私道の所有形態はいろいろ

相続によって直面することが多い土地の問題について、必要な知識や解決方法を3回にわたって解説する企画。2回目は、私道の問題に光を当てる。

■前回記事
相続した実家、隣との境界が分からない!? どうすればいいのか専門家に聞いた

個人などの民間が所有している土地のうち、道路として使用している区域を私道(しどう、わたくしみち)という。しかし、住宅の敷地と私道、私道と公道など、その区別は分かりにくい場合もある。また、近隣との関係においてさまざまな問題をはらむこともある。
私道にまつわるさまざまな疑問を、今回も土地家屋調査士の石田貴子さん(トヨノ測量設計事務所)に聞いた。

私有地の中に道路がある場合がある(画像はイメージ)私有地の中に道路がある場合がある(画像はイメージ)

一筆の土地でも、その中に道路が含まれている場合がある。建築基準法では、住宅は前面道路の幅員が4m確保されなければ建築できないので、それより幅員が狭い道路(いわゆる「2項道路」)に面して住宅を建てる場合には、道路の中心から2m後退(セットバック)したところに道路境界線があるとみなす。つまり、敷地の一部が前面道路に供され、その部分は私道となる。

そのほかにも、複数の宅地所有者が利用するために共同で所有する私道や、分筆された道路をそれぞれが単独で所有する私道もある。つまり、一口に私道と言ってもその所有形態はさまざまなのである。

私有地の中に道路がある場合がある(画像はイメージ)セットバックした例。前面道路の一部は私道となる(画像はイメージ)

人や車の通行を拒否できるのか

ここからは、私道にまつわるトラブルについて聞いてみよう。

「多いのは、私道の奥に住宅がある場合の、人と車の通行をめぐるトラブルです。基本的に、通行には所有者の承諾を得ることが必要です。人の通行権は裁判でも認められやすいです。一方、車の通行は常に認められるわけではなく、個別の事情を勘案して判断されています。特に私道を通らなければ公道に出られない囲繞地(いにょうち)と呼ばれる袋地の場合、私道の通行は家から公道に出るために生活上不可欠な利益であり、所有者の許可がなくても認められるケースも多いです」(石田さん)

人が生まれながらに持つ利益を保護するための包括的な権利を「人格権的権利」という。一定の条件の下では、私道の通行権は生活上不可欠な利益(人格権的権利)として認められるケースが多いのだ。

私道の奥に住宅がある場合、通行をめぐるトラブルも(画像はイメージ)私道の奥に住宅がある場合、通行をめぐるトラブルも(画像はイメージ)

掘削に対する金銭は要求できるのか

次に、複数の住宅で共同利用する水道などのインフラ設備が私道の地下に埋設されている場合だ。私道に埋設されたそれらも、修理や管理のために掘削する必要があるが、かつては私道の所有者に掘削の同意に関する「ハンコ代」(承諾料)が支払われるケースもあった。しかし、2023年の民法改正で私道など他人の土地にインフラ設備を設置する権利が明文化され、所有者の承諾は不要に。事前の通知のみで掘削などが可能になった。
ただし、インフラ会社は相手に損害を与えないよう配慮が必要なのは言うまでもなく、損害が生じた場合は「償金」を支払う義務が生じる。

「掘削による損害賠償責任は残るため、所有者との合意(承諾書)は必要であり、トラブル防止のためにも『償金』の名目で金銭を支払う形で合意するのが一般的」と石田さん。法外なハンコ代は請求できないが、工事によって生じる損害に見合った償金は受け取れるというわけだ。

なお、私道の下を通る上下水道は、原則として私道所有者の負担で設置・維持管理するものとする。ただし、自治体によっては一定の条件を満たせば、公費で本管を設置してくれるケースもある。

旧民法下は、私道の所有者が不明の場合、承諾が得られず事実上工事が不可能となっていた(画像はイメージ)旧民法下は、私道の所有者が不明の場合、承諾が得られず事実上工事が不可能となっていた(画像はイメージ)

通行の障害物を設置できるのか

私道とはいえ自分の土地。物置や花壇など、通行の障害となるものを置いてもよいのだろうか。

「私道への障害物設置は、緊急車両の通行妨げや近隣トラブルの原因となり、建築基準法上の道路(位置指定道路など)であれば妨害排除請求の対象になります。たしかに私道は個人の所有物ですが、道路として使われるという公共性があり、建物の建築や塀の設置、車の駐車は原則できません」(石田さん)

私道に障害物を置くことは、妨害排除請求という法的なリスクがあるほか、近隣トラブルのリスクを伴う。第三者の通行を認めない私道でも、よほどの事情がなければトラブルを避けるため障害物の設置は避けるべきだと石田さんは言う。

「たとえ自分の所有地であっても、公共性が伴う私道では、通行の妨げとなる行為は控え、近隣と友好な関係を保つことに努めることが大切と言えます」(石田さん)

私道への障害物設置は、緊急車両の通行妨げや近隣トラブルの原因となる(画像はイメージ)私道への障害物設置は、緊急車両の通行妨げや近隣トラブルの原因となる(画像はイメージ)

所有権があっても、公共性も持つ私道

私道の管理義務は、原則としてその所有者が負う。前述したインフラ(上下水道など)の維持管理費用や、舗装の補修やゴミ処理も負担しなければならない。

「特に注意したいのは共有私道の場合です。共有者全員が持分に応じて費用を負担する義務があり、費用負担をめぐって同意を得るのが難しいことがあります。また建築基準法上の道路に指定されている私道の所有者は安全確保にも配慮が必要で、道路の欠陥が原因で事故が起きた場合は、民法により損害賠償責任を負う可能性もあります」(石田さん)

以前は、共有私道の工事には共有者全員の同意が必要だった。しかし、2023年の民法の改正によって、補修等の保存行為や軽微な変更は過半数で決することも可能になった。

私道の欠陥が原因で事故が起きた場合、損害賠償責任を負う可能性も(画像はイメージ)私道の欠陥が原因で事故が起きた場合、損害賠償責任を負う可能性も(画像はイメージ)

所有権のある私道。しかし、道路として認定されれば、そこには公共性が生まれる。生活に必要な通行に支障がないように留意することはもちろん、地下埋設物も含めた管理の義務も生じる。

相続ではすべての所有権が継承される。相続で所有者となってから問題に直面する前に、実家の土地に私道は含まれていないか、確かめておく必要はありそうだ。