求められるマンション管理水準の底上げ
2021年9月28日に、マンションの管理の適正化の推進に関する法律の改正に伴って国土交通省より「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」(以下、「マンション管理適正化指針」)が公表された。
中古マンションの購入を検討している人や、現在マンションを所有している人は内容を把握しておいたほうがいいだろう。マンション管理適正化指針公表の背景や、概要、中古マンションに与える影響について解説する。
マンション管理適正化指針公表の背景
マンション管理適正化指針が公表された背景には、国内では今後、老朽化や管理組合の担い手不足が顕著となる高経年マンションが急増することが見込まれている点がある。
国土交通省 マンション管理適正化法の改正概要
https://www.mlit.go.jp/common/001356471.pdf
によると、2018年末時点における全国のマンションのストック数は約655万戸となっており、1,500万人超がマンションに暮らしているとされる。
2018年末時点で築40年超のマンションは81万戸となっており、10年後には約198万戸、20年後には約367万戸となることが予想されている。一方で、2019年4月時点で建て替えが行われたマンションは累計で244件(約19,200戸)となっており、約655万戸に対してはわずか約0.3%に留まっている。
老朽化したマンションには、区分所有者も高齢者が多くなるという特徴がある。マンション内における60歳以上のみの世帯の割合は、1991年以降に新築された物件では17%に留まるが、1970年以前に新築された物件では52%と半数以上にもなっている。マンションの建て替えがほとんど行われていない理由としては、建て替え決議を取ることが容易ではない点が挙げられる。
マンションを建て替えるには、区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成決議が必要と建物の区分所有等に関する法律に定められている。議決権とは各区分所有者の共有部分の持分割合のことを指す。建て替えには区分所有者も資金負担が必要となることも多く、高齢世帯の多いマンションでは区分所有者の資金負担がネックとなる傾向があることから、建て替え決議に至らないことがよくある。
マンションの建て替えは現実的には難しく、このままいくと建て替えられずに老朽化していくマンションが増えていくことが見込まれている。老朽化したマンションで住民も高齢化していけば、管理組合の担い手不足によって適切な維持管理が行われない物件も増えていくことも懸念される。
国土交通省としては「老朽化を抑制し、周辺への危害等を防止するための維持管理の適正化」や「老朽化が進み維持修繕等が困難なマンションの再生に向けた取組の強化」を喫緊の課題と捉えており、マンション管理適正化指針を公表するに至ったということになる。
マンション管理適正化指針の目的
マンション管理適正化指針の目的は、自治体が管理不十分なマンションに対して、助言や指導、勧告を行うことができる体制を整えることにある。似たような例になるが、一戸建ての空き家に関しては、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律ができたことで、自治体が管理の不十分な危険な空き家の所有者に対して助言や指導、勧告等を行うことができる体制が整った。
マンションに関しても、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」によって、今後は自治体が管理不十分なマンションに対して積極的に関与していくことが期待されている。例えば、従来は外壁の剥落等により周辺に危害を生ずる恐れがあるようなマンションであっても自治体が助言や指導を行う根拠がなかったが、今後は自治体が問題解決に関与できるようになる。
また、マンション管理適正化指針では、建て替えに向けた区分所有者等の合意形成の促進を図ることも定められており、最終的には取り壊しや建て替えも円滑にできるようにすることも目的とされている。
マンション管理適正化指針の概要
今回の国が策定したマンション管理適正化指針は、マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針になる。概要としては、「管理組合や、国、自治体、マンション管理士等の役割」や、自治体が行う「助言・指導・勧告を行う判断基準の目安」が示されいる。
マンション管理適正化指針は国の示す大きな方向性であり、今後は自治体が国の目標を参考にしつつ、区域内のマンションの状況を把握し、実情に応じた適切な目標を設定することになっている。また、自治体は任意で「管理の適正化の推進を図るための施策に関する事項等を定める計画」(以下、「マンション管理適正化推進計画」)を作成していくものとされている。マンション管理適正化推進計画の作成は任意であることから、恐らくマンションがほとんど建っていない自治体では作成されず、マンションが多い都市部の自治体で独自に作成されていくものと予想される。
マンション管理適正化推進計画が作成されない自治体では、今回の国が公表したマンション管理適正化指針に基づき、個別のマンションに対して自治体が助言や指導を行うことになる。一方で、マンション管理適正化推進計画が作成された自治体では、今回の国が公表したマンション管理適正化指針に加え、自治体独自の助言や指導の指針も加わる予定である。
また、マンション管理適正化推進計画が作成された自治体には、「管理計画認定制度」が設けられることになっている。管理計画認定制度とは、一定の基準を満たす管理が行われているマンションを自治体が認定する制度のことであり、2022年4月1日よりスタートする予定である。
マンション管理計画の認定基準
マンション管理適正化推進計画が作成される自治体では、「管理計画認定制度」を設けることになるが、マンション管理適正化指針では「管理計画認定制度の認定基準」も公表している。
認定基準は「管理組合の運営」や「管理規約」、「長期修繕計画の作成及び見直し等」といった項目で具体的な基準が定めれられている。
主な認定基準としては、「長期修繕計画の計画期間が一定期間以上あること」や「長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定されていること」、「総会を定期的に開催していること」等がある。
管理計画の認定を受けるには、マンションの管理組合が自ら自治体に対して管理計画を提出し、認定を受けることになる。また、認定された管理計画は、5年毎に更新が必要となっている。
中古マンション市場に与える影響
管理計画の認定を受けたマンションが増えれば、確かに中古マンションの購入検討がしやすくなることは期待できる。 中古マンションの購入者は「適切な管理が行われているかを知りたい」というニーズがある。
今までは適切な管理がなされていることを客観的に証明できる方法がなかったことから、外部からは管理の状況が把握しにくい状況にあった。しかしながら、今後は公的な認定制度ができることで、購入検討者は管理の良否を簡単に把握できるようになる。
ただし、残念ながらマンション側には管理計画の認定を受ける義務はない。マンションの管理の適正化の推進に関する法律の第5条3には、管理計画の認定について以下のように定められており、認定の取得はあくまでも「努力義務」となっている。
(管理計画の認定)
管理組合の管理者等は、国土交通省令で定めるところにより、当該管理組合によるマンションの管理に関する計画を作成し、マンション管理適正化推進計画を作成した都道府県等の長の認定を申請することができる。
管理計画の認定は義務ではないことから、認定申請を行うマンションがすぐに急激に増えるとは考えにくい。
管理計画が認定されたマンションが増えるには、まずは管理計画の認定制度の認知度向上が必要となってくる。
売主にも買主にも管理計画認定の重要性が認識されていけば、認定を取得するマンションが増え、管理の良否が簡単にわかるマンション市場へと変化していくものと思われる。
管理計画認定の制度は今すぐにマンション市場に影響を与えるものではないが、将来的には中古マンションを購入する上で有益な判断材料になっていくだろう。
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