苦節9年! 2016年、ようやく世界遺産登録される

実は、国立西洋美術館が世界遺産登録に動きはじめたのは2007年のこと。フランス政府から日本政府へ、世界遺産の共同推薦依頼があったそうです。

「2007年から登録活動をはじめて、2016年7月の世界遺産登録審査で3回目のチャレンジでした。前回までの審査は、コルビュジエの業績を証明しきれていないといった指摘があり登録に至りませんでした。構成資産や説明内容の見直しを行い、コルビュジエの建築的価値を日本の建築の歴史でどう位置づけるかなどを建築家と相談しながら資料に追加して、3回目の審査で登録されたという流れです」。
と国立西洋美術館総務課長の南川貴宣さん。世界遺産登録へ動きはじめてから、9年の月日が経っていました。

国立西洋美術館総務課長の南川貴宣さん
国立西洋美術館総務課長の南川貴宣さん

世界遺産登録の評価ポイントは?

世界遺産には「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」の3種類があり、国立西洋美術館は「文化遺産」として登録されました。では、美術館のどこが評価されたのでしょうか。

「ひとつは、ル・コルビュジエが提言した”近代建築の五原則”を具体的に表現していることです。五原則とは、ピロティ・屋上庭園・自由な平面・横長の窓・自由なファサードで、国立西洋美術館はこの要素に比較的則ってつくられていることが評価されました。もうひとつは、”無限成長美術館”という考え方を体現していることです。コルビュジエは、巻貝が中心から外に向かって広がっていくように、コレクションの増加に伴い、建物の外側に展示室を追加していくことができる“無限成長美術館”を構想していました。国立西洋美術館の建物は真四角で、中央に19世紀ホールがありますが、それを囲むように展示室があります。理論上は巻貝のように、外へ外へ空間が広げられるようになっています。実際には増築はしていないのですが、その考え方を体現している点が評価されました」。

本館の中央にある19世紀ホール。このホールを囲むように展示室があり、理論上は巻き貝のように、外へ外へ空間が広げられるようになっている
本館の中央にある19世紀ホール。このホールを囲むように展示室があり、理論上は巻き貝のように、外へ外へ空間が広げられるようになっている

ドラマチックな世界遺産登録日

2016年7月、トルコのイスタンブールで開催される世界遺産委員会で、国立西洋美術館の審査が行われる予定でした。しかし、会期中に勃発したクーデター未遂事件のため国立西洋美術館の審査直前で委員会は中止に。現地入りした関係者からは、「外で爆音がする」「危険なので窓に近寄らないようにしている」など生々しいメッセージが届いていたそうです。
日本にいる国立西洋美術館の職員は、ストリーミングされているオンデマンド放送を見て、翌日の審査が中止されることを知りました。このまま今年の審査は無くなるかもしれない…そう思っていた矢先、翌々日審議再開のニュースが入り、無事に世界遺産登録がされました。

「まさかこのタイミングで審査が中断されるような事件が起きるとは思っていませんでした。審議再開の情報は、当日の1時間くらい前に入ってきて、急いでパソコンをつけて、審議の様子を見守りました。本当にドラマチックな登録劇でした」。

とてもドラマチックだった世界遺産登録日
とてもドラマチックだった世界遺産登録日

生きている建物を、どう保存していくか

世界遺産登録されてから、どんな変化があったのでしょうか?
「特にツアーの団体のお客様が増えました。メディアに多く取り上げていただいたので、今まではあまり美術館に足を運んでいなかった方々にも興味を持ってご来館していただいていると感じます」。

企画展開催中だけでなく常設展を目指して来る人も多いそう。ただ、来場者が増えれば建物の傷みも早くなる。美術館として生きている建物を、どのように活用しながら保存していくのでしょうか。
「世界遺産であり重要文化財でもある美術館なので、この貴重な財産を後世に残していくため、適切な保存を図っていく必要があります。ただ、生きている美術館建築なので、美術館としての活用、機能向上も図りながら、適切な保存に努めていきたいと考えています。こうしたバランスに配慮した改修例としては、ル・コルビュジエの建築的な特徴を残しつつ、耐震対策を行った免震工事が挙げられます。2年をかけて1998年に完成したのですが、歴史的建造物等に採用される”免震レトロフィット”という工法で、日本では初めての工事でした」。

