「第14回雨水ネットワーク全国大会 2024」

2024年8月、墨田区役所、隣接するすみだリバーサイドホールなどを舞台に「第14回雨水ネットワーク全国大会2024」が2日間にわたり開催された。
雨水ネットワークとは雨水活用や雨を主体とした水循環系の健全化等に関わる市民・企業・行政・学会などが形成する緩やかな情報のプラットフォームのこと。

深刻化する都市の水危機を総合的に解決する手段として、また、健全な水循環系の再生を目指して雨水ネットワーク会議として2008年に設立され、2014年の「雨水の利用に促進に関する法律」の施行をきっかけに2015年に雨水ネットワークと改名されている。
全国大会は2008年の墨田区内での開催に始まり、コロナ禍での中断を経て第14回が初回と同じ墨田区で開催された。

区役所と隣接する、すみだリバーサイドホールが舞台となった。入り口にはポスター等の展示も区役所と隣接する、すみだリバーサイドホールが舞台となった。入り口にはポスター等の展示も

墨田区はご存じのように東京低地に立地。
古くから水には悩まされてきた土地だが、江戸時代初期の利根川の東遷から始まり、2024年に通水100年を迎えた荒川放水路までの治水事業で東京は水を制したように思われた。

ところが、1980年代以降、マンホールから水が溢れ出す「都市型水害」が発生するようになる。都市化が進み、地表の不浸透域率(地面がコンクリートやアスファルトで覆われた割合)が高くなったことで処理能力を超えた雨水が下水道に流入、それが墨田区だけでなく、各地で水害を引き起こすようになったのである。

それを防ぐために墨田区で始まったのが雨水を貯留するというやり方。当時の墨田区は水害の一方で水不足にも悩まされており、雨水の貯留には洪水を防ぐと同時に非常時の水源としての意味もある。区を挙げての取組みで日本初の本格的な雨水タンクが両国国技館の地下に誕生したのは1984年。

現在では多くの公共施設、一定規模のマンション、ビルでも雨水利用が行われており、区内最大規模の雨水貯水槽(約60基)が設置されている東京スカイツリータウンの地下には2635トンという雨水が貯留できるようになっている。それ以外にも区内にはあちこちに雨水タンク、雨水ポンプが設置されており、墨田区は雨水活用先進地域なのである。

区役所と隣接する、すみだリバーサイドホールが舞台となった。入り口にはポスター等の展示も墨田区内にはこうした雨水をためるタンクがあちこちに置かれている
区役所と隣接する、すみだリバーサイドホールが舞台となった。入り口にはポスター等の展示も区内最大の雨水貯水槽があるのが東京スカイツリータウンの地下。区役所近くから見たところ

大気汚染がひどかった時代は雨が少なかった

その雨水活用先進地域墨田区で行われた2日間の大会のうち、ここでは2日目に行われた「雨水は世界を救うか?」と題して行われたセッションをご紹介したい。
このセッションは前半で水文学者で東京大学大学院工学系研究科の沖大幹教授による特別講演、後半でさまざまな立場で雨水に関わるパネリストによるパネルディスカッションが行われた。

まずは「雨の恵みと災い-私たちの都合-」と題した沖教授の講演概要をご紹介しよう。沖教授は2024年に水のノーベル賞とも呼ばれるストックホルム水大賞を受賞した日本の水文学の第一人者だ。

最初に語られたのは気象観測について。私たちは今、刻一刻と変化する雨雲の動きなどを当たり前のように見ているが、こうした精緻な情報を一般の人が容易に利用できるようになったのはつい最近のこと。

サブタイトルに人間の勝手さが表現されているようだサブタイトルに人間の勝手さが表現されているようだ

沖教授が示したのは1882(明治15)年、1975(昭和50)年のアフリカ大陸の雨の分布図。前者は全体の多少の濃淡があるくらいで、後者も非常におおざっぱ。

「1882年の時点では雪や海上、オーストラリアの内部など観測できていない地点も多く、その後の1975年、今から50年ほど前でも精度はまだまだ。1990年に初めて全球降水量データがネットで公開されたのが画期的なことでした」

その昔の雨量計測は係員が定時に雨量計を使って行っていたそうで、夜間も計測が行われていたと考えると、気象予報の背後には多大な苦労があったわけだ。現在はアメダス(Automated Meteorological Data Acquisition System)が自動で気象観測を行ってくれており、空からは幾多の気象衛星がこれまた無人でデータを収集。自宅のパソコン上でリアルタイムに世界中の雨の量を見ることができるようになっている。
さて、雨で気になるといえば近年の降り方。短時間に大量の雨が降ることが増えているように思うが、過去のデータで見ると雨が多い年もあれば、少ない年もあったそうだ。

「1時間に50ミリを超える雨が降った回数をグラフにしてみると1950年代は多く、その後の1970年代を底に減っている時期があるのですが、これは大気汚染の影響ではないかといわれています。1970年代はスモッグ(大気中に大気汚染物質が浮遊、周囲の見通しが低下している状況)がしばしば発生。それによって雨が降りにくくなっていたのではないかというのです。その後、大気がきれいになるにつれてまた雨が降るようになりました」

サブタイトルに人間の勝手さが表現されているようだ雨水計測の歴史を表わす資料。現代は自動で観測できるようになったが、それ以前は計測自体が大変だった(スライドはすべて当日の沖教授の資料より)
サブタイトルに人間の勝手さが表現されているようだ雨水の量の変化を時系列でみると意外に変化してきたことが分かる

雨は降るが一人当たりで使える雨の量は世界平均の半分ほど

雨の降り方も昔とはかなり違ってきている。沖教授が示したのは1900年からの降水頻度の経年変化(全国平均、年間)。
「しとしと降る弱い雨は減少傾向にあり、強い雨が増加しています。他の資料からも19世紀終わりから20世紀にかけて短期間で多く降る、驟雨性の強い雨が増加傾向にあることが分かっています」

これは温暖化によるもの。気温が1度上がると、空気中の飽和水蒸気量は7%増え、雨量もそれに伴って増える。過去にも暑い日には強い雨が実際に観測されており、温暖化と豪雨はセットになっている。

これだけ降るのだから日本は水に恵まれた国と思いたくなるが、実態はかなり厳しい。年間の降水量は全陸地平均の約2倍で降るには降るものの急峻な地形のため、雨水は速やかに海に流れてしまう上、人口密度が高いため、一人当たりの水資源賦存量は世界平均の約半分。雨水の活用、そのための水インフラの整備は喫緊の課題なのである。

それに対して沖教授が中心となって東京財団政策研究所から出された提言が「水みんフラー水を軸とした社会共通基盤の新戦略ー」。貯水池、水路、分散型の小規模水処理場、雨水タンク、井戸、水を貯えることができる森林や湖沼、湿地、農地など水インフラは各種あり、行政、企業、個人と多様な主体が保有している。その状態を「水のみんなのインフラ」と考え、短縮したネーミングが「水みんフラ」だ。

ネーミングは可愛く、のどかな雰囲気だが、実態は水資源賦存量同様に切迫している。
耐用年数(40年)を超えた水道管が20.6%あるなど水みんフラは老朽化が進んでおり、それが理由となっての事故や道路陥没なども頻発するようになっている。それをどう持続させていくか。
「国は2024年に流域総合水管理という考え方を導入。あらゆる関係者が一緒になって水災害による被害の最小化、水の恵みの最大化、水でつながる豊かな環境の最大化を目指すことになりました」

雨水を災いとせず、恵みとして生かしていくためには言葉の通り、みんなで取り組む必要があるということだろう。

雨が多く降る、水に恵まれた国と思いきや、データは全く異なることを教えてくれる雨が多く降る、水に恵まれた国と思いきや、データは全く異なることを教えてくれる
雨が多く降る、水に恵まれた国と思いきや、データは全く異なることを教えてくれる人間だけでなく、ライフラインも高齢化している日本。どう維持していくかは大きな問題

浮世絵の雨の表現は日本独自のもの

続いては水ジャーナリストでアクアソフィア・水教育研究所の橋本淳司さんをコーディネーターに沖教授も含めた4人のパネリストによるパネルディスカッション。最初に簡単に登壇者をご紹介、続いてやりとりのうちで印象的だった部分をピックアップしていこう。

コーディネーターの橋本さんは子どもたちへの水の教育も行っており、自己紹介で取り上げられたのは小学生への課題解決型授業の様子。まずは雨水を貯めてそれを利用したペットボトルロケットを飛ばしたそうで、最初は楽しむところからという意図だったという。

「こんな課題がありますよというところから始めると子どもたちは自由に動けなくなってしまいがち。そこで傘を逆にしたり、ビニール袋を使ったりして雨水を貯め、それでロケットを飛ばし、その後に誰かのために貯めた雨水を活用して何かをすることはできないかを考えるようにしました。子ども達からは牛乳パックで簡易に作ったレインキャッチをその当時、まだ水道が復旧していなかった能登の人たちに伝えてあげようという話も出ました」

