深田恭子と松山ケンイチが演じる妊活夫妻、眞島秀和はゲイの建築家

「妊活」や「LGBT」を真摯に取り上げた連続ドラマとして話題になった『隣の家族は青く見える』。2つの強いテーマに隠れる形にはなったが、このドラマは「集合住宅の本質」=「集まって暮らすことの意味」についても、いつの間にか深く考えさせるドラマである。

建築や住宅、それを設計する建築家は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋(BUNGA NET/編集長)が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづる。

『隣の家族は青く見える』は、2018年にフジテレビ系「木曜劇場」(午後10時)枠で放送された全10回の連続ドラマだ。 知らなかったが、このドラマは厚生労働省とのタイアップドラマであったという。とはいえ、午後10時台のフジテレビのドラマなので、教科書的な説教臭さはない。全編を通じて明るく前向きで、それでいて、冒頭で書いたように「いつの間にか深く考えさせる」ところがよくできている。

主役は、深田恭子と松山ケンイチが演じる若夫婦。舞台は、全4戸から成る「上用賀コーポラティブハウス」だ。第1話の序盤、物語のキーメンバーとなる4世帯が顔をそろえるのは、コーポラティブハウスの設計段階での「総会」だ。

住宅模型を囲む4組。まずは、子どもが大好きな主役の2人、スキューバダイビングのインストラクターである五十嵐奈々(深田恭子)とおもちゃメーカーに勤務する大器(松山ケンイチ)。小さなアパートで暮らしながら資金を貯め、コーポラティブハウスの建設に申し込んだ。2組目は、結婚を控えたバツイチのスタイリスト・川村亮司(平山浩行)とネイリストの杉崎ちひろ(高橋メアリージュン)。3組目は、2人の娘を持つ元・商社マンの小宮山真一郎(野間口徹)と小宮山深雪(真飛聖)。4組目は、このコーポラティブハウスの設計を担当している建築家の広瀬渉(眞島秀和)だ。広瀬は、カミングアウトはしていないが、ゲイという設定だ。

「子どもはつくった方がいい」と言い切る子持ちママがトラブルの火種

4戸で共有する中庭をどんなデザインにするか、という議論の場で、早くもそれぞれの“家族観の違い”が明白になる。このシーンは、舞台となるコーポラティブハウスの空間構成の説明にもなっている。議論を進行するのは、建築家の広瀬だ。

「真ん中の共有スペースは、外部から遮断されたつくりになっていて、各戸からは自由に行き来することができます」。広瀬はそう言って、過去には共有スペースに、プールや屋根付きのベンチをつくった例があることを紹介する。すると、2人の子持ちの小宮山深雪がグイグイと自論を展開。「うちは小さい子が2人いるので、子どもたちが安全に遊べる場所があるといいわ。バーべーキューができたら理想なんですけど。皆さんも、いずれお子さん、つくられるでしょうし。子どもは絶対につくった方がいいわよ」。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

他人の状況を全く考えない深雪の発言に、奈々(深田恭子)は、「いろいろな価値観があると思いますけれど、私は子どもがほしいと思っています」と小声で答える。一方、子どもをつくらないという条件で結婚を決め、この家に申し込んだ亮司とちひろは、「共有スペースはお子さんがいる方優先でつくっていただいてかまいません」「私たちは今日これから仕事がありますので、あとはお任せします」と居づらそうに帰ってしまう。

それから1年ほどたって、上用賀コーポラティブハウス(愛称:PUZZEAL)は完成し、実際の生活が始まる。完成までの間に、建築家の広瀬は若い恋人の青木朔(さく、北村匠海)と出会い、朔のことを「甥」と偽って同居する。奈々は不妊治療を始める。

子持ちの深雪は、4世帯の親睦のために中庭でバーベキューパーティーをしようと言い出す。パーティーの場で、深雪の無神経な発言にちひろの怒りがついに爆発。パーティーは険悪な雰囲気でお開きになる。そして、広瀬は朔が恋人であることが周囲にばれそうになり、奈々は不妊治療を始めたことで大器との関係がぎくしゃくし始め、この先一体どうなる……という話である。

コーポラティブハウスのメリットとデメリット

ここまで読んで、「そもそもコーポラティブハウスって何?」という人もいることだろう。ざっくり言うと、「みんなで土地を買って、話し合いながらつくる所有型の集合住宅」である。

一般的にはこんなメリット・デメリットがあるといわれる。

<メリット>
(1)費用を抑えて家を手に入れることができる(巨額な販促費が上乗せされない)
(2)建物の自由設計ができる
(3)同じ建物の住人とコミュニティーをつくりやすい