活用と保存の一歩は、地震から建物と作品を守ることからはじまっていました。今後も、繊細なメンテナンスが求められていくのでしょう。

世界遺産であり、重要文化財である建物を、どう生かしながら守っていくか…
世界遺産であり、重要文化財である建物を、どう生かしながら守っていくか…

共に勝ち取った「世界遺産登録」。上野の住人の積極的な協力があってこその結果

JR・地下鉄の複数路線が乗り入れ、日本を代表するターミナル駅として栄えている上野。駅周辺に商業施設が並び、それを囲むように住宅街が広がっています。何でも揃うため暮らす街として人気ですが、2016年からは「世界遺産のある街」になりました。

世界遺産登録の背景には、上野住人の積極的な協力があったそうです。
「2007年の活動開始から、街全体で世界遺産を誕生させようという動きがありました。登録推進委員会の会長はアメ横の商店主の方です。行政の方々にも多大な協力をいただきましたが、街の皆さんの協力無しでは登録は無かったと思います」。

街全体で世界遺産登録を願い、行政や美術館と一緒に世界遺産登録を成し遂げた上野。世界遺産が自分の街にあるなんて、貴重な住環境ですね。

国立西洋美術館外観。柱の上に乗る真四角な「箱」がル・コルビュジエらしい
国立西洋美術館外観。柱の上に乗る真四角な「箱」がル・コルビュジエらしい

上野暮らしで、創造性を養う

上野公園には、国立西洋美術館のほかに東京国立博物館・国立科学博物館・東京都美術館があります。これだけ多くの文化施設が集結している公園は世界的にも珍しく、広い敷地に点在する施設群で1日中、文化探索を楽しめる特別な環境があります。

今回は建築特集でしたが、もちろん美術館は美術作品を楽しむもの。国立西洋美術館は、国内でも稀有な西洋美術コレクションを持っています。上野に暮らしたら、日常的に文化に触れられる住環境が得られます。クリエイティビティを刺激して、創造性を養う環境はファミリーにもおすすめの街です。

国立西洋美術館本館の2階展示室
国立西洋美術館本館の2階展示室

■国立西洋美術館インフォメーション

【国立西洋美術館】
■住所 東京都台東区上野公園7番7号
■開館時間 午前9時30分~午後5時30分
毎週金曜日、土曜日:午前9時30分~午後8時(土曜日は、常設展のみ)
※入館は閉館の30分前まで
■休館日 毎週月曜日
※ただし、月曜日が祝日又は祝日の振替休日となる場合は開館し、翌日の火曜日が休館
※年末年始(12月28日~翌年1月1日)、その他、臨時に開館・休館あり。詳しくは公式HPをご確認ください。
■常設展観覧料 一般:430円 大学生:130円
※高校生以下及び18歳未満、65歳以上、心身に障害のある方及び付添者1名は無料
※世界遺産登録記念で、土曜日の17時以降は常設展が無料

あまり知られていませんが、国立西洋美術館・東京国立博物館・国立科学博物館の3館は、毎週金・土曜日に夜間開館をしています。20時まで(入館は19時30分まで)ゆっくり鑑賞できるので、上野暮らしが難しい方は、まずは訪れるところからはじめてみては? 日常的に美術館を訪れる方はもちろん、普段は美術に触れない方も、きっと豊かな1日になるはずです。

国立西洋美術館・東京国立博物館・国立科学博物館の3館は、毎週金・土曜日に夜間開館をしています。20時まで(入館は19時30分まで)ゆっくり鑑賞できる (C)国立西洋美術館
国立西洋美術館・東京国立博物館・国立科学博物館の3館は、毎週金・土曜日に夜間開館をしています。20時まで(入館は19時30分まで)ゆっくり鑑賞できる (C)国立西洋美術館

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