兵庫県姫路市で安心R住宅の買取再販を行うアートランド
諸外国と比べても新築志向が強い日本。しかし、建築資材の高騰や金利の上昇などにより、新築物件の価格が上昇し、手が届きづらくなっている。また、人口減少により空き家問題が課題となっている。そうしたなか、スクラップアンドビルドから中古・既存物件などのストック活用への注目が高まっている。
中古住宅流通における課題として挙げられるのが、住宅の瑕疵(かし)状況だ。売主や不動産会社によって、物件の瑕疵状況が適切に買主側に公開されず、購入してから不利益を被るといったケースも起こる。
このような「不安」「汚い」「わからない」といった中古住宅流通の課題を解決するために、国土交通省では2017年から「安心R住宅」という制度を創設。Reuse・Reform・Renovationの「R」を意味する安心R住宅は、以下の基準を満たした住宅に「安心R住宅」の標章を使用できるというものである。
・1981年6月1日以降の耐震基準(いわゆる新耐震基準)等に適合すること
・インスペクション(建物状況調査等)を実施し、構造上の不具合及び雨漏りが認められず、住宅購入者の求めに応じて既存住宅売買瑕疵保険を締結できる用意がなされているものであること
中古住宅の買取再販に力を入れるのが、兵庫県姫路市で1991年に創業した株式会社アートランドだ。“新築のような中古物件”にリフォームした中古住宅を販売している。
今回は、アートランドの代表取締役の武本 尚(たけもと たかし)氏に、LIFULL HOME'S総研副所長の中山 登志朗が買取再販を始めた経緯や現在の状況、今後の展望を聞いた。
買取再販のきっかけは「お客さまに対して責任を持って物件を売るため」
中山:昔と比べると中古住宅市場が広がってきています。なかでも質の高い中古住宅の流通を牽引されている御社の取組みや理念について、お話をお伺いできればなと思っています。はじめに、「アートランド」という社名の由来を伺わせてください。
武本氏:私はもともと絵画を見るのが好きで、特に野田弘志さん、島村信之さんといった日本人写実画家が好きなんです。そこで、不動産の従来のイメージを、私の好きなアートでなんとか美しくきれいに、そして信頼できるものに変えられないかという思いも込めて、「アートランド」という名を付けました。
中山:買取再販を手がけようと思われたきっかけは何だったんでしょう。
武本氏:それまでは基本的に仲介をやっていたわけですが、仲介という業務はいくら誠実に取り組んでも、売り主と買い主との間に入って物件のお世話するという立場上、“責任”という点で課題のある取引方法だと気づいたんです。たとえば売り主の方から大事なことを言わないでほしいと頼まれて、後になって瑕疵が見つかり、買い主の方からどうなっているんだと問われたら、売り主に言われた通り説明したと言っても通用しません。そこで仲介という業務は“責任を持って住宅を販売する”という考え方からすると非常に課題の多い業務だと感じました。だから、買い主に対して責任を持って物件を売るためには、一旦自社で買い取って、問題を全部解消して、胸を張って売る。そういう仕事に取り組むべきだと考えたのが、いちばん大きな転機です。売り主が宅建業者の場合は2年間は責任持ちなさいというのは宅建業法で決められてますから、売り主が宅建業者か個人かどうかというのは非常に大きなポイントなんです。
中山:安心や信用・信頼を最も大切にされている武本さんのお人柄がよくわかるお話で、感銘を受けました。御社の社員の方々にもお話を聞きましたが「武本社長だからついてきた」「社長のおかげで自信を持って物件を売れる」という言葉がありました。こういったビジョンをお持ちの武本さんは、不動産業界では稀有な存在だと思います。
武本氏:これまで買取再販は圧倒的少数だったんですが、それでも最近ようやく少しずつ増えてきたということは、ユーザーの支持を少しずつ受けてきているということですよね。購入後のトラブルにどう対応するのかということについて、責任の所在が明らかになるという意味では、買取再販は非常に優れた仕組みだと思います。
「リフレッシュ住宅」として、安心R住宅の普及をけん引
買い主への責任を全うしたいという思いで2000年から始めたアートランドの買取再販。住宅瑕疵のないリフォーム済み物件を「リフレッシュ住宅」と名付け、販売している。住宅だけでなく住む人も心機一転、リフレッシュした気持ちで住んでほしいという意味が込められているそうだ。
2018年に開始された「安心R住宅」の認定基準だが、それ以前に取り扱っていた物件も含めてほぼすべて基準をクリアしており、以降もアートランドで取り扱う買取再販物件(年間30戸超)は100%安心R住宅の認定を受けているという。
中山:アートランドのリフレッシュ住宅は、どのような点に特長があるのでしょうか。
武本氏:はい。まず、私たちが買取再販をする物件はすべて国交省が認定する外部第三者機関の認定を受けています。建物基礎や屋根裏、構造部分の傾斜まで、細かな基準をクリアした物件を「安心R住宅」として販売することで、不動産会社としての信頼を得てきました。また、購入された住宅に問題があった場合には、修繕対応もきちんと行います。「瑕疵保険付保証明書」を発行し、引渡しから5年間、主要な構造部分をはじめ、オプションで給排水設備を含め、1,000万円までの保証が付きます。
中山:買取再販の事業は現状においても順調に進んでらっしゃいますか?年間大体30棟ぐらい手がけていらっしゃるとのことですが、その数は伸びているんでしょうか?
