「託すをつなぎ、未来をひらく。」大東建託株式会社の新たな挑戦を聞く

コロナ禍を経て、あらゆるサービスや物が変化をする中、住宅へ求めるものも変化を続けている。
「日本の未来の住まいはどのように変化をし、住まいに携わる企業の使命はどういうものか」を考えるこの企画。複数回にわたり、さまざまな住宅業界のリーディングカンパニートップにインタビューを行ってきた。

インタビュアーは、株式会社 LIFULL 井上 高志 代表取締役社長。株式会社 LIFULL は、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとし、不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営している。「住まいは人の幸せに直結する」という考えのもと、この企画を通じて、日本の住まいを担う企業のトップの想いとその企業の取組みをきく。

今回の企業は、2023年7月現在、全国47都道府県で215支店を展開しており、賃貸住宅の最大手である、大東建託株式会社。
1974年、大東産業株式会社として創業、都市周辺の準工業地域の遊休地に事業用賃貸建物(倉庫・工場・店舗)を建築し、家賃による利益を生み出すという新たな土地活用方法の提案を開始した。1980年には、空室時の家賃保証を行う「大東共済会」を設立し、賃貸経営総合支援サービス確立に向けた礎を築いている。
2023年4月、新たに竹内社長が就任、初めてグループパーパスを発表した。

2022年に株式会社スノーピークと「野遊び賃貸プロジェクト」を発足した大東建託の社長室の一角には、アウトドアのような空間にテントがおいてあった。今回はこの場所で、賃貸住宅事業を中心に循環型社会や地方創生など新たな領域を拡げる取組みを、 大東建託株式会社 代表取締役 社長執行役員 竹内 啓氏にお話を伺った。

写真左)大東建託株式会社 代表取締役 社長執行役員 竹内 啓氏</br>
写真右)株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上 高志氏写真左)大東建託株式会社 代表取締役 社長執行役員 竹内 啓氏
写真右)株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上 高志氏

大東建託の経営理念と沿革

井上氏:竹内様、このたびは社長就任おめでとうございます。大東建託株式会社は、1974年の創業時より住まいと土地の有効活用を結び付けた事業用賃貸物件を多く手掛けており、絶えずオーナー様と入居者様のニーズに向き合ってこられました。改めて、新しく社長に就任された竹内様から御社の沿革と経営理念についてお聞かせいただけますか?

竹内氏:私が社長に就任した今年、初めてグループパーパスである「託すをつなぎ、未来をひらく。」を策定し、発表させていただきました。今後の当社の姿勢として、今までの感謝と挑戦と次の50年、さらにいうと100年先を見据え、業界や社会に貢献ができる企業に成長させていきたいと考えています。そのために今までの事業を継承しながら、変化させなくてはいけないことは変えていきたい、と思っています。
当社は、最初に事業用建物を扱うかたちで創業しました。創業時は会社のオフィスを持てず、創業者は机と電話だけで始めたようです。当初は主に事業用貸倉庫・貸工場の管理業務を行っていました。

井上氏:倉庫などの事業用建物が始まりだったのですか。それが、賃貸住宅管理戸数最大手の会社にまで成長したのはどういった経緯だったのでしょう。

竹内氏:創業者が事業を立ち上げた時代は、高度経済成長期でもありました。当初は土地オーナー様の土地に貸倉庫、貸工場を建て賃貸するビジネスを農業のオーナー様に提案していました。農家のオーナー様にとっては、手間がかからないうえに、遊休不動産を活用することで、現金収入を得ることができました。とはいえ、知名度もなく最初は苦労したようです。オーナー様の建てた倉庫の空室時に家賃収入が途切れる不安を払拭したい。そのため、オーナー様のその不安を解決するべく大東共済会をつくりました。互助の仕組みです。共済会自体の考え方をオーナー様に受け入れてもらって、だんだん信頼を得られるようになりました。このビジネスを全国に拡大したことが当社の成長のきっかけです。その後、人口増と住宅需要に対応するため、農地をもつ地主さまに賃貸経営を提案し、設計・施工から入居者募集・管理・運営までを一括で請け負うビジネスモデルで急成長したのが当社です。
弊社の社名にある「託す」の文字は、創業以来絶えずオーナー様から不動産を託されるということに向き合ってきたことの現れです。

