「高い山がなく川がないためダムがつくれない」宮古島の離島特有のエネルギー問題

「宮古ブルー」と呼ばれ、世界屈指の透明度を誇る美しい海に囲まれた宮古島。その海の透明度は、宮古島特有の地形によって守られていることをご存知だろうか?

宮古島はサンゴ礁が隆起してできた低島で、島内には高い山が存在せず、海へつながる川がない。そのため雨が降っても泥が海へ流れ出ることはなく、海水の濁りの原因となるプランクトンが発生しにくい。こうした奇跡的な条件のおかげで美しい「宮古ブルー」が生まれる。

しかし、この宮古島特有の地形は長年島民たちを悩ませてきた──エネルギー不足の問題だ。

沖縄本島・那覇から約290km(飛行機で約40分)の離島・宮古島は、沖縄電力の送電ネットワークから外れている。山や川が無いことからダムをつくることができず、電力は島内2カ所の火力発電所に頼るのみ。しかし、台風等の気象条件によって供給が不安定になることが多く、発電所から離れた地域になるほど今も頻繁に停電が発生する。

こうした離島特有の課題を受けて、宮古島市は2008(平成20)年に『エコアイランド宮古島宣言』を発表。2018(平成30)年にはその目標をアップデートし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを活用してエネルギー自給率48.85%を目指す『エコアイランド宮古島宣言2.0』を表明した。

官民一丸となって取り組む「持続可能な島づくり」について、宮古島市役所の藤井大地さんにその経緯と現状の成果を聞いた。

▲宮古島市は、三角形状の島にある4つの地区と伊良部大橋でつながる伊良部地区の5つに分かれている。面積は204平方キロメートル、人口は約5万5000人で人口のほとんどが平良地区に集中している(宮古島観光協会HPより)▲宮古島市は、三角形状の島にある4つの地区と伊良部大橋でつながる伊良部地区の5つに分かれている。面積は204平方キロメートル、人口は約5万5000人で人口のほとんどが平良地区に集中している(宮古島観光協会HPより)
▲宮古島市は、三角形状の島にある4つの地区と伊良部大橋でつながる伊良部地区の5つに分かれている。面積は204平方キロメートル、人口は約5万5000人で人口のほとんどが平良地区に集中している(宮古島観光協会HPより)▲これぞまさしく「宮古ブルー」の美しい海(2023年9月筆者撮影)/宮古島市の人口は、コロナ禍に突入した2020年以降増加傾向にあり、2023年6月には外資系大手ホテルリゾートが開業するなど観光業も活性化している。島民からは「本島や石垣とは違って宮古は静かな島だったのに、ここ最近プチバブル状態になっている」と、歓喜と困惑が混じる声が聞かれた

地下ダムの完成により産業基盤が整い、新たな環境問題が浮上した

「実は、宮古島でエネルギー問題よりも先に課題になっていたのは、水資源問題でした。

宮古島市は山がなく川や湖もないので、島の中では淡水が取れません。慢性的な水不足で、干ばつと台風という2大災害に長年見舞われてきました。そこで、島の農業用水を守ろうと、1970年代から『地下ダム』の建設計画が進められてきたのです」(以下「」内は藤井さん談)

宮古島は、島全体が琉球石灰岩(サンゴが石灰化した岩)でできている。非常に水を通しやすい地質で、雨が降っても地下へそのまま流れ出てしまい、水を貯めておくことができなかった。

「しかし、地下部分にコンクリートの壁を造り、水をせき止める『地下ダム』が完成したことで、約2400万トンの水量を確保できるようになりました。現在は、3つの地下ダムのおかげで農業用水をまかなうことができています」

2000年代から地下ダムの運用がスタートし、ようやく水資源の課題が解決したかのように思えた宮古島だが、その後更なる難題が浮上した。

「地下ダムができて島の産業基盤が整ったことで、移住者や観光客が急激に増え、生活排水の増加や農薬被害、家畜の糞尿被害が広がり、生活用水として欠かせない地下水源の汚染が始まったのです。さらに、人が増えれば当然ながらエネルギーが足りなくなって、ゴミの量も増えていく…まさに環境破壊の悪循環です。“このままでは宮古島に人が住めなくなってしまう”──そんな危機感が、エコアイランド宮古島宣言の一丁目一番地になったわけです」

島の水資源整備は、内閣府や宮古島市水道部が主体となって推進してきた農業水利事業だが、再生可能エネルギー政策に関してはエコアイランド推進課が中心となり、2050年の未来へ向けた新たな取り組みを進めることになる。

