阪急電鉄の主要三路線が交差し、アーケード商店街、酒場横丁だけでなく、ミニシアター「第七藝術劇場」「シアター・セブン」も擁する、盛りだくさんな街、十三(じゅうそう)。
線路沿いを5分ほど歩いた立地に、映画をはじめとしたメディア関係者が多く立ち寄る「映画宣伝おばちゃん」のお店、「風まかせ 人まかせ」があります。
「かんこさん」の愛称で親しまれる店主の松井寛子さんは、大阪の映画シーンには欠かせない存在。そんな松井さんにお店のこと、これまでのお仕事のこと、そして十三の街のことについてお話をうかがいました。大阪府の物件を探す
※掲載情報は執筆時点のものです。営業時間などが変更になる場合があるため、お出かけ前に公式サイトなどで最新情報をご確認ください。
大阪の映画文化を宣伝から支える、松井寛子さんのお店「風まかせ 人まかせ」

—失礼ですけど、ここは何屋さんって言えばいいんでしょうか?
松井さん:「居酒屋ですね。お客さん来るのが早くて18時くらいやから、その時間に料理を出せるように準備しています。でも私が料理を作るんじゃなくて、色んな人が料理を作ってくれています。16時くらいからここで仕込みする人もいれば、家で作ってきたものをここで出してくれる人もいるし、手伝ってくれる人の働き方もいろいろです」
—例えば、どんな人がお料理を出しているんですか?
松井さん:「もともとお客さんとしてよく来てくれてた人たちです。気がついたらカウンターの向こうに立ってくれていました。日本で初めて哲学カフェをやった人とかミュージシャンとか、おもしろい人ばっかりです。だから料理もそれを作る人も日によって変わります。私は店主“役”。大家さんとの契約とかはやるけれども、お店は集まってくる人たちと一緒にやってるから」

—外からお店の中が見えないのもあって、初めてお店に入るのには勇気が要りそうですね。
松井さん:「初めての人がふらっとひとりでっていうのは少ないですね。よく来てくれる人の友だちとして連れて来られて、いつの間にかみんなの友だちになって、そのままずっと来てくれるみたいな感じかな。趣味の近い人同士で『古代史妄想の会』とか『お料理を食べる会』とか『放送法研究会』とか、いろんな会もここで時々やっています。だから一見さんはよっぽどじゃないと入ってこないと思うし、私はそれでいいと思っています。いつも来てくれる常連さんを大事にしたいし、実際そうしていたら常連さんたちが店のことをやっているというふうにできたお店やからです。はっきり言って、ええ加減なんです(笑)」
—もともと1998年から玉造で営業されていて、2014年に十三に移られたそうですが、ここに決めた理由はなんだったんですか?
松井さん:「それが特にないんです。この物件が駅に近かったっていうのが一番の理由ですね」
—第七藝術劇場(以下、七藝)の映画宣伝をよくされていらっしゃるので、そのこともあってかと思っていました。
松井さん:「それは全然関係ありません。最初に働いた会社が十三やったし不思議と縁があるのかもしれないですけど、十三じゃないとダメってことはまったくない。でも昔の十三は大阪のなかでも映画館が多い地域だったんですよ。十三東映があったり、今パチンコ屋になってるところも映画館やったし、いっぱいあったんですよね。70年代、80年代くらいから減ってきて、気がついたら今の七藝のところだけになっていました」
—「七藝」でかかる映画の宣伝をよくされていらっしゃるのは、どんな経緯からなんですか?
松井さん:「前身の『サンポード・アップルシアター』を『七藝』に改装して自分たちの劇場にしたのが製作配給会社のシネカノンというところだったんですけど、代表のリ・ボンウさんが私のこと知ってくれてはって。宣伝を手伝った映画『月はどっちに出ている』が『七藝』で大ヒットしたことからシネカノンの配給する作品の宣伝を担当することになりました。『七藝』の支配人になってくれるかって言われたけど嫌やったから『宣伝ならやります』って」

