災害レッドゾーンの新築住宅は住宅ローン控除対象外へ

2026年度の税制改正大綱で、住宅ローン控除に立地要件を加える方針が示された。この改正により、2028年(令和10年)以降に入居する新築住宅は、災害リスクが高い特定の区域(=税制大綱上の災害レッドゾーン)に立地する場合、住宅ローン控除の対象外となる予定だ。

2026年度税制改正大綱における住宅ローン減税の概要 ※出典:国土交通省(2025年12月26日)「住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました!〜既存住宅、コンパクトな住宅への支援が拡充されます〜」2026年度税制改正大綱における住宅ローン減税の概要 ※出典:国土交通省(2025年12月26日)「住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました!〜既存住宅、コンパクトな住宅への支援が拡充されます〜」
2026年度税制改正大綱における住宅ローン減税の概要 ※出典:国土交通省(2025年12月26日)「住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました!〜既存住宅、コンパクトな住宅への支援が拡充されます〜」住宅ローン減税等の住宅取得等促進策に係る所要の措置(所得税等) ※出典:国土交通省(2025年12月26日)「住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました!〜既存住宅、コンパクトな住宅への支援が拡充されます〜」

現在、住宅取得の評価軸は、駅距離や学区、築年数といった物件属性だけでなく、金利・補助金・税制適用の可否までを同時に織り込んで判断する局面に入っている。とりわけ住宅ローン控除のように、適用の有無が家計の返済設計に直結する制度変更は、需要の分布そのもの(買える層の厚み)を動かし得る。ここで注意すべきなのは、災害レッドゾーンが"固定ではない"点である。基礎調査や地形・災害データの更新により、従来は指定外だった土地が後に指定されることがある。この新たな指定は、危険度が急に増したというより、危険性が制度上"見える化"されたものと整理できる。

しかし、危険性が可視化されると、購入者にとっての判断材料と金融条件が同時に変わり、結果として住宅取引の成立性に影響する可能性がある。なぜなら、税制の適用可否は購入者にとって可処分所得の見通しを、金融機関にとって返済余力の見立てを、保険にとってリスク区分の再検討をそれぞれ促し得るからだ。制度が同じ方向にそろい始めると、同じ物件価格でも資金調達のしやすさが変わり、需要側の厚み(買える層の分布)が変わりやすくなる。

そこで本稿では、災害レッドゾーンを住宅ローン控除の適用外とする改正の要点と既存制度との関係性を整理したうえで、(1)住宅市場で何が起こるのか、(2)論点はどこにあるか、(3)購入者・所有者は何を確認すると良いか、をまとめる。

立地要件の線引きが購入可能層を分け、流動性が落ちやすくなる

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを利用して住宅の新築・取得・増改築等を行った場合に、年末のローン残高の一定割合を所得税等から控除する制度である。

現行制度としては、最長13年間、控除率0.7%の枠組みで運用されてきた。国の推計では、新築住宅購入者の約7割が制度を利用し、適用件数は2023年度で約42.6万件(推計)とされている。仮に借入残高4,000万円、子育て世帯年収700万円の場合、年間28万円程度の減税効果がある。

今回の改正では「立地要件」が更新され、当該控除の対象外となるのは、2028年以降入居の新築住宅のうち、次の区域に該当する新築住宅となる予定だ。

•土砂災害防止法:土砂災害特別警戒区域(いわゆるレッドゾーン)
•地すべり等防止法:地すべり防止区域
•急傾斜地法:急傾斜地崩壊危険区域
•特定都市河川浸水被害対策法:浸水被害防止区域
•建築基準法:災害危険区域(都市再生特別措置法第88条第5項に基づく市町村長の勧告に従わず公表されたもの)

これらの区域は、不動産情報ライブラリから確認することができる(ただし、最新情報は各都道府県に確認が必要。浸水被害防止区域は現時点で未指定)。

住宅ローン減税の適用件数(推計) ※出典:国土交通省(2025年)「住宅税制のEBPMに関する有識者会議中間とりまとめ(案)」p14住宅ローン減税の適用件数(推計) ※出典:国土交通省(2025年)「住宅税制のEBPMに関する有識者会議中間とりまとめ(案)」p14
住宅ローン減税の適用件数(推計) ※出典:国土交通省(2025年)「住宅税制のEBPMに関する有識者会議中間とりまとめ(案)」p14住宅ローン減税の活用状況 ※出典:国土交通省(2025年)「住宅税制のEBPMに関する有識者会議中間とりまとめ(案)」p18

立地要件が適用されるのは「新築」だが、市場の価格形成は新築・中古を完全に分けて決まるわけではない。土地や建物の価値は、将来の再販や建替えを含む「出口の選択肢」を織り込みながら形成されるためである。新築時に住宅ローン控除が使えない見通しは、将来の買い手の母数を細らせ、時間差で中古住宅や土地の価格・流動性にも波及し得る。

住宅ローン控除の対象外は、融資不可と同義ではない。しかし、税制メリットが消えると、購入者側では実質負担が増え、頭金や返済比率の制約が先に効きやすい。金融機関側でも、同一所得で許容できる借入額が縮みやすく、審査姿勢が慎重化しやすい。影響は「通る・通らない」の二分ではなく、借入可能額の縮小や条件の厳格化として現れ、購入可能層を狭める方向に働く可能性がある。

その結果、災害レッドゾーン内では需要が低下、流動性も低下しやすい。なお、今回の改正で対象となるのは、2028年以降入居の新築に限られ、建替え・既存住宅(中古)取得・リフォームは対象外である。とはいえ、市場参加者は制度適用の有無だけでなく将来の出口も含めて判断するため、対象外である中古住宅や土地であっても、将来の売却可能性や建替えの見通しが価格形成に織り込まれる可能性は残る。

さらに、対象区域は「災害リスクが高い場所の全て」を網羅しているわけではない。同じくレッドゾーンと呼ばれる津波災害特別警戒区域や、洪水・高潮の浸水想定区域など、別制度で示されるハザードエリアが存在する一方、今回の税制はそれらに言及していない。

どのハザード区域を税制と連動させるかは制度設計の課題ではあるものの、少なくとも今回の線引きの根拠と、今後の運用見通し(対象区域の追加の可能性)は、市場の予見可能性に直結することから、政府には、区域選定の根拠と、他ハザードエリアに対する考え方を一定程度公表する必要があると考えられる。

災害レッドゾーンの建築ハードルの高さ

住宅ローン控除対象外自体は建築禁止を意味しない。ただし、災害レッドゾーン等は税制以前から、建築上の制約と追加コストが大きいことが建築実務では認識されている。

例えば、災害レッドゾーンの一つである土砂災害特別警戒区域では、建築基準法令により崖から落下した際の土石の衝撃等を想定した構造対策が求められる。壁厚の大きい外壁の鉄筋コンクリート化、開口部の制限、もしくは敷地内に土石を受け止める擁壁の設置などが必要になる。加えて、急傾斜地崩壊危険区域でも都道府県知事の許可が必要となり、地盤・地質等条件に応じて調査・設計・施工の負担が増える。

このため、一般的には、災害レッドゾーン内で住宅を建築することは稀といってよい。ただし、新築が少ないことは「影響が小さい」ことと同義ではないことも意味する。取引成立性の低下は、供給量よりも、既存資産の売却や相続、住み替えで顕在化しやすいからである。実務上は、売却価格そのものより先に、買い手探索期間の長期化、条件交渉の不利化、査定のばらつき等として現れることが多い。したがって、建てるか否かよりも、既存所有者が持つ選択肢がどの程度減るのかに置かれると考えられる。

土砂災害警戒区域等の概要 ※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html土砂災害警戒区域等の概要 ※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html

一方で、災害レッドゾーン区域は未来永劫固定されるわけではない。対策工事等により区域の変更・解除が行われる場合がある。しかしながら、指定解除に至るまでの費用負担や事業主体は別問題である。一般的に個人の単独対応で完結することは難しく、企画立案から最終的な調整にまで多くの時間と労力、多大な建設コストが生じる。

さらに、自治体の支援を受けることが可能なまちづくりとして必要かどうかは、自治体の防災・減災計画やまちづくり計画、砂防・河川・道路等のインフラ整備方針、土地利用誘導と結びつく。一個人資産の利益保護のみを目的に、指定解除のための対策工事を行うことは難しい。

ハザード更新がつくる取引成立性の低下はどこで起こるか

不動産価格は危険度そのものだけでなく、買い手の数と資金調達条件に左右される。危険が増えたわけではなく、指定と制度が変わるだけでも、買い手の比較軸が変わり需要が冷える可能性がある。ここで、リスク情報の開示・更新が価格や流動性に与える影響は、危険度そのものよりも、「需要の減少」と「取引コストの増加」を通じて表れやすい点を押さえておきたい。

