浮気で家を出て行った夫が、無断で家を売りに出していた...
本掲載では、弁護士ドットコムニュースの記事をもとに、弁護士の視点を交えた解説記事や時事問題の法的分析を解説する。今回は、離婚問題と不動産売却に関する事例を紹介する。
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浮気して家を出ていった夫に、家を売りに出されてしまった──。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
相談者の女性は、夫名義の家に子どもと住んでいるが、夫が浮気をして家を出て行った。その後、夫は相談者に離婚を迫るとともに、無断で家を売りに出したという。
家の名義が夫である以上、「法律的に夫が勝手に売れるのはわかる」と言うが、物置やフェンスは相談者の親が購入したもので、「勝手に売りに出されることには納得できない」との相談内容だ。
家が他人に売られてしまった場合、名義人でない相談者は家を出ていくしかないのか。新保英毅弁護士に聞いた。
夫名義の家であれば、妻子が住んでいても、夫が勝手に売却することは可能?
「結婚後に購入または住宅ローンを支払っている自宅不動産は、夫婦共有財産として離婚財産分与の対象となり、たとえ夫の単独名義であったとしても妻にも潜在的な権利があります。
また、結婚期間中は妻と子どもが自宅不動産に居住継続できることが夫婦間の法律関係になっているといえます。
したがって、夫が妻に無断で自宅不動産を売却することは、不動産に対する妻の潜在的な持分や居住の権利を侵害するものです。
ただし、所有名義人である夫と第三者との関係では有効に売買契約が成立しますので、売却自体は可能となります」
相談者の親が購入した物置やフェンスまで含めて売却することは問題では?
「自宅不動産が売却される場合、フェンスは『土地の付合物』として、物置は『居宅の従物』として一緒に売却されることになります。
仮に、物置の所有者が相談者ないしその親であったとしても、それが自宅不動産の所有名義人である夫の所有物だと信じて買主が不動産と一緒に引渡しを受けた場合は買主の所有となってしまいます」
家を売られてしまったら、相談者と子どもは出ていかなければならない?
「実際に不動産が売却され所有権移転登記がされてしまうと、新たな所有者から退去を求められた場合、法的には退去しなければならなくなってしまいます。
夫に自宅不動産を無断で売却されないようにするために妻が取り得る方法として、『仮処分』や『仮差押』があります。
これは、妻の財産分与上の権利を保全するために自宅不動産の処分禁止の仮処分や仮差押を裁判所に申し立てるというものです。
仮処分や仮差押がされると、その後になされる売却の効力を否定することができ、事実上、無断売却はできなくなります。
もし仮処分や仮差押をする前に無断売却されてしまった場合は、夫に対し、今後の離婚財産分与において別居時の自宅の価値を前提に金銭での財産分与を求めるととともに、無断売却という不法行為を理由とする損害賠償請求をすることになります」
適切な対応で権利を守ろう
夫婦であっても、一度売却されてしまうと取り返すことが難しい不動産。できることなら、仮処分や仮差押で不慮の売却を防ぎたいところだ。もし売却されてしまったとしても、財産分与や損害賠償請求などで受けた損害を取り戻したい。諦めて泣き寝入りというのは避けたいものだ。
【解説弁護士】
新保 英毅(しんぼ ひでたか)弁護士
新保法律事務所
2004年弁護士登録。相続・遺産分割事件、中小企業の法務の案件を多く取り扱っている。モットーは「依頼者ひとりひとりに適したオーダーメイドのサービス」。
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