「地方の空き家」に挑む、カチタスの再生戦略
全国の空き家数は増加の一途をたどり、地域の景観悪化や防犯リスク、コミュニティの衰退といった深刻な社会課題を引き起こしている。しかし、空き家の流通は思うように進んでいない。地方の中古一戸建ては物件価格が低いため、不動産会社にとっては「手間がかかる割に利益が少ない」ビジネスになりがちで、積極的に扱う事業者が限られてきたのが実情だ。
この地方の中古一戸建て市場に正面から挑んでいるのが、株式会社カチタスである。同社が手がけるのは、大都市圏の高額マンションではない。県庁所在地以外の地方都市も含めて2024年度は5,000件以上の中古一戸建てを買い取り、リフォームして再販売している。
販売件数に占める一戸建ての比率は実に93.8%。中古住宅再生事業を25年以上にわたり続け、累計販売棟数は8万棟を超えた。東証プライム市場に上場し、全国130店舗以上を展開する同社は、12年連続で買取再販年間販売戸数全国No.1の実績を誇る。
「地方の空き家の一戸建て」という、不動産業界が敬遠してきた物件を「新築の半額程度」の価格で再生する、そのビジネスモデルはどのようにして成り立っているのか。独自の事業戦略と自治体との連携協定という新たな取り組みについて、執行役員 CMO 事業戦略本部長 森川氏に話を伺った。
市場の構造的課題と地方の空き家が流通しない要因とは
空き家が社会問題として認知される一方で、なぜ流通が進まないのか。その根本には、不動産仲介ビジネスの構造的な課題がある。
不動産の仲介手数料は、物件価格に連動する。例えば、都心で5,000万円のマンションを仲介すれば、両手仲介の場合、最大で343.2万円(売主・買主双方から最大171.6万円ずつ)の手数料が得られる。しかし、地方で500万円の中古一戸建てを扱っても、両手仲介で手数料は最大46.2万円(売主・買主双方から最大23.1万円ずつ)にとどまる(2024年法改正前)。
にもかかわらず、現地調査や権利関係の確認、売買契約の手続きといった業務の手間は、物件価格に関係なくほぼ同じだ。つまり、地方の低価格な空き家は「低単価・高工数」の典型であり、不動産会社にとって利益を出しにくい領域だった。
カチタスは、この市場に「買取再販」という形で参入している。自ら物件を買い取り、リフォームによって付加価値をつけて販売することで利益を生み出すビジネスモデルだ。当初からこの市場に勝算はあったのか。
「正直に言えば、最初から順風満帆だったわけではありません。一戸建ての空き家は物件ごとの個別性が非常に高く、マンションのように画一的な対応ができない。仕入れ後に基礎の不具合が見つかったり、シロアリ被害を見逃してしまったりと、失敗も数多く経験してきました。しかし、そうした失敗事例を一つひとつ蓄積し、全社共有することで、再発を防ぐ仕組みを築き上げてきたのです」と森川氏は語る。
実際、買取再販ビジネスへの参入企業は近年増加しているが、一戸建ての再生は難易度が高く、参入と撤退を繰り返す企業も少なくない。カチタスが25年以上にわたり事業を継続し、累計8万戸超の販売実績を積み上げてきた背景には、スケールメリットだけでなく、膨大な失敗と成功の事例から蓄積された「目利き力」や「リフォーム企画力」がある。このようなノウハウは一朝一夕で手に入るものではないため、同社の最大の強みと言えるだろう。
近年、こうした市場構造に変化の兆しも見え始めている。2024年の宅地建物取引業法の改正により、価格800万円以下の低廉な空き家等について、仲介手数料の上限が最大33万円(両手仲介で最大66万円)まで引き上げられた。従来の報酬体系では採算が合わなかった低価格帯の物件にも、不動産会社が取り組みやすい環境が整ったのだ。
この法改正はカチタスにとってどのような影響があるのか。「私たちにとっては追い風だと捉えています。地元の不動産会社が空き家案件を扱いやすくなれば、市場全体が活性化します。当社の仕入れの多くは地元不動産会社からのご紹介ですので、地域の事業者が空き家に関わる機会が増えるほど、私たちへの情報も集まりやすくなるのです」と森川氏。
競合が増えるリスクよりも、市場の裾野が広がる効果のほうが大きいというのが、現場の実感のようだ。
家賃より安い支払いで持ち家を実現する、カチタスのビジネスモデル
カチタスのビジネスモデルの要は、「新築の半額程度」という価格設定にある。同社の2024年度の平均販売価格は1,631万円。地方の新築一戸建ての取引平均が3,308万円(※)であることを考えると、まさに半額程度の水準だ。月々のローン返済額(35年返済・金利1.0%)に換算すると4万6,035円となり、地方の賃貸家賃の平均5万4,541円をも下回る。「家賃を払い続けるなら、持ち家のほうが合理的」という選択肢を、現実的な価格で提示しているのだ。
※国土交通省「土地総合情報システム」より、以下の条件で抽出した物件の平均価格
取引時期:2024年4月~2025年3月、建築時期:2024年1月以降、種類:宅地(土地と建物)、延床面積:50㎡以上200㎡以下、建物の用途:住宅
この価格帯が、幅広い購入層を惹きつけている。主要な顧客は年収200万〜500万円の世帯で、30代〜50代のファミリー層が中心だが、近年は変化も見られる。
森川氏は「最近は、60代以上のシニアの方が購入されるケースが増えています。お子様が独立されて広すぎる家から、手頃な価格でコンパクトに住み替えたいというニーズです。また、単身の方やご夫婦お二人での購入も目立つようになりました」と語る。実際、購入者に占める60代以上の割合は11.6%、子どものいない世帯は35.1%にのぼる。
では、この価格で利益を確保できるのはなぜか。それは、カチタスが25年以上かけて蓄積してきた、築古一戸建て特有のリスクを見極める「目利き力」と、限られた予算で顧客満足度を高める「リフォーム企画力」によるものが大きい。「当社の物件は価格の手頃感が最大の魅力ですので、こだわりをもって価格を設定しています。『安かろう悪かろう』ではなく、シロアリや雨漏りのリスク、権利関係などをしっかり見極めながら、これまで積み上げてきたノウハウをもとに、リフォーム内容や物件価格を設定できるのが当社の強みです」と森川氏は話す。
そしてもう一つ、カチタスのビジネスモデルを語るうえで欠かせないのが、地元不動産会社との関係性だ。同社の仕入れの多くは、地元の不動産会社からの紹介で成り立っている。地元事業者が紹介した物件を、カチタスが「出口」として引き受けるという、競合ではなく、互いの強みを活かしたパートナーシップが、全国規模の安定した仕入れを支えているのだ。
自治体との包括連携協定が生む住宅流通のインフラ
カチタスの事業に広がりをもたらしているのが、自治体との包括連携協定だ。2022年12月の鹿児島県日置市を皮切りに、奈良県河合町(2023年4月)、北海道中富良野町(2024年12月)、静岡県磐田市(2025年3月)、埼玉県坂戸市(2026年2月)と、協定先は全国に拡大している。
注目すべきは、これらの連携がカチタス側から売り込んだものではないという点だ。「自治体との協定は、基本的に先方からお声がけいただいて実現しています。空き家対策に取り組む中で、民間の力を借りたいという相談をいただくケースがほとんどです」と森川氏は明かす。
最初の協定先となった鹿児島県日置市は、もともと空き家対策に積極的な自治体だ。同市が抱えていた課題は、空き家の所有者に情報を届ける手段が限られていることだった。所有者が遠方に住んでいるケースが多く、自治体が啓発したくてもアプローチできない状況が続いていたのだ。
この課題に対し、日置市は固定資産税の納税通知書にカチタスを含めた各提携先団体や企業の空き家サポートに関する案内を同封するという取り組みを行った。納税通知書は空き家の所有者に確実に届く行政ルートであるため、県外・市外の空き家所有者への啓発やアプローチが可能になった。実際にカチタスでは、この通知書経由で10件以上の相談が寄せられ、5件の買い取りが実現している。
一方、北海道中富良野町との連携には、また違った意義がある。同町には不動産会社がほとんど存在せず、空き家の流通を担うプレイヤーが不在だった。そこでカチタスが同町と協定を結び、リフォーム済みの物件を空き家バンクに掲載することで、「すぐに住める住宅」を移住希望者に提示できる体制が整ったのである。