インタビューは大東建託株式会社 本社 品川の社長室に設置されているテントでリラックスして行われたインタビューは大東建託株式会社 本社 品川の社長室に設置されているテントでリラックスして行われた

竹内社長の入社期からの大東建託の変遷

井上氏:竹内社長は何年に御社へ入社されたのでしょうか。その時代の御社はどういった状況だったのでしょう。

竹内氏:私がこの会社に入社したのは、1989年です。1989年といえば平成元年ですが、その辞令をもらったときの弊社の経営計画書は今でも大切にとってあります。これですね(当時の経営計画書を開いて)

井上氏:すごい。本当に大事にとっていらっしゃったんですね。竹内社長の愛社精神を感じます。

竹内氏:入社以降の経営計画書はその後もずっととってあるのですが、見返してみたりすると当時の経営状況などとともに仕事のひとつひとつが思い出されます。資料に記されている経営理念は「我が社は、限りある大地の最有効利用を広範囲に創造し、実践して社会に貢献する」。事業活動における具体的な指針として、経営の基本方針を5つ定めています。① お客様第一主義に徹する(CS重視の経営) ② 重点主義に徹する(経営資源の重点的な投入)③ お客様の要望に合わせ、当社を創造(造り変え)する(市場環境への適応)④ 現金取引主義(キャッシュ・フロー重視)⑤ 高い生産性を背景とした業界トップレベルの高賃金主義(成果主義の人事処遇) ですが、これは今でも変わっていないですね。

入社当時の経営計画書を「辞令と一緒に大事にもっていました」という竹内社長入社当時の経営計画書を「辞令と一緒に大事にもっていました」という竹内社長
入社当時の経営計画書を「辞令と一緒に大事にもっていました」という竹内社長入社当時の辞令と当時の経営企画書

井上氏:その後の御社の成長とともに竹内社長も一緒に走ってきたということですね。

竹内氏:弊社の大きな転機としては、まずはバブル崩壊に伴い事業用賃貸建物の需要が大きく減退するなか、1992年の生産緑地法改正・施行により拡大した賃貸住宅市場への転換を決断したことです。その後、1995年2月に発売した2×4工法低層住宅「ニュークレストール24」は、空室待ちができるほどの人気を博し、賃貸住宅市場においても確かなポジションを確立しました。
もちろん、ピンチもありました。2006年の保険業法改正・施行に伴い、事業基盤を担ってきた大東共済会の運営が困難になったのです。そこで、それまでの共済会に代わる新たな仕組みとして生まれたのが、現在でも当社グループの中核を担う一括借上方式の「賃貸経営受託システム」です。

大東建託の強み「賃貸経営受託システム」

<b>竹内 啓:</b>大東建託株式会社 代表取締役 社長執行役員。1965年生まれ。1989年大東建託入社。首都圏営業部長、執行役員テナント営業統括部長、建築事業本部長を経て2023年4月に社長就任。竹内 啓:大東建託株式会社 代表取締役 社長執行役員。1965年生まれ。1989年大東建託入社。首都圏営業部長、執行役員テナント営業統括部長、建築事業本部長を経て2023年4月に社長就任。

井上氏:「賃貸経営受託システム」は大東建託の大きな強みですね。どのようにそういったサービスを考えられたのでしょうか?

