超高齢化社会を支える「ビジネスケアラー」の事情
団塊世代がすべて75歳を迎え、人口の約18%が後期高齢者となることで起こる諸課題について「2025年問題」と言われている。そこで超高齢化社会に潜む諸課題についてデータを読み解いていきたい。
生産年齢人口の減少を背景に、就労と介護を両立する「ビジネスケアラー」の増加が社会的課題として顕在化している。経済産業省によると2030年時点で約9兆1,792億円の経済損失が試算されており、特に仕事と介護の両立困難による労働生産性損失額はその86%ほどを占めることが見込まれている。家族介護者の合計人数は年々増加をしており、ビジネスケアラーの割合は2025年には38%(300万人超)に達する見通しであり、その数は2030年にピークを迎えるとされている(図1)。
年齢階層別の分析では2025年時点で50~54歳が最も多く、同年齢層人口の約15%に相当すると試算される。また2020年から2025年にかけて40~49歳の年齢層で人数が約倍増しており、急激な変化が見られた(図2)(図3)。この年齢層は企業において中核の役割を担う世代であり、かつビジネスケアラーの大多数が59歳以下の正規雇用者であることを鑑みると、企業活動への影響は看過できない可能性が示唆される。
次世代へのバトンタッチ 事業承継に潜む世代・地域間格差
中小企業経営者の高齢化が進行しており、経営者年齢のピークはこの20年間で50代から60~70代へと大きく上昇している。平均年齢は60.5歳であり、過去最高を更新した(2023年現在)。経営者年齢が70歳以上である企業の割合は、2000年以降最高となっており、事業承継が必要となる企業は相当数存在している(図1)。
経営者の高齢化により次世代へのバトンタッチが求められているが、後継者不在率は2018年以降改善しているものの、2023年時点でも依然として高い水準であり、54.5%が後継者不在となっている(図2)。
都道府県別後継者不在率が最も高いのは島根県で、全国平均を大幅に上回る75.1%。次いで高いのは鳥取県の71.5%だったほか、山口県も65.3%で山陰地方の不在率の高さが目立った。
一方で不在率が低いのは三重県の29.4%で、地域金融機関が密着して事業承継の支援を行っていることや、比較的安定した経営や商圏を持っている企業が多く、親族が経営を継ぎやすい環境が整っているほか、事業承継支援ネットワークが構築されていることがその要因とされている(図3)。
少子化の影響で子どもがいない、あるいは子どもが事業を継ぐ意思がないケースが増加しているが、事業承継には高度な経営スキルと専門知識が求められることから、政府・自治体のバックアップや早期の事業承継計画の策定、同族によらない広く承継者を募る仕組みの強化をしていく必要がある。
団塊世代が高齢者人口に与えるインパクト
団塊世代は一般的に第二次世界大戦後の1947年から1949年までの3年間に生まれた世代であり、約800万人の人口規模(日本の総人口の約6%)となる。この大きな人口の塊は文化・消費・経済など日本社会に様々な影響を与えた。
就労面では彼らが定年退職を迎えた2007年には大量退職による「労働人口の大幅な減少」「事業承継の危機」や「年金制度を始めとする様々な構造の変革」が社会課題として顕在化し、多くの企業で技術継承プログラムの実施や延長・再雇用制度の整備などの対策が取られ、「2007年問題」は「2025年問題」の前段階として捉えられた。
団塊世代が75歳以上となる前後の2018年(図1)と2023年(図2)の人口変化をみると693万2,000人から747万4,000人に54万2,000人増加した。高齢化の進行は地方のほうが取り沙汰されることが多いが、都道府県別にみると、都市部のほうが人口増加が目立つ。こうした高齢化の進行による「年金・医療保険制度への負担」「介護人口の不足」は地方に限らず都市部でも深刻な課題である。「年金・医療保険制度への負担」「介護人口の不足」などの他、様々なサービスへの負担増が懸念されている。
団塊ジュニア世代が及ぼす住宅市場へのインパクトと不動産相続
団塊世代を親に持つ団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ、2024年時点で50~53歳)は約800万人を超え、団塊世代に次ぐ規模である。今月は2005年に国土交通省が実施した「団塊ジュニア世代の住宅ニーズに関する調査研究」から当時のニーズと現在の状況を比較する。
【1】住宅取得意向と住宅取得状況
団塊ジュニア世代が30歳前後に回答したアンケートでは「住宅計画がある」という回答は約56%で、そのうち約54%が戸建て住宅の新築・購入、分譲マンションの購入意向であったことから、取得意向は全体の約30%と試算される。2008年の住宅取得状況では持ち家は30%程度でアンケートとほぼ同水準であったが、団塊世代に次ぐ人口規模の団塊ジュニア世代の住宅市場へのインパクトは大きく、同世代が住宅取得期の30代に入り始める1999年~2005年にかけて首都圏マンションは8万~10万戸、近畿圏では3.3万~4万戸の大量供給となった。
