2022年12月 日銀は長期金利の誘導上限を0.25%から0.5%へ 事実上の利上げ実施
金融業界にも住宅・不動産業界にも激震が走った突然の長期金利の誘導目標の変更によって、長期金利=新発10年もの国債の金利は一気に誘導上限の0.5%に達し、2023年3月現在0.5%超の水準で推移している。誘導目標は変更したものの、日銀は金利誘導についていわゆる指し値オペを実施し続けており、0.5%に誘導するべく国債を買い支えているが、金利上昇圧力は決して弱くなく、0.5%を超える上昇圧力も確実に強まっている(2023年3月現在0.53%前後で推移)。
ただし、2022年12月17日および18日に開催された軌道修正後初めての金融政策決定会合では、金融緩和策の継続が全員一致で決議され、10年もの国債金利0.5%での指し値オペを「明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日実施する」と改めて表明し、長期金利変動幅の上限を据え置くことによって、金融緩和の継続を強調している。この長期金利の0.5%超という水準は、これまでの0.25%から0.25ポイントの上昇幅の猶予を置いて国債の売買を活性化させる目的があるが、大々的な指し値オペの継続によって日銀以外のプレイヤーの存在は依然として希薄なままだ。
このような経緯で2022年末に長期金利が0.25ポイント上昇したことにより、長期金利に連動している住宅ローンの固定金利は、当然のことながら各金融機関で引き上げが検討され、メガバンクを含む大手5行は10年固定型住宅ローンの金利を2023年1月から平均で0.24%引き上げている。これらの措置によって35年固定は平均で1.680%、10年固定は平均1.550%、5年固定でも平均1.139%と、2022年12月から0.1~0.4ポイント金利が上昇している。以降も住宅ローン固定金利上昇傾向は強く、金利の先高観はしばらく継続する可能性がある。ちなみに、一方の住宅ローン変動金利は、連動する短期金利(正確には短期プライムレート)が1%から変化しておらず、依然として平均で0.440%のまま推移し続けている。
インフレ抑制目的で諸外国での金融政策の変更が実施され、日本との金利差が拡大するにつれて円安による資材・エネルギー価格の上昇が発生しており、今後も新たに建設される住宅の価格は高騰する可能性が高いが、住宅ローン金利も上昇することとなれば、本格的に住宅市場のシュリンク(=価格下落や購入者の減少)が始まることも予想される。4月には日銀が植田新総裁を迎えて金融政策の軌道修正がいつから始まるのかについて注目が集まるなか、今後の住宅市場は、そして住宅ローン金利はどのように動くことが考えられるのだろうか。市場の動きに詳しい有識者に、その想定されるシナリオを確認した。
変動金利型の住宅ローンは、当面は低利率を継続の見込み ~ 伊藤陽平氏
22年末の日本銀行の発表から金融政策が変更され、実質的な金利の上昇が起きた。マイナス金利政策が取られて大規模な金融緩和となり、住宅ローンの金利も持続的に下がっていた日本にとって、久しく見られなかった事態となった。長く続いた金融緩和の方針を日銀が維持することは確認されているものの、総裁が4月に黒田東彦氏から植田和男氏に変わることで、将来的には「異次元の金融緩和」と呼ばれた政策の出口を探ることは視野に入っているだろうと推測される。
住宅ローン金利は、22年末からどのように変化しただろうか。結論から言えば、金利政策が変更されていながら一様な上昇は見せていない。それどころか、住宅購入の際に多くの契約者が現在は利用しているといわれる「変動金利型」の住宅ローンの場合、23年に入ってから、競争環境が激しいとみられるネット銀行系を中心に、かえって金利が低下した住宅ローン商品も見られた。
そうした前提を踏まえながら、一方で大規模金融緩和の方針が続いた間は住宅価格の上昇が続いている状況を考慮すれば、住宅ローンや住宅価格の動向を検討して住宅購入を急ぐべきとは私は考えていない。どちらかというと、暮らしを営むという観点で必要性を重視しながら住宅を購入するという基本を重視してほしいと考えている。
そもそも、日銀の金融政策は長期金利の部分しか見直しがなされていない。長期金利の中で10年物の国債の金利が「フラット35」をはじめとした「固定金利型」の住宅ローン商品に影響を与え、これらの商品は金利が上昇している。本稿を執筆している3月下旬時点では、4月以降に再度の金利許容幅の拡大(実質的な金利の上昇)もありうるといわれ、政策的な措置がない限り、固定金利型の住宅ローン商品の金利について今後の上昇を織り込む必要がありそうだ。