▲宮古島の地盤は、表面が水を透しやすい石灰岩(帯水層)、その下は粘土質の島尻層群(不透水層)。地下ダムができる前は地盤へ浸透した水が湧き水となって海に流れ出ていたが、地下に壁を造りその水をせき止めることで農業用水として利用できるようになった。この様子は福里にある『宮古島市地下ダム資料館』で見学できる(宮古土地改良区HPより引用)。なお、生活用水は地下水源から確保されている▲宮古島の地盤は、表面が水を透しやすい石灰岩(帯水層)、その下は粘土質の島尻層群(不透水層)。地下ダムができる前は地盤へ浸透した水が湧き水となって海に流れ出ていたが、地下に壁を造りその水をせき止めることで農業用水として利用できるようになった。この様子は福里にある『宮古島市地下ダム資料館』で見学できる(宮古土地改良区HPより引用)。なお、生活用水は地下水源から確保されている
▲宮古島の地盤は、表面が水を透しやすい石灰岩(帯水層)、その下は粘土質の島尻層群(不透水層)。地下ダムができる前は地盤へ浸透した水が湧き水となって海に流れ出ていたが、地下に壁を造りその水をせき止めることで農業用水として利用できるようになった。この様子は福里にある『宮古島市地下ダム資料館』で見学できる(宮古土地改良区HPより引用)。なお、生活用水は地下水源から確保されている▲宮古島市役所 企画政策部 エコアイランド推進課の藤井大地さん。「宮古島市内では下水整備も行われているものの、中心街から離れると浄化槽がほとんどで、畑で使われる農薬成分や家畜の糞尿もそのまま地下へ浸透してしまいます。また、島内の発電所は火力発電だけ。他から融通してもらうこともできませんから、人が増えればエネルギーの需給バランスも不安定になります。このような事情からエコアイランド化を目指すことになりました」

宮古島内でエネルギーの自給自足を目指し、2050年最終目標は自給率48%

千年先の、未来へ。をテーマに掲げた『エコアイランド宮古島宣言2.0』では、環境保全・資源循環・産業振興を三本柱とし、具体的には2050年に向けて5つの主なゴールを定めている。

①地下水水質・窒素濃度の改善
(基準年4.71mg/L→2050年目標 2.02mg/L)
②1人1日あたりの家庭系ごみ排出量の削減
(基準年542グラム→2050年目標 20%減)
③エネルギー自給率の向上
(基準年2.9%→2050年目標 48.85%)
④サンゴの被度
(2050年目標 ハマサンゴ優占群集40%以上、ミドリイシ優占群集70%以上)
⑤固有種の保全
(2050年目標 市全域クジャク個体群根絶)

中でもハードルが高く、現状一歩遅れをとっているのが「エネルギー自給率の向上」だ。

「最初にエコアイランド宣言を行った2008年当時、日本のエネルギー自給率は17.5%(原子力含む)でしたが、宮古島市のエネルギー自給率はわずか2.9%でした。宮古島市に限らず、原発がない沖縄県は石油・石炭・LNGに依存するしかなく、国内全体と比較するとどうしてもエネルギー自給率が下がってしまうんです。

この問題は行政だけで取り組んでいてはダメ。市民の皆さんにも意識を変えていただかないと、なかなか達成できない大きな目標です。しかし、残念ながらエネルギー問題というのは目に見える成果がわかりづらく、“環境負荷を軽減できるから素晴らしい”と言っても、市民の皆さんには伝わりにくいんですね。

そのため、最もわかりやすいところで“電気代が安くなりますよ”とか“停電に備えることができますよ”など、暮らしに直結するようなメリットをお伝えしながら、周知活動に努めています」

▲島内では電力会社と共に様々な実証実験を行っている。写真は、約10万m2の敷地に総出力4000kWの太陽光発電設備を設置した宮古島メガソーラー実証研究設備。年間発電量は一般家庭約1200世帯分の電気使用量に相当する(沖縄電力HPより引用)▲島内では電力会社と共に様々な実証実験を行っている。写真は、約10万m2の敷地に総出力4000kWの太陽光発電設備を設置した宮古島メガソーラー実証研究設備。年間発電量は一般家庭約1200世帯分の電気使用量に相当する(沖縄電力HPより引用)

10年かけてエネルギーマネジメントシステムを構築する

電力の需給バランスは「同時同量」が鉄則であることは皆さんもご存知だろう。つくる量(供給)と使う量(需要)のバランスが崩れると周波数が乱れ、最悪の場合ブラックアウト(大規模停電)を起こす。電力会社の送電網がつながっているエリアであれば需給の融通が利くが、送電網から外れた離島ではそれができない。そのため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを導入しようとしても、コントロールが難しい状態にあった。

「山がない宮古島は、遮蔽物の影響を受けないため、太陽光発電や風力発電との相性が非常に良いんです。ただ、風力の場合は台風等の災害時に風が強すぎて、市場に出回っている風力発電装置は適合しません。標準的な耐風性能を超える特注品が必要になるんです。また、太陽光の場合は環境が良すぎて常にフル発電状態になるので、電気をつくりすぎると貯めておく場所がない。当初蓄電池はとても高額でしたから、予算的に導入が難しいという課題がありました」