<デメリット>
(1)入居できるまでに時間と手間がかかる
(2)個性の強い住戸は将来売却しにくいことがある
(3)コミュニティーや人間関係がストレスになる人もいる

メリット・デメリットの(1)~(3)は、それぞれ表・裏の関係だ。このドラマは、(3)の「コミュニティー」の表・裏を強調してドラマ化しているわけだ。なぜコーポラティブハウスでコミュニティーが濃くなるかというと、1つには着工までの話し合いの中で、互いのプロフィルがある程度分かってしまうから。そして、合意を得ながら設計を進めるので、一般的な分譲マンションよりも交流型の住戸デザインにしやすいからだ。

ドラマの舞台となる上用賀コーポラティブハウスは、「そこまでしなくても」と思うくらい、世帯間交流を促す設計となっている。まず、各戸に入るのに中庭を通らないと入れない。そして、各戸の窓から中庭の様子がよく見える。これは、人間関係が良ければ最高に楽しそうだが、険悪になったら大変だ。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

脚本家の中谷まゆみはゲイの友人と同居していた

この物語、考えてみると舞台がコーポラティブハウスである必然性はない。分譲マンションであっても賃貸マンションであっても物語は成立したと思う。それをコーポラティブハウスにしたのは、制作側が前述のようなメリット・デメリットを耳にしていたからだろう。

このドラマは、脚本家の中谷まゆみによるオリジナル脚本だ。中谷は1968年生まれ。鴻上尚史主宰の劇団・第三舞台の演出助手を経て、93年に脚本家デビューした。私はこの人が脚本を書いた『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ)が、地味ながらすごく好きである(出版社を描いたドラマでは3本の指に入ると思う)。

中谷氏のインタビュー記事(妊活、LGBT に真摯に向き合った『隣の家族は青く見える』最終回秘話を脚本家・中谷まゆみが明かす)に、このドラマに関連するこんなエピソードが載っていた。

「大学時代に知り合ったゲイの友達と、卒業後、一緒に暮らしていました。今で言うシェアハウスです。彼のおかげで、ゲイの友達がたくさんできました。男の服を着て、男言葉を話すので、カミングアウトしない限り、ゲイとはわかりませんが、好きになる相手は同性で、片思いに悩んだり、カップルとして付き合ったりしてました。彼らは当たり前に存在していたのに、世間ではほとんどその存在を知られていなかった。ゲイと言うと、女装していたり、女言葉でちょっと面白いことを言う人のことだけを指すものだと多くの人が思っていた」。

「昔から日常にしか興味がないんです。小さい頃から映画やドラマが好きでしたが、事件モノや非日常を扱ったモノには興味がなく、家族モノや恋愛モノにしか興味がなかった」。

「多様化」「ダイバーシティ」とメディア上では大上段にくくられているものを、窓越しの中庭に見る日常を通して浮き上がらせる。そんな脚本であり、そのために最もふさわしい場がコーポラティブハウスだったのであろう。

最初の2~3話を見ると、コーポラティブハウスに住みたい人が減るのではないかと心配になるが、全10話を見終わると「コーポラティブハウスっていいかも」と思うので安心してほしい。

「なぜ集まって暮らすのか」の本質を示唆するゲイ建築家のセリフ

建築的な観点で「なるほど」と強く思ったのは、建築家の広瀬と恋人の朔のこんなやりとりだ(第4話)。自分たちがゲイカップルであることが隣人たちにばれそうになり、イラ立つ広瀬に朔が言う。

朔:「じゃあ、なんでこんな家に暮らしているの? 誰にも知られたくないなら、山にこもってひっそり暮らせばいいじゃん。なんでわざわざ近所付き合いしなくちゃいけない家を買ったんだよ」。

広瀬:「そんなことをしたら、本当に自分だけの世界に閉じこもってしまうような気がしてさ。世間にばれたくないからこそ、世間とつながっていたいと思った。矛盾しているけれど、それがオレなりのバランスの取り方だったんだよ」。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

広瀬の答えは、「なぜ今、コーポラティブハウスなのか」をこえて、「なぜ今、集まって暮らすのか」の本質を示唆する深いセリフだ。こんな答えはたぶん大学では教えてくれない。脚本家ってすごいなあ、と改めて思ったのであった。

■■隣の家族は青く見える
2018年1月18日から3月22日までフジテレビ系「木曜劇場」(22:00 - 22:54)で放送。全10回
脚本:中谷まゆみ
プロデューサー 中野利幸
キャスト:深田恭子、松山ケンイチ、眞島秀和 北村匠海、平山浩行、高橋メアリージュン、野間口徹、真飛聖、
製作:フジテレビ

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