変動金利型の住宅ローンには、銀行が優良企業に短期の貸し出しを行う際に用いる「短期プライムレート」が基本的な影響を与えている。短期プライムレートは、現在のマイナス金利政策の前段階であるゼロ金利政策の頃(08年)から低水準で変わっていない。当面は、変動金利型のローンを選んで住宅を購入したとしても、急な金利上昇で家計を圧迫するというリスクは小さいだろう。短期プライムレートは、良好な経済状況に基づいて持続的で実効性のある賃金の上昇などが見られてから金利の引き上げが行われるという建て付けなので、23年度の上半期に大きな動きが起きる可能性は低いと思われる。ただし、今春の賃上げの評価などによっては、たとえば23年度下半期に大幅な金融政策の見直しが発表され、変動金利型の住宅ローンの利率にも上昇が発生するという可能性は見込まれる。今からすぐに住宅を取得して変動金利型を選択した場合、非常に有利な条件でローンを借り入れることができるという点も間違いないだろう。
現在の不動産市況に目を転じると、新築住宅の価格が上昇しているうえに供給が多いとはいえず、勢いの弱まりは見られ始めたものの中古住宅の価格も高水準が続いている。消費者にとって理想的な環境とは言いにくいというのが本音だ。そういう状況だからこそ、魅力的な利率の住宅ローン商品は少なくない。また、たとえば系列の店舗で買い物をする際に料金を割り引くといった住宅ローン組成の各種の特典は、これからも増えていくことが見込まれる。ライフプランから長期的な暮らしの展望を描いた際に住宅を取得することが必要であれば、住宅の購入に踏みきってよい時期と捉えることもできそうだ。
伊藤 陽平:株式会社不動産経済研究所 編集部門通信ユニット所属 「日刊不動産経済通信」記者。不動産仲介業に携わる企業や団体、不動産テック系の企業などを主に担当している。これまで、鉄道系・商社系などのデベロッパーに加え、マンション・デベロッパーや分譲マンション管理会社などを担当してきた
「金利」と「住宅価格」のバランスを考える ~高橋正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など3月9日・10日、日銀黒田総裁としては最後となる金融政策決定会合が行われ、2022年12月に長期金利の誘導目標が0.25%から0.5%に引き上げられた長短金利操作(イールドカーブコントロール)下での金融市場調節の方針を、現状維持とすると全員一致で決まった。
上限引き上げなどの政策修正という警戒もあった中での、ある種据え置きともいえるこの方針を受け、新発10年国債はすぐに反応し2022年12月の誘導目標を引き上げられて以降、上限となる0.5%に達したまま推移していた金利が一気に低下し、現在のところ0.3%前後で推移している。
では、これをもって金利上昇圧力が落ち着いたと判断できるかどうかと問われれば、必ずしもそうとは言えないだろう。あくまで、現在の金利の低下は、国内の金融政策によるものというよりは、クレディ・スイス・グループへの経営不安や、米国シリコンバレー銀行破綻の影響等で海外株式相場が下落したことによる債券市場への資金流入、そして米国長期金利の低下といった国外からの影響が大きいと考えるべきだろう。
さて、金融決定会合では、現在の国内の状況について、「雇用・所得環境の緩やかな改善」「企業収益も高水準」「資源高による影響もコロナ抑制と経済活動の両立により持ち直している」「先々は所得から支出への循環が生まれる」という生活実態とは少し離れた前向きな内容が報告されている。
同報告では「2%物価安定の目標を目指し、これを安定的に持続するまでに必要な時点まで、長短金利操作付き量的金融緩和を継続する」とされたことから、次期総裁となる経済学者でもある植田和男氏においても現行政策がしばらくは継続されると考えられるが、5年の任期における大きなテーマの一つが利上げであることは明白である。
最近の金利動向から、昨年からの長期住宅ローン金利上昇もしばらくはそのペースを緩める可能性もあるが、それも今後の海外のインフレ環境や金融市場の影響を大きく受けることになりそうだ。一方、短期金利の変動はなくその影響を受ける変動金利は依然として低いままだ。しかし、最近の住宅購入者の金利選択はこれまでのような、圧倒的な変動金利志向ではなくなってきている。つまり長期固定金利との選択を検討するケースが増えているということである。
そういう方にとっては、ここしばらくの長期金利低下はメリットともいえる。今後、仮に早期に金利の上昇が進んだとしよう。そうなると住宅需要はかなり冷え込むことは間違いない。それを待つという選択もあるが、不動産価格が10%下落したとしても、金利が0.6%ほど上昇すれば支払いの差はなくなる。また、国内需要が減少したとしても、住宅資材の高騰や、海外に比較してまだ不動産価格が高くない日本への海外資本の流入が続くことは避けられないだろう。こうしたなかで考えるべきことは、「住宅市場」や「不動産価格」という大きなくくりではなく、自分が求める住宅の場所がどうなるか?という視点だ。
今すでに、都心の一等地の価格上昇が全体を底上げしているように、郊外主要都市の駅近も含めて需要の見込める立地については今後も価格は安定していくと思われる。「買うは一瞬、住は一生」といわれるほど、住宅は購入後のほうが圧倒的に長い。いつ買うか?という判断も重要だが、長期的な視点での判断もまた大事にしてほしいと思う。
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