住む人を中心とした技術やサービスを開発する「長谷工テクニカルセンター」

時代とともにマンションはどんどん進化しているが、その裏側では、マンション居住者の安全・安心・快適な暮らしを実現するために、日々妥協を許さない技術の研究と開発が行われている。20~30戸の小規模マンションから何百戸という大規模マンション、地上20階以上のタワーマンションなど、規模や構造が違うさまざまな建物を効率よくかつ安全に建設し、快適な住まいを作り上げるためには、気が遠くなるような研究と開発、失敗と改善の積み重ねがあることは想像がつく。

実際にどのようなことが行われているのか、今回、日本のマンションストックの約1割にあたる約69万戸(2023年1月時点)のマンションを施工してきた長谷工グループが運営する「長谷工テクニカルセンター」(東京都多摩市)を訪問し、取材した。

一般のユーザーが研究や実験、研修の現場を見る機会はほとんどないだろう。皆さんに代わって、マンションの管理や開発の裏側をお届けしたい。

長谷工テクニカルセンターは、長谷工技術研究所、長谷工グループ技術研修センター、長谷工コミュニティ アウル24センター、長谷工マンションミュージアムで構成されている長谷工テクニカルセンターは、長谷工技術研究所、長谷工グループ技術研修センター、長谷工コミュニティ アウル24センター、長谷工マンションミュージアムで構成されている(画像提供:長谷工コーポレーション)

長谷工テクニカルセンターは、2018年に長谷工グループ創業80周年記念事業の一環としてオープンした施設だ。「長谷工技術研究所」「長谷工グループ技術研修センター」「長谷工コミュニティ アウル24センター」の技術関連機能を集約し、「長谷工マンションミュージアム」が併設されている。

今回、マンション管理などのソフト面については、株式会社長谷工コミュニティ 参与 西野順二さんに、構造や建築部材などのハード面については、株式会社長谷工コーポレーション 技術研究所 副所長 岡﨑充隆さんに施設内を案内していただき、お話を伺った。

24時間365日対応の「長谷工コミュニティ アウル24センター」

長谷工コミュニティ アウル24センターと、長谷工グループ技術研修センターを案内していただいた、長谷工コミュニティ 参与 西野順二さん長谷工コミュニティ アウル24センターと、長谷工グループ技術研修センターを案内していただいた、長谷工コミュニティ 参与 西野順二さん

「長谷工コミュニティ アウル24センター」は、長谷工グループでマンション管理を担う長谷工コミュニティが自社保有する総合監視センターである。

室内には数多くのモニターが並んでおり、その前で何人もの人が状況をチェックしている。ここでは、北海道から沖縄まで全国のマンションを一元管理し、管理状況に異常がないか監視しているのだ。

「平日の日中は各マンションの管理員が対応しますが、夜間や休日は、このアウル24センターが、緊急時のさまざまなトラブルに対して素早く状況を把握し、迅速かつ適切に対応します」(西野さん)

24時間365日対応なので、居住者にとって心強いだろう。居住者の安全で快適な暮らしを、人と最新のテクノロジーで見守っている。

長谷工コミュニティ アウル24センターと、長谷工グループ技術研修センターを案内していただいた、長谷工コミュニティ 参与 西野順二さん365日24時間対応のアウル24センター内。全国のマンションの管理状況が一元管理されている(画像提供:長谷工コミュニティ)

マンション管理のプロを養成する「長谷工グループ技術研修センター」

研修風景。さまざまな研修プログラムが用意されている研修風景。さまざまな研修プログラムが用意されている

続いて訪れた「長谷工グループ技術研修センター」は、知識と技術力に優れたマンション管理のプロを養成するための研修施設。

マンション管理員の仕事は、居住者とのコミュニケーションや、建物の維持管理、緊急時の対応など多岐にわたる。居住者の満足度に影響することからも、高品質のサービスを提供するために、しっかりとした教育が不可欠なのだ。施設内には、エントランスや管理員室から屋上まで、マンション内の設備や共用空間が再現されていて、座学による研修だけでなく、体験を通して技能を身に付けられるようになっている。

