五輪延期とともに1年待ちの展覧会
隈研吾氏(右)と企画担当者の保坂健二朗氏。保坂氏は2021年1月から滋賀県立美術館のディレクター(館長)を務めているが、東京国立近代美術館在籍時に、主任研究員としてこの展覧会の企画の中心になった(©Kioku Keizo)東京・竹橋の東京国立近代美術館で6月18日から「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」が始まった。どうやら東京五輪は開催されそうなので、「国立競技場」の設計者の1人である隈氏への注目はますます高まりそうだ。
本来であれば、1年前の2020年7月~10月に開催される予定だったが、コロナ禍で延期。先に高知県立美術館(2020年11月3日~2021年1月3日)、長崎県美術館(1月22日~3月28日)を巡回して、締めの東京展という形になった。東京展の会期は約3ケ月で、9月26日まで。
それにしても、タイトルにある「ネコの5原則」って何? いくらネコが人気だといっても、建築展をネコに結び付けるのはあざと過ぎない?……と、さほどネコ好きではない筆者は思っていた。だが、最後まで見ると、「なるほど!」であった。
同展は、東京国立近代美術館1階全体を使って行われ、有料ゾーン(第1会場)と無料ゾーン(第2会場)に分かれている。
公共性の高い約70件を5つに分類
まずは、有料の第1会場へ。ここでは、隈氏自身が選んだ公共性が高い建築約70件を、時系列ではなく、「孔(あな)」「粒子」「やわらかい」「斜め」「時間」という「5原則」に分類して紹介する。
導入部は「孔」。
解説文も隈氏自身が執筆
次は「斜め」。その後に、映像作家・瀧本幹也氏の映像インスタレーション「梼原の隈建築」が挟まり、有料ゾーンの最後は「時間」。
……と、有料ゾーンでは、隈氏がこの20年ほどに国内外で手掛けたプロジェクトが網羅的に紹介されている。大きな模型や動画映像をふんだんに使った展示は分かりやすく、建築展を見慣れていない人にもきっと楽しい。
本展では、展示の解説文を隈氏本人が書いていることも特筆すべき点だ。普通、この手の個展では主役の作家は最初の挨拶文を書くくらいで、個々の解説文はキュレーターや研究者が書くものだ。それをすべて本人が書いている。模型や映像を見るだけでも楽しいけれど、時間があればこの解説文をちゃんと読んでみてほしい。やや難しい内容かもしれないが、隈氏の着眼点や意味付けのうまさは、建築分野でない人にも大いに参考になるだろう。
なぜ「ネコの5原則」なのか
でも、その解説文を読んでも、「ネコ」はときおり出てくる程度。やっぱり「ネコ好き」を狙ったしたたかな戦略か、と思いながら第1会場を出た。だが、隈氏の本領発揮はむしろ無料ゾーンの第2会場だった。
第2会場の最終ゾーンは「東京計画2020 ネコちゃん建築の5656原則」。「5656」は「ゴロゴロ」だ。これがすごかった。
「東京計画」と聞いて、建築関係者であれば思い浮かべるのは、故・丹下健三(1913~2005年)の「東京計画1960」。東京湾に海上都市を建設して陸上の都市と結ぶ壮大な構想だ。それを知っている人は、東京計画と聞くと反射的に巨大な都市模型を想像する。しかし、ここには模型はない。あるのは、ネコの視点から見た複数の映像展示だ。
これは「ネコの視点」から都市を見直すリサーチプロジェクトだ。「今の時代、都市について何かを提案するとしたら、高度経済成長期のように都市を上から見るのではなくて下から見るべきだ」。そう考えた隈氏が着目したのが、「ネコの視点」だった。デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」との協働により、東京・神楽坂でネコにGPSを付けて行動調査を行い、そのリサーチの成果を3DCGやプロジェクションマッピングを用いて展示した。
というと難しそうな感じに聞こえるかもしれないが、単純に、見ていて楽しい。ネコたちがツルツルの現代建築よりも、隈氏がつくるザラザラした建築(本展でいう「孔」や「粒子」)が好きだ、ということを動画でアピールしているのである。ネコが心地いいならば人間も心地いいはず、と思わされてしまう。最後のこの展示を見ると、「ネコは視点転換の象徴なのだ」とすべてが腑に落ちる仕掛けだ。さすが隈氏。
一般の人に建築の面白さを伝えること
ところで、展覧会を見るだけでは飽き足らず、「実物を見たい」と思った方は、本サイトの下記の記事を参考にしてほしい。
隈研吾って何がすごいの? 聖地・高知県梼原(ゆすはら)町で「パラパラ感」を体験【隈研吾ツアー3本勝負①】
那須巡りで知る隈研吾・再ブレイクの理由【隈研吾ツアー3本勝負②】
3年で隈建築が6件!「新聖地」へと急上昇中の茨城県境町を巡る【隈研吾ツアー3本勝負③】
さらに、「隈建築をもっと深く知りたい」と思った方は、拙著『隈研吾建築図鑑』もポチっていただきたい。専門家だけでなく一般の人に建築・都市の面白さを伝える──。そのスタンスは、今回の隈研吾展と通じるものであると確信している。
『隈研吾建築図鑑』
価格:2,640円(税込)
ISBN:978-4-296-10885-5
発行日:2021年5月11日
著者名:宮沢 洋(画・文)
発行元:日経BP
ページ数:208ページ
判型:A5
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4296108859/
日経の本:https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/21/282010/
『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』開催概要
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:2021年6月18日(金)~9月26日(日)
休館日:月曜日[ただし7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館]、8月10日(火)、9月21日(火)
開場時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-21:00)(入館は閉館30分前まで)
観覧料:一般1,300円、大学生800円、高校生以下および18歳未満は無料
チケット:会場では当日券も販売。ただし、会場の混雑状況によって入場制限あり。オンラインでの事前のご予約・ご購入がお勧め。
美術館へのアクセス:東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩約3分
〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
公式サイト:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kumakengo/