竹内氏:先ほども申し上げたように保険業法の改正によって大東共済会が成り立たなくなった。次にどういった仕組みがオーナー様と業界に必要なのか考えたものが、大東共済会を建物管理の大東建託パートナーズにいれて一括借上の仕組みを取り入れた「賃貸経営受託システム」でした。管理建物数のスケールメリットを活かしたコスト抑制、高耐久資材の導入による修繕負担の軽減、強力な入居者斡旋力による高い入居率といった当社の強みを活かすだけでなく、借上賃料は家賃の85~90%と高く、オーナー様に向き合った他社と一線を画すシステムでした。これにより空室や家賃滞納・家賃変動・原状回復費・修繕費などの賃貸経営のリスクを含め、長期にわたってオーナー様の課題を解決しながら伴走できるようになりました。

井上氏:なるほど、広範囲でサポートができる体制を作り上げたのですね。

竹内氏:特にオーナー様がいちばん頭を悩ませる入居者様の家賃滞納や家賃回収ですが、独自の管理専門スタッフによる確実な家賃回収で、家賃の未回収率は0.1%(業界平均0.9%)を実現しています。これは、細やかな入居者様のチェック、過去に問題や事故がないのか、家賃が遅れたことはないのかなど、しっかりとしたデータを元にしているからです。細やかな管理とデータが基盤であり、なかなか他の会社様は真似ができない当社の強みの一つでもあります。

井上氏:賃貸物件の長期の管理には、メンテナンスコストもかかるとも思われますが……。

竹内氏:当社では、すでに35年の借上ができるという仕組みができあがっています。先ほど申し上げた修繕の内容ですが、セルフクリーニング機能で雨水により汚れが落ちる外壁や、表面に特殊フィルムをラミネート加工して汚れがすぐ落ちるクロスをもともと採用しています。また、同じく傷がつきやすいフローリングもすべてを貼り替えるのではなく、一部だけを取り換えられるようにするなど、自社開発のメンテナンスがしやすく、コストが大きくかからない高耐久資材の採用で管理の効率化を図っています。

社会の変化・環境の変化への取組み

<b>井上 高志:</b>株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。井上 高志:株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。

井上氏:ここ数年、大きな社会変革では、コロナウイルスの蔓延がありました。また、地球温暖化など環境も深刻な変化を続けています。これらの変化に対して、御社はどのように対応していくのでしょうか。

竹内氏:SDGsへの対応はいまや企業のひとつの責任です。我々の業界も大きな責任を負っていると思います。特に当社は、これだけの賃貸住宅を世の中に供給しているのですから、向き合うべき大切な課題だと思っています。例えば、エネルギー問題の解決のひとつであるZEH住宅。弊社は2017年に日本で初めてとなるZEH基準を満たす賃貸集合住宅を完成させています。以降、低炭素社会の実現に貢献すべく、ZEH基準を満たす賃貸集合住宅の商品化と普及に取り組んでいます。2022年には、国内初のLCCM賃貸集合住宅『NEW RiSE LCCM(ニューライズ エル・シー ・シー ・エム)』の販売を開始しました。LCCM住宅とは、建物のライフサイクル(建築から解体まで)におけるCO2の収支をマイナスにする住宅のことですが、民間から働きかけて国とともに動くということを進めています。
2022年度は10,000戸のZEH賃貸住宅販売目標に対し、実績は34,626戸となりました。ここにはZEHオリエンテッドも含まれるため、2023年度はZEHオリエンテッドを含めないZEH賃貸住宅の販売促進に注力(目標10,000戸)し、地域と歩む企業として環境対応に力を入れてまいります。

<b>井上 高志:</b>株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。国内初のLCCM賃貸集合住宅『NEW RiSE LCCM(ニューライズ エル・シー ・シー ・エム)』

井上氏:環境だけでなく、日本の住宅は災害への対応も求められます。地震だけでなく、毎年、多くの水害による被害も報告されています。こういった災害への取組みがあれば教えてください。