例えば、水洗トイレのゾーンでは、3タイプの便器が用意され、内部が見えるように半分が切り取られている。

「排水の仕組みや構造を理解することで、何か物が詰まった場合でも、素早い状況判断と対処ができます」(西野さん)

ほかにも、床の清掃や共用部の照明の交換など、日常的な管理業務の質を上げるために、さまざまな床材や照明などが用意されていて、床の種類による掃き方の違いなどを実際に掃除しながら体感し、技術を身につけていく。

研修風景。さまざまな研修プログラムが用意されている形状の違う3つの便器が、半分切り取られ断面が見えるようになっている。スケルトンになっているので、排水されるまでの水の動きや流れが確認できる

管理員にとって特に大事なのが緊急時の対応だ。管理員はここで、共用部分のさまざまな設備の操作方法や対応の仕方を実践で学ぶ。

「対処の仕方を練習していれば、いざという時に慌てず、適切な対応が取れます」(西野さん)

大変だと感じたのは、築年によりマンションの設備や機能、機器の操作方法が違うので、どのマンションの担当になっても対応できるようにしておかなければいけないことだ。そのため、各研修ゾーンには一つの設備だけでなく、現在使われているさまざまな種類の設備が用意されている。
例えば、フロントオフィス研修ゾーンには何種類もの警報盤や制御盤が設置されている。廊下等に設置される非常警報設備も複数用意されているが、種類によって警報音の止め方など操作方法が違うため、ひとつずつ確認して覚えなければいけない。しかもマンションには次々と最新の設備やシステムが導入されるので、研修内容も定期的にバージョンアップされている。

施設を見学して、あらためて管理業務の幅広さと、大変さが理解できた。いつも笑顔で対応していただいている管理員の方々に、敬意を表したい。

また、当施設は長谷工グループ以外の管理会社の社員も研修を受けられるようになっている。「会社の垣根を超えて管理のプロを育てる事で、マンション管理の質を上げ、管理業界全体のレベルアップを図りたい」(西野さん)という思いからだそうだ。これはとても素晴らしい取り組みだと感じた。

研修風景。さまざまな研修プログラムが用意されているフロントオフィス研修ゾーンには、さまざまな制御盤が設置されている。それぞれ操作方法が違うので、覚えるのが大変だ
研修風景。さまざまな研修プログラムが用意されている消火ポンプなども再現されている。実際に消火器で火を消す練習も行われる

マンション建設の技術を支える「長谷工技術研究所」

外壁の素材による劣化状況の違いも、実物で検証することで正確なデータが手に入る外壁の素材による劣化状況の違いも、実物で検証することで正確なデータが手に入る

次に案内いただいた長谷工技術研究所は、長谷工テクニカルセンターの中核施設として、建物の長寿命化や耐震性強化など、集合住宅に関するさまざまな性能検証や実験により研究開発を行う施設である。エントランスのある「本館」の他に、「住宅実験棟」「多目的実験棟」「音響実験棟」に分かれている。それぞれどのような研究や実験をしているのか、紹介しよう。

住宅実験棟

住宅実験棟は、鉄筋コンクリート構造の実物大のマンションだ。ここでは、実際の生活空間の中での快適性や住み心地を検証している。

共用部実験スペースでは、屋上、廊下、バルコニー、外部階段などの共用部が再現されており、風雨などの外部環境に対する外装材の耐候性・耐久性などが検証されている。また、音体感スペースでは、部屋の中で重い物や軽い物を落とした時の上下階への音の伝わりを実験することができる。
ほかにも、室内の気流の計測をする通風利用実験や免震構造の建物に強制的に変位を与え揺らす、自由振動実験などが行われている。

「図面や模型、データ上だけでなく、実物大のマンションを建ててリアルな状況下で実験しているので、精度が高く、わずかな変化でもとらえることができるのです」(岡﨑さん)

外壁の素材による劣化状況の違いも、実物で検証することで正確なデータが手に入る実物大や少し縮小した試験体にさまざまな形で力を加えて、構造性能を確認している(画像提供:長谷工コーポレーション)
長谷工技術研究所を案内していただいた、長谷工コーポレーション 技術研究所 副所長 岡﨑充隆さん長谷工技術研究所を案内していただいた、長谷工コーポレーション 技術研究所 副所長 岡﨑充隆さん

