床上浸水などの住宅被害はどの地域でも起こりうる

近年、日本の各地が集中豪雨による水害にたびたび見舞われている。これまでの気象データでは予測しきれないような降雨量が短時間のうちに発生することで、床上浸水する住宅の被害も多数生じてきた。

住宅が浸水すると、床下に雨水が流れ込む。水流や流出物による住宅の破損、建物が濡れることによる劣化などもさることながら、衛生状態の悪化も大きなリスクとなる。

雨水は空気中の汚染物質を含んでいるうえ、地上で河川や排水溝などの汚水とも合流し、不衛生な状態になっている。住宅の基礎には排水する仕組みがないので、雨が止んだあとも流入した水が滞留し、湿気や菌などの温床となってしまう。

また水とともに流入した土砂なども撤去が困難。乾燥すれば粉じんとなって、有害な菌とともに空気中に浮遊して健康被害の原因にもなる。

床上浸水など水害による住宅被害は、流入した水の排出のほか、土砂の撤去や劣化した建材の交換など、復旧にあたって多大な手間、労苦、出費がともなう。天候次第でどの地域にも起きうる災害であるだけに、家づくりを検討する際には考慮しておきたいリスクのひとつだと言えるだろう。

電柱などに掲示された想定浸水深標識板の例。家づくりの際には、ハザードマップなどで自然災害のリスクを確認すべきだ電柱などに掲示された想定浸水深標識板の例。家づくりの際には、ハザードマップなどで自然災害のリスクを確認すべきだ

浸水しても洗浄と乾燥の仕組みがあるので復旧しやすい

こうした水害のリスクについて、「洗える家」を提案するのが、一級建築士の小山祐司さんだ。娘夫婦の家づくりの相談を受けたことがきっかけになったという。「新居の予定地が、国土交通省のハザードマップで近隣の河川が氾濫した際に最大3~5mの浸水が想定されるエリアに含まれていました」と小山さん。

「ハザードマップ」とは、国土地理院によれば「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」のこと。土地の成り立ちや地形・地盤の特徴、過去の災害履歴、避難場所・避難経路などの防災地理情報をもとに作成されている。地方自治体でも該当エリアのハザードマップを確認することができる。

ハザードマップを確認して、リスクの低い敷地を選ぶことが大切だが、必ずしもそうできるケースばかりではない。そこで小山さんは、万一、水害に見舞われても最小限の負担で復旧できるような家を考えた。「水害でいちばん大変なのは、家に流れ込んだ水や泥の処理。最初から洗い流すことを想定した仕組み、仕様にすればいい」(小山さん)。

一般的には、屋根や外壁、床下から浸入した雨水や泥水を除去した後には、浸水した部位の内装や断熱材などを交換することになる。

小山さんの考案した「洗える家」には3つのポイントがある。ひとつめは、建物の基礎の高さを道路面よりも1m高くしたことだ。水位がこの高さまで上がらなければ、床下浸水を防ぐことができる。

もちろん、それ以上の高さまで水位が上がることも考えられる。そのときは屋内に水が浸入することはやむを得ない。2つめのポイントは、外壁と内壁に厚さ数cmの通気層を設けることで、水を流して洗えるようにしたことだ。

水が引いたあと、外壁の通気層に水を入れ、内側と外側に付着した汚水や土砂を洗い流す。同様に室内でも巾木を外して内壁の高い位置から水を入れ、内壁の内側と外側を洗う。水に浸かった床も洗い流す。洗浄に使った水は床下を通って、排水ポンプで外に出す仕組みだ(図参照)。約3.5mまでの浸水に対応するという。

3つめのポイントが、家の洗浄後は、屋根で温められた空気をファンで床下に送り、空気が循環する過程で床上や床下、内壁を乾燥させることだ。こうした洗浄と乾燥の仕組みを用意することで、水害から復旧しやすい家にしたというわけだ。

「洗える家」の仕組みを表した図。壁内を洗浄・乾燥させるため、厚さ45mmの通気層を室内側に設けた(小山さん提供)「洗える家」の仕組みを表した図。壁内を洗浄・乾燥させるため、厚さ45mmの通気層を室内側に設けた(小山さん提供)
「洗える家」の仕組みを表した図。壁内を洗浄・乾燥させるため、厚さ45mmの通気層を室内側に設けた(小山さん提供)室内の一部の壁を透明にして内部の通気層を示した。浸水後は上部から水を入れて壁内の汚水等を洗い流す

被災後に再利用できる部位を増やして復旧費用をコストダウン

断熱材には、水を吸収しにくい押し出し法ポリスチレンフォームを採用した。また、濡れた内装材とその下地となる石こうボードは撤去しやすいように設置。洗浄水の投入口となる部分はネジで留めて着脱しやすいようにする、システムキッチンの背面を壁パネルで覆わずに洗いやすくするといった配慮もある。

また、布団・衣類等の収納は2階に配置。1階が浸水被害にあっても2階で生活できるような間取りになっている。

こうした「洗える家」を建てるには、排水ポンプや屋根からの送風ファンなどの設備費、通気層を設ける費用などが必要になるが、小山さんは「従来の家が浸水して復旧するときのコストと比較すれば、十分なコストメリットがあります」と話す。

小山さんの試算によれば、従来の家の場合、構造材以外はほぼ撤去・廃棄し、復旧には約1,000万円近い費用がかかる。「洗える家」の場合は、断熱材のほか、土台や柱にも水を通さない建材を用いる。またエアコンの室外機などは高い位置に取り付けるため、水に浸かるリスクが小さい。洗浄だけで再利用できる部分が多いため、復旧費用は約250万円で済むという。

エアコンの室外機は水に浸からないよう、架台によって高い場所に設置したエアコンの室外機は水に浸からないよう、架台によって高い場所に設置した

防災性能にすぐれた住宅が注目される時代に

「洗える家」を考案した小山さん。自らが代表となり、「洗える家推進委員会」を設立。主に設計者や工務店を対象に、「洗える家」の普及に取り組んでいる。問い合せは、洗える家推進委員会(代表:小山祐司 E.Mail   yuji19jiyu@gmail.com)まで。
「洗える家」を考案した小山さん。自らが代表となり、「洗える家推進委員会」を設立。主に設計者や工務店を対象に、「洗える家」の普及に取り組んでいる。問い合せは、洗える家推進委員会(代表:小山祐司 E.Mail yuji19jiyu@gmail.com)まで。

復旧工事で大量の廃棄物を出すことなく家を再利用できるという点が評価され、「洗える家」は、一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター主催の「第9回サステナブル住宅賞」を受賞した。

「現在の建築技術があれば100年住める家が建てられるはず。現在の気候にも対応することで末永く安心して暮らせる家をつくることができる。そんな思いで開発に取り組みました」と小山さん。

いまの住宅業界では、断熱・気密性を高め、脱炭素や省エネルギーに配慮した高性能住宅、首都直下型地震を見据えた高耐震住宅が主流になってきている。さらにもう一段階、踏み込んで、水害リスクにも対応した仕様の住宅も、「洗える家」のほか、徐々にハウスメーカー各社で開発されてきているところだ。

たとえば、一条工務店では高い気密性と水密性のある「耐水害住宅」を2020年3月から発売。ヤマダホームズでは被災後も自宅で生活できるように間取りと設備を工夫した「水害対策仕様」を実用化している。その他のメーカーも水害や台風、地震などの自然災害への対応を進めている。

家族が安心して暮らせる家をつくるには、猛暑や厳寒、自然災害に耐える性能と設備が必要だ。太陽光発電でエネルギーを自給自足したり、エコキュートの貯湯タンクで水を確保したりとライフラインを自立させる対処法も普及し始めている。これからの家づくりには「防災」「レジリエンス性」などもキーワードになりそうだ。

公開日: