日本で唯一のマンション特化型ミュージアム
マンションのことならなんでもわかる施設が多摩センターにあると聞き、取材に行ってきた。施設の名称は「長谷工マンションミュージアム」。長谷工グループ創業80周年記念事業のひとつとして、2018年10月に長谷工テクニカルセンター内に誕生したもので、日本で唯一、マンションに特化したミュージアムだ。
確かに館内マップには「マンションのことなら、あれもこれもなんでもわかります」と書いてある。いったいどのような展示がされているのだろうか。今回、株式会社長谷工コーポレーション 長谷工マンションミュージアム 館長 江口均さんに館内を案内していただくとともに、いろいろお話をうかがった。
長谷工グループは、建設関連事業、サービス関連事業を展開。グループ各社の総合力を生かして、マンションに住む人の人生全体をサポートする「住まいと暮らしの創造企業グループ」を謳う。日本のマンショストックの約1割にあたる約69万戸のマンションを施工してきた長谷工は、いわば、日本のマンションのスタンダードを築いてきた企業といっても過言ではないだろう。
しかし、今回の施設を作るにあたっては「長谷工の企業色を出しすぎず、マンション業界全体の流れがわかるように作成しました」(江口さん)とのこと。というのも、「この施設の目的は、集合住宅を理解してもらい、好きになってもらうため」(江口さん)で、「見て、触れて、感じて、学べる」展示を通し、マンションへの理解を深めるきっかけにしてもらいたいからだそうだ。
数多くの展示物は、自社だけでなくさまざまな場所から収集してきているが、特に、ミュージアムのコンセプトに賛同した独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)から提供された貴重な資料により、日本の集合住宅の歴史資料はかなり充実したものになっている。
施設内は、「エントランスゾーン」「はじまりの物語」「集合住宅の歩み」「暮らしと住居の変遷」「まるごとマンションづくり」「再生と長寿命化」「これからの住まい」「HASEKOライブラリー」「マンション防災」の9つのゾーンで構成されている。集合住宅の成り立ちから変遷、未来のあり方までが一つのストーリーとして感じられる内容になっているので、順番に見ていくことで理解が深まっていくのだ。
具体的にどのようなものが展示されているのか、施設内のゾーンをいくつか紹介しよう。
マンションの歴史がわかる「集合住宅の歩み」
「集合住宅の歩み」ゾーンは、マンションの歴史が学べるゾーンで、通路の左側には「社会の様々な出来事」「特徴的な集合住宅」「長谷工グループの歩み」が歴史年表のように時系列で展示されている。また、右側にはマンションの進化について年代ごとの特性がまとめられている。貴重な写真とともに、当時の社会情勢などが説明されていて、時代とともに進化してきたマンションの歴史が理解できる。
例えば、1920年代は鉄筋コンクリート造の集合住宅の建設が本格的に始まった時代。そのきっかけは、1923年の関東大震災だ。都市の不燃化と高層化を目指し、復興住宅として建設された「同潤会アパート」こそ、今のマンションの原点といえるだろう。1926年~1934年の間に建設された「同潤会アパート」の写真が展示されているが、今見てもおしゃれで素敵である。
この「集合住宅の歩み」のゾーンは、不動産業界歴の長い人にとっては、懐かしい出来事や写真でいっぱいであるが、一般ユーザーにとっては、約100年に及ぶ集合住宅の歴史が時間の流れで理解できる場所になっている。
また、新築分譲マンションの販売時には、必ず物件パンフレットが作られていたが、ここには1974年以降に発売されたマンションのパンフレット(実物)が83冊展示されている。パンフレット内の文言や写真からは当時の雰囲気が伝わってくる。これらは現在ほとんど残っていない、貴重なものばかりである。
「マンションマニアの方から、ぜひ売ってほしいと言われました」(江口さん)ということだが、その気持ちもわからないではない。
また、壁には数字で見るマンションということで、首都圏と近畿圏の新築分譲マンション平均価格、平均面積、年間供給戸数、民間住宅ローン金利など、1973年~2021年の48年間の推移のデータがグラフ化されている。これだけでもとても貴重な資料である。まさに、マンションの歴史を時系列で見ることができる、見ごたえたっぷりの展示である。
間取りの進化がわかる「暮らしと住居の変遷」
「暮らしと住居の変遷」は、1970年代に開発された長谷工の「コンバスシリーズ」と最新の間取り「Be-Next」の実物のモデルルームが併設された、間取りの歴史が学べるゾーンである。壁には、長屋の間取りから長谷工のコンバスシリーズが誕生するまでの間取りの変遷が展示されている。
長屋と呼ばれていた1910年代の1Kの間取り、1920年代の同潤会代官山アパートの2K、1950年代の蓮根団地の2DK、1960年代の滝山団地の3LDK、1975年のコンバスマークⅠ、1976年のコンバスニューライフと60年で集合住宅の間取りは大きく変化している。
もともと、居間兼寝室の和室から、食事はテーブルでという「食寝分離」をテーマとしたダイニング・キッチン(DK)へと進化し、さらに一家団欒のリビング(LDK)がある間取りへと進化していった。間取りの変化が、日本人の生活様式を大きく変えていった過程がよくわかる。
「DKが誕生したころは、テーブルや椅子を備え付けていましたが、引越しのときに持っていく方がいたので、鎖で繋いでいたそうです」(江口さん)というエピソードも、何とも微笑ましいものだ。そして、住宅の設備や部材を規格化したコンバスシリーズの誕生で、分譲マンションは大量供給の時代へと進んでいくことになったのである。