災害レッドゾーンは固定ではない。基礎調査の進展や地形データの更新により、区域指定が追加・変更される。例えば、土砂災害特別警戒区域については、基礎調査を終えて、区域指定に至っていない区域が全国に約71万ヶ所ある。所有者の感覚として「購入時点では指定外だった」という状況が起こる。一方で、崖地や谷地形に近いなど地形上の特徴から、将来の指定可能性を推測できるケースもある。

指定により同時に起きやすいのは、「(1)建築コストの増加、(2)新築で控除が使えない、(3)金融審査・担保評価の慎重化、(4)保険条件の再検討、(5)心理的な忌避」などである。これらは「売却価格」より先に「売却期間」を延ばし、値引き交渉を強める方向に働く。相続や住み替えの局面で、取引が成立しにくい状態が表面化しやすい。

ハザード情報の精度向上自体は、防災政策として自然な方向である。その上で市場に問題が生じるのは、危険の情報が「建築コスト」「税制適用」「融資審査」という経済条件に接続され、取引条件を同時に変えるためである。ハザード情報の更新自体は公共的利益でも、経済的な影響は所有者に集中しやすい。ここに制度設計上の緊張関係がある。

とはいえ、災害レッドゾーン内の住宅は、常に災害の危険と隣り合わせであるという認識を持つ必要がある。例えば、2018年7月に発生した西日本豪雨では、土砂災害の死者119名のうち、土砂災害警戒区域や危険箇所での死者は、約8割に及ぶ。

2018年7月豪雨 人的被害箇所における土砂災害防止法に基づく警戒区域指定状況 ※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html2018年7月豪雨 人的被害箇所における土砂災害防止法に基づく警戒区域指定状況 ※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html

災害レッドゾーン指定されても「補償がない」をどう考えるか

災害レッドゾーン指定や制度変更により、所有している不動産の地価や流動性が低下しても、その損失に対する包括的な公的補償は十分ではない。崖地等の災害ハザードからの移転を支援する施策は用意されているが、自己負担なしで移転できるとは限らない。ここで生じるのは、「価値が減った」と受け止める所有者と、「危険を新たに生んだのではなく、危険性を調査し表示したにすぎない」と整理する行政との認識のギャップである。

制度設計の前提として、憲法上の整理にも触れておく。日本国憲法第29条は財産権を保障する一方、同条2項でその内容を公共の福祉に適合するよう法律で定めるとしている。このため土地利用規制は、公共目的のための一般的制約として位置付けられることが多く、直ちに補償が伴うとは限らない。

災害レッドゾーン等の指定は、人命・安全確保を目的とする規制として説明される領域である。指定に伴う価格下落や流動性低下について損失補償(同条3項)が認められるかは、「特別の犠牲」と評価できるか、つまり、受忍限度を超える負担が個別に集中しているかが争点になりやすい。もっとも、資産価値の減少を理由に包括的な補償を求めることは、実務上ハードルが高いと見込まれる。

一方で、危険住宅の除却・移転を支援する施策は存在するが、対象要件や補助範囲が限定され、自己負担を伴わずに移転できるとは限らない。
補償設計が難しい理由は、
(1)指定が広範で財源規模が大きくなりやすいこと
(2)損失が個別事情で大きく異なり算定が難しいこと
(3)線引きが政治化しやすく運用が不安定になり得ること
などにある。

ただし「補償がない」という事実は、負担の帰着先を個人に固定しやすい。安全確保の社会的便益と、資産価値の減少という私的損失が同じ主体に帰属しない構造であり、ここが行政の正当性と資産防衛が衝突しやすい背景になっている。補償の議論では、「損失の全額補填」と「移転・除却等の支援」が混同されやすい。土地収用のように権利を直接奪う局面とは異なり、社会一般の安全確保を目的とした規制は補償に結び付きにくい。とはいえ、補償が難しいからといって影響が小さいわけではない。指定が進むほど、融資・税制条件を介して「売却の選択肢」が狭まり、家計のライフイベントと衝突しやすくなる。

ここでの論点は、以下の3点である。
(1)指定の予見可能性をどこまで高められるか
(2)危険住宅の除却・移転・代替地確保の支援策をどう組み合わせるか
(3)擁壁等の対策投資により安全性を高めた場合の評価を、金融・保険・価格形成の側でどう扱うか
いずれも「補償の有無」とは別の軸で、負担の偏りを調整する手段になり得る。

金融・都市計画の連動

今回の改正は、税制だけが先行したものではない。住宅金融・都市計画・防災の各制度が同方向に動いてきた延長線上にある。住宅金融支援機構のフラット35Sでは、2021年10月以降、土砂災害特別警戒区域内の新築住宅・購入等を対象外とする運用が示されてきた。