こうした連携では、地域の工務店との協力関係も重要な役割を果たしている。「リフォーム工事は基本的に、その地域の協力工務店にお願いしています。地元の気候や建物の特性を熟知した工務店と連携することで、地域に合った質の高い施工や地域経済への貢献にもつながります。今では1,300を超える工務店と接点を持っています」と森川氏。
カチタスが空き家を買い取り、地元の工務店がリフォームし、自治体が情報発信を担う。この三者の連携が、不動産会社が少ない地域における新たな「住宅流通のインフラ」として機能し始めているのだ。
今後の展望について森川氏はこう語る。「中富良野町のような、人口規模が小さく、商圏としては狭い地域にも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。不動産会社が少ない地域でも、私たちが入ることで空き家が動き出す。そういった地域はまだ全国に数多くあります」。自治体からの期待を背に、カチタスの連携先は今後もさらに広がっていきそうだ。
中古住宅シフトの追い風と、これからの課題
新築価格の高騰が続く中、日本人の「住まい観」に変化の兆しが見え始めている。地方の新築一戸建ての成約平均価格は2020年の2,622万円から2025年には3,152万円へと上昇(※)し、中古との価格差は1,286万円にまで拡大した。さらに、地方における新築一戸建ての着工件数は減少局面に入っており、住みたい地域に新築の建売住宅という選択肢そのものがないというケースも増えている。
※レインズデータライブラリーより株式会社カチタスが算出。地方エリアは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府以外の地域。
こうした環境変化を受け、消費者の意識は確実にシフトしている。国土交通省の調査によると、借家世帯が持ち家への住み替えを検討する際に「中古住宅」を選ぶと答えた割合は、2003年の6.2%から2023年には23.6%へと大幅に増加。「新築にこだわらない」層も含めると、46.6%が中古住宅を許容するようになっている。
国際的に見ても、日本の中古住宅市場にはまだ大きな伸びしろがある。アメリカやイギリス、フランスでは住宅取引の7〜8割を中古が占めるのに対し、日本全体の中古住宅流通シェアは約16%(2023年)にとどまる。ただし、首都圏のマンション市場では、すでに中古の流通量が新築を上回っている。この流れが中古一戸建てにも波及していく可能性は高い。
森川氏は「日本でも、良い中古住宅をきちんと再生して住み継ぐという流れは、少しずつ確実に広がっていると思います。若い方ほどリユースや環境配慮に対して親和性が高まっていることも、中古住宅の流通が加速していく要因ではないでしょうか」と話す。
一方で、課題も残されている。全国には「特定空き家」に指定される一歩手前の、いわば「予備軍」の空き家が数多く存在する。管理が行き届かず劣化が進めば、やがて再生すら不可能な状態に陥ってしまう。
こうした物件にいかに早い段階でアプローチし、流通できるか。自治体との連携協定は有力な手段の1つであるものの、全国にはまだ連携が及んでいない地域も多い。カチタスが築いてきた再生のノウハウと全国ネットワークを、いかにしてこの「予備軍」の段階で届けられるかが、今後の空き家問題解決の糸口となるだろう。
「低単価・高工数」という不動産業界が敬遠してきた市場に、長年にわたり挑み続けてきたカチタス。その強みは、累計8万戸超の実績から構築された目利き力とリフォーム企画力、そして自治体との包括連携協定による新たな商圏の開拓だ。これらが一体となって、地方の空き家を「地域資源」として次の住まい手へとつなぐサイクルを生み出している。
新築から中古へと消費者の意識がシフトし始めた今、このサイクルが全国各地で回り始めれば、人口減少社会における持続可能な住宅供給のかたちが見えてくるのではないだろうか。民間企業と自治体、そして地域の工務店が手を携え、空き家という課題にどこまで切り込めるか。カチタスの挑戦に注目していきたい。
■取材協力
株式会社カチタス