モデルルームは、「コンバスシリーズ」と最新の間取り「Be-Next」が新旧比較しやすいよう隣り合わせに作られている。コンバスの設備仕様は、当時使われていた実物が使われているのに驚いた。さらにインテリアや電化製品も当時の物でコーディネートされているので、昭和の暮らしがとてもリアルに再現されていて、懐かしく感じた。
間取りの変化の背景には、さまざまな技術革新があるが、特に注目したいのが扁平梁の誕生である。梁の断面を横長にして扁平にすることで、従来よりも床から梁下までの高さを増すことができるので、「バルコニー側の窓をハイサッシにして、開放的な居住空間をつくることができるようになりました」(江口さん)という。
また、柱が室内に出ないアウトポール工法を組み合わせることで、角住戸ではコーナーウインドウが可能になるなど、快適さを求めて間取りの進化は今も続いている。
施工技術がよくわかる「まるごとマンションづくり」
「まるごとマンションづくり」は、設計コーナーや施工コーナーなどのマンションづくりがまるごと学べるゾーンである。設計コーナーでは、昔の設計者の机回りが再現されている。当時は手書きで綿密な図面を書いていた。いくつか設計デザインを見せていただいたが、鉛筆のデザイン画はとても美しく、やわらかな印象を与えてくれる。時代とともに、CADなどコンピューターが導入され、現在は「BIM」などの最新の設計システムを使ってマンションの設計がされている。
施工コーナーでは、VR映像でマンションが完成するまでの工事の様子を見ることができる。また、拡底杭の模型やコンクリートの流し込みの模型など、普段見ることができない構造も見ることができる。
排水管の変遷のコーナーでは、かつての配管の模型が展示されている。最新のサイホン排水方式では、床下のパイプに傾斜を付ける必要がなくなったので、リフォームなどの際に水回りが動かしやすくなっているという。こういう技術が、間取りの進化や暮らしやすさにつながっていくのだ。
一般の人は、実際の施工現場を見ることはできないが、こうやってわかりやすい説明とともに、実物を見ることで、建物の構造などについての理解が深まり、興味が湧いてくるだろう。
これからの住まいや、マンションの防災についても学べる
マンションをよく知るためのゾーンはまだまだある。
「再生と長寿命化」は、マンションの修繕や耐震改修、建物と設備の劣化による建て替えなどの事例が紹介してあるゾーン。マンションの修繕工事や、築年数が古いマンションの建て替え事業は、とても大きなテーマである。今後、建て替えタイミングを迎えるマンションが増加してくるので、さまざまな事例を集め研究しておくことは大事なことである。
「これからの住まい」は、他企業とのコラボにより、集まって住む楽しさ、つながる豊かさなどをテーマに、遠い未来ではなく5年ぐらい先の近未来のマンションのあり方が提案されているゾーン。
「未来の暮らしを提案していますが、すぐに実際に商品化されていき、常に新しい展示を取り入れていかないといけないので大変です」(江口さん)とのこと。少し先の暮らしを垣間見ることができる、わくわくする展示である。
「マンション防災」は、マンションだからできる防災をテーマに、災害の歴史、マンションの災害対策、未来の防災マンションなどが展示されたゾーン。
実際に10階建てのマンションを使った迫力ある耐震実験の映像や「旧耐震、旧耐震改正、新耐震」の鉄筋構造の模型を見ることで、耐震構造についての理解が深まる。近年、地震や台風などの自然災害での被害が増えてきているので、暮らしの安全・安心については、しっかりと勉強したほうがいいだろう。ここでは、マンションに装備されている防災グッズなどを見ることができるので、ぜひ、防災についての意識を高めてほしい。
一般の人も見学できる「長谷工マンションミュージアム」
これまでも、新築分譲マンションのモデルルームなどで、基本性能の説明や模型などによる展示を見てきたが、これだけの規模でまとまっているものは見たことがない。時代とともに変わっていく集合住宅の文化やマンションの歴史、建物の長寿命化や耐震性の強化など、見ごたえたっぷりで、さすがミュージアムというだけのことはある。マンションにおける「安全・安心・快適な住まい」をつくるための技術がどんどん進化していることが再認識できた。
「昔は、マンションよりも一戸建てが選ばれる時代もありましたが、今はマンションの設備・仕様も大きく進化してします」(江口さん)というように、長年にわたって培ってきたマンションづくりの技術力や商品開発力は、今後もさらに進化していくことだろう。
この施設は一般の人も見学することができるので、マンションに興味がある人や購入を検討している人は、ぜひ見学してほしい。時代背景や技術の進化も踏まえたストーリー仕立てになっているので、マンションの知識が少ない人でも楽しく学ぶことができる。
見学は事前予約制で、1日5回(各回定員4名)、90分間自由に見て回ることができる。
「営業されずに、じっくりとマンションのことを知ることができるということで、見学に来られる人が多い」(江口さん)そうである。
現在、新しいテクノロジーを活用した案内や、バーチャルツアーなどが計画されているとのことなので、今後がとても楽しみである。筆者も、今度はプライベートで来て、じっくり見学したいと思った。
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