LIFULL HOME’Sの独自調査で明らかになった“リノベマンション”の漸増
このほど、筆者が所属するLIFULL HOME’Sの直近3年超(2019年以降)の調査で、特に築30年を経過した中古マンションの市場流通において、一般仲介(売主と買主を結び付けて売買をサポートする仲介方法)ではなく買取仲介(売主から物件を買い取ってリノベーション・リフォームしてから販売する間接的な仲介方法)によって売買される物件が大きくシェアを伸ばしていることがわかった。
ご存知の通り、中古物件の流通はマンションでも一戸建てでも一般仲介が主流だが、2019年1月には15.7%のシェアでしかなかった買取仲介(以下:買取再販)はその後徐々に拡大し、1年後の2020年1月には18.7%、2021年1月には20.0%と大台を突破し、今年1月には23.0%、直近の9月では27.5%にまで漸増している。直近の約3年間でシェアが10%以上拡大し、物件数にすると約2.5倍になっているから、買取再販物件の増加は顕著だ。特に2022年に入って以降のシェア拡大は4.5ポイントと急ピッチで、中古マンション市場での価格上昇への対応策としても注目が集まっている状況が見て取れる。
本稿ではこの買取再販物件の急増の背景について考察し、併せて中古マンションの流通市場におけるこのところの変化を取り上げることとする。
コロナ禍で大きく変わった生活と住宅への“向き合い方”
2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大によって、日本人の生活様式は大きく変化した。
外出時はマスクを欠かさず着用し帰宅時の手洗いとうがいは必須、また人との間隔を一定に保ち、会話は少なく、長距離の移動も控えるといったコロナ対策は、コンサートやスポーツ観戦、観劇など不特定多数が集まる場の休業に発展し、飲食店だけでなく、モデルルームや住宅展示場などの営業休止といった事態にも及ぶこととなった。当然のことながら(現状から見ると一時的なものではあったが)新築住宅の供給はほぼ皆無となり、中古住宅の市場も流通件数が激減、2020年春から秋にかけての約6ヶ月間は住宅市場自体が大きく停滞する状況となったが、その後感染者の減少と再拡大を繰り返すようになり“Withコロナ”の生活が定着するに連れて住宅市場はコロナ以前の巡航速度に回復し始める。並行してコロナ禍での新しい働き方であるテレワークも、特に首都圏において定着し、東京都のサンプル調査では都内の企業の約65%がテレワークを実施するに至っている。
このように生活様式も仕事の方法もコロナによって以前からドラスティックに変化したため、住宅に求められる機能も、主にオフタイムを過ごすだけでなく仕事をするためのスペースも必要になり、より広い住居、もう一部屋多い住宅への関心が高まった。いわばオンもオフも自宅でより快適に過ごすためにはどのようにしたら良いかということを、多くの人が考え始めたことになる。
また毎日通勤・通学する必要がないのであれば、事業集積地である都心や市街地中心部の近辺に高い賃料を負担して住み続ける理由がないと考えるユーザーが増えたことで、郊外方面に転居する傾向も次第に顕著となり、2020年下半期から東京都および東京23区の移動人口(転出と転入の差異)が“転出超過”となったことは記憶に新しい。実際に2021年の年間移動人口は、東京都は辛うじて5,433人の転入超過(2019年は8万2,982人、2020年は3万1,125人の転入超過だった)となったが、東京23区は1万4,828人の“転出超過”(2019年は6万4,176人、2020年は1万7,279人の転入超過だった)で、移動人口の大幅な減少を記録している。
“Withコロナ”のマーケットに資材価格の高騰と円安が追い討ち
このようにコロナ禍での生活と仕事への向き合い方が大きく変化することによって、住宅に対する関心も変化し、より中長期な視野で住宅購入や居住することそのものを考えるユーザーが増えたとの印象がある。
また、2050年までにカーボンニュートラルを達成するべく、脱炭素への取組みが本格化したことも手伝って、住宅の省エネ化、断熱化、太陽光パネルの設置といった住宅性能の向上についての社会的気運および関心が高まり、リフォームやリノベーションによって住宅の居住快適性を高めるだけでなく、機能面・性能面での向上を目指す取組み(断熱性が高まれば結果的に居住快適性も高まる)も確実に増えてきている。
しかし、コロナ禍を契機に住宅需要が確実に変化し、住宅の立地面でも性能面でも新たな動きが出始めた2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻によって世界的なサプライチェーンの逼迫が発生し、原油などのエネルギー価格、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、木材などの資材価格、小麦、飼料などの食糧品関連価格がすべて上昇し始める。
コロナ禍でも需要を的確にキャッチし、安定的に価格が上昇していた新築住宅は、エネルギー・資材価格の高騰を直截に受けることとなり、一戸建て・マンションともに価格が上昇し始めている。特に建築コストの急上昇は建設工事を請け負うゼネコンの大きなリスクとなり、契約の見直しが不調な案件については工事がストップするといった事態も起き始めている状況であり、コストアップによる物件価格の上昇はサプライチェーンがその健全性を取り戻すまで継続することになるから、当面販売価格の上昇は避けられない見通しだ。