【2】団塊世代からの不動産相続
団塊ジュニア世代に対する「相続できる土地の有無とその使い方」を問うアンケート結果では「相続する家・または土地がある」という回答は約75%と高い。現在50代前半となった団塊ジュニア世代の持家率は約63%であるが、親世代である団塊世代は約81%と高く、今後の持家取得として、自ら購入する以外に相続による取得を考える層も一定数存在することが想定される。団塊世代からジュニア世代への不動産相続が不動産市場に与える影響について注視していくことが必要である。
「老々相続」の陰に潜む空き家問題
次に、高齢者が高齢者へ相続する「老々相続」について見ていく。
【1】被相続人の年齢の構成比
被相続人の高齢化が進んでおり、相続による若年世代への資産移転が進みにくい状況となっている。平成元年(1989年)には80歳以上の高齢者が被相続人となった相続は約39%であったが、平成28年(2016年)には約70%にまで増加した。被相続人の高齢化に伴い、相続人の年齢も50歳台以上が想定される比率が増加し、相続する側もされる側も高齢者の「老々相続」は今や日本の一般的な相続となった。
また、被相続人が高齢である場合、ほとんどが配偶者も高齢であることから、次の二次相続が発生する時期が早いと考えている。二次相続の場合は、一次相続よりも法定相続人の数が少なくなり、また配偶者に対して与えられていた様々な税制優遇が適用できなくなるため、手続きがより複雑化するだけでなく、相続税が一次相続の時より高くなる可能性がある。高齢化比率の高い地方だけでなく、高齢者人口の多い都市部においても「老々相続」は増加が見込まれ、今後も注視が必要である。
【2】「老々相続」の陰に潜む空き家問題
高齢者住宅に転居している場合には、相続不動産が空き家となる可能性が高い。国土交通省による平成26年(2014年)の空家実態調査によると、空き家となった住宅を取得した経緯として「相続して取得」という回答が半数を超えている。高齢の相続人は認知症や健康上の都合から、相続手続きが困難となる場合もあり空き家が増加する一因にもなっている。空き家の存在は、景観や治安の悪化だけでなく、老朽化による倒壊被害の可能性もある。団塊世代・団塊ジュニア世代が多く住む都市部においても、今後分譲マンションの空き家が増加することにより、管理体制・資産性保全への影響が懸念される。
家じまいー「実家」をたたむ時代
2025年は日本の高齢化時代における転換期であると同時に、高齢者自身にとってもこれからのライフステージを見直す時期でもある。今月は住み替え(高齢者施設へ入居する、利便性の良い場所へ住み替えるなど)で起こる家の売却・解体、家具の処分などの「家じまい」※の実態についてみていく。
※家じまい:持家を整理・処分すること。高齢者が自分自身の終活として行う場合や、親が亡くなったり施設に入居したりすることで空き家になった実家を子が片付ける「実家じまい」も合わせて「家じまい」と称す。
【1】 管理されない空き家問題
持家を所有する親が高齢化して亡くなる、施設に入るなどによる「空き家」が増加している。総務省の公表によると、全国の空き家は過去最多の900万戸に達し、住宅総数に占める割合も13.8%と過去最多となっている(総務省「2023年住宅・土地統計調査の速報集計」より)。
子が相続はしたものの、住む予定がない・活用方法もないなど、そのまま放置されるケースも増えており、管理されない空き家が増加。特に都市部へ人口が流出することにより、地方で空き家が増加しやすい状況となっている。管理されない空き家は景観や治安の悪化、倒壊の危険も伴い問題視されている。
【2】 繋がりの希薄化がもたらすゴミ屋敷問題
環境省の2023年調査によると、1741市区町村のうち、約38%がゴミ屋敷事案を認知しており、そのうちの多くが、高齢者世帯で発生している。ゴミ屋敷化する主な原因としては、
❶ 心身の衰え・・・・・高齢化により身体的・気力的に掃除やゴミ出しが困難になる。
❷ 認知機能の低下・・・認知症によりゴミとそれ以外の区別がつかず、片付けができない。
であるが、周囲とのコミュニケーションが希薄化すると住居内の状況が気づかれにくいことが、さらにこの問題を深刻化させている。ゴミ屋敷化は専有部の衛生上の問題だけでなく、マンション全体の資産価値の低下を招く結果になりかねない。
【3】 「相続」を理由とした売却の増加
LIFULL HOME’Sの調査によれば「相続」を理由とした売却査定への依頼が増加している。3年間で「相続」を理由とした売却査定依頼の件数(2022年の件数を100とした場合)は、全国で2.23倍であるが、東北2.74倍、九州・沖縄2.57倍、北海道2.37倍となっている。65歳以上の8割以上が持家に居住していることや、今後高齢者の単身世帯の増加が見込まれることから、「相続」を理由としない売却の増加も想定される。ライフスタイルの変化を見込んだ早期の「家じまい」の検討が「空き家」「ゴミ屋敷」の発生を防ぐ一つの解決策になってくるだろう。
鈴木貴子(Takako_Suzuki@haseko.co.jp)


















