2014年、鯖江市の市民協働推進プロジェクトとして発足した「JK課」

▲福井駅からハピラインふくいで15分、市の玄関口である「鯖江」駅を降りると、街のあちこちに“めがねのまち さばえ”のキャッチフレーズが躍る。もともと農閑期の収入源として発展した鯖江のめがね産業だが、めがね同様に鯖江の知名度を全国へ拡散したのが「JK課」だ▲福井駅からハピラインふくいで15分、市の玄関口である「鯖江」駅を降りると、街のあちこちに“めがねのまち さばえ”のキャッチフレーズが躍る。もともと農閑期の収入源として発展した鯖江のめがね産業だが、めがね同様に鯖江の知名度を全国へ拡散したのが「JK課」だ

お役所特有の「お堅いイメージ」の一新を目指し、各自治体がPRを兼ねてユニークな課をつくっているケースは各地にある。

例えば千葉県松戸市の「すぐやる課(スズメバチの駆除等)」、山梨県富士吉田市の「富士山課(観光案内)」、愛知県長久手市の「たつせがある課(地域振興)」などが挙げられるが、中でも発足当初地元内外から賛否両論が巻き起こり、全国的に注目を集めたのが、福井県鯖江市の「鯖江市役所JK課(市民主役推進課)」だ。

鯖江市の市民協働推進プロジェクトの一環として、現役女子高校生がまちづくりに取り組む「JK課」が立ち上がったのは2014年のこと。ご承知の通り「JK」というのは女子高校生の略だが、発足当時はちょうどJKが流行り始めた頃で、世間では俗語的に捉えられていた。そのため「行政が使うべき言葉として相応しくない」とのクレームが市役所に殺到し、存続の危機に直面。しかし、市の担当者と女子高校生メンバーたちの地道な活動によって市民の理解も深まり、昨年晴れて10周年の節目を迎えた。

鯖江市のJK課はどのような経緯で発足し、どのような成果を挙げながら10年間継続してきたのか?担当者とJK課出身のOGに話を聞いた。

▲福井駅からハピラインふくいで15分、市の玄関口である「鯖江」駅を降りると、街のあちこちに“めがねのまち さばえ”のキャッチフレーズが躍る。もともと農閑期の収入源として発展した鯖江のめがね産業だが、めがね同様に鯖江の知名度を全国へ拡散したのが「JK課」だ▲鯖江市ホームページでは「JK課」プロジェクト10年の歩みが報告されている

JKの名称に大バッシング、しかし発足から1年で市民の理解を得ることに

▲鯖江市 市民生活部 市民主役推進課の田野泰宏さんはJK課の3代目担当者。「一時期メンバーが少ない時期があり、このままだと“JK課が無くなってしまうかも?”という危機もあったのですが、その時はメンバーの子たちが頑張って仲間を集め、盛り返してくれました。僕たち市役所の者が発信・勧誘したところでなかなか来てもらえないのですが、やはりこういうネットワークは女子高校生のパワーだなと痛感しました」▲鯖江市 市民生活部 市民主役推進課の田野泰宏さんはJK課の3代目担当者。「一時期メンバーが少ない時期があり、このままだと“JK課が無くなってしまうかも?”という危機もあったのですが、その時はメンバーの子たちが頑張って仲間を集め、盛り返してくれました。僕たち市役所の者が発信・勧誘したところでなかなか来てもらえないのですが、やはりこういうネットワークは女子高校生のパワーだなと痛感しました」

鯖江市 市民生活部 市民主役推進課 田野さん(3代目JK課担当職員)──「鯖江市はもともとまちづくりが盛んな地域で、『地域活性化プランコンテスト』という企画の中で、県外の大学生が鯖江に来て、鯖江のまちをもっと良くするアイディアを作り発表するという活動を行っていました。

そのコンテストの大人版を実施した際に、“まちづくりというとどうしてもメンバーが固定されてしまうので、もっと若い人たちを巻き込んでみてはどうか?”という意見が出たんです。

