10年後に3倍に増える京都市の「高経年マンション」と若い世代の流出

今や世界的な観光地として有名な京都市だが、近年は若い世代の人口流出と「高経年マンション」の急増が課題となっている。

京都市は地価や建築資材の高騰、国内外からの不動産投資の影響などで、結婚・子育て世代(25〜39歳)が求める住宅の確保が難しく、若い世代の人口流出が進んでいる。 京都市中心部では、いわゆる「億ション」が珍しくなくなり、京都府南部や滋賀県、大阪府などの近隣都市へ家族で転出するケースが増えているのだ。

また、京都市の分譲マンションは、2020年現在約1,900件、約11万戸が存在し、そのうち218件が築40年以上の「高経年マンション」である。「高経年マンション」は今後さらに増え続け、10年後には3倍、20年後には5倍にまでなるという推計があり、京都市の分譲マンションの高経年化が進む見込みだ。

京都市では、歴史的建造物や歴史都市・京都の景観を守るために厳格な景観規制が行われてきた。それにより京都独自の魅力が生み出されてきたが、その一方、古くから残る町割や、高さ制限や容積率等の厳しさから小規模のマンションが多く建てられた。

小規模なマンションは、少数の反対票が議決に大きく影響し、合意形成が難しい。また、国交省の修繕積立金ガイドラインによると、小規模マンションは、一戸当たりの修繕積立金の負担が大きいとされている。適切な時期に積立金を増額しなければ修繕費用が不足に陥りやすいが、改訂できていないケースも多くある。また、高さ制限等のために同規模のマンションへの建て替えが難しいという、京都市特有の課題もある。

このような状況の中、京都市はどのように課題と向き合っているのだろうか。まちづくりを活性化させるための対策や独自の取り組みについて、京都市に伺ってきた。

京都市内の分譲マンション数の推移(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)京都市内の分譲マンション数の推移(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)
京都市内の分譲マンション数の推移(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)ガイドラインによる修繕積立金の平均額の目安(画像引用:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)
京都市内の分譲マンション数の推移(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)京都市内の築40年以上のマンションは、10年後に約3倍まで増える見込み(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)

街に見られる「ちょいふる」ポスター

京都市では、結婚・子育て世代が求める住宅を市内に確保するための対策のひとつとして、“中古”の分譲マンションの流通促進に取り組んでいる。京都市内の都心部を中心に新築マンションの価格が高騰しており、若い世代では手が出ないのが実情だ。そのため、京都市は、若い世代でも手の届く、良質な既存マンションに着目し、その流通に力を入れているのだ。

京都市では、結婚・子育て世代が既存マンションに興味を持ち、住まいの選択肢としてもらえるよう、若い世代の”目に留まる”情報発信を行っている。そのひとつとして、京都美術工芸大学の学生がデザインしたポスターで既存マンションをPRする取組みが行われている。

建築とデザイン両方の資格を取得できる京都美術工芸大学とのコラボにより「ちょっとふるい」マンションとその周辺を舞台にしたポスターが完成した。「京都に住むならちょいふるマンション」という若い世代に刺さるデザインとキャッチフレーズが盛り込まれたポスターだ。

ポスターは、地下鉄二条駅掲示板、京都駅地下新幹線連絡通路掲示板など、市民の目が届く場所に掲示されている。

ポスターのデザインは、京都美術工芸大学 デザイン・工芸学科の藤原真奈さんが担当した。
「若い世代に古いマンションを活用してもらう重要性を伝えたいと思い、ポスターをデザインしました。これまで京都のマンションにあまり馴染みがありませんでしたが、ポスターをデザインするなかで、京都のマンションの現状を知りました」と藤原さん。

ストーリーの異なる3種類のポスターで「ちょいふるマンション」をPRストーリーの異なる3種類のポスターで「ちょいふるマンション」をPR

ポスターのデザインは3種類あり、それぞれにストーリーとキャラクターが作り込まれている。ポップなイラストは若い世代の目に留まりやすいデザインだ。
「色使いやストーリー設定は、京都に住む子育て世代をターゲットにして作成しました。古いマンションのイメージをわかりやすく表現して、安心して暮らせることを伝えたいと思いました」と藤原さんは語る。

さらに、監修の京都美術工芸大学建築学部の生川教授はこう続けた。
「日本の住宅管理は世界と比較して後れをとっています。この取り組みを京都から全国に発信し、日本の課題でもある既存マンションの活用をもっと知ってもらえればと思います」