多目的実験棟

多目的実験棟は、「環境実験エリア」「材料実験エリア」「構造実験エリア」「先端技術実験エリア」の4つのエリアで構成されており、マンションを作る構造部材や建築材料、温熱環境などの実験が行われている。

構造実験エリアでは、柱や梁、耐震壁などの構造部材に力をかけることで、耐震性などを検証している。実物大で実験することもあるので、とにかく空間が広く機材も大きい。材料エリアではコンクリートを圧縮強度試験機で破壊して、想定通りの強度を持っているのかの確認や、高い強度のコンクリート開発などが行われている。熱環境試験室ではさまざまな温湿度環境を設定して、外壁や建材の断熱性能や防露性能などの検証が行われている。

「北海道と沖縄では、温度や湿度が違うので、それぞれの条件に適したものを開発しなければいけないからです」(岡﨑さん)

さらに、建具繰り返し開閉試験では耐久性能の検証が行われていて、見学時も機械によってドアの開け閉めが繰り返されていた。開閉は何万回も繰り返すそうだが、躯体構造だけでなく、住戸内の居住空間においても長期間使用されるものが多いマンションでは、こうした細かく地道な検証が重要となる。

音響実験棟

音響実験棟は、鉄筋コンクリート造、木造のほかあらゆる建物を対象にさまざまな遮音性能を検証。実際に巨大な壁の試験体を差し替えながら、音源室から流れる音を受音室で測定している。

最近は、脱炭素を見据えて環境にやさしい木造建築も増えているが、集合住宅の場合には遮音性能が課題となっている。「木造建築物の設計・施工が多くなり、木造の壁や床の遮音検証(音の検証)が盛んになっています」と岡﨑さん。音響実験棟では木造技術の一つとして耐震部材に巨大なCLTパネルが用いられていた。

何度も実験を繰り返し、結果を設計にフィードバックすることで、遮音性能に優れた快適な居住空間が完成するのである。

外壁の素材による劣化状況の違いも、実物で検証することで正確なデータが手に入る耐震部材にCLTパネル(大判木質パネル)を採用

長谷工テクニカルセンターの見学を終えて

免震構造の建物に、ジャッキで強制的に変位を与えて揺らす自由振動実験を行っている(画像提供:長谷工コーポレーション)免震構造の建物に、ジャッキで強制的に変位を与えて揺らす自由振動実験を行っている(画像提供:長谷工コーポレーション)

ものづくりの背景で実験や検証が繰り返されていることは知っていたが、予想を超える大掛かりな実験や検証メニューの多さを目のあたりにして、正直驚いてしまった。

これほどの規模で集合住宅の施工について実験や検証をしている施設は他にないだろう。そして同時に、一切の妥協を許すことなく、日々技術の研究と開発が進められているからこそ、マンションの多様な施工に対応でき、「安全・安心・快適な住まい」が実現できるのだと納得した。また、管理のプロを育てるための充実した研修は、マンション管理の質の向上に大いに貢献していると感じた。

免震構造の建物に、ジャッキで強制的に変位を与えて揺らす自由振動実験を行っている(画像提供:長谷工コーポレーション)受水槽や給水ユニットなどのゾーン

マンションの躯体構造や、24時間365日対応する管理システムなど、日頃見ることがないものばかりであるが、このような裏側の部分が、私たちの安全で快適なマンションライフを支えているのである。

これを機にマンションの構造や管理などについて興味を持って調べてみることをおすすめする。マンションに対する理解が深まるだけでなく、安全に暮らせることや、管理員の業務など、日頃当たり前だと思っていることに、きっと、感謝の気持ちが湧いてくるだろう。

免震構造の建物に、ジャッキで強制的に変位を与えて揺らす自由振動実験を行っている(画像提供:長谷工コーポレーション)管理の研修では、洗面台の下の排水パイプの状況もスケルトンの床で確認する
ホームズ君

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