2017年の東京開催以来の安藤忠雄の大規模展、新たな“目玉”が2つ

建築家・安藤忠雄氏の展覧会「安藤忠雄展|青春」がJR大阪駅前、グラングリーン大阪の「VS.(ヴイエス)」で3月20日から始まった。

会期は7月21日まで。30万人を超える来場者があった2017年の国立新美術館(東京・乃木坂)での展覧会「安藤忠雄展―挑戦―」以来の大規模展だ。

会場の「VS.(ヴイエス)」(写真:宮沢洋)会場の「VS.(ヴイエス)」(写真:宮沢洋)

本展を見ると、安藤氏にとって拠点である「大阪」あるいは「関西」が特別な意味を持つことがひしひしと伝わってくる。
2017年の東京の安藤忠雄展を見た人はなおさらだ。東京の安藤忠雄展も全活動を振り返るものだったから、一部の展示は重複する。しかし、本展で安藤氏は東京の展覧会にはなかった新たな“目玉”を2つつくった。

会場の「VS.(ヴイエス)」(写真:宮沢洋)地下に降りると展示室がある(写真:宮沢洋)
会場の「VS.(ヴイエス)」(写真:宮沢洋)安藤忠雄氏。2025年3月19日に行われた内覧会にて(写真:宮沢洋)

ご法度の“水”を室内に張った「水の教会」の原寸展示

1つは「水の教会」(北海道・トマム、1988年)の原寸展示。
なんと、室内に本当に水が張ってあるのだ。建築関係者ならばわかると思うが、美術展示施設に“水”はご法度。水を張るには他の機能に絶対に影響を与えない厳重な対策が必要だ。

安藤氏はこう言う。「水の教会の再現にはお金がかかりますよ、と言われたが、お金はかかってもいいと言った。大阪の人、関西の人を感動させたかった」。

「水の教会」の展示風景。長椅子に座って景色の変化をゆっくりと眺める(写真:宮沢洋)「水の教会」の展示風景。長椅子に座って景色の変化をゆっくりと眺める(写真:宮沢洋)

2017年の東京の安藤忠雄展では、屋外に「光の教会」(大阪府茨木市、1989年)を原寸で再現して話題を呼んだ。
本展の会場は天井が高く、あれを室内で再現することもできそうだが、同じことはやらない。リスクはあっても、新しい目玉にトライする。大阪の人に、「東京よりもすごいことをやっている」ということを見せるためだ。

「水の教会」の展示風景。長椅子に座って景色の変化をゆっくりと眺める(写真:宮沢洋)風景の映像は本展のために撮影した(写真:宮沢洋)
「水の教会」の展示風景。長椅子に座って景色の変化をゆっくりと眺める(写真:宮沢洋)雪景色にも(写真:宮沢洋)

天井高15mのスタジオを存分に生かす映像展示

目玉のもう1つは、「天井高15mの没入映像空間」。安藤氏の代表作を3面の立体的な映像で体感する。

会場の「VS.」は2024年9月、グラングリーン大阪うめきた公園内に開館した。地下に約1,400m2の空間を要し、天井高15mの「スタジオA」がある。美術館ではなく、「新しい文化装置」を名乗っている。

設計は日建設計と安藤忠雄建築研究所(設計監修)。設計者であるからこそ、この施設の売り物である天井高15mのスタジオを存分に生かす映像展示だ。

天井高15mの「スタジオA」での映像展示。この写真で投影されているのはパリの「ブルス・ドゥ・コメルス」(2021年)(写真:宮沢洋)天井高15mの「スタジオA」での映像展示。この写真で投影されているのはパリの「ブルス・ドゥ・コメルス」(2021年)(写真:宮沢洋)

前半は「挑戦の軌跡」、後半は「安藤忠雄の現在」

プロジェクトの展示は、「挑戦の軌跡」と「安藤忠雄の現在」の大きく2つのゾーンに分かれる。

前半の「挑戦の軌跡」では住宅から祈りの空間・美術館などの文化施設に至る過去の安藤氏の代表作のすべてを展示する。
前述した「水の教会」の原寸展示は、「挑戦の軌跡」の最後の部分にある。

