日銀の超低金利政策によって収益源を探す金融機関が投資用不動産ローンを拡充
投資用不動産ローン(主にワンルームマンションなど区分所有権物件購入に対する融資)が拡大している。2023年1〜3月期の国内銀行新規貸出額は8,843億円と前年同期比で4%増加しており、5年ぶりの高水準となった。日銀の調査によると、「個人による貸家業」向けの設備資金新規貸出額は2023年1〜3月期まで8四半期連続で増加、四半期別の新規貸出額は2016年7〜9月期の12,415億円をピークに減少し続けていたが、2021年以降には反転拡大し始めたことが、この貸出金額の増加に繋がっている。
この貸出金増加の主な要因は、専らネット銀行や地銀が投資用不動産ローンを積極化しているためだ。一例を挙げると、楽天銀行の投資用マンション向け貸出残高は2023年3月末時点で5,087億円と対前年比約80%増、3年前の2020年3月末比では約800%にまで拡大している。また、ソニー銀行、横浜銀行や静岡銀行もIRを確認すると順調にアパートローンなどが拡大しているようだ。
かつてはオリックスやジャックス、日立キャピタル、セゾンなど一部の限られたファイナンス会社が投資用不動産ローンの門戸を開いていただけだったが、現在は全国に対象を広げ、貸出残高を大きく伸ばすだけでなく、ローン商品として住宅ローンとともに主力になりつつある。
投資用不動産ローンは、物件のインカムゲインに加え、キャピタルゲインも期待できる投資商品として徐々に成長し、2018年にスルガ銀行がシェアハウス物件を巡る不適切融資によって業務改善命令を受けたことから一時融資姿勢が厳しくなっていたが、各金融機関は金融緩和の継続による超低金利状況に対応するため、再び区分所有のマンションへの投資ローンを拡充している。
このように順調に拡大する投資用不動産ローン市場だが、目下のところ最大の懸念材料は日銀の金融緩和策の修正観測だろう。また、不動産投資に関連するトラブルも皆無ではなく、賃料回収に関連して投資家=ローン利用者への不払いが発生し、ローンを提供している金融機関が対応に追われるケースも発生している。
元来(不動産)投資は、手元にある余剰金を単に貯蓄しておくのではなく“手元資金を働かせる”発想でさらに資産を増やすための手法だ。つまり、金利差(レバレッジ)を活用してローンを組んで=借金してまで資産形成するのは、もともと相応にリスクが高いことを知っておかなければならない。また、その資金の回収や返済が万一滞った時のリスクも予め考慮し、対策を立てておく必要がある。
依然として金融&投資リテラシーの決して高いとは言えない一般ユーザーを投資家として、融資の対象とするビジネスは、第2の“かぼちゃの馬車”事件を生み出すことに繋がりはしないのだろうか。投資は自己責任という言葉が免罪符となるような市場では、今後の安定的な拡大が期待できなくなる可能性も残る。
投資用不動産ローンの拡大とそこに潜むリスクについて、有識者の意見、そしてユーザーに向けてのアドバイスを聞いた。
投資用不動産ローン(アパートローン)の拡大は大きな将来リスクに ~ 谷崎憲一氏
公益社団法人 東京共同住宅協会会長 谷崎 憲一:昭和44年の創立以来、民間賃貸住宅経営者・入居者を支援しつづけている内閣府所管の公益団体東京共同住宅協会にて会長を務める。円滑な賃貸市場構築の為、賃貸経営者が抱える様々な問題の解決機関として、相談会やセミナーなど積極的な公益活動に携わっている。他、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会副会長、NPO法人賃貸経営110番顧問を務める2023年1〜3月期の国内銀行による新規貸出額は8,843億円と前年同期比4%の増加と、5年ぶりの高水準となっている。個人の住宅ローンと併せて、不動産担保融資は不動産取引が活況のため高水準となっており、それは日銀の低金利政策、金融緩和のなせるわざである。世界中の金利が上がる中、日本だけが上げられないでいるが、もし、今インフレ退治のために、日本も利上げに追随したら、当然に個人住宅ローンを組んでいる人は破綻の道に向かうだろう。