授業が行われた2023年度の夏は雨が降らず、かつ猛暑だった。水道が止まるかもしれないといわれる中で雨水は貯めることができ、貯めた雨水は使えるという経験をしたことは、子ども達にとっては得難い学びだったのではなかろうか。

まずは雨水を貯めて、それを利用してロケットを飛ばすというやり方で雨水について子どもたちに関心を持ってもらった(写真提供/アクアソフィア・水教育研究所)まずは雨水を貯めて、それを利用してロケットを飛ばすというやり方で雨水について子どもたちに関心を持ってもらった(写真提供/アクアソフィア・水教育研究所)

続いてのパネリストは気象予報士で東京造形大学の非常勤講師でもある長谷部愛さん。
長谷部さんは気候変動について学生に教えてほしいと声をかけられたことをきっかけに現在はアートと天気という視点で授業を行っている。スタートした当初、描かれた風景と天気の関係についての研究はほとんどなかったそうで、自分で少しずつ調べて授業を続けてきたという。

この日最初に紹介されたのは浮世絵。浮世絵には雨の表現が多彩にあり、たとえば「大橋あたけの夕立」(歌川広重、江戸名所百景)は黒い雨雲から縦線で激しい雨が描写されており、急激に水嵩が増していく様子、雨音までが感じられるようなリアルさがある。だが、こうした描写は日本独特で、それは雨の降り方そのものが多様だということだと長谷部さん。

「世界的にみると台風がくる場所はそれほど多くありませんし、梅雨があり、長雨が続く場所も日本と韓国、中国の一部くらい。そうした雨の降り方が日本に及ぼした影響は非常に大きく、雨が育んだ文化は貴重なのではないかと思っています」

浮世絵が西洋の絵画などに与えた影響の大きさはよく知られたところだが、そのうちに日本の雨が及ぼした部分があるとしたら面白い。

まずは雨水を貯めて、それを利用してロケットを飛ばすというやり方で雨水について子どもたちに関心を持ってもらった(写真提供/アクアソフィア・水教育研究所)江戸名所百景で歌川広重が描いた大橋あたけの夕立。1857年。 The Art Institute of Chicago.

雨水からサイダー、ビールをつくる?

続いてはランドスケープアーキテクトで株式会社スタジオテラの石井秀幸さん。
石井さんは人の持つ原風景として日常の中に雨があり、それは良いもの、悪いものといった概念を超えたものと考えているという。その上で雨に生かされていることを再認識、暮らしや営みの場の豊かさに繋げるような場として近年手がけた2つのプロジェクトを紹介した。

ひとつは2020年に完成した東京都町田市の町田薬師池公園のプロジェクト。敷地内には20mの高低差のある斜面があり、そのままにしておくと雨水が下部にある建物の中に流れて行ってしまう。そこで斜面の段々にすることで徐々に雨水が地球に返っていくような形にしたという。その結果、時間が経つとともに豊かな雑木場や足が育ち、鳥たちが飛来するようになってきている。雨水が斜面を潤し、人の心を豊かにする場に育ちつつあるのだ。

もうひとつの例は現在福井県で手掛けているオフィス。同社は導水樋、暗渠排水管などをてがけており、いってみれば水をコントロールするプロ。新社屋の立地する場所は元水田でなかなか水が抜けない。それを逆手に取り、地下の水を利用して屋上緑化などに利用する計画だという。自然に逆らわずに安全を確保、環境にも寄与しようというわけで、雨水の利用もかくあるべきだろうと思った。

水を循環させる仕組みを取り入れた企業の本社ビル(写真提供/スタジオテラ)水を循環させる仕組みを取り入れた企業の本社ビル(写真提供/スタジオテラ)
水を循環させる仕組みを取り入れた企業の本社ビル(写真提供/スタジオテラ)同施設の全景。建物が単体で存在するのではなく、雨水などの自然と共存すると考えると、この建物の新しさが伝わるのではなかろうか(写真提供/スタジオテラ)

もう一人の登壇者は合同会社アールアンドユー・レゾリューションズの尾崎昂嗣さん。産学民それぞれの立場で雨に関わる活動をしており、雨というだけでそれだけの仕事があるのかと驚くほど。いくつか、ランダムにご紹介しよう。

建設に関係のありそうな仕事としては開発申請に伴う流出抑制策がある。頻発、激甚化する水害に対し、雨水の流出を抑制することの重要性が認識されるようになっており、近年は条例で建築・開発行為等を行おうとするものに雨水流出抑制策の実施を求めるようになっているのである。2005年の千葉県市川市に始まり、徐々に条例を制定する自治体は増えているようだが、今の雨の降り方を考えると今後はもっと増えるはず。仕事としてもニーズが高いのではなかろうか。