前半の「挑戦の軌跡」の展示風景。右手には初期の小住宅が並ぶ(写真:宮沢洋)前半の「挑戦の軌跡」の展示風景。右手には初期の小住宅が並ぶ(写真:宮沢洋)
前半の「挑戦の軌跡」の展示風景。右手には初期の小住宅が並ぶ(写真:宮沢洋)前半の「挑戦の軌跡」の展示風景(写真:宮沢洋)

後半の「安藤忠雄の現在」では安藤氏の現在の仕事、「直島の一連のプロジェクト」のような長期スパンの作品から、「ブルス・ドゥ・コメルス」に代表される歴史的建造物の再生プロジェクト、「こども本の森」のような社会貢献プロジェクトまでを紹介する。

前半の「挑戦の軌跡」の展示風景。右手には初期の小住宅が並ぶ(写真:宮沢洋)後半の「安藤忠雄の現在」の展示風景(写真:宮沢洋)
前半の「挑戦の軌跡」の展示風景。右手には初期の小住宅が並ぶ(写真:宮沢洋)後半の「安藤忠雄の現在」の展示風景。手前の船は、「こども本の森」(安藤氏が自治体に寄贈してきた児童図書施設)の1つとして、瀬戸内で計画した「こども図書館船 ほんのもり号」。通常は小型バスを使う「移動式図書館」の船バージョン。発想の大胆さに驚く(写真:宮沢洋)

「いつまでも青いまま、挑戦心にあふれていたい」

内覧会で壁にさらさらとスケッチを描く安藤氏(写真:宮沢洋)内覧会で壁にさらさらとスケッチを描く安藤氏(写真:宮沢洋)

安藤氏は1941年9月生まれなので、今年84歳になり、大手術を何度か経験している。そんな人が、内覧会に来てちょっと挨拶するだけでなく、1時間立って歩いて、ときには壁にさらさらと絵を描く。信じられないエネルギーだ。

安藤氏が設計した美術館や一連の「こども本の森」には、こんな青いリンゴのオブジェが置かれている。

内覧会で壁にさらさらとスケッチを描く安藤氏(写真:宮沢洋)本展の会場前の芝生広場にも、直径2.5mの「青りんご」のオブジェ(写真:宮沢洋)

オブジェの台座には詩人サムエル・ウルマンが謳った「青春」の詩とともに、安藤氏のこんなッセージが刻まれている。「人間も建築も、いつまでも青いまま、挑戦心にあふれていたい」

2017年の安藤忠雄の東京展を見たという人も、絶対に見に行くべき展覧会だ。

会場がある「グラングリーン大阪」は、「みんなの建築大賞2025」で一般投票3位となった話題の施設なので、それも含めて十分、旅費の元は取れる。

■展覧会概要
名称:安藤忠雄展|青春
会期:2025年3月20日(木)~7月21日(月)
会場:VS.(グラングリーン大阪内)
休館日:毎週月曜日(月祝の場合は営業)
開館時間:10:00 – 18:00(金・土・祝前日は 20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
入場料(税込):[ 前売・当日 ] 一般 1,800円、大学生 1,500円、高校生 1,000円
[ 団体 ] 一般 1,600円、大学生 1,300円、高校生 800円
※本展は全日「日時指定」での販売となります。
主催:VS. 共同事業体(株式会社トータルメディア開発研究所・株式会社野村卓也事務所)
共催:安藤忠雄建築展実行委員会
公式サイト:https://vsvs.jp/exhibitions/tadao-ando-youth/

内覧会で壁にさらさらとスケッチを描く安藤氏(写真:宮沢洋)安藤氏(写真:宮沢洋)
内覧会で壁にさらさらとスケッチを描く安藤氏(写真:宮沢洋)北東側からグラングリーン大阪全体をパノラマで撮影。正面手前が会場の「VS.(ヴイエス)」(写真:宮沢洋)

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