竹内氏:住宅は人の命を守るものでもあります。賃貸住宅であってもそれは変わりません。一つの例として、近年多い水害にフォーカスして開発した防災配慮型の賃貸住宅商品があります。1階をRCでピロティ化、2階以上を環境にも優しい木造とし居住空間を集約、日常時も非常時も機能する『フェーズフリー』をコンセプトとした「ぼ・く・ラボ賃貸 niimo(ニーモ)」という商品です。快適な防災アイテムを標準設置した防災配慮型の賃貸住宅「ぼ・く・ラボ賃貸 yell(エール)」という商品もあります。
また、当社と株式会社スノーピークは2022年7月に「賃貸×野遊び×防災」をテーマとした地域コミュニティをプロデュースする「野遊び賃貸プロジェクト」を発足しました。「防災に強い賃貸住宅」を目指す当社と、キャンプの分野で培った強みを活かし、住宅や広場に「野遊び」の要素を取り入れた空間作りを進めるスノーピークが、それぞれの理念や取組みに共感したことから始動したプロジェクトです。身近にある「野遊び」から得られる人間力により、防災力が自ずと高まることを目標にしています。今後は共に地域防災や地域創生に取り組む個人・法人・行政とともに野遊び賃貸の拠点「nonoka(野の家)シェアフィールド」の開発を推進し、防災をテーマに各エリアの地域性に合わせた持続可能なコミュニティーを創出することで、地域と人が「つながるしくみ」を構築する予定です。

<b>井上 高志:</b>株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。大東建託とスノーピークが2022年7月に立ち上げた「賃貸×野遊び×防災」をテーマとした地域コミュニティをプロデュースする「nonoka(野の家)シェアフィールド」の模型

大東建託のこれからの挑戦

井上氏:竹内社長が考えるこれからの大東建託について、ぜひお聞かせください。

竹内氏:これからの社会は何が起こるかわからない変化の激しい時代になると思います。そのためにまず私が行わなければならないのは、会社の体質を強くすること。当社は今後、総合賃貸業を核としながらも生活総合支援企業への拡大を考えています。これからの世の中のニーズに対応するためには自発的に考え、行動できる社員を増やしていきたい。自分の意思をもって自分だったらこうする、という意見がちゃんと出てくる組織にしなくてはいけないと思います。すべて自分事でとらえられる人が今後の世の中では強い。会社を利用して成長してもらえるような社員が増えるとよいな、と思っています。
小さなことですが、古い体質が残っている部分もあったので、まずは役職名で呼ぶのではなく社内では「さん」付けで呼ぶように変えました。また、私自身も週に1・2回、本社各部門の若手とランチミーティングをしています。ランチミーティングの際に技術の若手の男性が私が富山出身だと聞いて、私の地元で食べられているとろろ昆布で巻いたおにぎりを買ってきてくれました。こうした気遣いをしてもらえるのは嬉しいし、そういった気遣いができる人はお客様に対しても同じように接することができるのだろうなと思っています。

井上氏:社内でよいコミュニケーションが生まれていますね。

竹内氏:人の気持ちをつなぐつなげる、ということは社内だけでなく社外・仕事でも大切だと思っています。そのためには「現場主義・簡潔明瞭」を心掛けてほしいです。仕事が上手くいかなくても、物事には必ず理由がある。その状況や環境、人との関係など、現場には様々な糸口やヒント、チャンスがあるんです。そこを見つけて、改善・創意工夫を重ねて、やるという意思と実際に実現する力をつけてほしいですね。

「社員には自発的に考え、行動できる人となり、また、現場主義・簡潔明瞭を心掛けてほしい」と語る竹内社長「社員には自発的に考え、行動できる人となり、また、現場主義・簡潔明瞭を心掛けてほしい」と語る竹内社長

井上氏:国内では業界No1の御社ですが、海外についてはいかがでしょうか?

竹内氏:コロナ禍もあり、しばらくはあまり注力できなかったのですが、世界に目を向けると、住宅が足りなくて困っている国は多いです。国内で培ってきた弊社のノウハウや仕組みを他の国で転用できれば多くの人が喜んでくれると思います。パートナーとして取り組める企業や人を携えて取り組んでいきたいとは思っています。国内だけでなく、海外へもぜひ挑戦していきたいですね。

井上氏:これまでも多くの挑戦をされてきた御社の、さらなる次の挑戦が楽しみです。本日は良いお話をありがとうございました。

「社員には自発的に考え、行動できる人となり、また、現場主義・簡潔明瞭を心掛けてほしい」と語る竹内社長大東建託株式会社 本社(東京:品川)にて(2023年6月14日 撮影)

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