるが、多様でグラデーションのある居住者は、マンションの一貫した管理運営を難しくする。このため、理事会方式で運営されるタワーマンション管理において、最も重要なのは「長期的な運営方針についての合意形成」となる。

マンション管理において、絶対的な正解や正義というものは存在しない。「運営コストを最小限にとどめた方向を目指す」のか、それとも「ある程度の費用をかけてでも特別な空間を維持していく」のか。正解は居住者の中にしかない。個人的には、タワマンは見栄としての側面もあるため、目先のコストの安さを取るよりも、費用をかけて維持していくことが資産価値を保ちやすいと考えるが、管理費と修繕積立金が高いマンションには住みたくないという人もいるだろう。

このため、タワマン居住者の満足度を高めつつ、長期的な運営方針についての合意形成を実現するためには、ハードに見合ったソフトを充実させ、マンションを特別な存在として演出し続け、プライドのメンテナンスをしていくことが必要だ。特別な制服を持つコンシェルジュ、予約の記載時に使う時の高級なペンや紙といったアメニティ、常に整備され、清掃された共用部、そして居住者同士のコミュニケーションを促進するイベントの企画などが、この目的を達成するための施策だ。居住者に自分が住んでいるタワマンが特別な場所であることを認識させることができれば、一貫性のある管理運営方針を長期にわたり確立することができ、それは資産価値を向上させるマンション管理につながる。

一方で、目下のところ管理運営の最大の課題は、人件費の増加、各資材のコスト増大など、インフレに対応していくことである。少子高齢化やコストプッシュ型インフレなど、維持にかかる経費は今後減ることはなく、増える一方であろう。実は、管理会社から人件費等の高騰を理由として、委託経費のアップを提示されている管理組合は多い。
インフレの世の中へ転換していく中で、マンションの価値を継続的に維持、そして向上させるためには、やはり経費の適切な見直しと同時に、長期的な運営方針のもと、居住者へのコストアップの説明と理解を求めることが重要だ。

今後、少子高齢化が進む中で、人件費が最大のコストとなっていくだろう。なるべく人の手がかからない管理運営を目指して継続的に投資していくことが必要だ。特に清掃や修繕チェックなどの分野で、ロボットやドローンの導入などが必須となっていく。
天高くそびえ立つタワーマンションも、通常のマンションも、結局は人の手によって管理運営されていく建物であることには違いない。

ますます注目度・存在感が高まるタワーマンションに今後期待される3点について ~ 鈴木 貴子氏

<b>鈴木貴子氏</b>:株式会社長谷工総合研究所取締役主席研究員。
1986年現長谷工アーベスト入社。入社後2年間新規マンション販売業務に従事。以降はマンション市場レポート作成、市場・顧客分析システム開発、商品企画提案、販売受託営業の法人営業に携わる。現地調査で訪れた駅は1,187駅(2023年3月末現在)。2023年4月より現職。長谷工総合研究所が発行する総合不動産情報誌「CRI」(月刊)の執筆及び編集業務を担当。長谷工グループが蓄積してきた情報・研究成果をはじめ、住まいに関する幅広い情報を基に業界内外に情報を発信。
鈴木貴子氏:株式会社長谷工総合研究所取締役主席研究員。 1986年現長谷工アーベスト入社。入社後2年間新規マンション販売業務に従事。以降はマンション市場レポート作成、市場・顧客分析システム開発、商品企画提案、販売受託営業の法人営業に携わる。現地調査で訪れた駅は1,187駅(2023年3月末現在)。2023年4月より現職。長谷工総合研究所が発行する総合不動産情報誌「CRI」(月刊)の執筆及び編集業務を担当。長谷工グループが蓄積してきた情報・研究成果をはじめ、住まいに関する幅広い情報を基に業界内外に情報を発信。

タワーマンションは高い耐震性と防災面に優れる建物ですが、一般的なマンションにはない生活面・管理面の特徴が見られます。今回はその中から3点述べたいと思います。

【1】超高層ならではの有事への備え

すべてのタワー物件ではありませんが、階数によって使用できるエレベーターが異なる場合があります。通常の生活においては利便性が高まりますが、日常からの管理組合・管理会社の連携による避難経路の確認や防災訓練実施が望まれます。そうする事により、有事の際にも安心して落ち着いた避難行動が可能となります。

【2】居住者の多様性と価値観の違いを共有するコミュニティの形成

大規模物件であれば、居住者の多様性は当然に生じることですが、タワーマンションの場合は「大規模」×「階数差」により居住者の多様性の範囲は拡大します。都心部にあっては「国際色が豊か」となる事により価値観・文化や習慣の違いなどが、さらに多様性の幅を拡大させることもあります。
居住者間のコミュニティ形成には様々な在り方がありますが、定期的な全員参加型のイベントの実施や、日頃から居住者同士が顔を合わせる機会づくりなどで、自助・共助が求められる有事の際もスムーズな対応が可能となるでしょう。日常的なコミュニケーションは規模に関わらず心掛ける事が大切ですね。

【3】ランニングコストの低減と新技術の導入

タワーマンションならではの管理費や修繕費など、初めてタワーマンションにお住まいになる方にとっては馴染の無いものも多いでしょう。ランニングコストの低減を図るための新技術の導入(仕様・設備の採用や省エネ・創エネ)など、将来に向けてさらに改善が期待されます。   
我が国でのタワーマンションの歴史は浅く、全国ベースでも100棟を超えたのは1997年で、まだ30年にもなりません。今後ますます都市部を中心としてタワーマンションの注目度や存在感・ニーズが増していく事が予想されますが、一般のマンションとは異なる独自に特化した管理・運営ノウハウが必要となります。
管理上の規約や運用などの居住者ニーズや利便性向上に向けた変更・更新と合わせ、居住者・管理会社のみならず周辺地域も巻き込んだコミュニティの形成も必要だと考えます。
堅牢なタワーマンションが地域の防災拠点としての役割の一翼を担うなどの計画段階からの提案は、「地域社会に溶け込む=多様性と価値観の違いを共有し許容できる」これからのタワーマンションに求められる姿かも知れません。

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