人口900人の村への移住の状況は?

根羽村の風景根羽村の風景

長野県西南部、岐阜県と愛知県の県境に位置する根羽村(ねばむら)。前回の「根羽村の持続可能な森づくり・まちづくり。林業を軸に未来への挑戦」では、密接に関わる森づくりと村づくりについてご紹介した。今回は、移住施策を中心に村で暮らすことについてお伝えしたい。

前回の記事でお話しを聞いた大久保憲一村長は「森やまちづくりの取組みをしてきて、やっぱり人づくり、人が大事だよねとなりました。それから木育や小・中学校の教育制度などを具体的に取り組むようになりました。最終的には、ここに住む人たちがどう変っていくか。住んでいる人たちが変わることは難しいことではあるけれども、それが一番大事だと思うんです」と語った。

2020年度、根羽村の移住者はトライアルを含めて19世帯46人だったという。これは村として平成以降初となる社会増に。その移住者増の背景をうかがった。

お話ししてくださったのは、根羽村役場で移住政策の担当をする石原幸伸さんと移住コーディネーターの杉山泰彦さん。

住んでいてよかったと思える村をPR

杉山さんは、古民家改修プロジェクトで誕生した一棟貸しの宿「まつや邸」のホストも務める。「村のど真ん中にあることから、“村暮らし”を体感できる拠点として村外から来る人たちに提供したいと思っています。観光だけでなく、中期滞在や、会社の研修などでも使えればと考えており、滞在を通じて村の中にある“足るを知る”の素晴らしさに気づいたり、感じられるきっかけになるとうれしいです」と語る https://nebamatsuya.localinfo.jp/ (写真提供:まつや邸)杉山さんは、古民家改修プロジェクトで誕生した一棟貸しの宿「まつや邸」のホストも務める。「村のど真ん中にあることから、“村暮らし”を体感できる拠点として村外から来る人たちに提供したいと思っています。観光だけでなく、中期滞在や、会社の研修などでも使えればと考えており、滞在を通じて村の中にある“足るを知る”の素晴らしさに気づいたり、感じられるきっかけになるとうれしいです」と語る https://nebamatsuya.localinfo.jp/ (写真提供:まつや邸)

まずは杉山さんの経歴について触れておきたい。杉山さんは奥さまと東京から根羽村に移住して3年目。現在も所属する、東京にある会社で地域創生のプロジェクトに携わり、そのなかで5年前に根羽村の古民家を改修する担当になった。2年ほど村に通いながら、村のプロモーションなどの手伝いもしていた。そんなとき、もともと持っていた移住への気持ちが高まり、仕事でいくつもの地域に出かけていたなかでも「根羽村の人々とともに、一緒に生きてみたい」と決意。会社を辞めることも考えたときに、国の地域おこし企業人(現・地域活性化起業人)の制度を使って活動できたら、村のためにも、自分のためにも、そして所属する会社としても地域に深く入っての実績ができて、全関係者にとってWin-Winのつながりになるのではと、村役場と会社の社長に直談判して承諾を得た。

その後、村からPRの仕事を任された杉山さん。しかし、観光立村でもなく、一度にたくさんの移住者を受け入れられる土壌がまだ整っていなかった。何をPRすべきかを考え、まずは村民がここに住んでいてよかった、誇りに思えている状態をつくることで、外から評価を得られるのではと、村づくりを実行する組織、一般社団法人ねばのもりを立ち上げた。それらの活動のつながりで移住相談も受けていたことから、2021年度から正式に移住コーディネーターの肩書も加わった。

義務教育学校をはじめ、子育て環境への期待が高い

YouTubeの根羽村公式チャンネルYouTubeの根羽村公式チャンネル

移住希望者は30代の子育て世代が最も多いそうだ。それには2020年4月に開校した「根羽村立義務教育学校根羽学園」の存在がある。小学校から中学校までの義務教育課程を一貫して行う義務教育学校は、9年間を通した教育カリキュラムの作成や指導などのメリットが期待されている。