韓国でも、昨年後半から今春にかけて政策金利0.5%から3.5%に上昇したが、途端に不動産価格が暴落し、住宅ローン破綻者が相次ぎ社会問題になった。米国の株式市場の代表的な株価指数NYダウと政策金利の動きでも、金利の上昇がストレートに株価に影響を与え、金融引き締めは戦争など米国が関わる有事の影響より多大であることがはっきりしている。まさに、金利動向はどこの国でも株や不動産など、景気と密接な相関関係にあるのだ。日本も例外ではなく、バブル後の失われた20年、30年と言われる長期不況のきっかけは金融引き締めにあった。
そのため、急激な投資用不動産ローンの拡大はかなり危険である。身の丈にあった投資をしなければならないところ、低金利や金融機関の甘い審査により、将来の金利上昇リスクを軽んじた投資に踏み切きるのは、博打に近い行為である。万一、返済が厳しくなっても別の資産を売却するなり、充当する背景や体力があれば、まだいいのだが、投資家の中には身の丈ギリギリのところでの不動産投資となっているケースも多く、金利上昇局面では間違いなく不動産価格は下落するため、債務超過となりかねない。
過去に何度も痛い目に遭ってきている金融機関だから大丈夫だろうという声もあるが、投資用不動産ローンについては、地方銀行に加え新興のネット専業銀行組が拡大を牽引している。
最近ではビッグモーターの信販会社による不適切な融資、少し前ではスルガ銀行のかぼちゃの馬車事件が象徴するように、いつの時代も金融問題が登場するが、今回も同じような轍を踏むのではないかと危惧している。不動産投資物件の販売価格は過去最高値を更新し、その過熱感から将来は再バブルの崩壊と個人債務者の破綻問題につながってくる。
人口減少時代の不動産投資は慎重に 保有資産に対し過大な借入は、大きなリスクを伴う ~岡本郁雄氏
岡本 郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ日本銀行による金融緩和は、調達金利の低下をもたらし不動産投資市場には、プラスになっている。資産形成が叫ばれる昨今、不動産投資が注目されるのは当然のことだろう。留意したいのは、投資用不動産ローンが拡大すれば市場参加者が増えることで価格が高止まりしやすいことだ。投資用不動産価格の上昇は、利回り低下を招くことになる。表面利回り4%前後という低利回りの収益物件広告を見かけることも多い。
低利回りでも借入金利が低ければ収益は確保できるという見方もあるが、建物や設備は経年で老朽化し修繕費や設備の更新費もかかる。重要なのは、将来のリスクを踏まえつつ持続可能な資金計画を立てること。そして、将来の資産価値が毀損しにくい不動産を購入することだ。金利上昇リスクに備えるには一定の純資産を保有していることが重要だ。地方において成功した不動産オーナーの投資スタンスは、表面利回り15%~20%の収益物件(主にRC造の賃貸マンション)を自己資金30%で購入し融資期間15年で完済するというものだった。これなら金利上昇しても十分耐えうるであろう。
不動産投資には、さまざまなリスクがある。近年、豪雨災害で各地に大きな被害をもたらしているが、洪水で水浸しになったアパートも多い。一度浸水すると、修繕費用が発生するだけでなく、市場からの評価も下がってしまう。また、10年後、20年後に周辺に賃貸住宅が増え需給バランスが悪化し空室率が高まるかもしれない。平成30年住宅・土地統計調査によれば、日本の空き家数は848万9千戸と過去最多。全国の住宅の13.6%を占めている。今後も空き家は増え続ける見込みで、賃貸住宅の競争環境も厳しくなるだろう。
総務省統計局によれば、2023(令和5)年1月1日時点の日本の総人口は、1億2,541万6,877人で51万1,025人のマイナス。2010(平成22)年から14年連続で減少し、対前年減少数及び対前年減少率は最大だ。これまでの20年間と人口減少が加速するこれからの20年では、不動産投資の環境は大きく異なることに注意したい。筆者は、数億円の借入で新築アパートを複数購入した人から、「借金が大きすぎて不安でお金が使えない」と聞いたことがある。豊かさを求め投資をしたのに、自由な暮らしができなくなるのは本末転倒だ。「商いをするには、まず損金を積むべし」という投資の格言もある。小さな資金で始められ確実なリターンが得られるのは、自己投資だ。若い人は、まずはそこから始めてみてはいかがだろうか。
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