雨水を地球に戻す仕事として雨庭作りも興味深かった。世田谷区の子ども中心に人が集まる施設「おでかけひろば FUKU*fuku」では子どもたちも含め、地元の人達とワークショップを開催、雨庭を作っていったという。世田谷区に続き、2024年には武蔵野市でも市役所近くに作ったそうで、あちこちに増えていけば雨水も悪者にならなくて済む。

もうひとつ、個人的に面白かったのは雨水でパスタを茹でたり、サイダーやビールを作るという活動。雨水自体はもともとは自然が作りだした蒸留水で汚れてはいない。ただ、降って来る途中で大気中の塵や埃、排気ガス等を取り込んでしまうことがある。適切にろ過などすれば使えるそうで、尾崎さんは雨水で茶道も面白いのでは?と提案。雨を眺めながら雨水で点てた茶を喫するとは風流だ。

水を循環させる仕組みを取り入れた企業の本社ビル(写真提供/スタジオテラ)展示の中に尾崎さんが話た世田谷区、武蔵野市の雨庭作りの解説があった

雨をポジティブに楽しむために

雨をポジティブに捉え、楽しむためにはどうすればよいか、雨水に関する未来予測などのテーマでディスカッションが交わされたのだが、そのうちのいくつかをご紹介しよう。

ひとつは雨を楽しむためにはというお題に関して。もっとも納得したのは沖教授のディスカッション最後の締めの言葉である。

非常に簡単にいえば「今の私たちは忙しすぎるから雨が嫌いなのだ」

「晴耕雨読という言葉がある。晴れたら仕事をし、雨が降ったら書を読む。ところが現代はそれができない。やらなくてはいけないことがあり、心の余裕がないから仕事の妨げになる雨をネガティブに感じるわけで、自然に合わせた生活ができるなら雨はストレスにならないのでは?」と沖教授。

確かに晴耕雨読できるなら雨を疎む必要はなくなる。現実問題としては晴耕雨読はかなり難しいだろうが、心に余裕があればもう少し雨が好きになれるかもしれない。

子ども達にとっては雨は必ずしも憂鬱なだけの存在ではない。それを考えると沖教授のおっしゃる、大人の余裕の無さが雨の見方をネガティブにしているというご意見には頷くしかない子ども達にとっては雨は必ずしも憂鬱なだけの存在ではない。それを考えると沖教授のおっしゃる、大人の余裕の無さが雨の見方をネガティブにしているというご意見には頷くしかない

楽しむという意味では長谷部さんが紹介した雨が重要な意味を持つ映画や絵画の事例に関心を抱いた人も多かったようだ。
ポジティブに雨が登場する映画として紹介されたひとつに「ショーシャンクの空に」があるが、この作品で有名なのは主人公アンディが大きく手を広げて豪雨を全身で受け止める場面。雨が解放感、希望を表現しており、爽快な気分になれる。同様に雨の映画といったら必ず上がるミュージカル映画「雨に唄えば」も土砂降りの中でジーン・ケリーが実に楽しそうに歌い、踊る。雨嫌いの人は見てみると考えが変わるかもしれない。

一方で雨がネガティブな印象に描かれている映画としては「羅生門」 「ブレードランナー」などが挙げられていたが、ふと気づいたのはこれらの雨は夜間にしとしとと降る雨であること。雨ポジティブ、雨ネガティブそれぞれの映画で雨がどう表現されているかを比べながら見ると面白いかもしれない。

未来については尾崎さんの雨水の浸透についての研究者が増えていないという点が気になった。雨水流出を抑制するためにもベースとなる研究であろう。関心を持つ人が増えてほしいところである。

さて、この日のイベントは最後に「すみだ雨水宣言2024」を行って終了したのだが、この宣言には今後の私たちが雨水とどう付き合っていくかについての知恵が詰まっているように思える。墨田区のホームページから読むことができるので、関心のある方はぜひお読みいただきたい。

■参考資料
【政策研究】水みんフラー水を軸とした社会共通基盤の新戦略ー 東京財団政策研究所
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4388

https://www.city.sumida.lg.jp/kurashi/kankyou_hozen/event/amamizu.html

子ども達にとっては雨は必ずしも憂鬱なだけの存在ではない。それを考えると沖教授のおっしゃる、大人の余裕の無さが雨の見方をネガティブにしているというご意見には頷くしかない映画やアニメの話のほか、日本語には雨に関する表現が多いとも。こうして挙げていただくと納得する

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