人口減のなかで少子化の問題も抱える根羽村では、将来を担う子どもたちの教育に力を入れる。

また、矢作川の流域連携で関係の深い愛知県安城市からは親子での山村留学の受け入れも行っており、自然に囲まれた環境での子育てが好評だ。

杉山さんのもとに集まる移住相談でも、子育て世代からが8割にのぼる。「子育てしやすそうな村というのは、意図的にイメージをつくりだしたところがあります。僕自身、子どもが根羽村で生まれ、地域の方たちが子どもをとても大切にしていることを感じました。自分の子どものように面倒を見てくれる、古きよき日本がまだまだ根付いています。その面はもっとアピールしてもいいなと思ったし、もっと注目を高められるなと感じたので、村のインスタグラムで発信したり、動画を配信したりしました。最近ではシングルマザーの方からの問合せも増えています」(杉山さん)

移住施策の課題は、住宅と職

「移住の受け入れ側としての課題は、まず住宅問題です。移住が増えたこともあり、今は村営住宅が埋まっている状態で」と石原さん。ただ、村内に個人所有の空き家が140軒ある。2015(平成27)年に当時の空き家120軒の所有者に意識調査をしたところ、4割から回答を得て、貸してもいいという人が5割ほどいたという。その頃はまだ移住希望者がいなかったためすぐに貸し出しとはならなかったが、現在、所有者にあらためて相談を始めているそうだ。

職についても小さな村ということもあり、タイミングよく紹介できることはそれほど多くないという。そんななかで、杉山さんのもとにくる移住相談の2割が、面積の9割が山という村の環境を生かして何かしたいと、事業でのチャレンジを考えている人とのこと。そこに可能性もあるはずだ。

また、杉山さんからは移住希望の対象世代について、難しさがあるとの話も。杉山さんが考えるメインターゲット層は30~40代で、移住を相談してくる人たちの多くと同じ。だが、50~60代の場合、「根羽村に今、その方たちを受け入れる余裕がない」という。高齢化が5割を超えている村だけに、医療や福祉といった面は大切なところで、サービスの不足が起きてしまうことはできるだけ避けたいことだからだ。まったく受け入れをしていないというわけではないが、そのあたりは確かに移住希望者側で考えなければいけないことのように思う。

豊かな自然に魅力がある一方で、移住者の住宅などに課題が(写真提供:根羽村)豊かな自然に魅力がある一方で、移住者の住宅などに課題が(写真提供:根羽村)

村民の交流拠点が2021年7月に誕生

職というと、新型コロナウイルスの影響もあって、会社に行かなくても仕事ができるリモートワーク、テレワークが注目された。根羽村でもそこに着眼した施設「くりや」が2021年7月にオープンした。

もともとのきっかけは、2019年の年末に国の事業制度を使って村民にヒアリングするワークショップを開催し、そこで子育て世代の母親たちから、さまざまな不便に思うことが挙げられたこと。例えば、「子どもを連れてふらっと立ち寄れる場所がない」「コインランドリーが近くにないので雨の日に洗濯が困る」「もう少しお小遣い稼ぎがしたいけれど仕事の選択肢がない」「子どもを連れて仕事できる環境があったらうれしい」といったことなど。それを実現した施設となる。

インターネットの通信環境を整え、「ほかの地域からワーケーションで来てもらうだけではなく、都会からリモートで仕事を受けて、村内の方がここでリモートワークできる拠点になれば」と石原さん。

民家を改装した村民の交流拠点「くりや」。オープンから約1ヶ月後の2021年8月に、喫茶店のようにモーニングを実施すると3日間で延べ120人ほどが訪れたそうだ。「まだみんなの生活様式に根付くほど浸透していないので、引き続きこちらからいろいろ仕掛けて、足を運んでもらう機会を増やしていきたい」と杉山さん民家を改装した村民の交流拠点「くりや」。オープンから約1ヶ月後の2021年8月に、喫茶店のようにモーニングを実施すると3日間で延べ120人ほどが訪れたそうだ。「まだみんなの生活様式に根付くほど浸透していないので、引き続きこちらからいろいろ仕掛けて、足を運んでもらう機会を増やしていきたい」と杉山さん
民家を改装した村民の交流拠点「くりや」。オープンから約1ヶ月後の2021年8月に、喫茶店のようにモーニングを実施すると3日間で延べ120人ほどが訪れたそうだ。「まだみんなの生活様式に根付くほど浸透していないので、引き続きこちらからいろいろ仕掛けて、足を運んでもらう機会を増やしていきたい」と杉山さん「くりや」のなかにあるガス式乾燥機