武本氏:住宅の品質を担保することが最優先ですから、数を伸ばすという考え方はあまりしていませんが、大体横ばいか少し上向きです。 ただ、ご承知のように、 最近新築の建築費がものすごく上がりましたんで、 特に築10年ぐらいまでの比較的築浅の物件を市場に出すと、新築はとても無理だというお客さんで取り合いになるというような現象が起きています。
中山:物件を購入されたお客さまの反応はどうですか?
武本氏:「これが本当に中古住宅?」「まるで新築みたい」という声をいただくことが多いですね。新築から流れてきているお客さまのニーズに応える物件を販売できているのだと思います。また、既存住宅瑕疵保険5年保証付きであることを決め手に購入をしてくれたお客さまもいました。
省エネ部位ラベルの導入で住宅性能面にも着手
中山:2025年の6月から省エネ部位ラベルの表示を始めたそうですね。 省エネ部位ラベルをお使いになってみようと考えられたきっかけはなんでしょう?
武本氏:前からそうですが、既存住宅の買取再販でトップを走りたい、差別化を図りたいという意識が常にあります。ですから新しいものについてはどんどん取り入れていくというスタンスです。省エネ部位ラベルには窓や給湯、太陽光パネルの有無がわかるチェックボックスがついているじゃないですか。 ああいったものに対する関心は日増しに高まっているように感じます。
中山: 新しいものをどんどん取り入れていこうという考えをお持ちの不動産会社は少数派だと私は思っていますが、そうしたお考えはどこからきているのでしょうか?
武本氏: やはり、弊社で扱っている中古住宅の品質の高さを広く知っていただきたいという意識が強いです。今のところ同じようなことをしている不動産会社を見渡しても、弊社ほどしっかり取り組んでいる会社はないのではないかと思っています。
中山: すでに20以上の物件に省エネ部位ラベルを掲載していると伺いました。大手不動産会社は省エネ部位ラベルを積極的に使うところも増えていますが、 アートランドのように地元密着型の企業でそれだけの物件数に省エネ部位ラベルを使っていらっしゃるところは少ないと思います。 省エネ部位ラベルを使った効果は実感されていらっしゃいますか?
武本氏:今はまだ、効果を実感するところまではいっていないですが、おそらく最近のお客さまは細かくインターネットを見ているので、 省エネ部位ラベルも意識して見ていただいている方は結構増えているだろうなと思っております。 また、お客様から住宅性能に関する質問も増えてきているように感じます。
中山:物件のリフォームについて、4月から住宅の性能に関する要件が厳しくなったということもありますが、積極的に性能面の改修もされるのですか? それとも、価格を抑えるために必要最低限にするんでしょうか?
武本氏: 住宅性能の部分まで徹底しますと リフォーム工事代がかなり膨らんできますので、販売価格がエンドユーザーの求める価格帯よりもかなり上がってしまいます。そのあたりのバランスには気をつけています。 条件をつけて多少高くなっても売れるのであればやるべきだと思いますけど、今のところ中古市場でそこまでの水準を求めているお客さまはまだ少数派です。
中山: ちなみに、アートランドでお取り扱いになっている姫路周辺の物件は、どのぐらいの価格帯で販売されていらっしゃるんですか?