若い世代が新築マンションだけでなく、古くても管理状態が良いマンションを選べば、京都市の人口流出問題にも光が見えてくる。そのためには、京都市内外の若い世代にこの取り組みを知ってもらう必要があるだろう。

「この『京都に住むならちょいふるマンション』のポスターで、今あるマンションを長持ちさせて、古いマンションを流通させる取り組みがもっと浸透すれば嬉しいです。京都は古き良き雰囲気が多く残っているエリアなので、新築とは違う中古マンションの良さを知ってほしいです」と藤原さん。

実際、京都の古いマンションには低層な建物が多いため、京都の街並みに溶け込むという良さもある。古い町家が多く残る京都の街並みとマンションの共存は、今後の京都市の課題となるだろう。

これからの展望はどうだろうか。この取り組みが一度で終わってしまうのはもったいないだろう。生川教授は「この取り組みは今回限りではなく、これからも続けたいと考えています」と語る。「京都市の発信だけではなく、我々も協力することでさらに目に留まりやすいPRができると思います」

官学連携により若い世代が積極的に発信していくことで、既存マンションの活用に注目が集まり、結婚・子育て世代の住まいの選択肢となるきっかけになるのではないだろうか。

ストーリーの異なる3種類のポスターで「ちょいふるマンション」をPR「京都に住むならちょいふるマンション」のポスターをデザインした藤原さん

京都市におけるマンション管理支援の足取りをたどる

京都市では、迫りくるマンションの老朽化による景観や住環境への影響をいち早く察知し、全国的に見ても早い段階で対策を行ってきた。そのひとつが「マンション管理支援」である。

「京都市ではマンション管理に対する民間の取り組みが先行し、管理組合の集合体である京滋マンション管理対策協議会がスクールやセミナーなどを行っていました」と京都市都市計画局住宅室住宅政策課の神谷企画担当課長は語る。
従来より市民のマンション管理に対する意識が高く、早くから民間のマンション団体と京都市による官民連携の支援が進められたのである。

京都市のマンション管理支援は、マンション管理適正化法が公布された平成12年の「分譲マンション実態調査」から始まった。具体的な取り組みとして「すまいよろず相談」「すまいスクール出張版」「マンション管理セミナー」などが行われた。

その後、平成19年に開始された新景観政策を機に、アドバイザー派遣制度が創設された。これは、高度な専門性を必要とするマンションの長寿命化を見据えた大規模修繕工事等について、専門家を派遣して助言等を行う取り組みである。このアドバイザー派遣制度により、制度が創設された平成19年から令和3年の期間に90マンションへアドバイザーを派遣、67マンションが修繕工事完了、8マンションが工事中・計画中という成果が出ている。

京都市は平成12年からマンション管理支援を積極的に行ってきた(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)京都市は平成12年からマンション管理支援を積極的に行ってきた(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)

また、平成23年からは、従来の管理組合へのアンケート調査に加えて、専門家が目視で外観の老朽化をチェックする「高経年マンション実態調査」に乗り出した。
調査の結果、一定の基準に照らして管理状況に問題があると認められるマンションを京都市が「要支援マンション」として位置付けている。
「アンケート形式で実施してきたマンション実態調査に反応がなかった管理組合の中にこそ、管理不全の危険性が潜んでいるのではないかと考え、“要支援マンション”に対して管理組合の要請を待たずに市が率先して専門家を派遣する、いわゆる”おせっかい型”の支援を始めました」と神谷氏。

京都市ならではの”おせっかい型”支援では、「要支援マンション」にマンション管理士や建築士、弁護士などの専門家で構成するNPO法人マンションサポートネットを派遣し、あらゆる問題に対応する。また、理事会運営のサポートが必要なマンションには、外部役員として専門家を派遣し、管理組合の実務を担う支援も行っている。

京都市による”おせっかい型”支援により、平成23年に抽出した47件の要支援マンションが、令和3年には29件にまで減少し、うち8棟は大規模修繕工事までサポートされるなど、着実に実績を積んでいるが、新たな「要支援マンション」も生まれているのだという。

「最近になり、徐々に管理支援の相談が増えてきている状況です。高経年マンションが増加すれば、支援が必要なマンションも増加していくので、いずれ行政の支援にも限界がくる。この悩みにどう対応していくのかが今後の課題です」と神谷氏は話す。

京都市は平成12年からマンション管理支援を積極的に行ってきた(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)京都市は管理計画認定制度にも力を入れている(画像提供:京都市都市計画局住宅室住宅政策課)

管理計画認定制度による既存マンション流通への期待

管理計画認定制度は、マンションの管理不全を防止する観点から、令和4年施行の改正マンション管理適正法において創設された。マンション管理において一定の基準を満たす場合に、管理状態が良好であることを地方自治体が認定する制度で、認定基準は地方自治体により独自に定めることも可能だ。

京都市は、市内のマンション全体の管理水準を引き上げる方法として、この管理計画認定制度に注目し、令和4年9月という全国的にも早い段階から認定を開始しており、制度の普及に向けたさまざまな施策を、民間とともに取り組んでいる。たとえば、京都府マンション管理士会とタッグを組み、認定取得に向けたサポートを行っている。認定取得を検討する初期の段階で、認定基準の適合状況を項目ごとに無料でチェックするサービスを提供することで、管理計画認定を後押しする目的だ。

マンション管理の適正化に向けて国が基本方針を策定した(画像引用:国土交通省「マンションの管理の適正化の推進」)マンション管理の適正化に向けて国が基本方針を策定した(画像引用:国土交通省「マンションの管理の適正化の推進」)
マンション管理の適正化に向けて国が基本方針を策定した(画像引用:国土交通省「マンションの管理の適正化の推進」)「すまいの情報ひろば」で管理計画分譲マンションを紹介している(画像引用:「すまいの情報ひろば」HP)

また、京都市では、間接的な管理支援として、マンション管理組合同士の交流の場づくりに力を入れている。同じ悩みを共有するマンションの実績や具体的なノウハウを共有することができるのだ。

さらに、京都市の住まいに関する総合情報サイト「すまいの情報ひろば」では、「分譲マンションに住もう!」というスペシャルコンテンツを制作している。そこでは、管理状態が良いマンションを選ぶメリットや選ぶコツが紹介されており、管理状態の良いマンションの代表格として、認定を受けたマンションの一覧を見ることができる。

「管理計画認定制度によって、はじめてマンションの管理状態を評価する物差しができました。これを機に、マンションの管理状況が市場評価されていくことが期待されています。京都市としても、マンションを選ぶ際に見た目の綺麗さや値段だけではなく、管理状況をしっかり確認して選んでもらいたいという想いで取り組んでいます」と神谷氏。

増え続ける「高経年マンション」と京都市の課題

高経年マンションに着目し、いち早く対策に取組んでいる京都市。しかし、高経年マンションが増加していく流れは今後も加速していくだろう。

「建物と管理組合(区分所有者)という“2つの老い”への対応が全国的な課題となっており、京都市も例外ではありません。その対策のひとつとして、マンションの管理状況が市場評価されるようになることが重要と考えています。“中古であっても管理状態が良いマンションなら”と多世代から選ばれるようになって、管理組合にも人の循環が起こり、適正な管理運営が維持される、という好循環にもっていきたい。『ちょいふるマンション』の取組みも、その一環なのです」と神谷氏は語る。

管理計画認定制度で先手を取るため、京都市は、管理組合発足前の分譲時に新築マンションの管理計画案を予備的に認定する「予備認定制度」にも注目している。
管理組合発足時から管理に目を向けてもらうきっかけとすることで、将来の管理不全を防ぐ狙いだ。しかし、せっかく予備認定を取得したマンションであっても、管理計画認定の取得に進む事例はまだまだ少ないのだという。

この課題に対し、京都市は、住宅金融支援機構近畿支店とタッグを組み、予備認定を取得した分譲マンションに対し、管理計画認定の取得を強く奨めるとともに、認定を取得した管理組合のメリットとなる積立てサポート債権「マンションすまいる債」の金利優遇を合わせてPRするチラシを送付する等の取組も行っている。

高経年マンションをどのようにして未来へ引き継ぐのか。簡単に解決できる問題ではないが、これからの解決に向けた取組みが若い世代の定住や、京都のまちの成長につながるとみて良いだろう。今後の京都市の施策に注目していきたい。

■参考HP
「~意外と身近に 京都の良質なマンション~  HP京すまいの情報ひろばリニューアル等 若者・子育て世代の“京都住まい”を後押しする取組を進めます!」
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000320053.html
「京(みやこ)すまいの情報ひろば」
https://miyakoanshinsumai.com/