折悪しく、これらサプライチェーンの脆弱化によるインフレを抑制するべく各国が金利政策を引き締める方向に動いて政策金利を相次ぎ引き上げたが、日本だけは依然として消費の弱さ(GDPギャップ)を懸念する声が大きく、また国債発行残高がGDP比で突出して高いこともあって、消費者物価の高騰につながる金融引き締めは行わず、緩和政策(ゼロ金利政策)を継続する方針を堅持しており、金利差の拡大による円安を招くこととなった。これによって輸入資材はそれ自体の値上がりに加えて円安による価格引き上げの“ダブルパンチ”となっており、当面は消費者物価指数だけでなく、新築住宅の価格も上昇が止まらない状況が続くことになる。
新築住宅の価格が上昇するとニーズは中古住宅にシフトする
新築住宅の価格が一戸建てもマンションも今後上昇局面が続くことになれば、住宅購入ニーズは自ずと中古住宅に向かうことになる。コロナ禍の中古住宅市場では売り物件の数がコロナ禍前ほどには回復しておらず、需給バランスのタイトな状況が続いて流通価格の上昇傾向が見られたが、新築住宅の価格高騰によってさらに需要が高まることとなり、結果的に新築住宅に追随するかたちで中古住宅の価格も明確な上昇傾向を示し始めている。
LIFULL HOME’Sのデータでは、コロナ禍発生直前の2020年1月に4,274万円だった東京都の中古マンション平均流通価格(売出価格)は直近の2022年10月には4,951万円へと700万円弱(15.8%)の大幅上昇となっており、大阪府平均でも同様に2,322万円→2,582万円(260万円/11.2%アップ)、愛知県平均2,017万円→2,138万円(121万円/6.0%アップ)、福岡県平均1,983万円→2,152万円(169万円/8.5%アップ)とマンションストックの多いエリアでは軒並み流通価格が上昇していることがわかる。特に東京都の都心部(※)では緊急事態宣言が解除された2021年10月以降、中古マンションの平均流通価格が7,000万円台を突破し、2022年10月には7,523万円に達しているから、もはや一般的な所得層では中古マンションでもなかなか購入しかねる価格水準にまで上昇していると言えるだろう。
※ 都心部とは都心に位置する6区:千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区を対象に中古マンション価格を算出している
“新築並みにきれいなのに比較的安価な中古マンション”のシェアが拡大
コロナ禍での生活様式と住宅市場の変化、併せて住宅市場の外部環境の大きな変化に伴う物件価格の顕著な上昇について状況とその背景を考察したが、この物件価格の上昇は当面続く可能性が極めて高いから、住宅を購入したいと考えるユーザーは、多くの場合、しばらくの間我慢を強いられることになるか、購入条件を見直して現状の資金計画で購入可能な物件を新たに探すことになる。
このような価格上昇局面でにわかに注目されるのが、冒頭で調査結果を公表した“買取再販物件”だ。
同じ中古マンションでも、比較的築年数の新しいもの(築10年以内が目処)は購入に際して大きな仕様変更をする必要がないことが多いから、水回り設備の清掃や交換、壁紙の張替えなどでイメージをほぼ一新することができるが、築年数の経過した物件、特に築30年を超えるような古い物件は、そのまま売却しても高く売ることは極めて困難だし(都心一等地など立地条件が格段に良ければ高額で売れる可能性はある)、売主がリフォームしてから売り出してもそのコストを回収できる金額で売却できる保証はないのでなかなかハードルが高い。中古マンションの買取再販を得意とする不動産会社は、リフォームのノウハウやコストの圧縮などに長けており、手間や時間がかかっても新築並みに機能性が高くきれいな物件に改修して販売することができるし、また相応の収益が発生することも想定できるから、築年数を経た中古マンションを積極的に買い取って、リフォームやリノベーションした上で再販する事業が中古マンションの価格上昇局面において活性化することになる。
こういった買取再販物件を購入するユーザーにもメリットは数々ある。まず中古物件を現状のまま購入してリフォームするにも具体的にさまざまなアイデアを出して依頼するのはハードルが高いし、あれこれ注文すると当初の予算を大きく超えてしまうというケースも少なくない。また工期が予定より延びて入居が遅れるなどのトラブルも発生する可能性もある。
その点、買取再販物件は多くの場合内見した段階でリフォームもしくはリノベーションが完了していてそのまま住むことができるし、ユーザーの目で確認したままが完成形だからどのようにリフォームされるのか不安になることもない。また買取再販物件は宅建業法で2年間の瑕疵担保責任(契約不適合責任)が義務付けられるため、期間中に発生した住宅の不具合については原則として無償で修理してもらうこともできる。さらに購入前に瑕疵保険に加入できる物件であれば、保険期間を5年程度に延長することも可能だ。
ただし、旧耐震物件(1981年6月以前に建築確認を取得したおおむね築40年以上経過している中古マンション)はいくら住戸の内部が新築並みにきれいでも、金融機関によっては住宅ローンの審査対象外とされていることがあるので注意が必要だ(フラット35では耐震基準適合証明書があれば住宅ローンの対象になる)。当然のことながら担保評価額も低くなる傾向にあるため、資金計画は慎重かつ十分余裕をもって立てる必要がある。
“リノベ済みマンション”はどのエリアに多いのか
LIFULL HOME’Sの独自調査によって、買取再販マンション=ほとんどの場合リフォーム・リノベーション済みマンションの流通シェアが拡大していることがわかったが、では、そういった“リノベ済みマンション”が数多く供給されているエリアはどこなのだろうか。“新築同様なのに比較的安価な中古マンション”を探しているユーザーのために買取再販物件が多い街をピックアップしたのが下のランキング表1だ(不動産会社による登録駅を対象に全流通件数を集計)。
2022年の1~9月に流通した中古マンションのうち、取引態様が仲介ではなく売主になっている物件を対象にその数の多い順に全国で集計したところ、1位は「越後湯沢」(新潟県湯沢町)という結果になった。いうまでもなくスキーリゾートとしてマンションが爆発的に供給されたエリアで、現在ではスキー人気の低下とともに忘れられつつあるあるが、それらのリゾートマンションが買い取られて不動産会社によって再販されている。7位の「熱海」(静岡県熱海市)も同様にリゾートマンションが数多く建ち並んでいるから、古いリゾートマンションを相応の価格で再販するための手段として活用されていることがわかる。こういったリゾートマンションは専有面積が広くて天井高もあり、仕様も良いためリフォームすれば見た目が格段に良くなるし、温泉付きの物件も多い。しかし、空き住戸が多いと管理面でのリスクがあり、また物件価格が立地面から安価に設定されていたとしても、修繕積立金や管理費などのランニングコストが高額であるケースも多々あるので、購入する際には慎重な判断が求められる。
また3位の「三軒茶屋」(東京都世田谷区)、4位の「恵比寿」(東京都渋谷区)、5位の「麻布十番」(東京都港区)、10位の「目黒」(東京都品川区)など都心周辺の人気エリアが上位に登場しているのは、以前からマンション供給が盛んで、駅に近かったり都心へのアクセスが容易だったりと、主に立地面での優位性があり、なかでも築年数を経たマンションについてはリフォーム・リノベーションによって“再生”させることで居住する価値(および価格も)を高める狙いがある。また、9位の「堺」(大阪府堺市)には買取再販を数多く手掛ける不動産会社があり、積極的に買い取ってバリューアップを図っていることから、その企業努力によって上位に進出していることが考えられる。
さらに、リノベマンションが多いエリアを流通物件に占めるシェアで示したものが表2(※)になる。
1位の「堺」は全流通物件に占める割合が26.18%と約4件に1件がリノベマンションということになるので、上記に示した不動産会社の買取再販事業が現在の中古マンション購入ニーズと見事に合致している成功例と見ることができるだろう。2位は「五反田」(東京都品川区)の12.75%、3位は物件数ランキングでも5位の「麻布十番」12.58%、4位は僅差で物件数ランキング3位の「三軒茶屋」12.55%、以下「金町」(東京都葛飾区)「恵比寿」と続いている。7位に福島県の「福島」がランクインしているのは、物件数ランキングと同様に福島駅周辺で買取再販事業を積極的に展開する不動産会社があることが要因と見られる。
なお、物件数1位の「越後湯沢」のリノベマンションシェアは11位/9.36%で、リゾートマンションをそのまま(比較的安価に)販売しているケースのほうが圧倒的に多いことがうかがわれる結果となった。
※2022年1~9月に取引態様が売主になっている物件が100件以上ある全国の駅を対象として全流通物件数に占めるシェアを算出し、数値の大きい順に10駅を公表
築年数は考慮せず全流通件数を対象に集計
新築でも一般的な中古でもない、第三の極に
中古マンションの価格上昇が進むなかで、徐々に注目されつつある買取再販マンション=リノベマンションは、果たしてマンション購入者の“期待の星”になり得るのだろうか。建物のハード面でのリスクや管理面での不安などいくつかの課題はあるものの、信頼するに足りる不動産会社と出会うことができれば購入に向けてのハードルは確実に下げることができる。
データで見る限り、徐々にそして確実に買取再販物件のマーケットは広がっている。もちろん新築ではないが、新築並みの機能や居住性能を有するマンションであることは確かだ。しかし中古物件としての住宅ローン控除や優遇措置しか用意されていないことも事実だから、あえて買取再販物件であることのデメリットを自分の目で確認しつつ、それを上回るだけのメリットがあると判断できる要素があるならば、購入を前向きに検討することができるだろう。新築でも一般的な中古でもない、第三の極とも言うべき新たなストック・ビジネスに成長するのか、今後の市場での展開、事業参入する企業の動向が注目される。
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