武本氏: 大体2,000万円台で、高くても3,000万円までですね。 周辺の賃貸マンションや借家の家賃を調べると、家賃相場が大体毎月7万円ほどになるので、金利も含めた35年の住宅ローン返済が、この家賃相場程度までになるような価格帯に設定しています。 仮に物件価格が2,000万円とすれば、今の金利で大体月の返済額は5万8,000円ぐらいなんです。3,000万の物件でも月々の払いが7万円ぐらいですかね。ほぼ姫路の賃貸の家賃と変わらないか、それより安くなると。姫路でも、例えば新築マンションだったら6,000万から7,000万円くらいの価格帯になっています。土地付住宅が家賃並みで買えるところがポイントです。
「安心R住宅」普及のカギとなるのは、ユーザーの理解促進
中山:求めやすい価格帯の物件を扱うことを意識されていますが、住宅に関しては「安かろう悪かろう」というイメージがどうしてもつきまとう側面もあるかと思います。そこに「安心R住宅」という仕組みはどのぐらい役に立っているものなんでしょうか?
武本氏: いや、まだ「安心R住宅」の認知度が、私どもが求めるものよりも低いのが現状です。とにかくお客さまに住宅についての知識をつけてもらえるようにならないといけないと思っています。 賢いお客さまは私たちが取り扱っている物件の良さがわかるんです。ですから賢いユーザーが増えて、安心R住宅の効果が高まるというのが希望です。
中山: 我々LIFULL HOME'Sも、そして私の仕事としてもユーザーさんに住宅への理解を深めてもらおうと努めておりますが、ユーザーは買うときや借りるときには知識を勉強するものの、買った後はどうしても関心が薄れてしまうことが課題だと感じています。どうやったらユーザーを賢くできるか、お考えはございますか?
武本氏: インターネットで最小限チェックしてほしいポイントなどの情報をもっと流してもらいたいです。 それと、実際に中古住宅を買ったお客さまがどんな住まい方をしているのかを見ていただけると良いと思います。弊社で扱っている物件のように安心R住宅の認定を受けていて、しかもアフターメンテナンスまで責任を持ってやりますという会社だと安心ですが、仲介で買った物件は家に何かあっても自分で直さないといけないですから。
中山: 物件の良しあしを見抜く方法について、何かお考えはありますか?
武本氏: それは中古住宅の場合は「安心R住宅」のマークがついているか、そして瑕疵保険に入っているかどうかがいちばんわかりやすいですね。
増える相続空き家の相談も"リフレッシュ"していく
中山:今は買取再販に注力されているかと思いますが、今後事業として新たに手がけていかれたいと思うようなことはありますか?
武本氏:間違いなく何とかしなければいけないのは、相続した空き家の問題です。毎日のように相続人の方から「もういくらでもいいから買い取ってくれ」という話がくるんです。弊社としては、そうした相続空き家を買い取ってリフォームして売るようなことができたらと考えています。空き家になってしまうとかなり傷んでしまいますし、そうした空き家がどんどん増えているので、弊社の強みである瑕疵のない住宅へのリフォームのノウハウを活かし、うまくビジネスに結びつけられるような道を考えれば、市場が広がっていくと思います。
中山: 社会貢献もできますし、一石二鳥のお話ですね。 何かそこには具体策などのお考えはお持ちだったりするんですか?
武本氏:先ほど申し上げた通り、手残りはなくてもいいというお客さんが多いんですよ。固定資産税を払い続けるなら、早く手放したいんでしょう。 こういう方の物件でも、家自体は古くても立地の良い物件が案外あるんです。ですから、これを買い取って、解体して更地にして、住宅地としてまた再利用するということは考えられると思います。
中山 :それも考え方としてはリフレッシュ住宅の一つですよね。
武本社長がお好きだという写実絵画の鑑賞を通じて審美眼を養われていることも、アートランドのリフレッシュ住宅の品質向上に一役買っているように感じました。今後中古市場が広がっていくなかで、LIFULL HOME'Sでもさらに積極的に安心R住宅や省エネ性能など、質の良い住宅の普及をしていければと思います。
本日はありがとうございました。
■株式会社アートランド
https://artland-fr.jp/
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