都市計画法における開発許可でも、国の指針により災害ハザードの高い区域を開発許可の対象から除外する方向性が示され、多くの自治体で運用されている。背景の一つには、居住誘導や将来的な人口減少下におけるインフラ維持の観点がある。コンパクトシティ形成と整合させる狙いも読み取れる。

税制・金融・都市計画が同方向にそろうと、制度間の抜けが減る。取得行動の選択肢は変わりやすい。他方で、既存所有者の出口が狭くなる副作用も同時に強まりやすい。

この際、市場の予見可能性を左右するのは「制度の方向」だけではない。例えば、災害危険区域(建築基準法39条)は条例指定である。指定の有無・範囲・運用は自治体の判断と運用能力により差が出やすい。税制が全国一律で作用する以上、自治体差による指定の濃淡が、住宅市場への影響の濃淡として現れる可能性がある。今回の改正は、金融側で先に進んだ整理が、税制側にも接続された事例として位置付けることもできる。

購入前・保有後のチェックポイント

2028年の改正を見据え、市場参加者は以下の視点で情報を整理する必要がある。

購入検討者のチェックポイント:将来の指定可能性

ハザードマップの「現在の色」だけでなく、区域の指定状況と基礎調査の進捗を分けて確認すると整理しやすい。災害レッドゾーンの指定見込みは、都道府県や自治体の公開資料(公式ホームページを参照。レッドゾーンの基礎調査は法令に公表が義務づけられている)に分散していることが多い。これらを確認し、将来の指定を推測する作業が重要になる。また、擁壁の有無と状態、がけ条例、造成履歴など、敷地固有の追加コスト要因を見積段階で把握できれば、控除の有無と合わせて総費用の見通しが立ちやすい。

既存所有者のチェックポイント:出口戦略の分解

所有地が指定される可能性がある場合、資産の出口を売却一択に絞ると選択肢が狭くなる。このため、売却、保有、改修・対策、賃貸、相続時の処分など、選択肢を分解し、どの条件がネックになりやすいかを整理すると検討が進む。区域指定の可能性、対策工事の費用、買い手の資金調達条件、保険条件、将来の出口戦略を並べ、時間軸で比較することが重要となる。今回の税制改正では、新築のみを対象としていても、市場は将来の選択肢を織り込む可能性があるため、早めにどのような選択が自身にとって望ましいのか適切な整理が有効になる。

これらの調査・判断には専門性が伴うため、可能であれば宅建士等の専門家に相談することをおすすめしたい。

全国の土砂災害警戒区域等の指定状況推移 ※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html全国の土砂災害警戒区域等の指定状況推移 ※出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/linksinpou.html

まとめ

災害レッドゾーン等の区域を住宅ローン控除から外す今回の改正は、防災・減災を主要政策の一つとする国の方針と整合する政策といえる。一方で、ハザード情報の更新と制度の連動により、取引条件が変化しやすい局面をつくる可能性があることも考慮しておく必要がある。とりわけ、災害レッドゾーン内では、地価・流動性の低下に対して充実した移転補償や包括的な損失補填が用意されているとは言いがたく、影響の帰結が個人に固定されやすい。

したがって、議論を「補償する・しない」の二択に収束させるのではなく、区域指定と税制適用の移行過程で負担が急に顕在化しない設計に重点を置くことが考えられる。例えば、基礎調査の進捗や指定の見通し(予定時期)を、計画情報として一定の形式で公開し、不動産情報ライブラリ等と連動させて「後出し感」を減らすことは、予見可能性の改善として有効といえる。また今後は、自治体独自の住宅取得支援策との整合性、区域指定解除に向けた対策投資など、自治体の都市計画やまちづくり計画における自治体の運用差も含めた制度設計が議論の焦点になっていくだろう。


【参考文献】
・国土交通省(2025年6月)『住宅税制のEBPMに関する有識者会議 中間とりまとめ(案)』(資料4)
・国土交通省(2025年6月)『令和6年度 住宅市場動向調査報告書』
・国土交通省(2025年12月26日)「住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました!〜既存住宅、コンパクトな住宅への支援が拡充されます〜」(報道発表資料)
・国土交通省(2025年12月26日)「令和8年度税制改正における住宅ローン減税の制度変更 Q&A」(別紙2)
・井上亮、永吉真也、小森大輔(2016)「水害危険性が地価に与える影響の変化時推定―地域の水害危険性認識変容の把握に向けてー」土木学会論文集B1(水工学)Vol.72、No4、I_1309–I_1314