—今や良質なドキュメンタリーを見られる数少ない映画館のひとつですよね。
松井さん:「そうなんですけど、少し閉まっていた時期もありました。今のロードショー館としての位置づけは復活してからなんですよ」
—そんな時期があったんですね。なぜ閉まっていて、どのように復活したんですか?
松井さん:「閉まってたのはあまりうまくいっていなかったからみたいです。2004年くらいに河合雅雄さんが原作の映画『森の学校』を大阪で上映したいって話がありました。でも時期的な問題で劇場が見つからなかったんです。そこで七藝はどうなんやろうって思って。というのも、映画館は閉まっているのに映写技師さんがしょっちゅうメンテナンスをしていていつでも使える状態だったんです。それやったら復活させたらどうですかと。私はシネカノンのことも知っているし、十三は電車の便もええんやから『ロードショー館でやりましょう』って言ったんやけど、地域の人らはローカル劇場が欲しい。でもただの二番館にするのは嫌やったんで、少し対立みたいなのはありましたが、結果的にロードショー館として位置づけられました。いまの『七藝』になったのはたしか2007年やったかな」
—映画宣伝のお仕事って具体的には何をされるんでしょうか?
松井さん:「宣伝というのは要するに『見て!』って人にすすめることですね。私は関西の宣伝をやっているのですが、まず試写にチケットを多く売ってくれそうな人とか協力してくれそうな人を呼ぶんです。それで出発して、監督が来るタイミングになったら『何時から何時まではこの人に取材してもらって』って予定を組んだり」
—どこかお店で松井さんがやられていることと通ずるものを感じます。
松井さん:「近いです。めっちゃ近い。『風まかせ』では、次にやるイベントが好きそうな人に連絡して来てもらうとかね。来た人同士が友だちになって『次はこれを一緒にやろう』って企画が生まれることもあります。監督も試写で大阪に来ると寄らはって、打ち上げしてくれたり。マスコミの人もファンの人も集まっていろいろ話したりして。若松孝二監督もよく来てくれました」
—このお店にしても映画の宣伝にしても、松井さんのやられていることはすごく自然ですよね。
松井さん:「お店はいつの間にかこうなってしまっただけなんです。何年後にはこうなっていたいとかも一切ない。そのほうが楽ですから。その場その場でやりたいことをやってきた結果がこうなっているだけで、店名にあるように風まかせなんですね。十三も同じように肩ひじ張らない庶民の街というか。藤田まことが『十三の夜』で歌ったイメージもたしかにありますけど」

—では最後に改めて松井さんにとって十三はどんな場所なんでしょうか?
松井さん:「親しみやすいところです。私は昔から引越しが多かったこともあって、地域や土地に『好き』とか『愛』とかはないんです。まったくこだわりがないので、いま、たまたまお店をやっているところが十三ってだけなんですね」
—じゃあ、地域にこだわりや愛を持たない松井さんのような方でも楽しく暮らせる街っていう締めはいかがでしょう?
松井さん:「それええやん(笑)」
◆今回取材したお店
「風まかせ 人まかせ」
住所:大阪府大阪市淀川区十三本町2-3-20
営業時間:18時頃~23時頃
定休日:不定休

本文にもあるように、「風まかせ 人まかせ」のある十三駅には阪急電鉄の主要三路線(神戸線、宝塚線、京都線)が交差しています。大阪梅田駅にも1駅でアクセスでき、京都河原町や三宮など他府県の中心地にも乗り換えなしで行くことができます。この立地にもかかわらず、2LDKの平均家賃は10万円以下と驚きの賃料相場。
「第七藝術劇場」や「シアターセブン」で映画を観た帰りに「風まかせ 人まかせ」で映画談議に花を咲かせるなんて、カルチャー好きにとってはくせになりそうなコースです。もちろん周囲の飲食店にも活気があるので、ご飯やお酒が好きな人も楽しく暮らせそうですね。
◆本記事の担当者
取材・文:石川宝
大阪府の物件を探す更新日: / 公開日:2026.02.27