発信力の高い地元の現役女子高校生たちをまちづくりに巻き込めば、親世代の大人たちも変わっていくんじゃないか?と。その意見を受けて鯖江市がプロジェクト化し『JK課』の事業がスタートしました」

当時の市長からのトップダウンにより、発案からわずか3か月で発足というお役所らしからぬスピード感だったが、JK課プロジェクトの発表直後から市役所にはクレームが相次いだという。

田野さん──「女子高校生をタダ働きさせるのか?といったバッシングを含め、発表から1週間で約100件のご批判を頂きました。JKという言葉のイメージが市役所に相応しくないというご意見が半分ぐらいあったようです。そのため、せっかくメンバーになった女子高校生の親御さんから“やっぱり辞退させたい”といった連絡を受けるケースもありました。

しかし、実際に1年ほど活動を行ってみると『高校生たちがアイデアを出し合ってまちづくり活動を行う』というごく純粋なプロジェクトであることを市民の皆様にもご理解いただけたようで、活動内容に対する批判はまったくありませんでした。こうして『JK課』の活動は今年から11年目に突入、JK課のメンバーは卒業したOGも含めて139人となりました」

ちなみに、JK課メンバーの募集については、第1期の発足時こそツイッター(現在のX)を通じて行ったが、2期生以降は「先輩が後輩を勧誘する、友人を誘う、親御さんからの推薦を受ける」など紹介が中心となっているそうだ。

報酬ナシでご褒美はお菓子。“ゆる~く”はじめる女子高校生のまちづくり

▲ミーティングでは、お菓子とともに会話が弾む。すべてにおいて押しつけがましくなく、「ゆるい」をテーマとしているところがJK課のまちづくりのポイントだ▲ミーティングでは、お菓子とともに会話が弾む。すべてにおいて押しつけがましくなく、「ゆるい」をテーマとしているところがJK課のまちづくりのポイントだ

JK課が掲げているのは「ゆるいまちづくり」。活動としては、基本的にテストシーズンを避け、定期しばり無くミーティングを実施。イベントを含め年間の稼働日数は100日程度となる。

活動に対する報酬はない。ミーティングの際に“いろんなお菓子が食べられることが何よりのご褒美”だというから、この点も女子高校生ならではの“ゆるいパワー”だ。

田野さん──「JK課はあくまでも市民活動でありボランティアの一環となりますので、金銭的な授受は発生しません。楽しいとか面白いという動機から“ゆるくスタート”したのですが、最近はメンバーが大学推薦の際にJK課での活動成果をPRするケースも増えています。それがどこまで評定に関わるかはわかりませんが、高校時代の経験値を高めるという点では、メンバーにとって意義ある活動になっていると思います」

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JK課の活動をきっかけに行政やまちづくりへの関心が芽生え、実際に市役所へ入所したOGメンバーもいる。3期生の小森さん(現:鯖江市役所土木課)と4期生の加藤さん(現:鯖江市施設管理課)だ。

OG小森さん──「JK課に入ったきっかけは、高校の先輩に誘われたからです。“お菓子をもらえるからまずは体験会に来てみたら?”と言われて、実際に参加してみたら楽しくて(笑)。そこからやってみたいなという気持ちになりました。

中学生の時は、地元に貢献したいという想いは全く無かったんですが、JK課に入って活動をするうちに、鯖江をもっと良くするために私たちに何ができるのか?という気持ちが芽生えてきたような気がします。市役所への就職を選んだのもJK課の経験があったから。当時は気付きませんでしたが、後で振り返ってみると自分にとって大切な経験だったことがわかりました」

OG加藤さん──「私も同じです。先輩から誘われて“お菓子もらえるよ”って(笑)。市役所ってなんとなく暗くて冷たいイメージがあって、そもそも市庁舎を訪れたこともなかったんですが、JK課に入ってから市役所に対する印象が変わりました。女子高校生として普通に学校に通っているだけでは絶対に経験できないようことも体験でき、やって良かったなと思っています」

▲ミーティングでは、お菓子とともに会話が弾む。すべてにおいて押しつけがましくなく、「ゆるい」をテーマとしているところがJK課のまちづくりのポイントだ▲「やりたかったらやればいいし、辞めたいと思ったらいつでも辞めていい…そんな感じで誘われたので、じゃぁやってみようかと思い参加しました。当時は“まちづくりをしている”という感覚はなく、他の学校の子とも関われるし、先輩とも仲良くなれるので、放課後のたまり場のようなイメージでしたね」「活動をはじめた頃、高校の友達に“今日はJK課行ってケーキ食べてきたよ”と話したら、“大丈夫なの?そこ、怪しいんじゃないの?”と心配されたこともあります(笑)」と小森さん(右)・加藤さん(左)

大人は見守り、女子高校生たちの自主性に任せる。大手企業とのコラボも実現

市役所で定期的に開催されるJK課のミーティングには、高校1年生から3年生までの市内現役女子高校生メンバーが集まり、一年度あたりの参加人数は全体で平均約30人。まずはお菓子を囲んで1時間ぐらい賑やかなおしゃべりタイムが続くが、市の担当者である田野さんはそれを特に注意することはない。

田野さん──「僕自身は以前県に出向し、大学生をはじめとする若者たちの活動支援を行っていたので、若い世代との交流には自信を持っていたんですが、実際にJK課の担当になってみたら、女子高校生は全然違っていましたね(笑)

とにかく賑やかで、最初は彼女たちとどうやって関わればよいのか戸惑いました。しかし、一通りおしゃべりをして落ち着くと、自然に“じゃぁそろそろ今日のテーマについて話し合おっか”という流れになっていくんです。そのため、こちらが仕切ると言うよりも、彼女たちの自主性に任せたほうが全てうまくいくことがわかりました」

小森さん・加藤さん──「そうそう。市役所の担当者の方は、こちらが話しかけに行くまで何も言わず、ただずっと見守ってくれている感じ。先生でもないし、先輩でもない。“友達のお兄ちゃん”みたいな感じで接してくれましたね」

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女子高生同士の会話の中から新しいアイデアが浮かぶ──このJK課の活動は大手企業とのコラボレーションも成功に導いた。

小森さん──「私の中でいちばん記憶に残っているのは、ローソンさんとのコラボで、鯖江の河和田地区の伝統調味料『やまうに』を使っておにぎりやサンドイッチなどの商品開発を行ったこと。やまうには見た目が鮮やかなオレンジで、ウニに似ていることから名付けられたのですが、柚子と南蛮唐辛子が入っていてお豆腐や焼き鳥とか、何にでも合う家庭調味料なんです。

ただ、鯖江以外ではなかなか手に入らない食材なので、この企画がいろいろなメディアで報じられ、他の地域の方にもやまうにの存在を知ってもらえたことが嬉しかったですね」

加藤さん──「私の中で一番印象に残ってるのは『ピカピカプラン』です。JK課発足当初からずっと続いている企画で、市民の方たちと一緒にグループに分かれてゴミ拾いをしながら清掃活動を行います。ただ、単なるゴミ拾いとは違って、担当者から送られてくるミッションを達成しなくてはいけないんです。『みんなで変顔をする』とか『手をつないで写真を撮る』とか(笑)、ゲーム感覚で行う清掃活動です。

JK課に入る前まで、地域のゴミ拾いに参加しようと思ったことは一度もなかったのですが、『ピカピカプラン』に参加してくださった市民の皆さんの数の多さに驚き、いろんな世代の方との交流が楽しいと感じるようになりました。その経験が今の市役所での仕事につながっています」

▲JK課の恒例イベントとして定着している清掃活動「ピカピカプラン」。毎回小学生から高齢者まで、幅広い世代の鯖江市民が100人以上参加するという(写真は2023年度のチラシ/開催済み)▲JK課の恒例イベントとして定着している清掃活動「ピカピカプラン」。毎回小学生から高齢者まで、幅広い世代の鯖江市民が100人以上参加するという(写真は2023年度のチラシ/開催済み)
▲JK課の恒例イベントとして定着している清掃活動「ピカピカプラン」。毎回小学生から高齢者まで、幅広い世代の鯖江市民が100人以上参加するという(写真は2023年度のチラシ/開催済み)▲こちらはJK課のホームページ。実は当初はJKだけでなく、男子高校生による「DK課」の発足も想定していた。しかし、男子高校生から「女子と一緒に活動したい」との声が挙がったのに対し、女子高校生からは「女子だけでやりたい」との要望が強かったため、DK課は幻となった。「発足から10年が経ち、今のJK課メンバーから“男子と一緒に活動してみたい”という声が出てきたら、また変えていこうかなと思っています。その判断についても、メンバーの意見に大人が寄り添うカタチです」と田野さん

JK課の活動を通じて「地元での楽しい記憶」を作ることが大事

この10年間で、JK課の活動は「ふるさとづくり大賞/自治体部門総務大臣賞」や「全国地域づくり協議会会長賞」など多くの賞を受賞。高校の副読本にも取り上げられるなど、社会的評価を受けるまでになった。

また、市内洋菓子店とのコラボによる「オリジナルスイーツ販売」、地元企業とのコラボによる「オリジナルサングラス制作」、鯖江青年会議所とのコラボによる「映えるフォトスポット制作」など、コロナ禍の活動自粛期も乗り越え継続的な活動を行っている。

こうして“鯖江市役所JK課”の評判は鯖江の知名度と共に全国へと広がり、姉妹プロジェクトも各地で誕生したが、現在まで「JK課」として存続しているのは本家・鯖江のみだという。

田野さん──「リーダーをつくらず、LINEグループでみんなで意見を出し合うなど、最初から“ゆるく”続けてきたことが10年継続した理由でしょうね。そのため、JK課の今後の目標についても明確には定めていません。あえて挙げるとしたら、まだ鯖江の中で関わっていない方たちとゆるやかにつながりながら、メンバーが楽しいと思うことを体現していくことでしょうか。

鯖江で過ごした楽しい記憶や、鯖江の人たちとの楽しい思い出があれば、将来人生の転換期を迎えた時も『鯖江に残る』または『鯖江へ戻る』というきっかけにつながるはず。そして、彼女たちが楽しいと感じることをまちづくりに寄せていくことが、僕たち市役所担当者の仕事です」

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実は福井県では若者が活躍できる職場が限られており、高校を卒業すると約4割が県外へ転出するとのデータもある。しかし、JK課の卒業メンバーは61人中48人が県内での就職・進学を選び、課を卒業したあとも『JKOG課』を設立してまちづくり活動を継続しているという。

まちづくりについて真剣に考えるのではなく「まちの楽しいこと」を真剣に考える──これこそ、日本で唯一の「JK課」がゆるく長く続く成功の秘訣といえそうだ。

▲10周年を記念して制作された「ゆるいまちづくりの記録」は鯖江市役所ホームページからダウンロードできる。1期生のメンバーは、老舗料亭の女将、インターンコーディネーター、ドローンスクール会社の社長など、現在も地元で活躍しているレジェンド的な存在。彼女たちに憧れてJK課での活動を希望する女子高校生も増えているそうだ▲10周年を記念して制作された「ゆるいまちづくりの記録」は鯖江市役所ホームページからダウンロードできる。1期生のメンバーは、老舗料亭の女将、インターンコーディネーター、ドローンスクール会社の社長など、現在も地元で活躍しているレジェンド的な存在。彼女たちに憧れてJK課での活動を希望する女子高校生も増えているそうだ

■取材協力/鯖江市役所JK課
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