そこで、宮古島市が実証実験として取り組んだのは、EMS(エネルギーマネジメントシステム)の構築だ。沖縄電力とEMSをコントロールするアグリゲーター(特定卸供給事業者)が、各家庭に設置された太陽光パネル・蓄電池・エコキュート(高効率給湯機)を遠隔で監視。電力の需給バランスの調整を行い、送電系統への負荷を軽減しながら、島内で電力を循環させる土壌が整ったことで、2021(令和3)年度にはエネルギー自給率が4.1%まで上昇した。

「EMSを安定化するのに約10年かかりましたが、蓄電池が量販されて安価になってきたことや、蓄電池としても使えるEV車の普及を受けて、各家庭の蓄電体制がようやく整ってきた状態です。現在は近隣の建物同士で電力を融通し合い、エネルギー使用量を可視化するようなシステムの実験も行っていますが、電力融通の際の売買電の取引形態に課題があって、まだ実用化には至っていません。再エネのコントロールって本当に難しいんです」

▲宮古島市役所の駐車場の屋根には巨大な太陽光パネルを設置。市役所で使用する電力の一部を再エネでまかない、エネルギー自給率向上への取組みを市民に向けてアピールしている▲宮古島市役所の駐車場の屋根には巨大な太陽光パネルを設置。市役所で使用する電力の一部を再エネでまかない、エネルギー自給率向上への取組みを市民に向けてアピールしている

PPA事業(第三者所有モデル)の普及により自家発電世帯が急速に増加

自給率目標を達成するためには、各世帯での自家発電が不可欠だ。宮古島市ではEMSの構築後、民間事業者によるPPA(Power Purchase Agreement=電力販売契約)を推進。EV車の導入やエコ家電に補助金を給付するなどして、家庭単位での「エネルギーの自給自足と省エネ」を呼び掛けている。

「PPA事業では、第三者の民間事業者が太陽光パネルと蓄電池を無料で設置するので、初期コストはゼロ。工事費やメンテナンス費もすべで事業者負担となるため、市民の皆さんにとっては導入ハードルが低くなります。その代わり、太陽光発電システムによって発電された電力は、PPA事業者から買い取る契約になります。

“再エネは環境価値が付加されるぶん、電気代が高くなる”というイメージを持っている方が多いのですが、太陽光で効率よくフル発電できる宮古島では、グリッドパリティ(再エネの発電コストが既存の電力系統の発電コストと同等または下回るポイントとなる価格)によって電気代も安くなりますし、各家庭に蓄電機能を備えることで停電時の電力を維持しやすくなり、災害対策としても有効です。

このPPA事業に関しては、あくまでも民間の独自事業であって、行政としての役割は『太陽光パネルを普及できる素地をつくる』ところまででしたが、ありがたいことに、民間事業者さんたちの“エコアイランドを目指す”という強い理念の元でPPAが推進されている状態です。

この事業によって太陽光発電を導入した世帯が1000世帯ほど増えました。自給率目標にはまだまだ遠い状態ながら、大きな成果につながっていると思います」

▲宮古島市の住宅街には伝統的な赤瓦屋根の家はほとんどなく、多くの民家が平らな陸屋根であることから太陽光パネルを設置しやすいという特徴がある。写真は宮古島市が提案する省エネ型住宅『エコハウス』。このエコハウスの省エネの工夫については後日改めてレポートする(2023年9月筆者撮影)▲宮古島市の住宅街には伝統的な赤瓦屋根の家はほとんどなく、多くの民家が平らな陸屋根であることから太陽光パネルを設置しやすいという特徴がある。写真は宮古島市が提案する省エネ型住宅『エコハウス』。このエコハウスの省エネの工夫については後日改めてレポートする(2023年9月筆者撮影)

エネルギーも食料も、島内で自給自足できる「強い島」を目指す宮古島

「宮古島のような離島では、エネルギーも、地下水も、食料も、産業も、パイが限られています。だからこそ、宮古島市のモノは宮古島市内で完結できるように、エネルギーだけでなく生活全般において“島内で自給自足できる強い島”を目指したいと考えています。エコアイランドとしてのブランド力を確立することで、宮古島がもっと住みやすい島になるといいですね」

▲現在、藤井さんが担当しているのは、宮古島市の中でもさらに離島に位置する来間島でのマイクログリッド(小規模電力網)構築。万一の災害時には、島の電力を蓄電池だけで自立させる実証実験に取り組んでいる(写真は伊良部島と伊良部大橋)▲現在、藤井さんが担当しているのは、宮古島市の中でもさらに離島に位置する来間島でのマイクログリッド(小規模電力網)構築。万一の災害時には、島の電力を蓄電池だけで自立させる実証実験に取り組んでいる(写真は伊良部島と伊良部大橋)


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世界情勢の変化や円安進行によるエネルギー価格の高騰に直面しているいま、エネルギー自給率の向上はもはや離島だけの課題ではない。エコアイランドを目指す宮古島の姿勢をお手本にしながら、私たちも2050年に目指すべき日本の姿を考えていきたいと思う。

■取材協力/宮古島市役所
『エコアイランド宮古島宣言2.0』
https://www.city.miyakojima.lg.jp/gyosei/ecoisland/sengen2.html

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