また、これまでなかった若い世代と高齢者の交流の場としての活用も目指す。この施設の運営も任されている杉山さんは「例えば、コインランドリーは今まで40分ほど車で行かなければならなかったけれど、ここを利用すれば、その間に誰かと話す機会が生まれます。昔は飲食店や床屋さんがコミュニティーの場でしたが、今は閉店してしまったことで、つながりがどんどん希薄化しているところがあると思うんです。小さい村なのでつながりが発生していくような土壌と、環境をつくることが大事だと思います」と話す。

そして、この「くりや」は、“ちょっと”がキーワード。「ちょっとお茶でもしたい」「ちょっと子どもと遊びたい」「ちょっと洗濯物を乾かしたい」、それからシェアキッチンや、趣味で作ったものは販売棚を利用して「ちょっとお店をやってみたい」もできる。子育て支援センターや社会福祉協議会などとの連携でイベントも行う。

村民同士の交流とチャレンジできる場、また移住・定住に効果を生む環境として、村の活性化が望まれる。

民家を改装した村民の交流拠点「くりや」。オープンから約1ヶ月後の2021年8月に、喫茶店のようにモーニングを実施すると3日間で延べ120人ほどが訪れたそうだ。「まだみんなの生活様式に根付くほど浸透していないので、引き続きこちらからいろいろ仕掛けて、足を運んでもらう機会を増やしていきたい」と杉山さん仕事のときに子どもを遊ばせたりできるスペースの近くには、幼児向けトイレも完備
民家を改装した村民の交流拠点「くりや」。オープンから約1ヶ月後の2021年8月に、喫茶店のようにモーニングを実施すると3日間で延べ120人ほどが訪れたそうだ。「まだみんなの生活様式に根付くほど浸透していないので、引き続きこちらからいろいろ仕掛けて、足を運んでもらう機会を増やしていきたい」と杉山さん杉山さん(左奥)と「くりや」の運営スタッフの方々。杉山さんはさまざまな業務を行う。例えばここでヨガなどを楽しんだ人が他地域で話したりして村の魅力を広めることになれば、その人も結果的には移住コーディネーターのようになる。村での暮らしを楽しいものにすることも、すべてつながりがあると考えているそう

持続可能な村づくりのために

「暮らしにくさをどう乗り越えていくかと工夫するところに面白さを感じる」というのが、杉山さんが根羽村を移住先に決めた理由。コンビニには車で30分、大型スーパーには40分かかるという場所で、「人としての生きる力」が必要と。

その不便さは移住希望者に相談を受けるときにもしっかりと伝える。「移住したら幸せになれるわけではないので、そのシビアさは大事かなと思っていて」と話すが、ネガティブな面を前に出すことが一方で「結果的に差別化になるかなと思いますね」とも。

そこには「人口を増やすことがゴールではなくて、この地域に根付いている文化がしっかりと継続したり、発展したりしていくために必要な人材が村にいることが大事」と、移住コーディネーターとしての信念を明かした。

石原さんも「村長が言うように持続可能な村づくりを目指すには、子どもたちが帰ってきたいと思うことを、いろいろ考えていかなければいけないと思っています」と語る。そこには、根羽村には高校がなく、ほとんどが15歳で村外に出てしまう状況が関係する。

移住者が増えたことで、村に活気が出始めているのも確か。公民館に集うメンバーが盆踊りの企画で盛り上げたり、昨年コロナ禍で盆踊りができなかったときは根羽村のニュースを書いた新聞を作ったり、ケーブルテレビで高齢者の昔話を聞く番組を作ったり。そういった根羽村の楽しさ、いいところをあらためて知る取組みで若い世代も高齢世代も意識が変わってきてもいるという。高齢者に向けてもタブレットを活用したデジタル施策も進め、コロナ禍でも村外の孫と話せたといった喜びの声もあがった。

「僕個人としての移住施策の思いとしては、楽しそうな、よい雰囲気がどれだけ充満しているかがまず大事だなと思っていて」とは杉山さんの言葉だが、それは村づくりと結びついて、住みよい根羽村になっていくだろうと感じた。

取材協力:根羽村役場 http://nebamura.jp/
     一般社団法人 ねばのもり http://neba.green/

公開日: